第342話 ボーナス屋、映画鑑賞する8
――オオバ王国 秘密の離宮――
映画は休憩の為一旦中断となった。
「あのバカ神、討滅した方が良いんじゃないの?」
映画を観賞していた俺達は、ヘルメスの凶行に不満を募らせていた。
ハッキリ言ってやり過ぎだ。
攻略途中の大迷宮を全部合体させて大混戦とか無茶苦茶だろ!
しかも、アレスやヘラクレスが飛び入り参加って、無理ゲーすぎる!
ニケちゃん、大ピンチ!
「勇者様、気になったんですけど、アレス様は先程死んでいませんでしたか?」
アンナちゃんが首を傾げながら訊ねてきた。
確かに、アレスは『アレス大迷宮』のラスボスとして倒されたけど、そこは神様!
死んでもすぐ復活するんだよな。
「アンナ様、神は基本的に不老不死、または不滅の存在なので一度殺されてもすぐに復活します。先日主が倒された神ウルも既に復活して神官より私達の様子を覗っています」
「へえ……そうなんですか」
ソフィアちゃんに説明されたアンナちゃんは不思議そうな顔をしているけど、神って本当にしぶといんだよな。
俺のチートみたいに不老不死や不滅を無効化させないと、何度でも復活して騒ぎを起こしたりするんだよ。
特にあのロキやヘルメスとかは!
「神様って……」
「やりたい放題だな」
「神は基本的に自分本位……というか、人間から見れば変なな奴ばっかだぞ?むしろ良識的でまともなのが珍しいんだ」
リスティちゃんとステラちゃんは神の所業に呆れ果てていた。
リスティちゃんに至っては幻滅しているようにも見える。
他のダーナ大陸の人達の同じく、何の疑いも無く神様を崇めていたからショックが大きいんだろう。
だが、これは現実だ。
「神と言えば、あの太陽神はまだ行方不明なの?」
「ああ、あの太陽神な!ソフィアちゃん、その辺はどうなの?」
「……行方不明です。(何で!?何で見つからないの!?でも諦めない!頑張れ私!)」
「ソフィアちゃんでも見つけられないって……」
「大魔王にでも拉致監禁されてたりして……」
「ハハハ……」
唯花の言葉に俺は思わず苦笑する。
未だ見つからないってことは、それしか考えられないしな。
ジーア教の主神ルー、御愁傷様。
「あ、映画が再開されたわよ!」
「次は何処だろうな……って、あと残っている大迷宮は……」
「底なしに不安なのが1つ残ってるわよね」
休憩時間も終わり、映画の続きが始まった。
まだ出て来ていないのは唯花達が攻略した『ヘラ大迷宮』と、大問題確定の『デメテル大迷宮』、脳筋
がいる『ポセイドン大迷宮』、獣人が一杯の『アルテミス大迷宮』、そして『アポロン大迷宮』の5つだ。
別時空に逃げた『デメテル大迷宮』は物凄く嫌な予感しかしないし、脳筋ポセイドンがいる『ポセイド
ン大迷宮』もなんとなく嫌な予感がする。
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――(過去)『アルテミス大迷宮』 第94階層――
薄暗く、枯れ果てた木々しか生えていない森の中で、4人の獣人達は醜悪な巨人と戦っていた。
巨人が業物の大剣を振るえば狐の獣人が飛び、犬の獣人が背後から巨人の急所を狙ってナイフを刺し、少し離れた場所から川獺の獣人が魔法を放つ。
図体の大きさに反して機敏に動く巨人に苦戦しつつも、彼女達は巨人を追い詰めていく。
『ブオオオオオオオオオオオ!!』
「――――ニロス!!」
「あいよ!」
「貰ったワン!」
狐獣人フォルの合図で川獺獣人ニロスが複数の魔法を融合させた合成魔法を放ち、敵の巨人の下半身を凍結して動きを封じた処を犬獣人ワッコがナイフで急所を何度も刺していく。
だが、生命力の強い巨人、この階層のフロアボスである『醜悪なる巨人王』は脳天を刺されてもまだ死なず、力任せに大剣を振るっていく。
単純に振っただけでも突風を起こす巨人の怪力は動きを封じていた氷にも亀裂を入れ、彼らは巨人から飛び退く。
「――――――射抜け!」
その時、遠くから飛んできた1本の矢が巨人の別の急所に突き刺さった。
『っ――――!!』
巨人は声にならない悲鳴を上げながら次第に動かなくなり、最後は巨腕の先から大剣を落したのを最後に動かなくなった。
「やったワン!流石ダリアだワン!」
「これで95階層に行けるぜ!」
フロアボスである巨人が絶命したのを確認すると、声を上げて喜び合った。
彼女達(男は1人)はここまでたった4人だけで攻略し、『アルテミス大迷宮』の最前線パーティになるまで成長していた。
「あとは解体して一旦街に戻るか?」
「だな!ずっと野宿続く立ったから宿のメシが懐かしいぜ♪」
「じゃあ、解体を始めるわね!」
「この剣、いくらで売れるワン?」
「高く売れそうだよな?」
4人は屍となった巨人の解体を始めていく。
巨人が使っていた武器はかなりの業物ではあるが彼女達には使い道が無いので街の武器屋かギルドで買い取って貰う事にした。
ちなみに、この大剣は正式名称を『巨人王の金剛剣』と云い、伝説の金属『アダマンダイト』でできており、売ればシャレにならない金額になる事をこの時の彼女達はまだ知らなかった。
「この剣を売ったお金で御馳走を食べるワン!」
御馳走4人分どころか、贅沢しなければ4人全員が一生安泰できる金額になる事をワッコは気付いていなかった。
天を貫く程の大樹の形をした『アルテミス大迷宮』、その上層部で採れるアイテムは例外なく世界経済を揺るがすほどの超貴重品ばかりなのである。
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――『アルテミス大迷宮』 第99階層――
4人が95階層に到達してから更に何日かが経過した。
95階層では空気が薄く冷たく強い風が吹き荒れる雲海の世界を限られた足場を使って敵と戦いながら進み、96階層では空に浮かぶ浮遊石を飛び移りながら進み、97階層では真冬よりも寒い世界で見えない敵や空から襲ってくるドラゴンと戦い、昨日踏破した98階層では生半可な知恵など無視する理不尽な暴力を揮う巨大魔獣との死闘を繰り広げてきた。
そして今日、装備をしっかりと整えた彼女達は最上層手前である99階層を飛びながら移動していた。
「鳥になったみたいだワン!」
「ハハハ!面白ェ~♪」
「ニロス!危ないだろ!!」
無重力空間――正確には無重力に似た環境の空間――での移動に最初は悪戦苦闘していた彼女達だったが、今ではあらゆる方向から襲ってくるSSSランク魔獣を屠りながら最上層へと続く出口を探していった。
そして、出口はとんでもない所にあった。
「お星さまが飛んでくるワン!」
「おい!あそこにあるのって……!」
「門!?」
超高速で移動するそれを、獣人特有の優れた動体視力が捉える。
ワッコが発見した彗星モドキ、その上にに最上層へと続く出口があった。
彗星モドキは彼女達の居る空間を一定の法則の下で移動しており、速度は本物の彗星よりは遥かに遅いものの、その速度は秒速5kmを超えており、飛び移るどころか近付く事すら超困難だった。
それに加え、彼女達を彗星に近付けさせまいとする守護者もいた。
『――――ココヨリサキヘハススマセナイ』
『ワレラハホシクズノモンヲマモルモノ。シカクナキモノヲホフルモノ』
4人の前に全身を光の塊でできた2体の騎士が現れる。
一方は赤い光でもう一方は青い光、直に見るだけで目が潰れてしまいそうになるほどの輝きを放つ騎士達は、4人を彗星に近付けさせまいと攻撃を開始する。
『フリソソゲ、《シノヒカリ》』
『キリキザメ、《ホシキリ》』
光の騎士は今まで4人が倒してきた全てのフロアボスよりも強かった。
速度も、攻撃力も、防御力も、どれもが4人が今まで戦ってきた敵のよりも上をいっていた。
「速いワン!超速いワン!尻尾がジュってなったワン!」
「ワンコ落ち着け!!」
「ワンコじゃないワン!ワッコだワン!」
「来たぞ!」
敵の動きが早過ぎて攻撃を当てるどころか避ける事すらままならない。
『ハゼロ、《アカノホシクズ》』
『マドワセ、《アオキウツロ》』
敵の攻撃の種類は多種多様だった。
近接攻撃、遠距離攻撃、精神攻撃、間接攻撃、光線や斬撃は勿論のこと、幻覚や催眠、攻撃反射、魔法吸収など、どれも厄介なことこの上なかった。
今は肉体を強化して音速に近い速度で対応しているが、2体いる敵はそれ以上の速度で交互に4人の死角に入りながら攻撃を繰り返していく。
「おいおい、これは不味くないか?」
「敵にしろ、出口にしろ、あの速さをどうにかしないとな……」
「……」
「あいつら速すぎるワン!」
確実に追い詰められていく4人、だが、ここでワッコが大活躍する。
ワッコの意志が何所かに届いたのか、この危機的状況を打破する力が彼女の中で目覚めたのだ。
「お前ら止まるワ~~~~~~~~ン!!」
「え?」
「え?」
「ワッコ?」
『『――――!』』
無意識の内に大きく雄叫び(?)を上げるワッコ!
直後、敵の動きが停止した。
『『――――』』
「止まった!?」
「ワッコ!お前、一体何をしたんだ!?」
「ワッコ?」
「凄いワン!私の気迫で敵が動けなくなったワン!」
攻撃体勢のまま動かなくなった敵2体に戸惑う3人とは裏腹に、ワッコは自分の気迫に敵がビビったのだと勘違いしている。
ワッコが無意識に使った新能力《狗神之咆哮》、自分の声に特定の属性を乗せ、様々な効果を引き起こす能力であり、今回の場合、“時”の属性を付与しながら敵の動きが止まるように意識しながら発した為、彼女と仲間以外の時間が停止したのである。
「よし!今がチャンスだ!」
「うっし!止まっている間に倒すぞ!」
状況をあまり理解できていなかったが、今が好機だと4人は一方的な攻撃を開始する。
4人は使用後に多少のリスクがある――《獣化》から進化した――《幻獣化》を行い、蹂躙を
していった。
そして約20分後、2体の光の騎士を倒すことに成功した。
「ゼェ…ハァ…!やったワン!」
「あいつ等堅いってか、頑丈過ぎるだろ!!あと熱いし眩し過ぎ!!」
「ハァハァ……だが、どうにか倒せた。あとは出口に向かうだけだ」
「……アレに?」
ダリアが指差す方向には未だに超高速で移動する彗星モドキの姿があった。
彗星モドキは光の騎士達がワッコの能力で止まっている間も、多少減速はするも何事も無かった可能様に飛んでいた。
安易に近づいたら全身が木端微塵になりそうだった。
「…………まあ、なんとかなるだろ?」
「やってやるワン!私があの星を止めるワン!本気を出すワン!」
「ワッコ……」
「取り敢えずは、あの星の動きをよく観察するとするか」
それから3時間後、実はダミーが50個もあった彗星モドキの中から本物の出口がある彗星モドキを発見し、数秒間だけ移動速度を急減させる方法を見つけ、全員無事に出口がある彗星モドキに飛び移る事に成功した。
ただし、ちょっと調子に乗っていたワッコの尻尾にハゲができたのだが、余談である。
そして、彼女達4人はいよいよ最終階層である第100階層へと足を踏み入れたのである。
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――オオバ王国 秘密の離宮――
俺達は黙って映画を観ていた。
100階層に到達した獣人4人組を待っていたのは癒し系の動物達に囲まれ勝負衣装を身に纏った巨乳の女神アルテミス様だった。
そして最後の戦い……と思ったところで、ヘルメスの悪ふざけが『アルテミス大迷宮』を襲った。
「――――そしてここで事件発生か。タイミングが良すぎじゃね?」
「どうやら、某・神が各大迷宮の内部時間を遠隔操作できるように予め細工していたようです。ですのでタイミングはバッチリになりました」
「あの野郎……」
「士郎、今度一緒にあのバカ倒しに行かない?デートについでに」
俺の予定表に「ヘルメス絶対討伐作戦!」が追加された瞬間だった。




