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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
異界の七大魔王編Ⅳ―オリンポス大陸の章―
353/465

第341話 ボーナス屋、映画鑑賞する7

アテナ大迷宮の後編です。

長くなってしまった……。


――『アテナ大迷宮』 第90階層――



『見事である。よくぞこの試練の“(パズル)”を全て解き、1つの命も見捨てずに我を倒した』



 結果だけを言えばニケ達は試練を突破した。


 ニケの能力をフル稼働させ、迷路に隠れている幻想之聖樹王(ファンタズマ・ロード)の弱点を正しい順序で破壊することで出現する迷路の出口の鍵を発見、無事に1人も欠けることなく迷路の中に居た人達を脱出させる事ができ、最後はニケ達全員が大暴れして聖樹王を倒したのだった。


 倒したと言っても、相手は全然死んではいないが。



『しかし、どうして誰も殺そうとは思わなかったのだ?我はこの者達の記憶を視たが、とても救うに値するとは思えん。この場で始末した方が良かったのではないか?』


「そんなのは嫌です!」


『……そうか。だが、その者達を大迷宮の外に脱出させるには最下層にある転移門を使う以外の術は無い。これだけの足枷を引き連れれば、いずれは斬り捨てなければならない時がくるぞ?』


「大丈夫です!お兄ちゃん達も皆も、私よりずっと天才だから足手纏いにはなりません!」


『……』



 衰弱した弟妹の回復を行いながら答えるニケの顔を見て、女神の眷属は暫くの間沈黙し、そして微笑む様に枝葉を揺らせた。



『なんとも尊い……アテナ様が御認めになられただけはある。我が試練を乗り越えたのも必然か』


「え?」


『娘よ、名は何という?』


「あ……ニケ、です!」


『ではニケよ、我が身に成る(オリーブ)をそなたらに与えよう。この実から採れる油を衰弱している者達に一滴ずつ飲ませれば、瞬く間に回復するだろう』


「え!本当ですか!?」


『試練を乗り越えた者への報酬ではなく、そなた個人に対する我からの敬意と受け取ってほしい。さあ、この一番大きい――――ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!』



 幻想之聖樹王は突然悲鳴を上げた。


 突然の悲鳴にビックリするニケだが、すぐにその原因に気付いた。



「よ~し!オリーブ狩りだぜ!」


「お前らも栄養補給だ!」


『キュウ♪』


『ピィ♪』


『ギャウ♪』


『ワン♪』



 聖樹王の本体であるオリーブの大木に双子と使い魔(マスコット)達が攀じ登って沢山生っている実を採りまくっていた。



「勝者の物は俺の物、敗者の物も俺の物だぜ!」


『ギャアアアアアアアアアアアアア!!』


「バーン、これなんか美味そうだぞ?」


『ギャウ♪』


『イヤ~~~!我には夫と子供達が~~~~!!』


「「は?女だったのか!?」」


「ヴィルガルくんもヴィルハルトくんも止めて!私、怒るよ!」



 ニケは慌てて小さな暴君達を止める。


 その直後、大木はオリーブ色に光だし見る見るうちに小さくなっていった。



『うう……こんな醜態、もうアテナ様に顔見世できぬ……』



 そして大木はオリーブ色の髪と目をした女性になった。


 幻想之聖樹王の人型形態のようだ。



「ご、ゴメンなさい!ほら、皆も誤って!」


「けどニケ姉、このオリーブの実美味いぞ?」


「そのまま食べても美味いぜ!」


『ピィ♪』


「駄目です!謝ってください!悪い子にはご飯を作らないよ!」


「「ゴメンなさい!もうしません!」」



 双子は土下座して謝罪した。


 ルージ達もそれに続いて可愛く謝罪する。


 実は料理の腕が達人級のニケは仲間の胃袋をガッチリと掴んでいたのだ。



「……マスター、この実について報告したい事があります」


「え?」


「どうやらこの世の物ではないようなので詳しく解析してみたのですが、この実は1個丸ごと食べると肉体に“進化”や“覚醒”の効果があるようです。ただし、効果が強過ぎる為、相性の悪い者が食べると急激な肉体の変化に耐え切れず死亡する危険性があります」


「ええええ!?」


「全く、拾い食いは止めろと何度も言っただろ!」



 ウィズのトンデモ報告にニケは慌てふためく。


 だが慌てた時には既に遅く、食いしん坊達の体が一斉にオリーブ色に輝き出した。



「「なんかキター!」」


『ピピ!?』


『ギャウ!?』


『キュ!?』


『キャン!?』



 そしてどうなったかというと、双子は特に見た目に変化はなかった。



「「あ!新能力(チート)ゲット♪」」


「どうやら“覚醒”の効果が出たようです」



 一方、使い魔達の方は劇的な変化を遂げていた。



「「「お姉ちゃ~ん!」」」



 使い魔達は魔獣から別の種族に進化していた。


 一角聖兎(アルミラージ)のルージは兎の耳に小さな角のある白髪の男の子に、小神狼(レッサー・フェンリル)のフェンは銀色の尻尾と犬耳のついた男の子に、空竜(スカイ・ドラゴン)のバーンは見た目は人間と変わらない藍色の髪の男の子に、スライムのプルは微妙に全身をプルプルさせた碧い髪の男の子になっていた。



「キャ~~~~~!!」



 ただし、全裸で。



「「「キャ~~~♡」」」



 他の女子達も悲鳴を上げた。


 ただし、殆どがニケとは悲鳴の意味が違っていた。



「取り敢えず、4人は服を着て下さい。そこの双子は“実”を早く持ってきてください」



 ウィズは何時でも平静だった。






--------------------------


――『アテナ大迷宮』 第94階層――


 無双だった。


 第90階層を後にした後のニケ達は無双を続けた。


 あの後、ニケも幻想之聖樹王から“実”を貰って食べ、双子と同様に新しい能力を獲得した。


 その後はもう会う事は無いだろうと――というより二度と会いたくない――と言われてさっさと試練の間から追い出され、第91階層との間にある休憩エリア(*水場あり)で1泊することとなった。


 その際、ニケの料理チートが炸裂し、彼女の兄弟妹を含め助けられた100人以上の人々の胃袋をガッチリと掴んだ。



「イイかお前ら!ニケ姉に迷惑を掛けたら干し肉と黒パン生活だからな!」


「地獄だからな!ニケ姉のご飯の無い迷宮は生き地獄だからな!」



 双子のこの忠告に全員が揃って首を前に振り続けた。


 そして一同は大迷宮からの脱出の為に最下層を目指していったが、その過程で助けられた組はニケ達の常識離れした実力を目にする事となる。



「《灼熱地獄(フレイム・インフェルノ)》!!」


『ブギャアアアアアア――――――!!』



 ニケの魔法が戦場を焼き尽くす。


 SSSランクの魔獣は黒い炎に包まれ地面に倒れる。



「止めだ!!」



 双子の片割れ、槍使いのヴィルガルが魔獣に止めを刺す。



『『『ンモ~~~~!!』』』


「牛肉だ~~~!!今夜は焼き肉だ~~~!!上カルビを寄越せアタック!!」



 牛型のSS++クラス魔獣を楯で殴り飛ばすのは双子(弟)のヴィルハルト、そしてその後に続きお肉が大好きなチビッ子達も追い打ちをかける。



『ハラミ食べる!《りゅうのいぶき》!』→バーン


『シャトーブリアン☆《白銀螺旋爪(シルバー・スパイラル)》!』→フェン


「スライムパンチ!スライムキック!スライムビーム!ホルモンは全部僕の~!」→プル


『ハラミと野菜~!《聖兎突進(ラビット・インパクト)》!』→ルージ



 バーンは小型の飛龍(ワイバーン)に変身してブレスを吐き、フェンは大型犬サイズの狼に変身して敵を蹴散らし、一応人型を保ったままのプルはやりたい放題に暴れ、ちょっと大きな兎に変身したルージは突進して敵を吹っ飛ばしていった。


 魔獣だったちびっ子達は進化して幻獣や聖獣になっており、人型の姿と獣型の姿を自由に使い分けることが出来ていた。



「コラコラ、食べるならもっと丁寧に仕留めないと駄目だろ?こんな風に……《ホーミング・スプレット》!」



 ナナもクロスボウで次々と魔獣の群を倒していく。



「う、嘘だろ……」



 ニケ達から離れた場所で、戦力外の者達、特にニケと同じ学院の学生達はその光景を呆然としながら見ていた。


 普通なら1体倒すだけでも一流冒険者が10人以上必要な上級魔獣を平然と倒していくその光景は、エリートと呼ばれ続けていた彼らには衝撃が強すぎた。


 特に、学院では散々見下していたニケの桁違いの強さには嫌でも自分とは次元が違うことを思い知らされるほどの衝撃があり、ニケの兄イオンに至っては既にボロボロだった学院総代&次期財団総帥としてのプライドが木っ端微塵に砕かれ膝を突いていた。



「ハハハ……無能……無能は俺?(ニケ)は天才……俺は無用……価値なし……家の恥…後継者の資格無し……」


「嘘だ……姉様は落ちこぼれだったのに」


「でも、あれは大昔の上級魔法ばかりよ。あんなの、先生達だって使えないわ」


「あはははは……何だあの魔力、俺のなんかゴミじゃないか…」



 妬むこともバカらしい実力差の前に彼らは例外なく自尊心などが崩壊し、以後は常に俯いたまま足手纏いにならないよう心がけながらこの階層まで金魚の糞のようにくっ付いて来ていた――――訳ではなかった。



「ニケ姉~!あの無駄飯食らい達、何でいるんだろうな~?」


「「「!!!」」」


「ヴィルハルトくん!そういう言い方は駄目だよ!」


「でも役立たずじゃん!」


「「「!!!」」」


「そんな事はないよ!一緒に居るだけでも賑やかで楽しいもん!」


「でも穀潰しだぜ?甲斐性無しだぜ?特にニケ姉の兄貴」


「グハッ!!」


「妹に衣食住を提供され続ける兄貴ってどうよ?」


「ガハッ!!」


「ヴィルハルトくん!」


「ニケ姉より成績優秀なエリートなのにタダ飯食らいってどうよ?」


「「「グハッ!!」」」


「ヴィルガルくんも!!皆は大迷宮の中にずっと閉じ込められていて怖くて寂しくて辛かったんだよ!私も1人の時はそうだったもん!だから早く外に脱出させてお母さんの下に帰してあげな――――」


「「「グハッ!!ガハッ!!」」」


「……マスター、止めを刺しましたね」


「え?」


「流石ニケ姉☆」


「天然で100人のハートをブレイク♪」


「マスター、今の発言は彼らを「迷子で泣いている、お母さんに会いたい幼児」と同列に扱っています。疲弊した彼らの精神は今ので完全崩壊しました」


「え…あ……ゴメンなさい!わ、私――――」


「マスター、謝罪は逆効果です。彼らの姿を見て下さい。まるで蠅の集っている生ゴミのようです」


「「返事が無い。ただの屍のようだ(笑)」」


「コラ!」


「しかし、双子の意見も尤もだ。聞けばコイツラも大迷宮に挑戦しに来た冒険者なのだろう?なら、雑用を手伝うなりするなどをするのは冒険者としてのマナーだ。そうでなくても、自分の分の食糧くらいは自分で手に入れるのは冒険者の世界では当たり前のことだ。学生だからという理由は言い訳にはならない」


「ナナさん……でも……」


「マスター、働からざる者食うべからずです!今日から彼らには仕事を与えましょう!」



 こんなやり取りもあり、第90階層で救出された彼らはその後も色々あって双子(アクマ)の舎弟になり、その後は下層部の凶暴魔獣を相手にサバイバルをする事となった。


 ニケの目の届かない場所で手加減容赦なく働かされた彼らは折られては治され、治されては折られるを繰り返す日々を過ごし、食事の時は笑顔で泣いてニケを困惑させた。


 そして何日か経ち、一同はついに最下層へと辿り着いた。







--------------------------


――『アテナ大迷宮』 第100階層――



 そしてそれは、最深部の扉の前で起きた。



「マスター!緊急事態です!」


「え!?」


「別の神に嵌められました!」



 直後、ニケ達の視界は真っ白に染まった。








次回は火曜日更新予定


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