第331話 ボーナス屋、婚約発表する
予約するのを忘れてました。
――名も無き空中島改め『オオバ王国』――
日に日に開発が進む空中島。
山岳地帯にはドワーフ達が移住して採掘や鍛冶に勤しみ、大樹海の近い幾つもの開拓村では天空大陸からの移住者が畑を耕して故郷の作物を始めとした様々な作物を育てようと汗を流し、建設途中の娯楽都市では踊り子や旅芸人が稽古に励み商人達は魂を燃やしている。
他にも学者や職人達は思うがままにとんでもない物を発明し、海では精霊や人魚がキャッキャと戯れていた。
「……ん?人魚なんていたっけ?」
「丁度士郎達がニブルヘイム大陸に行くのと入れ違いでやって来たのよ。面白そうだからって、親しい精霊に頼んで空を飛んでやって来たわ」
「あだ!」
俺の知らないところで変わった移住者が増えていた。
その一方で、エルフやドラゴニュートの移住者は殆どいなかった。
どちらもやや閉鎖的で故郷に執着しやすい傾向があるのか、新天地に行こうと考える者が少ないのが理由らしい。
もっとも、エルフに関してはそれ以外にも理由があるんだけどな。
「あ!そろそろ時間だ!」
と、ここで俺は本日のメインイベントの時間が近い事に気付き、既に人だかりができているとある町の広場に移動する。
広場にはこれから始まる大イベントに興味津々な人達がまだかまだかとざわついており、その中央には島の匠やら錬金術師やらが己の好奇心と欲望の赴くままに製作した、金属の枠に水晶の板を嵌めこまれた魔法具が設置されていた。
そして数分後、淡く光り始めた水晶の中に1人の美少女が映りだした。
『オオバ王国の皆さん、こんにちわ。本日開局しましたOHK(オオバ王国放送協会)より、ダーナ大陸初のテレビ放送をお送りします』
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
広場が歓声に包まれた。
広場中央に設置された魔法具、それは魔法具版テレビ、そしてアナウンサーをしているのはソフィアちゃんだ。
そう、今日は待ちに待ったダーナ大陸の初のテレビ放送開始の日なのだ!
エルナさんを始めとする発明家の皆さんのチート暴走のお蔭で出来上がったテレビ放送網、取り敢えず今は未だスタッフ育成が追い付いていないので、情報関係のエキスパートであるソフィアちゃんが分身したり並列思考したり世界と繋がったりなどしてアナウンサーなどの仕事を一手に引き受けている。
『―――では始めに国内のニュースです。国内西部の鉱山都市『サシバ』で未知の鉱石の鉱脈が発見され、地元のドワーフ達から歓声が上がっています』
テレビ画面の向こうでソフィアちゃんは営業スマイルで国内外のニュースを流していく。
最初はニュース番組の需要があるのかと心配したが、広場に集まっている視聴者達は意外にも食いついていた。
最初は物珍しさもあったのだろうけど、次第に自分達が住んでいるこの国のニュースに興味津々だった。
特に最近移住してきたばかりの、まだ居住地の決まっていない人ほど食いついていおり、テレビに映される建造中の都市の光景や、各都市の現状に関するニュースを聞きながら何処に住むか考えているように見える。
それ以外には商人やベテランの冒険者が目を光らせていて、タダ同然で手に入る情報を頭に叩き込んでいるようだ。
『次に国外のニュースです。フィンジアス帝国東部にあるドレイパー子爵領で本日未明、先日から続く雨により崖崩れが発生し、ファリアス帝国へと続く街道が土砂で塞がれました。幸い死者は出ていませんが、多くの人々が近隣の町で足止めを――――』
ソフィアちゃんの方も、視聴者の求める情報を取捨選択しているのか、周囲からは常に報道内容に関する驚愕の声等が聞こえてくる。
ニュースに《千里眼》系の能力を応用して中継映像も流された時の歓声も凄かった。
『――――エーレ王国にて、サイ王子の婚約を巡り、周辺国の王族全員を巻き込んだ決闘騒動がありました。その際、複数の女性軍人が――――』
中には一部の視聴者の負の感情を刺激するニュースもあったが俺は気にしない。
それにしても久しぶりにサイくんの名前を聞いたけど、相変わらず無意識でハーレムを作っているようだ。
俺も他人の事を言えないけどさ?
『――――続きまして本日の特集のコーナー、本日は『大人気!みんなのコッコ団』です』
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
「「「キャア~~~~~~~~~~♡」」」
コッコ団はお茶の間のアイドルになりつつあるな。
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――オオバ王国 秘密の離宮――
島の何処かにある超強力な結界に守られた場所にある秘密の離宮、ここは国王である俺とその妻達が安心して休息をとる為に建てられた場所だ。
現在、ここには俺と唯花を始めとした俺の妻達、アンナちゃん、ステラちゃん、ミリアムちゃん、ユリアちゃん、リスティちゃん、ユニス、そしてソフィアちゃんの8人、あとは俺の腕の中でスヤスヤと寝ている壮龍だ。
本日は緊急家族会議(?)の為に全員がこの離宮に集まっていた。
「…………」
そして俺は寝ている壮龍を抱きながら、このどうしようもない空気にさらされていた。
「では、只今より大羽家家族会議を開会します。本日の最初の議題は、家長でありこの国の国王である士郎の婚姻関係に関してです」
尚、議長は唯花である。
「みんなも知っての通り、ここに居る8人は士郎と正式な婚姻を結びました」
「ちょっと待って!私、そこのソフィアって子との婚約は初耳なんだけど!?」
「あ、私もです!」
リスティちゃんが手を挙げて意見し、それに続いてユリアちゃんも手を挙げる。
2人ともソフィアちゃんと直に会うのは今日が初めてのようだ。
ちなみに、今日は俺がニブルヘイム大陸から帰ってきてから3日後である。
「それについては説明するわ。知っての通り、彼女は士郎の持つ固有能力の1つが自我に目覚めて人の姿を持って進化した『神霊』と呼ばれる存在よ。凄い力を持った人と思っても差支えないし、そして何より、本人に聞いた話では人間との交際も可能よ」
「「「……」」」
微妙な沈黙が生まれる。
そしてリスティちゃんが俺を一瞥すると、若干引き攣った顔をしながら口を開く。
「……つまり、自分で嫁を自作したってこと?」
「そ、その言い方は……」
「その表現には語弊があります」
厳しい一言に待ったをかけたのはソフィアちゃんだった。
「確かに“私”という存在は主の能力を核になっていますが、この心の元は世界に生きる全ての存在の思いが1つに集まる事により生まれました。そして世界の深淵に存在する魂の大元の1つに接触することで心と魂を持つ霊的な存在となり、それが更に主の能力の影響を受けて進化した存在――――それが私『ソフィア』であり、これは精霊の生まれ方と非常に類似しています。よって、私という存在は主の私欲でも皆様への背信により生まれたものではありません。その辺りをご理解ください」
「べ、別にそんな意味で言った訳じゃ…………ゴメンなさい」
ソフィアちゃん自身は別に怒っている訳でも威圧している訳でもないようだけど、説明を受けたリスティちゃんは罪悪感を感じてシュンと落ち込んでしまった。
普段はツンツンしているけど、根は優しい子だから心は傷つきやすいんだよな。
後でフォローしておこう。
「――――と、本人が言った通り彼女自身は精霊の上位種族と今は思ってくれていいわ。で、ここからが本題だけど、皆も気付いている通り彼女も士郎に惚れているわ」
「ほ、惚れているなんて!唯花様、それははははは……☓△#*(プシュー!)」
ソフィアちゃんは真っ赤になってオーバーヒートを起こした。
「……皆色々と思うところもあるだろうけど、私個人としては彼女も士郎の妻に加えようと思っているの。私情に関係なくね」
「それは何故です?」
ユリアちゃんが意外そうな目をしながら質問する。
まあ、普段の唯花だったらどこぞの女神にも負けず劣らずの嫉妬を爆発させているだろうから、意外に思うのは当然だろうな。
「理由は2つね。1つは彼女自身が本気で士郎を愛しているから。これは会ったその日に夜通しで話を聞いて確かめたから間違いないわ。そして2つ目だけど、これは政治に関わっている人なら大体予想はできるんじゃない?」
「彼女自身の能力だな?」
「正解♪」
唯花の問い掛けに答えたのはステラちゃんだった。
「ソフィア殿の能力はシロウと負けず劣らずの規格外のものだ。特に世界中の出来事を過去から現在まで瞬時に調べる事が出来るのは政の世界では脅威となる。いや、政に限らず商業や工業でも絶大な影響を齎すものだろう。上手く利用すれば太平を生み、悪用すれば国家を崩壊させる事も世界中の経済を破綻させる事も可能だ」
「その通りね」
真剣な顔で語るステラちゃんに唯花も同意する。
ソフィアちゃんの前では個人のプライバシーは生者も死者も関係なく丸裸、隠蔽された不祥事も丸裸、誰も知らない歴史ミステリーも一瞬で真実を明かすことができる。
最近は急成長しているとはいえ、未だ情報インフラが未熟なこの世界でソフィアちゃんは情報の女王、いや文字通り女神だ。
今後は間違いなくソフィアちゃんが悪い連中に狙われるのは避けられないだろう。
「――――今のままだと「沢山いる勇者の仲間の1人」という扱いになるけど、士郎と結婚すれば「一国の王妃」という扱いになるわ。そうすれば少なくとも下手に手を出せなくなるでしょうね。まあ、士郎なら手を出されたら相手を瞬殺できるとは思うけど、示威行為をしておくに越したことはないわ」
「「「成程!」」」
唯花の説明に皆も納得する。
けど、唯花達はちょっと誤解している。
示威行為そのものは必要だとは思うけど、もし仮にソフィアちゃんが俺の居ない所で襲われたとしても、多分、即座に返り討ちになっているとおもう。
何処かの悪神の使徒の時みたいに。
「まあ、妻でもない女が士郎に四六時中くっ付いているのが嫌ってのもあるんだけどね♪相手が妻な方が精
神衛生上にもいいしね♪」
「「「同感です(ね)(だな)♪」」」
……。
息ピッタリだな。
「という訳で、今日からソフィアも士郎の婚約者の仲間入りね♪ほら、さっさと告白!告白!」
「え!?何か俺の意志は無視されてない!?」
「皆さん、ありがとうございます!これからは、主の善き妻になれるようどりょくします!」
「ええ!一緒に頑張りましょうね!」
「ソフィアさん、よろしくね」
「ねえ、聞いてる?」
こんな感じでソフィアちゃんもめでたく俺の婚約者軍団の一員となった。
ソフィアちゃんは頬を紅く染めながら喜んでいたし、取り敢えずは無事に解決出来たってことでいいのかな?
〈良いんじゃね(笑) byスサノオ〉
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――翌日――
『――――オオバ王国国王シロウ=オオバ陛下が8人の女性と御婚約をなされました。その1人は私です』
翌日の正午、テレビを通して士郎の婚約発表が世界中に報道された。
それに対する反応は大きく分けて2つだった。
「「「キャ~~~♡」」」
恋バナが大好きな女性達は好奇心を爆発させて知人友人に言い広めながら女性同士で盛り上がった。
対する男性はというと……
「「「チックショウ~~~~~!!」」」
特に持てない男性陣は嫉妬を爆発させ、中には昼間から酒場に飛び込んで酒に逃げる者まで現れた。
既婚者の場合は「俺もハーレム欲しい!」や「若い嫁が欲しい!」という本音を漏らしてしまい、妻の怒りを買ってしまうのだが、それは本編とはどうでもいい話である。
『ハーレムを作ろう!』
・貴方に恋心を抱いている人達に告白し、一つ屋根の下でみんなで暮らそう!
・達成条件:10人以上に告白成功する。
・達成状況:8/10(人)
・報酬:マイホーム




