第329話 ボーナス屋、後処理をする
――ニブルヘイム大陸 ベオーズ島――
腐った魔王を倒してから数十分後、俺達はニブルヘイム大陸から一番近い島を訪れた。
大勢の元・変態を引き連れて。
「お兄ちゃ~ん!!」
「あなた!!」
「お~い!攫われた男衆が帰ってきたぞ~!!」
「私の息子達もいるよ!!」
島の中でも比較的大きな町に入ると、衛兵を始めとした町の住民達がぞろぞろ出てきた。
最初は俺達に警戒していた彼らだったが後ろからついてくる半ば呆然としている、男の集団を目にした途端、驚愕と歓喜の声を上げて走りよってきた。
そう、俺達が連れてきたのは魔王軍に攫われ、魔王によって大事なものを失い、最終的には変態巨人にされてソフィアちゃんに消毒されて人間に戻った一般人の方々だ。
「母さん!父さん!」
「生きてたか、バカ息子!?」
「魔獣に食われたかと思ってたんだよ!?怪我とかはないのかい?」
「ああ……何も覚えてないけど、こちらに居る方々が魔獣達を操っていた親玉から助けてくれたんだ」
「そうそう!あの人達が僕達を助けてくれたんだ!」
「他の島の連中も助けてもらったんだ!」
「あの女神のようなお姉さまに!」
「あと……鶏…に?」
「「鶏?」」
家族と感動の再開を果たした被害者の男達は一斉に俺達の方を指差し、住民達の視線も俺達の方へと集まってくる。
言い忘れたが、今俺と一緒にいるのは通常モードに戻ったコッコくん、そして完全に俺の隣のポジションを獲得しているソフィアちゃんだ。
スラ太郎はちょっと後始末の為に魔王城跡地に残っている。
終わったら《転移》で合流するように言っておいたから、もうすぐしたらやって来るだろう。
「町長!町長のバカ息子も帰って来たぞ!」
「こんの親不孝者のバカ息子め!顔だけが取り柄のくせに親に心配ばかりかけおって!!」
「あはは~、なんだか楽しい夢を見てた気がするけど忘れちゃったよ~♪」
尚、元・変態巨人軍こと被害者達はソフィアちゃんが綺麗に選択してくれたので魔王軍に捕まって以降の記憶は全部消去、肉体的な方も時間操作などをして純潔を取り戻させておいたから心身ともに何も無かった事になっている……筈なんだけど、なんか一部の人達は断片的に残っているように見える。主に快楽方面で。
後でソフィアちゃんに再度記憶消去をしておいてもらおう。
ていうか町長の息子、さっきからケツをかくな!
「ありがとうございます!婿入り前の息子達を助けて下さって本当にありがとうございます!」
「婚約者を助けて下さってありがとうございます!」
「結婚した直後に危うく未亡人になるところでした。これはせめてものお礼です!」
「英雄殿、細やかながら宴を用意しますので―――」
それはそうと、町の住民達は男衆を助けてくれたお礼がしたいと俺達の下に集まってきた。
正直、お礼なんて要らないんだけど、周りの「お礼させて」オーラや「宴したい」オーラが凄すぎて強引に押し通されてしまいそうだ。
「わ~い!大きい鶏~♪」
「背中ふかふか~♪」
『ゴ、ゴケ!?(え、ちょっと!?)』
「母ちゃん、この鶏欲しい~!買って~!」
「「「欲しい~!」」」
「……父ちゃんがちゃんと稼いでくれたらね?」
「パ、パパにお願いしてね♪」
「お父さんに頑張って貰おうね?」
「「「え?」」」
コッコくんの方も毎度の事ながら子供達に大人気で素直に逃がしてもらえそうになさそうだ。
と、ここで頼りになるソフィアちゃんが一歩前に出た。
「皆様、皆様の感謝の気持ちは大変ありがたいのですが、私の主は捕われた方々を御家族の下に帰さなければなりません。彼らの御家族もまた、皆様と同じく家族の無事を祈りながら帰りを待っておられるのです。その事をどうかご理解ください」
「……そうですか。それなら仕方ないですな」
「儂らも身を裂かれる思いでしたからねえ。早く家族の下に帰してあげたほうがいいですよ」
「町長……」
「ううむ、そう言う事情なら無理に引き留める訳にもいかんか」
ソフィアちゃんの丁寧な言葉と清純オーラのお蔭でお礼祭は無事に回避できた。
言い忘れたがソフィアちゃん、魔王を倒してからは人間モードになっている。
隣から見ていると、普通の美少女にしか見えない。
俺の固有能力が実体化したとは信じられないほどの美貌とオーラを持ってるし、何だか一緒に居て妙に落ち着くのは気のせいだろうか?
「おお……!何と美しい……!」
「ほうほう、まるで女神のような美しさだのう~!」
「俺の古女房と取り換えて欲しい位の別嬪さんじゃねえか。あ~、若くねえ自分が憎らしいぜ」
町のおっさん達もソフィアちゃんの美貌に見惚れている。
けどこの数秒後、おっさん達は自分の奥さん達に狩られて料理されてしまった。
そしてそのまま(人生の)墓場まで強制連行……何処でもああいうのは存在するらしい。
「それは皆さん。今夜は御家族やご友人と共にごゆっくりとお過ごしください。未だ魔獣による傷跡が深く残っておられるのでしょうが、どうか希望を失くす事無く生きて下さい。次にこの町に訪れる際は、活気を取り戻したこの町と皆様のお姿を見れる事を心より願っております」
「おお!なんと暖かい言葉なんだ!」
「俺達はやるぞ!魔獣どもに二度と蹂躙されない不落の町を造ってやる!」
「そうだ!折角助かった命、デカいことをするのに使わないと勿体ねえ!俺もやるぞ!」
「僕も!」
「なんか燃えてきた~!」
「そして次に再会した時にはソフィアさんに……♡」
「「抜け駆けはさせねえ!!」」
別れの際、ソフィアちゃんの熱いエールで町の皆さんは随分と元気になり、暖かい雰囲気で俺達を見送ってくれた。
中には下心丸出しの人達もいたけど。
「嫌だ~!」
「コッコくん、帰っちゃ嫌~!!」
「一緒に帰るの~!」
『ゴ、ゴケェ~……』
一部の小さな子供達だけは大泣きしながらだったけどな。
コッコくんの人気は何処に行っても凄まじいな。
なんだか可哀想だし、余裕があれば偶にコッコ団に来てもおうか。
そんな事を考えながら、俺達は次の島へと転移した。
――――一週間後、『コッコ団 ペオーズ島出張所』開業
--------------------------
――ニブルヘイム大陸 魔王城跡地――
士郎達が囚われていた男衆を故郷に送り届けている頃、白い更地と化した魔王城跡地では密かに蠢く者達の影があった。
激しい戦闘の末に大地に残された巨大な亀裂の奥底――――本来なら人が到達する事は永遠に無い筈だった絶対不可侵の領域のすぐ近くの場所でそれは白く凍り付いた断崖絶壁を光熱を帯びた黒い手と足だけでよじ登り続けていた。
『ゴホォ……ゴホォ……』
シューシューと、それの体が触れた場所からは蒸気が発生して周囲の空間を染め上げていく。
そこは極寒の極地でありながらもそれが放つ熱により既に氷点下を脱しようとしていた。
『ゴホォ……ゴホォ……ゴホォ……』
それは地上に近付くにつれ力を取り戻していく。
全身から放たれる熱もそれに比例して上がってゆき、次第に小さな火花が生まれ始め、火花は赤々と燃える炎と化していく。
黒一色だったそれの体も黒から赤へ、高熱を帯びた熔岩のように変色していった。
並の人間の20倍以上の巨体を持つそれは、ただそこに居るだけで周囲に死を撒き散らす、動く災厄としての力を取り戻そうとしていた。
『ゴホォ……ゴホォ…………アース…神……次こそは………』
それはここには居ない神々に対して豪華の如き憤怒と憎悪を抱いていた。
遥か昔、人間にとっては途方も無い程遠い昔、後に『神々の黄昏』と呼ばれる終末戦争に置いて、それは数多の兵を率いて神々に牙を剥き、最終的には世界全土を炎で焼き尽くした存在だった。
太陽の様に輝く焔の剣を振るって全てを焼き尽くしただけでなく『豊饒神』の1柱を殺し、戦争の終盤には主神を失った神々の総力を持って封印された忌むべき存在。
その名を、『黒き巨人』と云う。
『ゴホォ……ゴホォ……焼き……尽くす……』
半刻ほどの時が経ち、スルトの血の様に赤く輝く眼光は蒼穹の空を捉え、灼熱の巨腕は永き牢獄の壁の終点を掴んだ。
そして、スルトは自慢の腕力で一気に地上へとその巨体を投げ出した。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
地上に出た直後、スルトは長い間為に溜めこんだ感情を吐きだす様に空に向かって咆哮した。
それは復讐の狼煙、神々に対する宣戦布告だった。
そして、嘗てたった1人で世界を焼き尽くした巨人の怒りが、異世界ルーヴェルトの大地を蹂躙しようとした。
だがそこへ――――
『――――ピッピピィ~♪(行っくよ~♪)』
そこへ、空からスラ太郎が落ちてきた。
直径100mを優に超えるジャイアントサイズのスラ太郎が。
『なぬ!?』
それを見たスルトは咆哮を終えたのに開いた口が閉まらない。
『ピィ!(えい!)』
ニブルヘイムがポヨンという音と共に盛大に揺れた。
その際、変な音が混ざっていたが聞いた者は誰もいなかった。
――――『終焉の巨神』スルト、宣戦布告の2.8秒後に瞬☆殺
――――1分後、スライムに転生。スラ太郎の配下に転職。
――――スラ太郎、神々によりニブルヘイム大陸の主に認定♪
神A[スラ太郎デカすぎ(笑)」
神B「ス~ラ太郎!ス~ラ太郎!」
神C「ん?もしかしなくても、スルトはこれで出番終了か?」
神A「(笑)」
次回は木曜日更新予定です。




