第327話 ボーナス屋、人生最大の危機!
――ニブルヘイム大陸――
俺&コッコくんと神ウルの戦いは予想以上に熾烈を極めた。
隙を見つけては相手の能力を頂戴しているにも関わらず、神ウルは能力や補正に関係なく“素”でも十分に手強い相手だった。
それこそ、日本の地下迷宮で地獄の修行を強制的に受けてなければ数分で負けてたかもしれないと俺自身が思ってしまうほどに。
「……まあ、今は優勢だけど」
『ハァハァ……!その若さにも関わらず、末恐ろしいですね?』
コッコくんも一緒という事もあって、俺は神ウルに対してどうにか優勢だった。
ハッキリ言って、神ウルはアドラメレクよりもずっと強かった。
アドラメレクは固有能力を封じたりしてきて厄介な敵だったが、この神ウルは純粋に強い。
奴の射る矢は避けようとして避けきれるものじゃなく、しかも音や気配も出さず迫ってくる。
しかも神ウル自身の身体能力に至ってはアドラメレクを優に超える化け物級で、例えるならどこぞの梁山泊の超☆達人と対峙しているかのような気分になる。
チートが沢山なかったら瞬殺されてたな。
『強奪系の固有能力は数多くありますが、神の力を複数奪うほどのものは久方ぶりに見ました。これでは、並の神では手も足も出せずに討滅されるでしょうね』
「久方ぶりってことは、俺以外にもいたのか?」
『ええ、人間達からは『大魔王』や『勇魔王』、『元祖バカ』と呼称されている人達です。異界の神々も随分と犠牲になっていますね』
「ああ……」
納得。
奴らならそれ位のチートを持っていてもおかしくはない。
そして、大勢の神様達が一方的に身包みを剥がされていそうだ。
と、脇腹に向かって矢が飛んできた。
『意識の隙間を狙ったのですが、避けますか』
「……本当、容赦ないな?このままだと月だけじゃなくこの星も蜂の巣になるぞ?」
『……「魔王の敵を排除する」。この呪縛がある限り、例えこの世界が破壊し尽くされようとも私と貴方はどちらかが死ぬまで戦う運命なのです。《絢爛たる緋閃》』
苦笑しながら神ウルは緋い一本の矢を射る。
今までになく力強い矢に、俺は咄嗟に神器を取り出して放つ。
「《魔弾》!!」
『――――フ!』
「!」
俺が神器『タスラム』を放つと、神ウルは不敵な笑みを浮かべた。
直後、タスラムと衝突した緋い矢は、なんとタスラムを吸収し、さらに勢いを増してそのまま俺に向かって飛んできた。
あの矢は相手の攻撃を吸収して威力を上げるタイプなのか!?
『相手の力を逆に利用する矢です。流石の貴方も、これは防げないでしょう。終わりです』
確かにタスラムの力が加わった矢の威力は想像を絶するものだろう。
けど、俺には最強のパートナーがいる!
「コッコくん、食べちゃえ!」
『ゴケェ~!』
星を破壊しちゃうような魔法も食べてしまう、最強コッコくんが!
瞬間移動で俺の前に現れたコッコくんは、眼前に迫る矢をパックンと丸飲みした。
あ、タスラムも一緒に……ま、いっか。
『なっ!?』
神ウルの顔が今日一番の驚愕に染まった。
『ゴケ♪』
「コッコくん、お返しだ!」
『ゴケゴケェ~!!(コッコ・タスラムアロー!!)』
『ぐわああああああああああああああああああ!!』
一瞬だった。
コッコくんの口から発射されたらしいコッコくんの新技は、俺にも軌跡を見せることなく瞬時に神ウルに直撃、大陸を穿つ巨大な光の柱を立てながら爆発した。
あれ、直系は軽く1㎞はありそうだな。
「あ、まだ生きてる!」
けど、これでも神ウルは未だ死んではいなかった。
まさか、コッコくんの大技にも耐え抜くとは……!
こうなったら……!
「コッコくん、こうなったら合体だ!!」
『ゴケ!(ハイ!)ゴケゴケ~!!(《聖武装化》!!)』
眩い光を放ちながら、コッコくんは俺と合体してカッコいい装備に変身した。
「お!前よりもカッコよくなった?」
聖都の時とは違いコッコくんも神になったせいなのか、合体後の俺の姿にも変化があった。
後ろの髪が腰の近くまで伸び、プラチナカラー一色の軽武装にも金色の装飾などが追加され形状もより頑丈そうに変化していた。
そして前は一対だった背中から生えた羽は、今は3対6枚に増えていた。
〈勇者は鶏神武装を身に纏った!〉
〈今の勇者は人間卒業寸前だ!〉
〈てか、さっさと卒業しろ☆〉
ギャラリー五月蠅い!
俺は最後まで抵抗を続けるんだ!
『ゲホ!今のは危なかった………これは!?』
神ウルはまた驚愕しているが、もう丁寧に説明しているつもりはない。
俺は所持している神器――光の神魔剣、貫く神光、金剛杵、雷霆――を《万能融合分離》で融合、ついでに俺の全属性の魔力も融合させ、神ウルが認識できない速度に瞬時に加速して止めの攻撃をする。
「《超・神殺斬》!!」
『――――ッガッ!!!!』
咄嗟に思い付いた適当な技名を叫びながら、俺は神ウルを斬った。
余談だが、この時俺は遥か彼方にある名も無き惑星も1つ2つ一緒に斬っていた。
どの星も生物は皆無なので大惨事にはならなかったけどね♪
まあそれはさて置き、今度こそ神ウルに止めを刺すことができた。
『ああああああああああああっ――――――――』
神ウルは光の粒子に分解されて消滅していった。
そして、その場にはウルが使っていた弓だけが残された。
〈神ウルを倒した!〉
〈勇者は『神弓イチイバル』をゲットした!〉
〈え~!コッコくんとスラ太郎が食べるんじゃないの~?ブー!ブー!〉
〈ブー!ブー!〉
外野は、一体何を期待しているんだ?
〈魔王が最終形態になった!〉
「え?」
俺は魔王城があった方角を振り向いた。
すると、さっき俺が造った大地の亀裂の中からすっかり忘れるところだった魔王が姿を現した。
『腐…腐腐腐……!私は夢のBL天国を創る!』
未だ熱い日差しが降り注ぐ中、腐った魔王はアホな爆弾発言をした。
ちなみに魔王、姿は無駄に露出の多い茨の衣装を着た淫魔風の姿になっていて、背中からは蝙蝠に似た羽が3対6枚生えている。
ステータスを視てみると、『第三形態【腐女王モード】』と表示されていた。
『腐腐腐……戦いながら絡み合うイケメン♡イケメン同士を戦わせて愛し合わせ……イイ!!今度のテーマはこれで決定ね♪』
何が決定だ!
あの魔王は世界中の男から大事なものを奪い尽くさないと気がすまないのか。
今すぐ倒さないと、俺だけじゃなくこの世界の――――
『――――地球も私の天国に!!』
訂正、この世界だけじゃなく、地球の男も1人残らず大事なものを奪われてしまう。
地球全土が魔王と腐女子の帝国になってしまう。
『さあ、立ちなさい!私の下僕達!』
魔王が高らかに天に向かって手を掲げると、背後に炎の壁が立ち昇った。
そして、その真っ赤な炎の壁の向こうからそいつらはやってきた。
『『『FOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』』』
『『『FOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』』』
全長数十mのイケメン全裸巨人の軍勢が!
しかも自分の剣をビンと起たせながら!!
「何じゃありゃあああああああああああああ!!??」
一体全体、何があったらあんな悍ましい光景が出来上がるんだ!?
魔王が創った新種の魔獣か何かか!?
あんな変態軍団が世界中に現れた日には、色々な意味で世界が終わってしまう!
「殲滅!!」
俺は魔王達に向かって神ウルにも使った必殺の一閃を振るった。
そして星を抉るかのような爆発が閃光と共に起き、悍ましい光景はこの世から消滅した、かに見えた。
『『『FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』』』
「ええええええええ!!無傷!?」
だが、悍ましい巨人軍団はピンピンしていた。
巨人だけじゃない。
奴らを率いていた魔王も無傷で宙に浮かんでおり、恍惚に浸っているかのような表情で俺を見つめていた。
……鳥肌が立った。
『腐腐腐腐……♡私の可愛い下僕ちゃん達は、同性からの攻撃によるダメージを全て完全無効化することができるのよ♪これでどんなプレイもやり放題♡』
嫌なチートだ。
魔王は俺の方をジッと見つめると、また何かとんでもない事を思い付いたように笑みを浮かべた。
……嫌な予感がする。
『……フル装備の勇者のアヘ顔が見たい!触手攻め!獣姦!巨人攻め!』
嫌な予感が当たった!!
『下僕達!まずは勇者を捕獲よ♡』
『『『FOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』』』
俺、人生最大のピンチ!
ダッシュで迫ってくる変態巨人達から逃げるべく、一体神速でこの場から退避しようとする。
『腐腐腐……♡私の下僕達はウルと同等の速度で動けるのよ♡』
『『『FOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』』』
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」
気付いた時には変態巨人達は俺の眼前にまで迫って来ていた。
や、ヤバすぎる!!
ここは後退しつつ、《転移》で世界の果てに――――
『《雄だらけの薔薇の楽園》!逃がさないわよ♡』
《転移》が封じられました。
あの魔王、全能力が腐った事のみに特化してやがる!!
絶体絶命の危機、このままでは俺は――――ホラ…レテシマウ……!!
『イケメン勇者、ゲット~~~♡』
俺は、目の前が真っ暗になりかけた。
だが、希望はまだ潰えてはいなかった。
『――――そうはさせません!』
絶体絶命の瞬間、俺と変態巨人の間に希望が現れた。
誰!?
次回は土曜日更新予定です。




