第326話 ボーナス屋、炎天下で戦う
――魔王城――
先日の天空大陸の一件の際、魔神アドラメレクを倒して手に入れた新能力《煉獄太陽》は一言で言えば太陽を出現させる能力だ。
勿論、ただの太陽じゃない。
草木を燃やしたり氷河を溶かしたり等の影響は殆どない代わりに、精神、魔法、呪いといった類の事象を容赦なく焼き尽くす炎と熱波を放つ太陽、それが《煉獄太陽》だ。
説明文によれば、元々天国と地獄の中間にある『煉獄』にあった「迷える魂に苦痛を与えつつ浄化する炎」の力をアドラメレクが勝手に奪って我が物にし、生贄を調理したり、暇潰しに死者も生者も関係なく苦しめて遊ぶのに使っていたそうだ。
元々あの世の代物であるせいか、この世で使っても基本的に精神ダメージしか与えらないからか、それとも奴自身もこの能力の真の全貌を把握しきれていなかったからなのか、アドラメレクは俺との戦闘では使わなかったのかもしれないが俺は違う。
この能力の全貌を把握した俺は、この力を迷うことなく使った。
「――――《煉獄太陽》!!」
『ゴケゴェ~~~!!(《スーパー・コッコバースト》!!)』
けど、同時にコッコくんが放った技が予想外の化学反応を起こした。
コッコくんの魂のように熱く燃える《スーパー・コッコバースト》が《煉獄太陽》の力と混ざりあい、一年中真冬のニブルヘイム大陸を一瞬にして常夏の空間に変貌させた。
具体的には、辺り一帯を真夏の空気が包み込み俺に向かってくる神ウルの矢が蒸発し消滅、次に空から真夏の陽射しが降り注いで敵の力だけでなく大陸の氷をも解かし始めていった。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??』
神ウルは苦しみだした。
空から降り注ぐ陽射しに全身が焼かれるかのような悲鳴を上げ、手に持っていた弓も落としてしまう。
不思議な化学反応は起きたけど、取り敢えず効果は抜群のようだ。
『こ、これはまさか!?煉獄より盗まれし“断罪の焔”!!それが未知の力と融合した……!?』
「ちょ、、ちょっとウル、全身から蒸気が吹き出てるわよ!?(ハァハァ、汗だくのイケメン♡)」
『……問題、ありません』
なにやら全身から蒸気が出ている神ウルに魔王が近寄る。
気のせいか、なんか腐ったセリフも聞こえた気がするが無視しよう。
取り敢えず、攻撃のチャンスだ!
「行くぞコッコくん!」
『ゴケ!』
俺はコッコくんの背中に乗り、コッコくんは神ウルと魔王に向かってダイブする。
「ん?」
この時、俺は横目である光景を一瞬だけ見た。
今や跡形どころか瓦礫すら蒸発して残っていない魔王城跡地の一角で、スラ太郎軍団が一箇所に集合して合体を始めている光景を。
必死に逃げようとしている一部のスライム達を強引に吸収している、見方を変えれば地獄絵図な光景を俺は見た。
『ゴケ!?』
そしてコッコくんも見た。
俺とは反対の方向、丁度魔王が立っている所より少し離れた場所で、無数の全裸の男達が地面から丸出しで生えている悪夢のような光景を。
その陰で、禍々しい“何か”が見え隠れしていたのを。
『……』
この時のコッコくんはアレを見なかったことにした。
それは兎も角、攻撃だ。
「コッコくん、ファイヤー!!」
『―――!ゴケゴケェ~~~!!(コッコ・ギガ・ファイヤー!!)』
『ム!《千楯氷花》!!』
コッコくんが口から真っ赤なブレスを吐き、神ウルは氷の花のような無数の楯を周囲に展開して防御態勢に入った。
おお!
頑丈そうな無数の楯が炎天下のアイスの様に溶けていく!
これには神ウルも驚愕を隠せない。
『くっ――――!!これほど高密度な力は……!!』
「うおおおおお!!クラウ・ソラス、《超重力光剣》!!」
『「!!」』
そこに魔力で刀身を巨大化させたクラウ・ソラス(大地モード)を盛大に斬り付けた。
神ウルの楯は粉砕し、融けかけていた氷の大地は真っ二つに裂ける。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「勝ったか?」
『ゴケ?』
神ウルと魔王は亀裂の中へ真っ逆さまに落ちていった。
無事にそこまで落ちてくれたら終わりだけど、どうだろう?
まあ、今までのパターンから考えればそれはない可能性が高いけど。
それにしても《万能技巧》&《万能融合分離》は本当に便利だ。
愛剣も色んなバリエーションに改造し放題だし♪
『――――やってくれましたね?』
「あ、お約束な展開!」
割れた大地の底から力の籠った声が聞こえてくる。
すると次の瞬間、亀裂の中から光り輝くイケメンが飛び出してきた。
『元より強者であるとは理解していましたが、こうも早く『光輝の鎧衣』と、軍神としての権能を出させられるとは予想外です』
さっきまで黒い執事服を着ていた神ウルの姿は一転、雪の様に真っ白な王子様に変わっていた。
いや、王子と言うよりは若い王様って感じかもしれない。
所々に金色の装飾が施されたその姿はウルのイケメン顔と見事に調和していて、世の女性が見れば一瞬で惚れてしまいそうなオーラも放っている。
けど、そのイケメンスタイルとは裏腹に、一騎当千を思わせる闘気も同時に放たれている。
さっきまでとは戦闘力が数段上がっているのが見てわかる。
〈キャ~~~~♡ by女神一同〉
〈チッ! by男神一同〉
ギャラリーは盛り上がっているようだ。
『――――正直、私個人から見ても、貴方は近い内に善き神に昇神するでしょう。ここで消すのが惜しまれるほどに』
「いや、俺は神にならないから!生涯人間だから!」
『……残念ながら昇神という事象は当人の意志に関係なく起きるものなのです。彼の世界においても、多くの英傑達が後世で祀られ神になったように。貴方もいずれ、自分の意志に関係なく、ほぼ自動的に私と同じ存在になるでしょう』
「回避不可なの!?」
『不可能です』
なんという事だ……!
何度もフラグを回避してきたと思っていたのに、実際は微塵も回避できなかったというのか!!
〈カモン♪ byスサノオ〉
何が「カモン♪」だ!
『雑談はここまでです。そろそろ戦闘を再開させて――――貰います!』
「!!」
神ウル(第二形態)はノーモーションで矢を放ってきた。
俺は反射的にクラウ・ソラスで迎撃する。
「――――ッ!」
そしてお約束のアルマゲドン♪
前回のアドラメレク戦と同じく、激しいバトルが繰り広げられることとなった。
天が轟き、大気が震え、大地が揺れながら割れる。
そんな戦いが極地で繰り広げられた。
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――ニブルヘイム大陸近海の島――
「神官様!空から星が墜ちています!」
同時刻、ニブルヘイム大陸近海の島々では住民達がパニックを起こしていた。
10日近くも続いた吹雪が突然止み、季節が反転したかのような日差しが差し込んできたと思った直後に起きた異変。
古くから立ち入ることを固く禁じられていた北の大陸、そこからどんな寝坊助な者も目を覚ましてしまいそうな轟音に始まり、その直後に起きた北の大陸から空の果てまで立ち上る幾つもの火柱、遠く離れた島からでもハッキリと見える無数の巨鳥の影、神話に語られる世界樹を彷彿させるほどの雲の上まで伸びる白い巨大樹、大地と海を抉るように続く爆発、そして、天が怒り狂っているかのように北の大陸に降り注ぐ星々の姿は、何が起きているのか知らない住民達に嘗てないほどの恐怖を与えた。
「おお!これはまさしく神の御業!神々が戦っておられるのだ!」
同じくその光景を目のあたりにした中年の神官は、生来の繊細な感知能力から、目の前の現象を起こしているのは自分達が「神」と呼ぶ存在であると見抜いた。
ただ、どの神の所業かまでは分からなかったが。
「か、神!?ま、まさか、昔話にあった終末戦争ですか!?」
「ラ、『神々の黄昏』……!?」
「ひえええええええええええええええええええええ!!」
「この世の終わりじゃあああああ!!」
神官の言葉を聞き、住民達はさらにパニックになる。
この島を始め、ニブルヘイム大陸近海の島々に伝わる古の神話、その中で語られる神々の戦は彼らにとって恐怖そのものなのだ。
「皆の者、落ち着くのだ!これはラグナロクではない!神殿に残された伝承によれば、再び『神々の黄昏』が起きるのは北の果てに封印されている悪しき巨人達の封印が解かれる時とされている!しかし、私達は巨人の姿を見ていない!つまり、これは終末ではないのだ!」
「しかし、神官様……!」
「神官様、では、此度の異変は何なのですか!?」
「こんな天変地異、ラグナロク以外に納得できる答えなど……」
神官は必死に民衆を説得するが混乱は深まるばかりだった。
だが、神官にはこの状況を一瞬で治めるとっておきの呪文があった。
「――――ロキ様が、またやらかしたのだ!!」
パニックは一瞬で鎮静化した。
こうして、士郎とウルの戦いは近隣の住民達の心に深い傷を残すことなく終盤へと向かって行くのだった。
本場のラグナロクの前には、吹雪や星の雨が発生するそうです。
色々一致してますね。
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――神界――
「ロキ(笑)」
「ロキ(笑)」
「悪名の高さがこんな処で幸いするとはな♪」
「ロキだからな(笑)」
「ロキだし♪」




