第322話 ボーナス屋、DOGEZAする
――勇者の家――
「あ~!だぁ~!」
「ゴメンよ壮龍、今日は早く帰って来るからママとお留守番しててね?」
「うぅ~」
「お土産、凄いのを買ってくるからさ?」
「うぅ~」
ベッドでいじけている壮龍に頭を下げている俺の姿は、まるで休日出勤で子供との約束を守れなくなったサラリーマンパパみたいだった。
俺、全国の仕事に追われる家族思いのお父さんの気持ちが理解できたかもしれない。
今となっては古い記憶だけど、昔、俺の父さんも俺と母さんにDO☆GE☆ZAをしていたっけ。
あの頃の俺はまだ小さかったけど、父さんはほぼ毎日お土産を持って帰ってきた気がする。
「……壮龍の説得はできたの?」
「う~ん、微妙……」
「そもそも、赤ん坊に説得が通じると思ってるの?多分、父親と一緒に居られない程度しか感じてないと思うわよ?」
「そうだけどさあ、そこは父親としての誠意を見せないと……」
「士郎って、きっと家族の尻に敷かれるタイプよね。テンプレパパね」
「テンプレ言うな!」
『キャメ~?』
「カメ!お前は俺の味方だよな?」
『キャメ~?』
こんなやり取りをしながら、俺は出掛ける準備をしていった。
今日はこれから帝都に向かい、そこで『ダーナ大陸連合』の定例首脳会議に参加することになっている。
主な議題は「新生ミストラル王国を含む4ヶ国の連合加盟」と「新大陸について」の2つだ。
前者の方は大魔王ファミリーが去ったことで解放されたミストラル王国、クラン帝国、アルバン帝国、それに加えミストラル王国の同盟国であるアナム国の北方4ヶ国が正式に連合加盟を申し出てきたのでその是非を審議するのが目的らしい。
ちなみに、新生ミストラル王国の国王は――他の王族や一部の貴族達が失踪した為――ロルフの父さんが多くの賛同者を経て務める事になった。
ロルフもこれで王子様だな♪
そして俺に直接関係あるのは後者の「新大陸について」だ。
「じゃあ、行ってくる。壮龍のこと、頼んだぞ?」
「そのセリフもテンプレね~」
「う~」
「テンプレ言うな!あと、壮龍も機嫌直して!」
俺は家族に見送られながら家を出て帝都へと転移した。
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――帝都タラ ファリアス宮殿――
宮殿の中に用意された特設会議場にはダーナ大陸の偉い人達が勢揃いしていた。
その中には奥さんの尻に敷かれているであろうロルフパパの姿もあり、その顔は何故かゲッソリとしていた。
「――――により、ミストラル王国、クラン帝国、アルバン帝国、アナム国の連合加盟を可決する。続いて、オリンポス大陸に続く新大陸の発見について、まずは発見者であるシロウ=オオバ殿から報告がある。シロウ殿、どうぞ」
議長であるステラパパに呼ばれ、俺は立ち上がって今までに判明している――《真・叡智之化身》で調べた――情報を各国の偉い人達に説明していった。
簡潔にまとめると、この世界…というよりこの惑星(?)には全部で7つの大陸があり、1つは今俺達がいる『ダーナ大陸』、2つ目はダーナ大陸の東にあり只今国交を結ぶ為に交渉中の『オリンポス大陸』、3つ目はダーナ大陸の西にある『ガンドウ大陸』、4つ目は遥か南の赤道を越えた先にあり空に浮かぶ『天空大陸』、5つ目は天空大陸と同様に南半球にある『ワクワク大陸』、6つ目はダーナ大陸の遥か北にあるルーヴェルト版北極の『ニブルヘイム大陸』、最後はルーヴェルト版南極の『死の冬の大陸』だ。
この内、極地であるニブルヘイム大陸には人は住んでいないが、その周りに点在している島々には人間や亜人が住んでいる。
もう一方の極地である死の冬の大陸には人間は1人も住んでいないが、亜人達が国を持たず複数の集落を形成させて暮らしている。
ガンドウ大陸は魔法よりも科学が発展している大陸で、その技術レベルは20世紀後半の日本と同等で自動車や飛行機が実用化され、大陸中を鉄道が走っている。
ワクワク大陸は各地で絶賛戦争勃発中、大国同士だけでなく小国同士でも些細な事が原因で戦争に発展している。
こんなところだ。
「まさか、新大陸が他にもあるとは」
「それらの大陸との交流は可能なのか?」
「一番近いのはガンドウ大陸とニブルヘイム大陸周辺の島国ですな。シロウ殿の話では南半球という所は相当遠いようですし……」
「世界は丸かったのか!」
「どうりで水平線が丸かった訳だ。長年の疑問が解消された」
「転移装置での移動は可能か?」
「さすがに距離が……」
偉い人達は驚愕の真実に大興奮だった。
ああ、ついでに世界が丸い事も一緒に教えておいたぜ♪
「ここはやはり、シロウ殿に特使になって貰うのが妥当では?」
「何を言っておる!シロウ殿は今や一国の王、王を特使にするなど前例…が……」
「「ああ……」」
偉い人達の視線が一斉にバカ皇帝に向けられる。
どうやら王様を特使にする前例はあるらしい。
「あの頃は即位したばかりで俺も若かったからな~。大陸中を視て回れて楽しかった♪」
「……お蔭で家族が盛り沢山になりましたな(怒)」
笑って語るバカ皇帝を、横から宰相さんが殺気の籠った目で睨む。
ああ、特使の仕事をしながら妻子を作りまくったのか。
「――――では、シロウ殿を筆頭にした使節団を組織するという方向でいきましょうか?」
「「「異議なし!」」」
「え?俺の意志は関係なし!?」
「行った事の無い場所に転移できるのは、今のところシロウ殿だけですので。勿論、相応の対価を連合から支払わせて頂きます。元来の方法よりも遥かに支出を抑えられた外交が行えるので、それなりに色も付けさせたいただきます」
「頑張れよ、勇者♪」
バカ皇帝は他人事のように俺に手を振ってきやがった。
こんな感じで、俺は連合の使節団を別大陸に移動させる為のタクシー役をする事になった。
と言ってもまだしばらく先の話だが。
「あ!言い忘れたけど、他の大陸には魔王が居るらしいぞ?」
「「「え!?」」」
会議のラストは偉い人達の呆けた顔で締めくくられた。
――――ピロロ~ン♪
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『速報:また魔王が出現!』
ガンドウ大陸に魔王が出現しました!
魔王は妖怪軍団を大陸中に放ち、大陸内は大パニックに陥っております。
魔王軍は各国の神社から若い巫女を攫っています。
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――――ピロロ~ン♪
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『速報:またまた魔王が出現!』
死の冬の大陸に魔王城が出現しました!
今までは地下に潜んでいたと推測され、今回の魔王城出現まで発見できませんでした。
マスター、ゴメンなさい。
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――――ピロロ~ン♪
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『速報:またまたまた魔王が出現!?』
オリンポス大陸に魔王軍が侵攻してきました。
魔王軍は各国の『大迷宮』を目指している模様です。
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――――ピロロ~ン♪
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『速報:これも魔王?新種魔獣大量発生中!』
ワクワク大陸の各地で過去に目撃例の無い新種の魔獣が出現しています。
その多くは他の魔獣とは大きく異なり、人間並み以上に知能が高く現地の討伐部隊は苦戦を強いられている。
新種の魔獣の中には人間によく似た人型の固体も目撃されており、住人達に大きな混乱をもたらしている。
魔王が出現したのかは不明ではあるが、当機能の干渉に対する妨害は検知されており、魔王が存在する可能性は否めない。
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魔王のバーゲンセールが始まった!
〈コッコ団とスライム団は絶対連れて行けよ? byスサノオ〉
〈黄泉から妻が消えました。 byイザナギ〉
〈特等席で観てます。 by西王母〉
〈ファンクラブに入りました☆ byラー〉
外野は楽しむ気満々だ。
神よ、御歳暮を贈るぞ?
あ、メール!
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From:隠居生活が最近ヤバそうなヌアザ
Sub:本当に捜してます!
ルー、何処に居るか知りませんか?
速く見つけてください。
マジでお願いします。
隠居生活が続けられなくなります。
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ルー、まだ行方不明なのか……。
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――勇者の家――
「――――魔王、また倒しに行く事になった」
「あ゛~~~~!!だ~~~!!」
「ゴメン、本当にゴメン!!
その日の夜、俺は何度も壮龍にDO☆GE☆ZAをした。
壮龍、お前絶対俺の言っている事が解ってるよな?
「テンプレパパね~」
唯花よ、何でお前はココアを飲みながら楽しそうに観ているんだ?
そして翌朝、俺は北へと向かった。
ストックが切れたので、次回更新は未定です。
できるだけ早く更新できるよう頑張ります。




