第31話 ボーナス屋、奴隷商を倒す
すみません。
本当は昨日更新する予定でしたが手違いで遅れてしまいました。
何だか凄い話になってきたな。
パンダー侯爵も自分の女をとられた挙句、悪事が根こそぎばれて捕まったってちょっと不憫・・・いや、因果応報か?
「・・・報告によりますと、侯爵が酔った勢いで自分の所業の数々を愛人に漏らしてしまい、それを聞いた愛人は身の危険を感じて以前から関係のあった皇帝に全部話して自身の保護を頼んだそうです。その後、半日もしない内に皇帝は親衛隊を動かして侯爵家を取り押さえたそうです。」
「・・・またですか。以前も似たような事が何度もありましたが、相変わらず酷い話ですね・・・。」
「何度もあったのかよ!?」
「ちなみに、噂ではその愛人は悪事を告発してくれた謝礼を貰ったそうです。今までと同じように・・・。」
女遊びで犯罪調査!?
しかも貴族達も女を盗られたんじゃなくて、女に捨てられて捕まったのかよ!
女も二股かけた挙句、最終的には謝礼を受け取ったって、何か怖いな?
うわあ、ロビンくんすっごく複雑そうな顔をしているよ!
結果的に悪い貴族が捕まったとしても、自分の実父の女遊びが原因なのは相当ショックだろうな。
「・・・話が逸れてしまいましたが、パンダー侯爵は帝国内の複数の奴隷商と裏で繋がっていたらしく、奴隷が禁止されている他国の貴族などに奴隷を売っていたそうです。既に帝都にいる奴隷商の何人かは捕まっており、この町の例の奴隷商も、帝都からの連絡が届き次第、領主様が軍と共に捕縛するでしょう。」
「じゃあ、奴隷にされた人達は・・・!」
「おそらくは罪科奴隷以外は全員解放されるでしょう。ですが問題があります。侯爵が捕まったのは一昨日の夕方、早ければ今日にも奴隷商に侯爵の件が伝わっているかもしれません。そうなった場合、奴隷商は証拠を消してしまう可能性があります。」
「「―――――――――!」」
それはヤバいだろ!
悪党は逃げ足も速いのが多いからな。
こういう時はもしかしなくても、身の危険を逸早く知って逃げる準備をしているのがお約束だ。
金を稼いで助けるなって言っている場合じゃないぞ!
「すぐに奴隷商の所に行きましょう!!」
「おう!!」
こうなったら一刻も早く奴隷商を生け捕りに・・・・って、ロビンくん速っ!!
あっという間に部屋を飛び出していったよ!
妹達の命が危ないから当然の反応だけどな。
俺も急いで後を追わないと。
って、奴隷商の店の場所、俺、知らないんだけど!?
「―――――案内しましょうか?」
お願いします、フライハイトさん。
俺はフライハイトさんに案内されて奴隷商の店へと向かった。
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――港町ヴァール 奴隷商店『ラスター』
フライハイトさんの案内で奴隷商の店に行くと、そこではロビンくんが槍を振り回して戦っていた。
おお!大の男が宙を飛んでるぜ!
「くそ!お前ら、さっさと邪魔者を片付けろ!俺はその間に逃げる!」
見るからに悪人面の中年男が下っ端にロビンくんと戦わせて自分だけ逃げようとしている。
うわっ!もしかしなくてもあいつが奴隷商か?
あ、店の一部に焼けたような黒い跡がある。
なるほど、粗方読めたぜ!
あの奴隷商、バックにいた侯爵が捕まったのを知って逃げようとしてたんだな。
奴隷や厄介な物とかは店ごと燃やして処分しようとしたけど、火を点けた直後にロビンくんが到着してすぐに火は消されて今に至るってわけだ。
「くそっ!こいつ強いぞ!?」
「これで終わりです!」
「「ぐはっ!!」」
とか考えている間に下っ端は全滅した。
ロビンくん、さっきまでとは違って顔が凄く怒ってるな。
「・・・まだやるか?」
「ヒ、ヒィィ!!な、何なんだ貴様は!?」
うわあ、なんか怒りで口調が変わってないか?
あ!奴隷商が逃げようとしてる!
よし、少しは俺も活躍しないとな!
「《ホール》!」
「キャァァァ!!」
よし、落ちたな!
何だか悲鳴が女っぽかったけど気のせいだよな?
「ロビンくんお疲れ~~♪」
「シロウ殿・・・。」
「いやあ、ロビンくんが本気で怒ってるの初めて見たぜ。口調も変わってたし、あれが素なのか?」
「―――――――!お、お見苦しいところを・・・」
「いやいや、別に謝る必要はないだろ?家族が焼き殺されそうになるのを見たら、あれくらい怒るのは当然だし、それに、ロビンくんの素が見れてうれしかったぜ♪」
「シ、シロウ殿!?」
ロビンくん、今度は顔を真っ赤に染めちゃって♪
初対面の時から敬語が多かったけど、やっぱ中身は俺と同年代の少年だったってことだな。
村に帰ったら、アンナちゃを達にも話そう~と♪
「あのう、シロウ殿もロビン殿もよろしいでしょうか?」
ちょっとロビンくんをからかっていると、横からフライハイトさんが話しかけてきた。
ヤバ!一緒にいたのを忘れてたぜ!
「先程、通行人に話を聞いてきたのですが、どうやら奴隷商達が店に火を点けるところを何人も目撃しているようです。おそらくは、パンダー侯爵が捕まったのを知って慌てて逃げ出そうとしたのでしょう。」
「そこにロビンくんがタイミングよく到着してこうなったという訳だな。とりあえずは放火未遂で突き出しておくか?」
「いえ、どうやらその必要もないようです。」
「え?」
すると、フライハイトさんはある方向を指差した。
その方向を見てみると、馬に乗った騎士や馬車がこっちに向かってくるのが見えた。
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――港町ヴァール 領主の館――
そんなこんなで、俺達は領主の館に来た。
え?状況が分からないって?
簡単に言うと、あの後来たのは領主を乗せた馬車と騎士団だった。
馬車からは領主のオッサン改め、アンデクス伯爵と執事さんが降りてきて、俺達を見て驚いていた。
話を聞くと、どうやら帝都から緊急の書状が届いて、そこには奴隷商を逃げる前に取り押さえろとか書かれていたらしく、オッサンは急いで騎士団と共にここに来たというわけだ。
その後、奴隷商の店は騎士団や衛兵やらによって捜査のメスを入れられており、今も捜査は続いている。
幸い、店の中にいた奴隷達は全員生きていた。
俺達から事情を聞いたオッサンは目を丸くしながら驚き、店の中にいた奴隷全員を保護し、今は館に隣接している騎士団の詰所で治療を受けたり事情聴取を受けたりしている。
そして俺達は、表向きには事情聴取ということでここに来ている。
「何だかとんとん拍子に話が進みそうな感じだな。」
「そうですね。あの奴隷商も言い逃れはできないでしょうし、ドゥンケル商会の事も含めて、一連の事件はこれで解決するでしょうね。」
「けど、この数日間の金稼ぎが無駄になっちまった気がするよな?」
「そうでもないですよ?今の私達には大金はあって困る物ではありませんし、解放された妹達の当面の生活費も必要でしたからね。それに、ヒューゴ達にとっても、冒険者として自立するための訓練にもなりましたから何も無駄にはならないですよ。」
「それもそうだな。」
ただ、今も村に残って修業や採取に勤しんでいるヒューゴ達にはちょっと申し訳ない気もするんだよな。
けど、一刻を争う事態だったししょうがないよな?
「お待たせしました。」
しばらく待っていると、別室でいろいろと秘密の話し合いをしていた領主のオッサンとフライハイトさんが執事さんと共にやってきた。
何の話し合いをしてたんだ?
「いやはや、あの奴隷商、思ってた以上に厄介なことをしてくれたようだ。」
「どうかしたんですか?」
領主のオッサンは溜息を吐きながら呟いた。
「まだ取り調べは続いているが、あの奴隷商は帝国を含めた大陸四大国全てで奴隷売買を裏で行っていたようだ。保護した奴隷の中には貴族や富豪の出身者や、行方不明騒動にもなっている役者などが大勢いて、下手をすれば戦争中の王国以外の国との国交が危うくなりかねない。」
「やっぱ、ドゥンケル商会みたいな連中が関わってるのか?」
「そうらしいとしか言えないな。あまりにも問題が大きすぎて私だけでは扱いきれん。後日、ドゥンケル商会と一緒に帝都に送るしかないな。」
どうやら、あの奴隷商は予想以上に危ないことに手を出しているみたいだな。
きっと高く売れそうな人間ばかりを攫ったり騙したりして奴隷にしてきたんだろう。
他国の有名人もいるみたいだし、場合によって戦争にまで発展するかもしれない問題だから地方の領主だけの裁量では扱いきれないよな。
「それで、例の奴隷にされていた人達はすぐに解放されるのか?」
けど、今の俺達にはこっちの方が重要だ。
「今すぐには無理だが、今日の夕方前には解放は可能だろうな。既にドゥンケル商会との裏取引の証拠も押さえてあるから被害者である事はすぐに証明されるだろう。他国の出身者については帝都からの指示があるまでは、この屋敷で客人として迎えるつもりだ。」
「そうか!じゃあ、一度村に戻ってヒューゴ達を連れて来た方がいいよな?」
「そうですね。家族が解放されたと知ったら喜びますよ。」
「ロビンくんも家族だろ?」
「ハハハ、そうでした。」
俺とロビンくんは笑いながら喜ぶが、領主のオッサンは何だか気が重そうだ。
あれ?
もしかして、まだ何か問題が・・・?
「どうしたんだ?まだ何か問題でもあるのか?」
「・・・貴公らには直接は関係がないのだが、保護した奴隷の中に身元の分からない者が何人かいてな、中にはまだ物心が付く前の幼い子供もいるらしく、事情を聞いている騎士達も困っているみたいなのだ。他の奴隷達も何も知らないらしく、どうにも調べようがないらしい。私はこれからすぐに帝都の宮殿に書状を書かなければならないから、貴公らに騎士団の手伝いをしてほしいのだが、よろしいか?」
「手伝いですか?」
つまり、身元の分からない奴隷、いや今は元奴隷か?が何者かを知る為の手がかりが欲しいってことか。
だったら、《ステータス》で調べれば何かわかるかもしれないな?
ヒューゴ達だって『皇帝の落胤』と載ってたおかげで父親が誰なのか分かった訳だし、案外簡単に分かるかもな?
「いいぜ?ついでに口の堅そうな騎士とか紹介してくれたら《ステータス》とかボーナスを交換してくるぜ?」
「おお!それはありがたい!ならヘンリクも一緒に行かせよう。ヘンリク、騎士団長の元に彼らを案内し、最も信用できる騎士を数名選別するように伝えろ!」
「畏まりました。」
領主のオッサン大喜びだな。
ちなみに“口の堅そうな”という条件を付けたのは俺の能力を秘密にしてもらうためだ。
ファル村にいる人達はともかく、ヴァールみたいな大きな町で見境なく《エフォートエクスチェンジャー》を使えばすぐ噂になって俺の元にボーナス目当ての人間が山のように集まってくるのは容易に想像できるし、知られる人間は可能な限り少ない方がいい。
騎士ならステラちゃんの所の甲冑1みたいなのではない限りはそれなりに安全な筈だ。
それに、できるだけ多くの人に能力を使えば新機能がまた追加されるかもしれないしな!
「では、私は先に商会の方に戻っていますので。」
「ああ、こっちの用事が済んだらすぐに行くから!」
フライハイトさんは俺達に頭を下げて屋敷を去っていった。
そういえばファイヤー・ドレイクの買い取りをしてもらわないといけないんだった。
こっちの用事が済んだら急いで行かないとな。
「それではシロウ様、ロビン様、騎士団の元にご案内させていただきます。」
そして領主のオッサンは仕事へと戻り、俺とロビンくんは執事さんの案内で騎士団の詰所へと向かった。
さてさて、どんな身元不明者さんが待っているのかな?