第30話 ボーナス屋、事件を知る
ユニーク3万突破!
体調が少しずつ回復してきました。
――港町ヴァール――
ドラゴン軍団を狩りまくった次の日、俺達(俺+ロビンくん)は久しぶりにフライハイト商会に来たぜ!
昨日狩ったファイヤードレイクを秘密裏に買い取って貰うのが一つ目の目的だけど、他にも目的がある。
「ようこそいらっしゃいました!」
ロビンくんの魔法で直接商会の倉庫の前に転移した俺達をト〇ネコ・・・・じゃなくて、フライハイトさんは笑顔で出迎えてくれた。
いや、よく見たら最初に会った時より体系が少し変わってきてないか?
トル〇コっぽい体が少し痩せた様な・・・?
「・・・フライハイトさん、気のせいかも知れませんけど少しやつれてない?」
「ハハハ、やはりわかりますか?シロウ殿が悪魔を退治してくれた日から急に仕事が増えてしまいまして、商会の職員だけでは手が足りず、昨日まで私も町中を走り回っていたんですよ。お蔭でゆっくり食事をする時間もなく、見ての通り少し痩せてしまいました。」
「ああ、確かドゥンケル商会がやっていた仕事も引き継ぐことになってたっけ?」
「ええ、それ以外にもシロウ殿から頂いた“例の種”も早速富を実らせ始めまして、今日も早朝から馬を走らせて遠くの町にも使いを送っているんですよ。」
“例の種”って言うとあれだな!
最初に来た時に渡した、俺が改造しまくった麦とかの種だな。
早速商売に使い始めていたのか。
「まあ、役に立ってくれて何よりだぜ。ボーナスで交換した魔法具も役に立っているのか?」
「それはもう!!遠方の情報もすぐに届くので凄く助かっています!特にこの“通信魔法具”、職員達にも凄く好評で――――――――」
フライハイトさんは右手に携帯電話っぽい魔法具を見せながら色々話してくれた。
4日前、フライハイトさんはボーナス交換で〈通信用魔法具〉を交換していた。
まあ、一言で言うなら「魔法版携帯電話」だ。
20ポイントで1セット2個(初回は固定用か1個付いて合計3個)を、フライハイトさんは4セット交換した。
実は俺も1個貰っていて、今日の事も昨日の内に連絡しておいたのだ!
「―――――――でして、各地の相場の動きもどこよりも早く知る事が出来ています。それもこれもシロウ殿のお蔭です。シロウ殿、我々フライハイト商会一同はこのご恩を後世まで忘れることはないでしょう!」
「いや~~、そこまで喜んでもらえると俺も嬉しいぜ♪それはそうと、今日はドラゴンの買い取りの話で来たんだけど・・・・」
「あ、そうでした!それでは中へどうぞ!」
俺達はフライハイトさんに案内されてとある部屋に案内された。
多分、ここで重要な取引とかしてるんだろうな。
さて、ちょっと立ち話で時間を潰してしまったけどここから本題開始だ!
「では、相談の内容としましては昨日討伐しましたファイヤードレイク13体を騒ぎにならないように秘密裏に買い取って貰いたいという事でいいですね?」
「ええ、ベルクドラゴンと違って、ファイヤードレイクの素材は大陸各国で需要のある高級素材ですから、ギルドで売るとなると確実に面倒な事に発展してしまいます。」
「そうでしょうな。1体だけならまだしも、13体も狩ったとなると我々商人だけでなく、貴族や裏の人間達にも関心を抱かせることになるでしょう。そうなれば、皆さんの秘密がバレてしまうのは避けられないでしょう。」
そこなんだよな~。
俺達が注目されたら、バカ皇子やステラちゃん達の存在が周囲にバレてあくどい事を考えている連中がわんさかファル村に集まったりする可能性があるんだよな。
かと言って、今はまとまった大金がすぐにでも欲しいからどうにかして売りたいんだよな。
というか、早く売らないと腐って新たな問題の火種になるんだよな。
「・・・当商会でも、ファイヤードレイクの素材は何度が扱った事がありますが、これは中々難しい話ですね。私も商人の中でもそれなりに力がある方だと自負してますが、流石にそれほどの数を扱うとなるとある事無い事噂されて要らぬ恨みを買ってしまいそうです。」
「・・・やはり無理でしょうか?」
やっぱ難しいようだな。
日本でも突然手に入った埋蔵金を秘密裏に現金にするのは難しい、というより俺ならまず不可能だな。
「・・・いえ、私も商人です!リスクを恐れて避けてばかりいたらこの世界では生きてはいけません。ここはフライハイト商会の名に懸けて、13体全てを買い取らせて貰いましょう!」
「本当ですか!?」
「ええ、ですが秘密裏に扱うので相場の価格より1~2割ほど安くなりますが、それでよろしいでしょうか?」
「それなんだけどさ、ファイヤードレイク1体分のの相場って幾らぐらいなんだ?」
「普通は部位ごとに売買されるのでハッキリとは言えませんが、軽く見積もっても1億を下ることはないでしょう。個体の大きさや品質によっては2億を超えるかもしれません。」
「マジで!?」
安くても1体で1億!?
ベルクドラゴンの倍以上もするのかよ!?
「じゃあ、早速査定してくれ!!」
「分かりました。それでは後で大倉庫の方で査定させていただきます。」
大倉庫?
さっきいたあの倉庫以外にもまだ倉庫があるのか?
まあいいや、とにかく今は次の話に進めよう。
「――――それで次の話になりますが、先日の連絡の際に頼まれていました例の奴隷商に関する調査ですが、やはり少々厄介な男のようです。」
フライハイトさんの表情は少し険しくなった。
え?何の話かって?
実はフライハイトさんにはこの町で商売をしている奴隷商についてちょっと調べてもらっていたのだ!
知っての通り、俺達が金稼ぎをしているのは今は潰れてしまったドゥンケル商会の不当な借金の果てに奴隷商に売られてしまったヒューゴ達のお母さんや妹達を取り戻すためだ。
帝国の法律では、本来なら違法な借金取り立てで無理矢理奴隷にされた人を解放する決まりになっているらしい。
だが、奴隷という商売の存在するこの世界では悪党どもも法の網を潜り抜けようと悪知恵を働かせているらしく、今回のケースではドゥンケル商会の崩壊と同時に奴隷が解放される事ができなかったのだ。
簡単に説明すると、ドゥンケル商会に無理矢理奴隷にされた証拠が何も無かったってことだ。
人を奴隷として売る場合、奴隷商は必ずその取引内容を書いた証明書を発行するんだが、悪知恵の働くドゥンケルの連中は自分達の名前では売らず、奴隷本人の名義で彼女達を売ったのだ。
これにより、書類上では「奴隷達は借金を返済する為に自分で自分を売り、その金を借金の返済に充てた」ということになっている。本人のサイン付きで。
そのせいで法律が適用されず、ドゥンケル達に自白させようにも、保身に必死な連中はこれ以上の罪状を増やさないために揃って口を閉ざしているってわけだ。
「調査によると、件の奴隷商の背後にはかなりの大物(変態)貴族がいるらしく、定期的に若い女性の奴隷を売りつけています。法を犯した証拠がない以上は領主様も下手に手を出せないらしく、合法的に奴隷達を解放する事はかなり難しいようです。」
「書類上は合法な取引ということになっているそうですからね。」
「奴隷が合法ってこと自体、俺には考えられないんだけどな?」
「国外出身の方はみんなそう思うでしょうね。」
これはヒューゴ達がファル村に来た日の夜に聞いた話だけど、この世界、正確にはダーナ大陸では百年位前から奴隷制度が徐々に無くなってきているらしい。
現在、ステラちゃんの故郷である王国を始めとする国々の大半が奴隷制度を撤廃していて、未だに奴隷という商売が続いているのは帝国といくつかの小国だけらしい。
その帝国内でも奴隷解放の声が年々増加しているにも関わらず、有力貴族の約半数が難色を示したりしているのでなかなか進んでいないようだ。
「ブリッツ殿下は積極的に奴隷解放を訴えているようですが、殿下の裁量でもあと数年の時間がかかるでしょうね。」
「そうですね・・・。」
実兄が関わっているからなのか、ロビンくんの顔は複雑な心情を表していた。
う~ん、何だかまた暗い空気になってきたな。
最初は金で穏便に解決しようかと思ってたけど、フライハイトさんの話を聞く限りだと予想以上に厄介な奴隷商のようだな。
もしかしなくても、値段を倍以上に跳ね上げてきたりするかもしれないな。
これは大金以外にも何か奥の手がいるかもしれないな。
「念の為に聞くけど、金を揃えて行っても値段を上げたりとか、来店拒否とかしてくる可能性はあるのか?」
「それは有り得るでしょう。既に裏で取引を成立させていた場合、他の客の目に止まらないように隠したりすることも考えられます。私どもの調べでは、ここ数日は重労働用の男奴隷が数人だけ売られているようですが・・・」
「やはりそろそろ危ないでしょう。常連客なら事前に押さえる事も可能だったでしょうが、一見の私達にはまず不可能、かと言って、強引な手で動けば目をつけられてしまう。私達の現状では、それは可能な限り避けたい。」
この話、ヒューゴ達には絶対話さない方がいいよな。
あいつらは金があれば全員助けられると信じているのに、その前提が崩れそうになると知ったら剣を持って奴隷商に特攻しかねないからな。
ロビンくんも冷静そうに見えるけど、内心はかなり苛立ってるかもな。
「いっそ、奴隷商も捕まってくれたらいいんだけどな~?やっぱ証拠がないと無理だよな?」
「ええ、逃げ場のない確固たる証拠がないとまず無理でしょう。半端な証拠では逃げられますし、背後にいる貴族の名を盾にして逃げ切る可能性もあります。」
「だよな~、やっぱ金で解決するしかないのか?」
前は都合よく証拠とかが手に入ってドゥンケル商会を叩く事が出来たんだけどな~。
今回も都合よく悪事の証拠とか手に入ればいいんだけど。
または、バックにいる貴族がタイミングよく没落とかしてくれれば・・・
コンコン!
とか考えていると、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「―――――会長!帝都方面より緊急連絡が入っています!!」
「わかった、すぐに行く!すみません。少し席を外させてもらいます。」
「どうぞどうぞ!」
フライハイトさんは部屋を出ると駆け足でどこかへと向かっていった。
俺とロビンくんは出されたお茶を飲みながら5分ほど待っていると、ドタドタと大きな音をたてながらフライハイトさんが戻ってきた。
このパターン、絶対俺達にも関係のある何かがあったな。
「シロウ殿!ロビン殿!」
「どうしたんだ?」
「何かあったんですか?」
フライハイトさんは顔面汗だくで、荒れた息を落ち着かせながら何があったのか話し始めた。
「さ、先ほど、帝都に行っている職員から通信連絡が届きました!それによると、帝都近辺にあるいくつもの離宮が同時に襲撃され、皇族が何人も生死不明になっているそうです!!」
「本当ですか!?」
ロビンくんは声を上げて立ち上がった。
皇族って、ロビンくんやバカ皇子の兄弟も含まれてるんだよな?
それが何人も生死不明!?
「襲撃があったのは5日ほど前の夜明け前だそうです。」「ん?その日って、俺が初めてこの町に来た日だよな?」
「ええ、夜明け前で警備兵の意識に隙が生まれやすい時を少数精鋭で襲撃されたらしく、兵達のほとんどが殺されていたそうです。馬も1頭も残らず殺されたので、陛下の耳に伝わったのはその日の夕方以降と遅れてしまい、しかもその際に一部で情報が漏れてしまい、帝都は今大騒ぎになっています!」
「しかし、ヴァールから帝都までは早馬を乗り継げば2日の距離、伝書鳩なら1日です。現在、軍の拠点にもなっているにもかかわらず、まだ伝わってないようですが・・・。」
言われてみればそうだよな?
この世界での情報の伝達手段は主に馬と鳥、あとは《通信魔法》とは別の魔法を使ったものがあるらしいけど、後者の方は使える人材が少ないから専らお偉いさん中心に利用されているらしい。
まあとにかく、今回のような重大な事件なら、もっと早くこっちにも伝わっているはずだ、ということだ。
「それについては詳細待ちですが、おそらくは戦争中なので民衆の混乱を極力避ける為でしょう。下手に発表すれば他国にも弱味を見せることになりますから。連絡をしてきた職員の話では、この件については帝都内だけにしか流れてないようです。」
「きっと、第二皇子や大臣達がいろいろやっているんでしょう。確か、隣国との同盟を結ぶ会談が近い内にありますから、弱味を見せて不利な条件を突きつけられないようにしているんですよ。」
「おそらくは。来月にはゴリアス国との会議がありますので、不利になる要因は伏せておきたいのでしょう。」
確かに見方によっては大スキャンダルだよな。
犯人が何者なのかは分からないけど、仮に王国とかの他国の人間だったとすると、帝国側は襲撃犯が国内に侵入した事にも気付けず、離宮の警備をしていた(多分、正規軍の)警備兵達も一方的に全滅して王族が行方不明になったとすれば、帝国の力そのものの信用が下がってしまうかもしれないからな。
俺も政治には詳しくないけど、スキャンダルとかあったら交渉とかではかなり不利だよな?
「―――――幸いにもこの事実を知っているのは帝都にいる王族や貴族、一部の商人だけで、民衆の間では曖昧な噂程度しか流れておらず大きな混乱はないようです。連絡をくれた職員も、取引をしている貴族や同業者を通じて知ったようです。」
「その襲撃犯って、王国軍なのか?」
単純に考えたら戦争している相手が犯人ってことになるんだけどな。
試に訊いてみたら、ロビンくんもフライハイトさんもそろって首を横に振った。
「それは多分ありえないでしょう。」
「ええ、確かにフィンジアス王国内部には過激な強硬派が存在しますが、今回の事件はおそらく王国は関係ないでしょう。」
「どうしてだ?」
「まだ詳しい情報が入っていないのでハッキリとは言えませんが、今回の襲撃で生死不明になったと思われている皇族が、政治的にはあまり影響力の無い方々ばかりなのです。」
どういうことだ?
皇族ならみんな影響力が・・・・・・あ!
「狙われたのは妾妃の子供だけで、正妃の子供は全員無事だったってことか?それか、皇位継承順位がスッゴク低い連中ばかりとか?」
「はい。帝国内には離宮がいくつも存在しますが、今回襲撃された帝都近辺の離宮に暮らしているのは全員が序列の低い皇子様と皇女様、そして妾妃様ばかりなのです。もし、現在戦争しているフィンジアス王国が犯人だとすれば、次期皇帝候補とも呼ばれている方々を狙うはずです。」
「でもそう言うのって、全員帝都のお城とかにいるんじゃないのか?」
「確かにそうですが何人かは地方にある離宮に暮らしています。ここから一番近い離宮には第二皇女コルネリア様が滞在していた筈です。民衆からの支持も高く、他国に対する影響力も(第二皇子ほどではないが)あります。王国が狙うとすればこっちのはずです。王国側の国境から遠く離れた帝都に近い離宮を狙うのは、まず考えられません。」
確かにそうだな。
帝都近くまで来ているなら、いっそ帝都を襲撃して(バカ)皇帝を暗殺するなり誘拐するなりしてた方が、リスクは高いがメリットはあるはずだ。
けど、そうなると襲撃犯は何者なんだ?
王国以外の国家か、それとも帝国内のテロリスト、もしかすると――――――
「――――――この件につきましては、新しい情報が入り次第、すぐに連絡いたしまず。」
「わかりました。」
俺が難しそうに考えている間に話は勝手に打ち切られてしまった。
まあ、慌てても俺らがすぐにどうにかできる問題でもないしな。
「それで奴隷商の件ですが、どうやら何とかなりそうです。」
「マジ!?」
「本当ですか!?」
おいおい、さっきまで重い空気だったのが一気に軽くなったな!
「実は帝都からの連絡には離宮襲撃以外の報告もありまして、それによりますと、例の奴隷商に背後にいた貴族が国家反逆罪の容疑で捕まったそうです。」
「「――――――――!?」」
「報告によりますと、帝都北部の領地を治めているパンダー侯爵が他国に帝国の情報や人間を裏で売っていたようです。しかも戦争している王国にも軍事機密などを盗んで売っていたらしく、先日、皇帝陛下が直々に動いて侯爵家を取り押さえたそうです。」
おお!やるじゃないか皇帝!
ただの女好きのオヤジじゃなかったんだな!
それにしてもパンダー侯爵?変な名前だな?
あれ?ロビンくんは何だか浮かない顔をしてるな?
「・・・一応訊きますが、発覚原因というのは・・・?」
「・・・・・・・」
あれ?フライハイトさんも視線を逸らしだしたな?
発覚原因?
あ!それってもしかして・・・!
「え~と、もしかしなくても、その侯爵の奥さんか愛人が皇帝と関係を持ったとかでそこから漏れたとか?」
「・・・・・・はい、その通りです。」
大当たりかよ!!
本当にどんだけ女好きなんだよ!?
俺は心の中で大声で叫びまくったのだった。