第302話 ボーナス屋、婚約する
――ファル村 勇者の家――
「……」
「……」
「……」
「……私と結婚してください」
「いや、何でいきなりその話になるの!?」
『ヘラ大迷宮』から帰ってきた唯花は、暫しの沈黙の後、俺に改めて求婚してきた。
OKしたけど。
「というか、何でアンナちゃんやステラちゃん達まで一緒に行ってるの!?」
「「テヘ♡」」
「誤魔化さないで!」
「……実は、皆に似たようなクエストが出たのよ」
唯花が言うには、こんなクエストがほぼ同時刻皆の前に出たらしい。
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――唯花のクエストより抜粋――
『恋敵と友情を結ぼう!』
・貴方と同じ人を好きになっている女性を互いに認め合い、絆を結ぼう!
・達成条件:恋敵の女性達5人以上と友情を結ぶ。
・達成状況:達成完了
・報酬:神推薦!ハーレム用魔法の婚姻届(SSS級)
『強い女になろう!』
・仲間と共に過去を乗り越え、愛する殿方に相応しい女性になろう!
・達成条件:女性限定パーティを組み、『ヘラ大迷宮』を攻略する。女神ヘラを倒して契約する。
・達成状況:パーティ結成(達成)、大迷宮攻略(達成)、女神ヘラとの契約(達成)
・報酬:空に浮かぶ愛の巣♡&愛する者と同程度の寿命
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報酬が明らかに神が絡んでいそうな物ばかりだ。
「ハーレム専用魔法の婚姻届」って、きっと呪いのアイテムだよね?
村の遺跡で発見してきたアレと同じ類のアイテムだよね?
そして次!
「空に浮かぶ愛の巣♡」と「愛する者との同程度の寿命」は……後者は大体理解できるけど、前者の「愛の巣」って何だ?
――――ピロロ~ン♪
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空を見上げれば分かります。
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俺はすぐさま家の外に飛び出した。
そして空を見上げると……
「何じゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!??」
ファル村上空に、突如空中大陸が出現した。
正確には空中島だったけど。
チートさんに測量してみた結果、それでも総面積は北海道とほぼ同じだった。
水分と大きな「愛の巣」だった。
後にこの空中島はラピュ……じゃなく、『勇者島』として各国の王達の承認を得た独立国となるのだが、それはもう少し後の話だ。
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――帝都タラ ファリアス宮殿――
翌日、俺達は全員帝都に来ていた。
「ゆ……勇者、シロウ=オオバに、ファリアス帝国侯爵位を与える…!」
バカ皇帝は両サイドを妃様達にホールドされながら俺に爵位を与える事を宣言した。
だが、その場に居るほぼ全員がその事よりもバカ皇帝の滑稽な姿に目を奪われて拍手する者は誰もいなかった。
「な……尚、この勇者の爵位は我が娘、ファリアス帝国皇女アンナとの婚姻締結、の際に公爵位に昇爵するものと……イタッ……する!」
この光景を見た人達は漏れなくこう思ったに違いない。
――――チーム皇妃最強!
と。
その後、同席した他の国の王様達も次々に俺に爵位をくれた。
俺が勇者の英雄だからか、どの国も名誉爵位じゃなく伯爵以上の爵位をくれた。
そういえば、俺の世界でも、過去に複数の国で爵位を持っていた偉人がいたっけ?
「――――――では、次に勇者殿の婚約を発表しましょう」
(ええええええええええええ!?)
これには会場は大盛り上がりだった。
誰が召喚したのか、各属性の精霊王の皆さんまで出てきて盛り上がっていた。
『イエ~イ!おめでとうー☆』
「シルフィード!お前が他のも呼んだのか!?』
『エ?ワタシハトオリスガリノセイレイサンデスヨ?』
シルフィードは誤魔化したが全然誤魔化せなかった。
「士郎~おめでとう~~~♪」
バカ龍王も読んでもいないのに居た。
コイツがこんなイベントを見逃すはずがないから当然か。
「―――アンナ様、フィンジアス王国第2王女ステラ様――――」
次々に俺の婚約者の名前があげられていく。
唯花やアンナちゃん、ステラちゃんは勿論のこと、ミリアムちゃんやユリアちゃんの名前も出てくる。
彼女達にも昨夜に「好きです!結婚してください!」と告白され、周りで俺を囲んでいる人達の圧力もあって断ることはできなかった。
だが幸か不幸か、エルナさんには告白されなかったし、他の国も嫁を出してくることはなかった。
これはひとえに、某国のパン屋のハーレム息子のお陰かもしれない。
なんて考えている間に全員の紹介が終わったようだ。
「そして最後に、龍王ヴリトラ様です」
「ハッハッハ!俺がシロウの第一嫁だぜ!」
「なああああああああああああああ!!??」
何故かヴリトラまで俺の婚約者にされていた。
周りを見ると、俺なら当然みたいな空気になっている。
バカ龍王はサムズアップしている。
モーブ国王もサムズアップしている。
お前ら、絶対面白がってるだろ!
――――ピロロ~ン♪
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あの2人、後で絞めましょう。
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俺のチート、明らかにおかしくなってない?
兎に角、こうして俺は8人の婚約者をゲットしたのだった。
〈まだまだ増えるだろ(笑) byスサノオ〉
……まさか、神が因果律か何かを操ってるんじゃないだろうな?
――――ピロロ~ン♪
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やってません。
神々曰く、「天然モノの方が美味しい☆」だそうです。
この神々も絞めることを推奨します。
というより、倒して権能を貰いましょう。
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誰が、天然モノだー!!
俺は何処かで馬鹿笑いしているスサノオ達を何時かブッ飛ばすと誓った。
~~~♪
俺が怒りを燃やしていると、明るい音楽が聞こえてきた。
気付けば、俺――というよりはアンナちゃんの――婚約を祝したダンスパーティが始まっていた。
思ったより長い間1人の世界に入り浸っていたようだ。
「ゆう…シロウ様、私と踊ってくださいませんか?」
「ミリアムちゃん?」
綺麗なドレスを着たミリアムちゃんが頬を紅く染めながら俺に手を差し出してきた。
その手は女神を倒した少女のものとは思えないほど小さく、可愛い手だった。
ミリアムちゃんが……ミリアムちゃん達が俺が好きな気持ちに偽りはない事は俺も理解している。
あの苛酷な『ヘラ大迷宮』を攻略したのはいい証拠だ。
何より、半端な思いであの恐怖の女神を倒せる筈がないことが同じ『神殺し』の俺にはよく分かるからだ。
だから、俺はミリアムちゃん達の気持ちを疑わないし、無下にはしない。
何より、あんなに啖呵を切ってまで俺を思ってくれたことは凄く嬉しい。
「お…私で良ければ」
俺はミリアムちゃんの手を受け取って一緒に踊った。
ちなみに俺のダンスの腕は、社交ダンスで世界大会に出たことがあるらしい養護施設の園長に仕込まれているから足を踏まない程度はある。
ついでにこの世界のダンス知識もゲットしてるからとりあえず大丈夫なはずだ。
「シロウ様、上手です」
「たまたまだよ♪」
ミリアムちゃんは喜んでくれた。
俺はきっと、彼女も唯花達と同じように愛するだろう。
なんて事を考えていた時だった。
「シロウ、私と踊ってくれ!」
「シロウ様、次は私と」
「わ、私とも踊ってくれる……士郎?」
「旦那さま、私とも一曲お願いします」
「し、仕方ないから踊ってあげるんだからね!」
「あのう……私も」
「あ、ああ……」
俺の婚約者達は次々にダンスを要求してきた。
さらにこの後、社交界のお約束なのか各国の貴婦人達からもダンス攻めに遭い、俺は延々と踊らされ続けた。
「ジュリアナタ~イム~♪」
バカ龍王がまたやらかすまで…………
最終的に、パーティがカオスと化したのは言うまでもない。
折角の良い雰囲気が台無しだよ!
あ……!試験勉強!
大迷宮編、取り敢えずこれで終わりです。
次回からは300話突破記念リクエストの番外編となります。




