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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
12の大迷宮編Ⅱ
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第294話 ボーナス屋、今も料理しています(ヘルメス大迷宮3)

――『ヘルメス大迷宮』 第10階層――


 階段を下りた先にあったのは、白い壁に覆われた巨大な空間だけだった。


 先へと進む通路はどこにも無く、それどころか彼らが全員階段を下り終えると同時に階段も消えて無くなっていた。



「これは、まさか罠!?」



 貴族の娘に焦りが生まれる。


 直後、何処からともなく声が聞こえてきた。



〈人間よ、よくぞここまで来たな!我が名はヘルメス!天地を駆け、この世の清も濁も受け入れる十二神の1柱である!〉



 その声は『伝令神ヘルメス』のものだった。



「か、神!偉大なる我らが神よ!!」



 貴族の娘は跪き、何処に居るとも知れないヘルメスに対して祈りを捧げた。



〈勇気ある者よ!これより先へ進みたくば、我が『第一の試練』を乗り越えてみせよ!〉



「ああ!神の御心のままに!!」



 ちなみに、この音声はヘルメスが予め用意しておいた録音なので貴族の娘の祈りは届いていない。


 ヘルメス本人は某悪神と共に今は逃亡中なのだ。



〈現れよ!『第一の試練』の番人、ストーンコッコくん!〉



 部屋の中央に魔方陣が現れ、その中から石でできた大きな鶏が現れた。



『ゴケェェェェェェ!!』



 それは某鶏神をモチーフにしたゴーレムだった。


 能力こそ本物の1割にも満たないが、並の人間には十二分に危険なゴーレムだった。



『ゴケェェェェ!!』


「キャア!!」



 ストーンコッコくんはトサカビームを発射した。


 直撃こそしなかったが、貴族の娘はトサカビームの余波で吹っ飛ばされた。



「ご、ご主人様!!」



 彼は飼い主である彼女に駆け寄った。


 そんな彼を、彼女は叱咤する。



「戦いなさい!!死んでもいいから、あのゴーレムを倒しなさい!これは命令よ!!」


「――――グッ!!は……はい!!」



 「隷属の首輪」が彼の首を絞めつける。


 彼は苦痛に耐えながらストーンコッコくんへ向かった。



「お、お兄ちゃん……」


「怖いよう~」



 彼の弟妹達は怯えていた。


 2人も今まで戦闘訓練を受けていたが、まだ新しい奴隷だったため、恐怖を含めた感情を完全に殺すまでには至っておらず、ストーンコッコくんに対する恐怖で全身が震えていた。



「ぼ、僕が戦うから2人ともここに居るんだ!」



 彼は1人でストーンコッコくんに立向った。


 だが、既に彼の体は疲弊しており、装備している剣も消耗して刃こぼれしていた。



『ゴケェ!!』


「うわあああ!!」


「「お兄ちゃん!!」」


「何してるの!!全員で敵の動きを止めなさい!!」



 ストーンコッコくんの体当たりが彼の小さな体を弾き飛ばす。


 貴族の娘は一番離れた場所から彼らに命令をし、それに反応して彼らの「隷属の首輪」が彼らの首を絞めつけた。



「「ああああああ!!」」


「うっ……!!や、ヤメテください!ご主人様……!!」


『ゴケェェェェェェェェ!!』


「え!」



 ストーンコッコくんは貴族の娘に向かって直進した。


 正義の味方をモデルにしたストーンコッコくんは悪を許さない。


 悪い人を見つけたら最優先で排除するのだ。



『ゴケェェェ!!』


「キャァァァァァァァァァ!!」



 貴族の娘をストーンコッコくんのコッコブレスが襲う。


 ミスリル製の装備がその身を護っていたが、彼女の武器は吹き飛ばされてしまった。


 彼女は魔法も使えたが詠唱に時間がかかるので、事実上彼女は攻撃の手段を失ってしまった。



『ゴケェェェェ!!』


「キャァァァァァァァァ!!」


「御主人様!」



 貴族の娘はストーンコッコくんに集中攻撃されていった。


 コッコブレスにコッコウイング、コッコトルネードと攻められ続け、ついにミスリルの装備が全壊する。


 それを目にした彼は、ボロボロになりながらも彼女を助けようとする。


 散々道具として扱われていたが、彼は飼い主である彼女を見捨てられなかった。



(あの人は、戦いたくないんだ……!)



 彼は知っていた。


 貴族の娘は本当は戦いに不向きな性格であるということを。


 あの地獄のような訓練場で、時折来ては父親や兄の命令で奴隷を殺していた彼女は、陰でこっそり泣きながら嘔吐をしていたということを。


 知っていたからこそ、どんなに酷い扱いをされても憎み切れなかった。



「御主人様から……離れろ!!」


『ゴケ?』



 ボロボロの剣でストーンコッコくんを攻撃する。


 だが、効果は今一つだった。



『ゴケェ~!!』



 ストーンコッコくんは嘴ブレードで貴族の娘に止めを刺そうとした。



「い、イヤアアアアアアアアアアアアアア!!」


「御主人様!!」



 彼は彼女の楯になって刺された。



「「お兄ちゃん!!」」


「……ど、どうして……?」


「………おと…と、妹を……みます……」



 彼は口から血を吐きながら倒れた。


 それを見た貴族の娘は、声にならない声で絶叫を上げた。



















 意識が闇に沈む中、彼は確かにその声を聞いた。



〈条件を達成を確認しました!〉


〈「奴隷」「真意を知る者」「決死の覚悟」「耐え抜く者」「強者に挑む者」…を確認!〉


〈隠し条件「ユニークボスの挑戦者」を確認!〉


〈隠しイベント『覚醒!絶体絶命からの復活!』を開始します!〉



 気付くと周囲の時間が止まっていることに彼は気付いた。


 先程までの死の痛みも和らぎ、意識が少しだけ回復してくる。


 “声”の意味が理解できず混乱しそうにあるが、そんな事などお構いなしに“声”は続いていった。



〈強く輝く魂を持つ者よ!例えその身が人でなくなろうとも、生きることを望むか?〉



(………生きたい)



 一度は死を覚悟したが、それでもやはり「生きたい」と願った。


 それは残していった家族は勿論、彼の為に(・・・・)絶叫した彼女に対する未練、彼女達をストーンコッコくんから助けたいという思いがあるゆえだった。



〈汝を虐げ続けた罪人をも助けたいか?〉



(あの子は……本当は僕と同じ普通の人なんだ……)



 それは偽善ではなく、彼女の本当の顔を知るからこその正直な思いだった。


 それが小さな恋心であることを、彼はまだ知らない。



〈――――汝の覚悟、偽り無きものと確認した!ならば、その覚悟を対価に、汝に新たな命を与えよう!〉



 視界が純白に染まった。


 そして次の瞬間、彼の視界に幾つもの文字列が現れた。


 文字列には、こう書かれていた。



『Let’s 脱人間!

 さあ!少年よ、さっさと人間辞めてヒロインを助けようぜ♪

 次の中からなりたい種族を選べ!さあ早く!!


 1、エルフ(魔法特化・精霊術高適性・高寿命・物理攻撃弱化)

 2、吸血鬼(魔法高適性・闇属性特化・光属性弱化・半不老不死)

 3、獣人(物理特化・五感高上昇・魔法低適性)

 4、ドワーフ(生産特化・腕力高上昇・物理耐性高上昇・魔法低適性)

 5、龍人(色々スゲエぞ?)


 お前が選べるのはこの5つだけだ!

 さあ、さっさと選べ!        byヘルメス  』










 ヘルメス、やりたい放題です。


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