第289話 ボーナス屋、泣きつかれる(デメテル大迷宮1)
――ファル村 酒場――
「勇者殿、どうぞ」
「ああ、ありがとうリーンくん」
俺は酒場でバイト中のリーンくんからジョッキを受け取ると中身を一気に飲んだ。
ちなみに中身はジュースだ。
異世界とはいえ、俺はあくまで日本人なので10代での飲酒は何となく抵抗があるんだ。
銀洸あたりは普通に飲んでるのを見たりするけど。
「フハハハハハハハハハハハハハハ!!もっと酒を持ってこ~~い!!」
「うわ~~~!!この嬢ちゃん、ウワバミだ~~~!!」
「龍王コエエエエエエエエ!!」
「ま、まだだ……!!」
別の席ではヴリトラが酒豪達と飲み比べを始め、沢山の悲鳴が上がってきている。
過去に泥酔して殺された過去があるくせに、意外と酒には強いのかと思って訊いてみたら、過去に盛られた酒は神クラスのキツイ酒だったらしく、人間レベルの酒では早々に酔わないそうだ。
ちなみにこの勝負、負けた方が全額酒代を払うことになっている。
あの酔いつぶれた冒険者達に地獄が待っているのは必然だ。
〈女神が降臨した! byロキ〉
「え?」
思わず声が漏れた。
あの悪神、今度は何をしやがったんだ?
――――ギィ……
直後、酒場の扉が開き、俺やヴリトラにしか感じられない神オーラが漂ってきた。
「――――すみません。勇者くんはいますか?」
「シクシク……勇者さん、助けてくだひゃい……」
入ってきたのは紺髪巨乳美女と、号泣している金髪爆乳美女だった。
前者からは凄い火の力が、後者からは大地の力が伝わってきた。
「……女神、様?」
「はい、神です」
酒場の空気が固まった。
一部を除くほぼ全員の視線がダブル女神様に集まった。
ただし、オッサン達の視線は女神様の胸にだけ集まっていた。
「私は『オリンポス十二神』が1柱、ヘスティアです」
「うぅぅぅ……同じくデメテル」
大物の女神様だった。
しかし、何故ここに?
「ど、どうぞ……」
「ありがとう」
「~~~っ!」
緊張しながらダブル女神様にお茶を出したリーンくんは赤面しながら去って行った。
どうやら女神のおっぱいは刺激が強過ぎだったようだ。
リーンくんだけでなく、酒場にいる男の殆どがダブル女神様のおっぱいに注目して、その男を女性達がゴミ虫を見るような目で見ている。
後で修羅場が待ってるな、あいつら。
「――――で、本日はどんな御用件で?」
「用件があるのは私じゃなくて彼女の方よ。ほら、泣いてないで勇者くんに話しなさい」
「うぅぅぅ……えっぐ…!だいめぇきゅぅをぉ、壊してくだひゃい……!」
「……え?」
背後からヴリトラの笑い声と冒険者『酒豪(Lv37)』の悲鳴が聞こえてくる中、俺はポカンと口を開けたまま固まった。
「あだしぃぃぃぃ!『世紀末オッパイ女神』じゃないんですぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
何それ?
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――『デメテル大迷宮』 第43階層――
「「「HYAHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」
何処までも続く荒野をスキンヘッドやモヒカンを乗せた魔導バイクが走って行く。
ここは『デメテル大迷宮』の中層部、荒れ果てた荒野が何所までも続く階層だ。
移動には馬か魔導バイク、または自動車が必須、次の階層への階段を見つけるのも一苦労な広大なフィールドだ。
「兄貴ィィィィ!向こうにハイオーガを発見ダゼエエエエ!!」
「HYAHHAAAAAAAAAAAAAAA!!消毒TIMEダゼエエエエエエエエエエエエエ!!」
「テメエラアアア!!『出芽照螺罵亞頭』の力を見せてヤレエエエエ!!!!」
「「「HYAHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」」
大迷宮に君臨するチームの1つ、『豊穣神デメテル』に愛を捧げる大迷宮暴走族『出芽照螺罵亞頭』の戦いが始まった。
ウィ~ンという機械音とともに、魔導バイクの変形が始まった。
タイヤから殺傷力抜群の棘やら刃やらが現れ、各フレームが開いて銃火器が出現する。
「「「ファイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」
『『『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??』』』
荒野のど真ん中で、ハイオーガ達の悲鳴が空しく響いた。
『出芽照螺罵亞頭』、その正体はネムス王国所属『金鷲騎士団』の成れの果てであった。
大迷宮の出現から早1カ月以上、この『デメテル大迷宮』に挑んだ者達は、その濃すぎる空気に100%以上染まっていたのだった。
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――ファル村 酒場――
「大迷宮の中で暴走族!?ミスマッチ過ぎるだろ!!」
「そうよね」
ヘスティア様はハーブティを飲みながら俺のツッコみに同意する。
デメテル様はまだ泣いている。
「どうしてそんな事になったん!?」
――――ピロロ~ン♪
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『回答:デメテル大迷宮の変貌の原因』
ロキ&ヘルメスのせいです。
彼のバカ2柱は異世界から魔王や魔族を始めとして訳アリな者達を敵役やNPCの代用品としてこれでもかというくらい誘拐し、『大迷宮』に放り込みました。
そして、ソッチ系に対しての免疫がゼロに等しい現地の挑戦者達は短期間の内に大迷宮の色に染まって行きました。
(……あの2柱、死ねばいいのに。)
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「やっぱりあいつ等か!!」
「うえええええええん!!」
「デメテル……もう泣くのは止めなさい。勇者くんも困ってるわよ?」
「だって姉様~~~!!」
ヘスティア様も大変だな。
というか、2人って姉妹だったのか?
道理でそろってオッパイがデカい訳だな。
「……ゼウスでも呼ぶ?」
「そういえば、ここに居たのよね。あの愚弟……」
「《召喚》!」
『モグモグ……何の用じゃ?』
ここは腐ってもオリンポス十二神のリーダーをと思って召喚したら、そのゼウス(スライム)は紅葉饅頭を食べながらアイドル雑誌を読んでいた。
ヘスティア様の視線が一瞬にしてゴミ虫を見るものに変わった。
「………この、愚弟」
ルビが名前ですらなくなった。
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――『デメテル大迷宮』 第40階層『ルインシティ』――
色々ネジ狂った大迷宮の『デメテル大迷宮』だが、実は一番攻略が進んでいたりもする。
その理由の1つは、士郎である。
士郎はハッキリと覚えていないが、実は既に『デメテル大迷宮』のボーナス交換を完了させていた。
だが、当時の士郎は半分寝惚けてたこともあって、迷宮の中に居た人全員にウッカリボーナスをあげてしまったのだ。(そして他と同様にあとは「全自動決定」にした)
お蔭で中に居る人達は戦う度にレベルアップしていったわけである。
2つ目の理由は迷宮内の住民との接触である。
バカ神2柱によって異世界から大迷宮に放り込まれた人々の中にはこの世界には無い知識や技術を持っており、彼らと接触した探索者達は自身の装備を一新させていった。
他にも異世界の価値観やら文化やらに汚染された事もあるのだが、それは置いておく。
さて、話は変わってここは大迷宮の中層部内にある街「ルインシティ」である。
『デメテル大迷宮』には5階層ごとに街や村といった人が居住している階層がある。
ルインシティもその1つで、現在は大迷宮攻略の最前線の拠点となっている。
「ヘヘヘヘヘ……これが死者の誘惑を無効化させる『暗黒滅殺黒眼鏡』ですぜ。この深淵よりも暗き黒が旦那達を魔王軍から守ってくれますぜえ」
「ヒュ~♪コイツはCOOLダゼ!!」
表通りでは怪しげな店が立ち並び、探索者達は異文化全開のアイテムを買い求めていた。
ちなみにこの客の男、王国軍の将軍である。
「Hey!注文しておいた光線剣は出来たかい?」
「うっす!これが兄貴から預かった素材で作った『暗出津土処雨怒苦』っす!これでゾンビソルジャーも瞬殺っす!」
「防具は?」
「うっす!鬼牛巨人の皮で作った『漢之嗜洲右尽』っす!」
こんな取引が至る場所で行われていた。
ちなみ、この店の客は、元々はデメテル大神殿の神官である。
全身に入れ墨が刻まれた姿に、最早聖職者の面影は無かった。
さて、他の店も見てみよう。
「――――例の物は?」
「手筈通りに。これが連射式魔導超電磁砲の試作型四号『雷神怒涛』です。代金は何時ものとおりで」
「フフフフ、相変わらず良い仕事ぶりね?」
「勿体無い御言葉です」
「ウフフフフ……。雷神怒涛ちゃん、今日から貴方が私の愛銃よ♡沢山の敵を浄化しましょうねぇ~♡」
簡潔にまとめよう。
客の女性は大神殿からやってきた聖女である。
普段は血を見るのも苦手な花を愛する少女が、今や破壊の魔女と化していた。
「巨乳愛好者達よ!我等はついに49階層への入口に至った!明日はいよいよ49階層で待ち受ける魔王軍の幹部との決戦である!憎き敵将を倒し、親愛なるデメテル様を……世界の宝であるあのおっぱいを救うのだ!天地を救う神聖爆乳を!!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
「我らは死守しなければならない!あの神秘の谷間を!神の雫の源泉を!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
「我らは魔王に負けない!!このセイキマツ最強のおっぱいに誓って!!」
「「「おっぱい!!おっぱい!!おっぱい!!おっぱい!!」」」
「この身を犠牲にしてでも、魔王軍にデメテル様のおっぱいを吸わせるな!おっぱいの敵に死を!!」
「終焉を!!」
「抹殺!!」
「制裁!!」
「裁きの鉄槌を!!」
「絶望を!!」
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大迷宮の中では怪しげな団体が誕生していた。
胸囲が神話級である豊饒神を崇め、その聖域を死守し、可能ならば吸う事をモットーとする一団である。
そして彼らの代表、デメテルのおっぱいを熱く語る男の名はメネラオス、ネムス王国の現国王である。
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――ファル村 酒場――
「国王、ダメじゃん!」
「……彼らが崇めているのは豊穣の女神デメテルじゃなく、デメテルのバストなのよ。豊穣神じゃなくて豊穣神の乳房を崇めているのよ」
「びええええええええええええええええええええええええええん!!」
「お蔭で妹は壊れちゃったわ。女神としての誇りもイメージも壊されてね」
〈デメテルは乳神になった! byロキ〉
「……主にコイツラのせいで」
『ぐあっ!!死ぬ!!儂、死ぬ……!!』
ヘスティア様はゼウスを握り締めながらドスの利いた声を漏らした。
うわあ、ゼウスから変な汁が漏れ出している。
「いや、それゼウス!ヘルメスじゃないから!」
「代用よ。それに、そもそものルーツですし」
ゼウスは実姉の手の中で生死をさまよっている。
さて、どうするか……?