第288話 ボーナス屋、終始出番なし(アフロディーテ大迷宮2)
――アフロディーテ大迷宮 第4階層――
『私、乱暴な妖精は嫌いです!』
『私だって!精霊パワーで豊胸している精霊は嫌いよ!』
『これは天然モノです!』
「まあまあ、2人とも落ち着いて……」
レノスは困り果てていた。
自分の前を飛ぶ妖精と精霊が凄く険悪な雰囲気だからだ。
あの後、似たようなやり取りを数セット繰り返してルミナを外に出したレノスは助けてくれたお礼だと言われてルミナを仲間に加えて先を進んだ。
だが、自分の絶壁にコンプレックスを抱いているピカはルミナと衝突してばかりだった。
『『『ジュルル~!!』』』
そこに薔薇の魔獣の群が現れた。
4階層以降は魔獣が群で出現するようになるのだ。
『『邪魔よ(です)!』』
『『『ジュ―――――』』』
魔獣は全滅した。
妖精と精霊のケンカに水を差した罰として瞬殺された。
「……僕、何もしてない」
何もしないで先に進める状況に、レノスは複雑な思いだった。
こうして難無く4階層も突破した。
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――アフロディーテ大迷宮 第9階層――
あっという間に9階層までやってきた。
妖精&精霊のケンカのお蔭で。
『『……ゴメンなさい』』
「いいよ。ケンカさえ止めてくれれば……」
ピカとルミナはDOGEZAしていた。
ケンカが長引いたせいで、レノスを実力に見合わない階層まで連れてきてしまったことを謝っているの
だ。
そして、迷子になってしまったことも誤っているのだ。
ここは霧に包まれた森の中、下手に動けば確実に迷ってしまう世界だった。
『ガルルルル……』
『また狩狼よ!』
「くそ!」
視界を封じられた状況下での奇襲はレノスにとって脅威だった。
ここまではピカとルミナが魔獣を全部相手にしてきたが、ここの霧は彼女達の感知能力も若干阻害するらしく、全部を相手するのは難しかった。
よって、この階層ではレノスも戦闘に参加することになる。
だが、今の実力に見合わない敵にレノスは苦戦を強いられていた。
『レノスって、何で魔法は使わないの?』
「うっ………さ、才能が微塵も無いって……」
『『え!?』』
「え?」
『才能が微塵も無いって……あるよね?』
『ええ、一目見た時から使える人だと分かりましたわ。それも、普通よりも才能があるようにも見えました』
『だよね!だよね!』
「???」
訳が分からないという顔をするレノスだが、ピカもルミナも確信がある顔で「才能がある!」と断言した。
そして論より証拠と、レノスに魔法を使わせようとした時だった。
『グルルルゥ~!!』
「『『!!』』」
真上から熱気を纏った鳥が襲いかかってきた。
『妖精バリア!』
『《ライトシールド》!!』
『グルッ!?』
ピカとルミナが咄嗟に出したバリアに鳥が正面から激突する、
霧が濃くてハッキリとした姿は見えないが、その鳥は随分と美しい羽を持った赤い鳥だった。
そしてその鳥は、強い魔力を放っていた。
『あれ?神鳥モドキじゃない?』
『そうですね。レッサーガルーダという魔獣のようです』
「レッサーガルーダ?それって強いの?」
『余裕でAランクよ!』
「凄く強いよ!!何でココに出てくるの!?」
レノスが慌てるのも無理は無かった。
レッサーガルーダはこの大迷宮に出現する魔獣だが、その出現階層はココよりも遥か下、48階層の筈だった。
そんな魔獣が何故ココに?
その理由はすぐに判明する。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「うわああああああああああああああ!!」
「イヤアアアアアアアアアアアアアア!!まだ追って来るわ~~!!」
「お前らが調子に乗って下に下りるからこうなったんだ!!何が、「面倒なのは他のパーティに押し付ければいい!」だ!あの化け物ども、ずっと俺達を追いかけてくるじゃねえか!!」
「お、俺のだけのせいじゃないだろ!!金に目がくらんだお前がドンドン先へ進むからだろが!お蔭で高い金払って勝った奴隷共が殆ど死んじまったじゃねえか!!大損だよ!!」
「もうイヤ!!奴隷がいないと何もできないSランクと組むんじゃなかった!!」
レノス達の横を別の冒険者パーティが全速力で走って行く。
その後をドラゴンや大型の狼等の群が追いかけていく。
どうやら、汚い手を使って中層部まで下りたはいいが、強すぎる魔獣の群に見つかってしまい、この上層までトレインしてきたようである。
「『『……』』」
3人は黙ってその光景を見ていた。
その間にもレッサーガルーダは体勢を直し、再度襲い掛かってくる。
『妖精キック!』
『グルッ!』
『あ~れ~』
「ピカ~~~!!」
ピカは翼の一振りで何処かへ飛ばされていった。
だが、ピカはすぐに戻ってきた。
『復活!妖精ビーム!』
ピカはビームを放った。
『グルッ!』
だが避けられた。
『妖精ファイヤー!』
ピカは火炎放射を放った。
『グルゥ~!!』
だが、レッサーガルーダの《灼熱の息吹》に負けてしまった。
『水~!!』
「『…………』」
レノスとルミナは可愛そうなものを見る目でピカを見ていた。
『……燃え尽きたわ』
ピカはダウンした。
そしてレッサーガルーダはレノスに襲い掛かってきた。
レノスは剣で応戦するが、空を飛べる相手には掠りもしなかった。
『グルゥ~!!』
レッサーガルーダは《灼熱の息吹》で攻撃してきた。
それをルミナがバリアで防ぐが、代わりに周囲の霧が消し飛んで森が炎上した。
「火事!!どうする、ルミナ!?」
『困りましたわ。私は光を出すことは出来ますが、水は出せません』
「光の精霊だからね」
『ですが、レノスなら出来る筈です!水属性ですから!そして、今の貴方ならあのレッサーガルーダも倒せる気がします!私の気のせいかも知れませんが、それだけの力を持っている気がします!』
「だから僕は……それに相手はSランクだし、空を飛べるんだ!攻撃が当たらないのに倒せる訳がない!無理だ!」
ルミナは精霊の感覚からレノスには力があるのを確信しているが、その彼は自分の力など信じられなかった。
家族の中で唯一魔法の才能が無く、剣の才能も至って普通、そんな自分がSランクの魔獣に勝てるとは
思えなかった。
『……空を飛べれば、私の言葉を信じて貰えますか?』
「え?」
『これはちょっと荒業ですが、仕方ありません!《強制実行》!《知識転写》!』
「う、うわああああああ!!」
レノスの体が光りだした。
同時に、レノスの頭の中に沢山の知識が流れ込んでくる。
『…………え?』
レノスは妖精に変身した。
ピカやルミナと変わらない大きさの体に背中から生える2対の羽、どうみても妖精の姿だった。
『やっぱり!私の思ったとおり、レノスは変身系の能力を持ってました!これで空を自由に飛べますよ!』
『ぼ、僕が妖精に変身した…!?それに何だか力も湧いてくる。魔法が使える気がする!?』
『私の知識の一部も送りました。これですぐにでも魔法が使えるはずです。これでもまだ、無理と仰りますか?だとしたら、男としてカッコ悪いですよ?』
『うっ!』
そこまで言われるとレノスも反論が出来なかった。
レノスも男だ。
自分の力を自覚しておきながら女の子にカッコ悪いところを見られたくは無かった。
震える拳を抑え、レノスは飛んだ。
『グル!?』
『うぉ、《ウォーター・レイ》!!』
レノスは拙いながらも水魔法を使っていく。
対するレッサーガルーダも炎で応戦してくる。
パワーではやはりレッサーガルーダの方が上だが、属性の相性もあるのかレノスには炎攻撃はそれほど効果は無かった。
このままでは埒が明かないと、レノスはルミナから与えられた知識の中から広範囲を攻撃する魔法を選択して放った。
『《水聖大豪雨》!!』
直後、バケツを引っ繰り返した…よりも激しい豪雨が森に降り注いだ。
炎上していた森もあっという間に鎮火し、それどころかバキボキと音を鳴らし始めた。
『ルルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?』
レッサーガルーダは真っ逆様に落ちていった。
『ええええええ!?』
予想以上の威力にレノスは驚愕する。
レノスの魔法は与えられた知識よりも威力が段違いだった。
数分後には階層全体が浸水…どころか水没し、沢山の魔獣が水に流されていった。
『ハァハァ、溺死しかけちゃったわ!』
ピカも流されかけていた。
そして更に数分が経ち、森は完全に水没してしまった。
『グルゥ!ルルルゥッ……!』
そんな中、レッサーガルーダが水面に浮かんできた。
流石はAランクの魔獣と言うべきか、数分間水中で溺れていたにも拘らずまだ生きていた。
だが、かなり弱っているようだった。
『今よレノス!妖精ファイナルアタックよ!』
『普通に剣で止めで良くない?』
隣でピカが意味不明なジェスチャーをする中、レノスはレッサーガルーダに止めを刺した。
『グェェェェェェェェ!!』
断末魔の後、レッサーガルーダは絶命した。
そしてレッサーガルーダの亡骸がポンと消え、赤い魔石と「ガルーダの羽毛」、「ガルーダの肉」がドロップアイテムとして残った。
3人はアイテムが水に流されないよう素早く回収し、霧が晴れている内に8階層へと繋がる階段がある小高い丘へと戻った。
「ふう……死ぬかと思った」
『皆何時かは死ぬわよ♪』
丘に到着すると同時にレノスの変身が解けた。
緊張の糸が切れたのか、レノスはその場に大の字に倒れた。
そしてそのまま寝てしまった。
『あ、寝ちゃった!』
『今日は私達に振り回されてばかりでしたからね。このまま休ませてあげましょう』
『ん~。でも、私の気のせいじゃなければ、レノスっちはこの短時間でかなり強くなっている気がするんだけど。どう思う?』
『そうですね。ちょっと、光の精霊に伝わる秘伝魔法で調べてみましょう』
周囲を結界で囲んで守りつつ、ルミナはレノスに秘伝の魔法をかけて彼の強さを調べた。
そして数秒後、彼女は目を丸くする。
その理由を分かり易く説明する為、彼のステータスを記す。
【名前】レノス=A=G=ウェヌス
【年齢】14 【種族】人間
【職業】皇子(Lv49) 剣士(Lv45) 冒険者(Lv50) 【クラス】魔獣大量虐殺皇子 New!
【属性】メイン:水 氷 サブ:風 土 雷 光
【魔力】1,04,590/1,530,000
【状態】疲労(小) 頭痛(微)
【能力】攻撃魔法(Lv3) New! 防御魔法(Lv2) New! 補助魔法(Lv2) New! 特殊魔法(Lv3) New! 精霊術(Lv4) New! 剣術(Lv4) New! 体術(Lv1) 弓術(Lv1) 盾術(Lv1) 種の転換
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv2) New! 精神耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv2) 火属性耐性(Lv2) 火傷耐性(Lv1) 凍傷耐性(Lv1) 奇縁(女性限定) 天然孤独者 見守られる者 歩く天災 New! 大量虐殺者(魔獣) New! 竜殺し New! 海神プロテウスの加護 職業補正 New! 職業レベル補正 New!
【BP】4(*全自動決定:ON)
めちゃくちゃレベルが上昇していた。
理由は簡単、この階層にいるほぼ全ての魔獣がレノスの水魔法で溺死したからである。
トレインで中層からやってきた魔獣達もまとめて溺死したので一気にレベルが上がり、ついでに補正も追加された。
『《竜殺し》って……』
調べたルミナは唖然とするのだった。
ちなみに、ルミナの現在の最高レベルは『守り人(Lv19)』で魔力は43万である。
『彼、未来の英雄なのでしょうか?』
『カモン!レノスには指一本触れさせないわよ!』
疑問を抱くルミナの傍らで、ピカは何故かシャドーボクシングをしていた。
ちなみにこのすぐ後、主に見捨てられて洪水に巻き込まれた奴隷ダークエルフが流れ着くのだが、それはまた別の機会に。
一方、レノスをストーカーしていた一味は……
『ギャッ!?』
「父様、矢が当たった~!」
「おお!次男がドラゴンを倒したぞ!」
「流石です!皇子!」
「カッコいいです!皇子!」
「……ところで、我々は何時になったら地上に下りられるんですか?」
「「「さあ?」」」
大木の上で水が引くのを待っていた。
その間、流れてくる魔獣を倒しまくって暇を潰していたが、何故か流れてくるのは中層の魔獣ばかりだったのでレベルがドンドン上がっていった。
レノスの弟は『弓士』のレベルがカンストしたりする。
――――続く?