第287話 ボーナス屋、引っ張られる(アフロディーテ大迷宮1)
――ファリアス帝国 ファル村――
「ロリ龍王キタ~~~♪」
ファル村に帰って早々、呼んでもいないのに銀洸がやってきて騒ぎ出した。
ロリ龍王とは言うまでもなく俺の隣から離れないヴリトラのことだ。
「ゲッ!“銀”……!」
ヴリトラは銀洸を見て物凄く嫌そうな顔をした。
聞けば、ヴリトラは銀洸の爺さんと色々因縁があるそうだ。
ヴリトラの背後に暗黒の炎が見える。
「士郎~、ロリもイケる口なの~?」
「金剛杵の錆にするぞ!」
「ヴァジュラは金属じゃないから錆びないよ~♪」
「じゃあ、魔釜に入れる!」
「バイバ~イ!」
銀洸は脱兎の如く去って行った。
今日は二度と来ないでほしい。
「あのバカ氏族!一家三代続けて俺を苛立たせるか!」
ヴリトラは鼻から炎を吹きだしながらまだ怒ってた。
きっと、過去に銀洸の親や爺さんに嫌がらせを受けていたんだろうな。
何があったのかは空気を読んで訊かない事にしよう。
「さて、折角の自由の身だ!契約者、出会いを祝して酒を飲むぞ!」
「おい、引っ張るなよ!」
「ハッハッハ!今夜は美味い酒が飲めそうだな!」
「いや、まだ日が昇ってるって!」
「些細な事だ!」
俺はヴリトラに引っ張られて酒場に直行となった。
余談だがこのすぐ後、酒場でヴリトラが酔った冒険者のオッサン達に子ども扱いされてブチキレる騒動が発生することになる。
まあ、誰もこの姿を見て自分より年上だとは思わないよな~。
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――ウェヌス帝国 『アフロディーテ大迷宮』――
深夜の大迷宮を、ウェヌス帝国第一皇子レノスはトボトボと出口を目指して歩いていた。
1人ボッチで。
「うぅぅ……」
皇子は泣いていた。
今日も大した成果を上げられなかったからだ。
彼がこの大迷宮に来てから早5日、彼は1人ボッチで外の街と大迷宮の1~3階層を往復する日々を繰り返していた。
1日の探索で入る収入は決して多いとは言えず、宿代や食費、薬代等ですぐ無くなる程度だった。
他の大迷宮だったらもう少しまともな収入があったかもしれないが、この『アフロディーテ大迷宮』は
そうはいかなない。
『アフロディーテ大迷宮』――――ここは他の大迷宮と同様に全100階層の構造になっているが、同時に独自の特徴も持っている。
その1つが、最下層を除く99階層は3階層ごとに難易度が変化し、得られる物も3階層ごとに上昇していくというものだった。
最上層である1~3階層は極めて難易度が低く、駆け出しの冒険者でも余程の事が無い限りは死ぬ事も無い安全な場所ではあるが、代わりに探索で得られる収入は最も低い。
それこそ、運が悪ければ街での日雇い仕事よりも少ない程に。
だが、次の4階層からは収入がグッと上がり、最低でも最上層の2倍近い収入が得られる。
にも拘らず、皇子はまだ4階層に踏み込めずにいた。
「……やっぱり、1人じゃ3階層までが限界だよな」
何故なら、彼はボッチ冒険者だったからである。
母親である女皇に強制的に旅に出されて約1ヶ月弱、彼は未だに仲間を1人も作れていなかった。
元々、彼には友達と呼べる者がいなかった。
国内の貴族子弟達とも体裁だけで付き合いしかした事が無く、どうすれば友や仲間が作れるのか知らなかった。
どうにか頑張ってギルドで登録はしたものの、帝城とは別の意味で濃い人達の中でパーティを組んだりすることは出来ず、また明らかに駆け出しにしか見えなかったこともあり、他の冒険者からも誘われる事は無かった。
詐欺には何度か遭ったが。
そして1人でも出来る薬草採取等を熟しながら旅を続け、この大迷宮にやってきた。
そしてやはり、ここでもボッチだった。
一攫千金を狙ってくる者が多い冒険者も1人で4階層に行けないレノスを仲間に引き込もうとは思わないようで、彼が勇気を振り絞って「仲間にしてください」と頼んでも全部断られていた。
「はあ、やっと外だ。宿に帰って寝よ」
レノスはギルドには寄らず、真っ直ぐ宿へと戻った。
そしてその彼を、物陰からコッソリ追いかける者達がいた。
「頑張れ長男!」
「皇子!明日こそいい出会いがありますぞ!」
「私達が応援しています!」
「Zzzz……」
家族+αはまだレノスを追っていた。
ちなみに彼ら、必要な金を稼ぐ為に既に(主に+αが)8階層まで進んでいたりする。
そしてまた1夜が明け、レノスは宿で朝食をとってすぐにギルドへ向かい、そこで昨日手に入った魔石(小粒)やドロップアイテム(薬草)を売却した。
そして何時もの様に仲間探しを始める、が!
「ガキはお断りだ!」
「最低でもEランクは無いとダメだ!」
「男子禁制よ!」
「足手纏いは要らん!」
あっさり断られた。
最近GからFランクに昇格したばかりのレノスを歓迎するパーティは今日もおらず、彼は今日も項垂れながら大迷宮へと向かった。
一方、その様子を陰から見守っていた者達は……
「――――奴らの顔は覚えてか?」
「はい。ブラックリストに記録しました」
「奴らがちょっとでも何かしたら始末するんだ」
「「ハッ!!」」
その後、レノスを乱暴に突き放した一部の冒険者達は二度と彼の前に現れる事は無かった。
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――アフロディーテ大迷宮 第1階層――
第1階層は迷路庭園だった。
鮮やかな花の咲く草木の壁に囲まれた道をレノスは迷わずに進んでいく。
『アフロディーテ大迷宮』は全体が円錐状に近い構造をしており、下に進むほど階層の面積が広くなっていく。
第1階層も体育館程度の広さしかなく、慣れた者なら5分もかからずに通過できる。
「せいっ!」
『グエッ!』
また、出現する魔獣も凄く弱いのでレノスでも難なく倒せた。
そして次の階層へ続く階段が見えた時、レノスの耳に小さな声が聞こえてきた。
『お腹すいた~』
「誰だ!?」
声のする方を向くと、壁に咲いた一輪の花の上に羽の生えた小人が倒れていた。
『喉も渇いた~お腹すいた~』
「……」
どう見ても危なさそうに見えなかったので、試しに持っていた果物をそ~と近づけてみた。
『食べ物!!』
羽の生えた小人が釣れた。
小人は自分の体積よりも大きい果物を1分もかけずに食べ終えると、満面の笑みを浮かべながらレノスにお礼を言った。
『生き返った~!マジでありがと~ね~!いや~、アルヴヘイムを抜け出してきたら道に迷っちゃってね~!気が付いたら知らない場所で餓死しかけちゃったの~!サンキュ~ベリマッチ♪』
「???」
『あ、名前言ってなかったね!私は正義と調和と萌えを司るアルヴヘイムのアイドル妖精!ピカ!よろしくね♪』
「ぼ、僕はレノス……」
小人は妖精だった。
生き倒れていた処を助けてもらった彼女は、その場のノリでレノスの仲間に入った。
祝!ボッチ卒業の瞬間である。
『ええ~!ここって、あのアフロディーテの縄張りだったの~!?うわ~!私って人生詰んだかも~!』
「アフロディーテ様を知ってるのか?」
『超知ってるわよ!あの女、オリンポスの気○い女神のツートップの1柱よ!おっぱいは神話級で、無いに等しい私に分けてほしいほどだけど、本性はバトルマニアの流血女神よ!SMプレイの元祖よ!常時攻めよ!イシュタルと混同されちゃうほどヤバいんだから!あ、今のは秘密!私が言ったってのは永遠の秘密よ?』
「……」
レノスは言葉が出なかった。
『疑ってる?嘘じゃないわよ!本当にバトルマニアだからアレスとラブラブになったんだから!まあ、アレスの下の剣が凄いのも気に入った理由みたいだけどね♪ちなみに、新婚旅行は世界の戦場巡りだったんだって!元・旦那のヘファイストスもドン引きね!』
(……知りたくなかった)
レノスの信仰心に亀裂が入った。
妖精の口から語られる神の真実に、レノスのハートは大打撃を受けていた。
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――アフロディーテ大迷宮 第3階層――
気付けば3階層まで来ていた。
『弾けろ!私のジェラシー!』
『ブヒ~!?』
メスの豚が消し飛んだ。
後に残ったのは、豚の皮だけだった。
『豚なのに私より大きいって!?』
「……元気出しなよ」
『うえ~ん!レノス~!』
ピカはレノスの胸で泣いた。
そしてその後も魔獣を倒しまくった。
『アフロディーテ大迷宮』の特徴その2、雌の魔獣は何故か胸が大きい。
『鳥に胸って何~!?』
『クルック~!?』
「あれ、ただの鳩胸じゃないかな?」
『乳首のある鳩胸なんて聞いた事ないわよ~!』
ピカは自分の絶壁に劣等感を抱いていた。
ちなみに、妖精族の女性の9割5分はB以下である。
『さあ!気を取り直して次行くわよ♪』
「待ってって!バックがもう一杯……!」
『そんな時は私の妖精魔法!ホイ!これで容量の心配はナッシングよ♪』
「うわ!軽くなった!?」
ピカの嫉妬が暴走したお陰で満杯になっていたレノスのバックだが、彼女の魔法で超進化した。
ついでに武器も「鉄の剣」から「真・鉄の剣」に進化した。
『さあ!次は4階層ね!』
「え!まだ心の準備が!」
『レッツゴ~!』
「うわ~~~!!」
ピカに背中を押され、レノスは4階層へと下りていった。
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――アフロディーテ大迷宮 第4階層――
第4階層は竹林だった。
竹の香りに包まれた迷路で、レノスはまた不思議なモノを発見する。
「ん?ここ、光ってる?」
『ムム!この魔力は……!?』
レノスは光り輝く竹を発見した。
ピカも竹の中から魔力を感知する。
『妖精チョップ!』
そして竹を割った。
すると、中から光に包まれた小さな女の子が出てきた。
『助けてくれてありがとう!私は光の精霊ルミナといいます!』
出てきたのは精霊の女の子だった。
しかも金髪巨乳。
『さようなら!』
『え!?』
「え!?」
ピカは素早く竹を閉じて元通りに戻した。
さらば、光の金髪巨乳精霊。
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一方……
「見ろ次男!お兄ちゃんに仲間が出来たぞ!」
「頑張れ~!」
「私も小さい女の子欲しいです!勿論巨乳で!」
「自分は絶壁でも大丈夫!」
ストーカー達は盛り上がっていた。