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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
番外編Ⅷ
296/465

第286話 Legend Of Ron 第四章 後編

――ダーナ神暦1435年夏 フィンジアス王国某所――


 ロン達は走っていた。


 人里から遠く離れた山奥で走っていた。


 背中に()を背負って延々と走り続けていた。



「ハァ、ハァ、ハァ……!!」


「し、死んじゃうよ~~~!!」


「何で私は2本なのよ!?」


「おええええええ!!」


「うええええええええええ……!シャルル様、大丈夫ですか……おええええ!」


「ハァハァ……お前の方こそ大丈夫か?」


「ハァハァ……!レオ様!私のレオ様への思いに比べれば軽いです!」


「なら、全員1本追加だ」


「「「フィオーレ!!」」」



 ロン達は更に()を1本追加されて山を走らされ続けていた。


 ちなみに、ここは海抜約3000m、日本で言えば南アルプスの聖岳の標高と同じ高さの場所である。


 良い子は決して真似しないようにしよう!



「―――――何だ?もうへばったのか」



 数時間後、ロン達は屍同然の姿で地に伏していた。


 最早生きているのかすら怪しいほど消耗しきった彼らに、その男は懐から謎の液体が入ったフラスコを取り出し、中身をぶっかけた。



「「「ぶはあっ!?」」」


「復活したな。じゃあ、もう1回走ってこい!ついでに夕飯の獲物も採ってこい!」


「「「悪魔!!」」」


「違う。大魔王(・・・)だ」



 その男――――ラートン=B=スプロットは自ら『大魔王』と告げると、ロン達を再度走らせた。


 ロン達がこの山に来て早半月、彼らは大魔王に扱かれまくっていた。


 毎日早朝から修業、修業、炊事、食事、洗濯、修業+掃除、修業、修業、修業、狩猟、炊事、食事、修業、修業、修業、修業、修業……………修業+狩猟、炊事、食事、修業、雑用、雑用、雑用、風呂、修業、就寝の日々を繰り返していた。


 逃げ出そうとしても山全体が創造神クラスの結界で覆われて脱出不可能だった。


 どうして彼らはこのような目に遭っているのか?


 それは半月前のヴァーグ国首都マクリルにまで遡る。







--------------------------


――半月前 ヴァーグ国 首都『マクリル』――


「………………は?」



 ロンは間の抜けた声を漏らした。


 隣では彼に手を掴まれたメイドが口を開けたまま立ち尽くしていた。


 無理もない。


 目の前であんな事があれば、普通の人は大抵そうなるのだから。



「ちっとは綺麗になったな」



 大魔王は軽く呟いた。


 そう、マクリルは綺麗になった。


 それはもう、跡形もなく綺麗サッパリとした更地に………



「「「…………」」」



 ロン達は改めて絶句した。


 あれだけ居た魔獣達の姿がどこにも見当たらない。


 影魔(シャドー)も、ウインドドレイクも、サハギンも、ジャイアントトロールも、シーヒュドラ・ロードも、あの醜悪な『何か』さえも消えていた。


 海の方にも魔獣の姿は1つも見当たらない。


 一瞬、本当に一瞬で(色々と)終わってしまった。



「………マジ?」



 マジだった。


 大魔王は剣のたった一振りで終わらせたのだ。



「―――ったく、他人のシマにくだらない神モドキ(ゴミ)を捨てやがって。あの万年おしゃぶり蛇、蒲焼きにでもするか。それとも自家発電機にするか……」



 一方、大魔王は周りの耳など微塵も気にしないで独り言を呟いていた。


 時折「クトゥルフを~」とか、「神も大量生産大量消費の時代か」と漏らしていたが聞いているロンには理解出来なかった。


 そしてロンがシャルル達と合流すると同時に大魔王の視線は彼らに向いた。


 ちなみに、彼らは大魔王からは逃げられない。



「……コイツらでいいか」


「「「え?」」」


「お前ら、強くなりたいんだろ。なら、(有料値引き無しで)俺が直々に(趣味も兼ねて)鍛えてやろう。今なら睡眠時間と風呂も付けてやる。ああ、トイレと寝床は男女別にしてやろう。感謝しろ」


「え?な……」


「じゃあ、行くか。大抵は死人が出る生き地獄に」



 ロン達の足元が光りだした。



「何だ!?」



 ロンは反射的にその場から飛び退こうとした。


 だが、大魔王からは逃げられない。



「シャルル!逃げて!」



 エルヴィスはシャルルだけでも謎の光から逃がそうとする。


 だが、大魔王からは何人も逃げられない。



「このオッサン、頭がおかし……ギャン!!」



 アランはこの世界における「大魔王の鉄拳の犠牲者」、最年少記録を達成した。



「え!?え!?」



 メイドと彼女が抱える少女は訳も分からず混乱していた。


 今回の一番の被害者は間違いなく彼女達だろう。


 だが、大魔王はそんなことは気にしない。


 そして、彼らはマクリルから強制的に姿を消したのだった。


 そしてマクリルはそのまま放置された。


 当時の国王達が唖然としたのは語るまでもない。







--------------------------


――現在――


 そして話は今に戻る。


 ロン達は強制的に「地獄と呼ぶのすら憚れる修業」の日々を過ごしていた。


 始めこそ全員猛反発したが、「お前ら雑魚だろ?」「弱者に反論する権利は無い」「というか、最初からない」「そこの聖剣共、何逃げようとしてるんだ?」「力が欲しいだろ?」「今のままじゃ全員死ぬぞ」「(有料で)知りたい事を(気が向いたら)教えてやってもいい」「ウゼエの、大陸ごと消すか」「そもそも、断る理由があるのか?ラッキーだろ」などと言われ、最終的には頭を前に振らされる事となった。


 他にも沢山の事を言われたが、それはあまりにも過激すぎたので省略する。



「「「…………」」」→魂が抜けかけてます


「あのう……生きてますか?死んで、ないですよね?」


「「「…………」」」→さらに抜けかけています


「エ、エリクサ~~~!!」


「ほら、また借金追加だぞ」



 ロン達はメイドさんに万能薬(エリクサー)をかけてもらって復活した。


 ただし、借金が2000万D追加されてしまった。


 彼らは1回死にかけるごとにエリクサーを使ってもらい、代わりに借金を増やされていた。


 最初の6日間は1日に3回、それ以降は2回にまで減っているが彼らの借金は物凄い勢いで膨れ上がっている。


 只でさえ、修業も風呂や食事付きで1人1日100万D、そこにさらに別料金が加わって彼らが大魔王に対して負っている借金は現時点で9億Dを超えていた。


 ハッキリ言って、ここで何をしているのかとツッコみたくなる状況である。



「ゴハンできました~♪」



 小さな少女がお盆に料理を乗せて運んできた。


 ロンがマクリルで助けた少女である。



「あ、姫様!危ないですよ!」



 メイドさんは危なっかしく料理を運ぶ少女の助けに入ろうとする。


 言い忘れたが、この少女はヴァーグ国の王女、メイドは子爵家出身の王女付きの侍女だった。


 彼女達はロン達とは別に(だけどやっぱり強制的に)花嫁修業(?)をさせられていた。


 主に家事全般や(大魔王基準での)護身術の習得、そして彼の本業の手伝いなどをさせられていた。



「そこのメイド、一々甘やかすな。もうガキじゃないんだからよ!」


「ひ、姫様はまだ小さいのですよ!ラートン様も、自分の娘が危ないことになったら――――」


「その時は元凶を徹底的に潰す。生も死も選ばせずにな」


「……」



 大魔王は本気で言っていた。


 実際、彼はこの時点で既にそれを実行している。



「おい!お前らもさっさと食え!残したら残飯と一緒にドラゴンの餌にするぞ!」


「「「は、はい!!」」」



 大魔王の本気の言葉に、ロン達は素早く反応して食事を始めた。


 正直、味が分かっているのか怪しい食事風景だった。


 そんな中、メイドさんはロンにデザートを渡す。



「あのう、今日もお疲れ様でした」


「ああ、君も……相当(・・)大変だったみたいだな」


「ロン様に比べたら、私も姫様も楽な方です」



 ロンとメイドさんはいい雰囲気になっていた。


 マクリルでの一件が吊り橋効果を生み、2人はここにいる間に随分と互いを意識するようになっていた。


 一方、王女の方は……



「アラン様、あ~ん♡」


「は、恥ずかしいからやめろ!」


「ヒュ~ヒュ~」→大魔王



 当時7歳の王女は12歳の他国の王子(アラン)に懐いていた。


 大魔王はその光景をコッソリ盗み撮りしていた。



「レオ様、あ~ん♡」


「恥ずかしいよ!」



 フィオーレも同じだった。



「エルヴィス、食欲が無いなら無理して食べたら駄目よ?」


「だ、大丈夫です。エリクサーのお蔭で体は(・・)問題ありません」


「そう?嘘じゃないわよね?」


「僕よりも、シャルルの方こそ大丈夫ですか?」


「私も平気よ」



 シャルルとエルヴィスも良い感じになっていた。


 その日の夜も、少々気温が高かったのは気のせいではないだろう。


 そして日が暮れ、彼らの1日が終わる……かに見えた。



「おい!外の五月蠅い魔獣を狩って来い!」



 深夜も容赦ない扱きが続いた。


 以上が最近のロン達の(非)日常である。


 そして、こんな日々が続き、彼らの借金は10億にまで膨れ上がった。






--------------------------


――ダーナ神暦1435年秋 『アガートラム遺跡』――


 数ヶ月が過ぎ、季節は秋の終わりを迎えていた。


 ロン達の借金はついに100億Dにまで膨れ上がっていた。



「お前ら、いい加減借金返せ」



 この一言により、ロン達は大魔王の許可も得て冒険者業を再開した。


 そしてやって来たのがフィンジアス王国の辺境にある『アガートラム遺跡』である。


 この場所を指定したのはシャルルで、以前、まだ真っ当に王女をやっていた時に城の禁書庫にある本を読み漁ってこの遺跡の存在を知っていた。


 本当は家出してすぐに来たかったそうだが、王国内にある遺跡なので追手に捕まるリスクを関げて諦めていた。



「私の調べだと、中に入る者は「百の死を覚悟せよ」と書かれていたわ。正直言って、余裕ね!」


「もう沢山死んだよ!!1000回くらい!」


「燃えたし、凍ったりもしたし、沈んだし、埋まったし、痺れたし………ぅぅぅぅぅ!」


「あいつは……人間じゃない……」



 ロン達は随分と逞しくなっていた。


 若干のトラウマが残っていたが。



「――――兎に角、何としてでも(借金返済の為に)遺跡の探索をするぞ!!」


「「「お~~~!!」」」



 ロン達は遺跡へと突入した。


 目指すは100億の借金返済である。


 彼らは大魔王から無事に生きて解放されるのだろうか?




 ――――続く。







次回から本編に戻ります。


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