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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
番外編Ⅷ
295/465

第285話 Legend Of Ron 第四章 中編

――ダーナ神暦1435年夏 ヴァーグ国 首都『マクリル』――


 ヴァーグ国の首都は地獄と化していた。



『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」


「「「うわああああああああああああああああ!!」」」


『ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


『シュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


「「「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」


「「「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」」」


『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』



 燃え上がる城下町、海から侵攻する沢山の大型魔獣、悲鳴を上げる人々、首都マクリルは前代未聞の危機に陥っていた。


 侵攻してきた魔獣は全てあの“黒い靄”を纏っており、通常よりも凶暴化している上に力も増していた。



「キャアアアアアアア!!」


『ギョロロロロロロロロロロロ!!』


「危ない!!」



 町娘を襲う半魚人の魔獣サハギンをロンが斬り捨てる。



「あ、ありがとうございます……!」


「お礼はいいから早く逃げろ!!」


「は、はい!」



 助けた町娘はロンに礼を言うと駆け足でその場から逃げていった。


 そして残されたロンは住民を襲う魔獣達を次々に斬っていく。


 他の場所ではシャルル達も地元の冒険者や騎士達と共闘して魔獣達を倒している。


 ロン達がマクリルに到着してから既に2時間、彼らは何時終わるともしれない戦いを続けていた。



『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


「クッ!大海蛇(シーサーペント)か!」



 海へと繋がる河から巨大な黒い(・・)シーサーペントが現れ町を破壊していく。


 しかも、シーサーペントは1体だけではなかった。



『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


「何!?」


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


「5体、だと!?」



 港町育ちのロンでも滅多に見た事の無い大型魔獣が街の至る所に現れる。


 シーサーペントの強さは個体にもよるが、ギルドでは最低でもB+ランクに指定される強力な魔物だった。


 しかもここにいるシーサーペントは通常の個体よりも凶暴且つ強い為、ロンは最低でもAランク以上だと読んだ。


 そしてその予想を証明するように、シーサーペント達は口から水や氷のブレスを吐いて次々と街の建物を破壊していった。



「クッ……!カラドボルグ!!」



 ロンは雷光の聖剣(カラドボルグ)を解放してシーサーペント達を倒していった。


 だが、幾ら倒しても海から次々に魔獣達が現れ、このまま続けば数の暴力で敗北するのは目に見えていた。



「うわああああああああああああ!!」


「くそおおお!!仲間を放せええええええ!!」



 冒険者や騎士達も次第に消耗して行き、披露している隙を疲れて魔獣に襲われる者も増えてきた。


 その多くはAランク以上の上位魔獣の餌食となり、次第に彼らの士気も低下していった。



「クッ!仕方ない。皆の者、撤退だ!我等は首都を放棄し、これより住民達の避難へと移る!」


「「「は!!」」」



 騎士達が撤退を選ぶのも当然だった。


 明らかに数千体はいる魔獣の群と戦うよりも、王侯貴族や町の住民達を首都から避難させる方が賢明だからだ。


 冒険者達の中にもそれを理解している者はいた。


 そして彼らも首都の防衛を放棄し、1人でも多くの住民達を首都の外へと避難させる事を選んだ。


 だが、その選択は僅かに遅かった。



『『『『ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』』


「な!な………!!」


「シ、多頭大海蛇王(シーヒュドラ・ロード)……!!」



 撤退を開始しようとした冒険者達の顔は真っ青になった。


 彼らの目の前に現れたのは5本の首を持ったシーサーペント、多頭大海蛇(シーヒュドラ)と呼ばれるA+ランク魔獣の上位種、Sランク魔獣の多頭大海蛇王(シーヒュドラ・ロード)だった。


 しかも他の魔獣と同様に凶暴化している上に戦闘力が上がっており、実際の戦闘力はS++ランクに匹敵していた。



『『『『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』』


「あ…ああ………」


「もう、ダメだ……!!」


「う、うわあああああああああああ!!」



 その圧倒的な威圧感に、冒険者達はパニックに陥った。


 だがそこへ、シーサーペント達を全て倒したロン達がやってきた。



「うわわわ!大きい!?」


「レオ、お前達は下がってろ!アレ(・・)はヤバい!」


「「嫌だ!」」



 シーヒュドラ・ロードと対峙するロンはレオ達チビッ子組を下がらせようとする。


 だが、レオ達は自分達も戦うのだと引き下がらない。


 そうこうしている間に、シーヒュドラ・ロードの攻撃が始まった。



『『『『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』』


「な!炎だと!?」



 シーヒュドラ・ロードは炎を吐きだした。


 水・氷属性の筈のシーヒュドラ・ロードは、本来なら水や氷のブレスを吐くのが普通だった。


 炎など吐くはずがない。



「まさか、変異種……!」



 驚愕している間も攻撃は続く。


 ロン達は聖剣の力でどうにか戦うが、今まだ戦ってきた中で1番強い魔獣であるシーヒュドラ・ロードの力は凄まじく、中々倒せなかった。


 そしてそこへ、新たな魔獣達が姿を現した。



『『『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』


「な!竜種……!」


「ロン兄!東の空から沢山ドラゴンが!!」



 首都の東の空から沢山のドラゴンが襲来した。


 全身を緑の鱗で覆われた風属性の上位竜、「ウインドドレイク」である。


 ダーナ大陸の西部山岳地帯に多く生息するドラゴンの群がロン達のいる場所を目指して飛んできた。


 それだけではない。


 南の方からも巨大な魔獣の群が現れた。



『ウガ~~~!!』



 それはダーナ大陸には生息しない魔獣だった。


 緑色の肌をした全身肉ダルマの巨人、ジャイアントトロールの群だった。


 ランクを付けるならウインドドレイクと同じAランク、知能は低いが力だけならドラゴンと同等の危険な相手だった。



「キャァァァァァァァァァァァ!!」


「悲鳴!?逃げ遅れた人がまだ居るのか!?」



 唖然としている間も泣く聞こえてくるのは若い女性の悲鳴だった。


 すぐに助けに向かいたいが、シーヒュドラ・ロードがそれを許さない。



『『『『ギャオオオオオオオオオオオオオオ!!』』』』


「クソ!カラドボルグの雷が効いてない……いや、再生!?」


「聞いたことがあるわ!シーヒュドラの中には極端に傷の回復が早い個体がいるって!」


「そ、その話なら僕も剣の師範から聞いたことがあります!きっと、攻撃が効かないんじゃなく、効いてるけど瞬時に回復さるてしまうんです!」


「!」



 エルヴィスの推測は当たっていた。


 シーヒュドラ・ロードのおそるべき点は他の魔獣を圧倒する自己再生能力だった。


 例え首を失ったとしても、“核”が無事である限りは時間と共に再生させてしまう。


 しかもロン達が戦っている個体は“黒い靄”で強化されている為、その再生力は尋常ではなかった。



「キャァァァァァァ!!だ、誰か助けてぇぇぇぇぇ!!」


「――――ッ!!」


「ロン!ここは私達に任せて、早く助けに行って!」


「ここは僕達で持たせます!」


「しかし……!」


「迷っている余裕はないわ!他の冒険者達は、もう一目散に逃げたわよ!」


「……」



 シャルルの言うとおり、ここにいる人間はロン達を除けば助けを求めている誰かだけだった。


 他の冒険者達はSランク以上の魔獣に恐れなし、既に逃げた後だった。


 ロンはシャルル達にその場を任せ、急いで悲鳴の聞こえた場所に向かった。



「だ、誰か……助けて……!」


「そこか!!」



 瓦礫の化した建物の奥で、ロンは瓦礫の下敷きになっているメイドを発見した。


 そして彼女の下にはもう1人の少女がいた。


 ロンはすぐさま瓦礫を除去し、中からメイドと(貴族っぽい)少女を救出した。



「あ、ありがとうございます!」


「お礼はいい!早くここから逃げるんだ!」


「は、はい!」



 ロンは急いで2人を逃がそうとする。


 だが、事はそう都合良くは働かなかった。



――――ズズズ……!



「キャアアアア!!」


「魔獣!!影からだと!?」



 ロン達の前に、瓦礫の影の中から無貌の人型魔獣が出てきた。


 影より生まれる闇の魔獣、「影魔(シャドー)」だった。


 ジャイアントトロール同様、ダーナ大陸には存在しないCランクの魔獣であり、亜種や上位種の種類が多いのが特徴だった。



「何だ、この数は!?」



 何時の間にか街はシャドー達で溢れかえっていた。


 シャドーの亜種である「影魔騎士(シャドーナイト)」や「影魔魔術士(シャドーメイジ)」、「影魔戦士(シャドーファイター)」などが、サハギン達と一緒にロン達の命を狙っていた。


 空からはウインドドレイク達のブレス攻撃も始まる。


 最早、マクリル壊滅は避けられない状況だった。



『―――――』


「キャアアア!」


「させるか!!」



 メイドと少女を襲うシャドーをロンがカラドボルグで斬る。


 だが、幾ら斬ってもシャドーは影の中から無尽蔵に生み出されていく。


 ロンの中で焦りが膨らんでいく。


 このままでは他人どころか自分の身も護り切る事が出来なくなってしまう。


 そして更にそこへ追い討ちするかのように『それ』は街の中心部に直接現れた。



――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………!!



 『それ』は地中からではなく、シャドーと同様に首都(マクリル)の“影”から姿を現した。



『ア……オア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛………』


「ヒィ!!」


「な、何だ……あれは……!?」



 そのあまりに醜悪な姿にロンは未だ嘗て無い恐怖を感じてしまった。


 眼―――それは数千、数万もの赤い眼球が集まった悍ましい肉塊の姿をしていた。


 大きさはジャイアントトロールを優に超え、全身には腐臭を放つ謎の液体が垂れ流されていた。


 醜悪、あまりにも醜悪なその姿は魔獣と呼ぶことすら憚れる、この世のものとは思えないものだった。


 生物なのかすら怪しく、別の場所で『それ』を見ていたシャルル達は一瞬で絶望にも似た感情に襲われた。



――――ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!



「―――――!街が、溶け出してる!?」



 『それ』が出現すると同時に、マクリルの街は泥の様に解け始めた。


 建物だけではない。


 瓦礫の下敷きになった人や動物の死骸も溶かしていく。


 その光景をみたロンは戦慄し、メイドの手を掴んで『それ』から離れようと走り出した。



『『『―――――』』』


『ギャオオオオオオオオオオオ!!』



 それをシャドーの群と地上に下りたウインドドレイクが阻む。


 ロンは退路を断たれてしまった。



「クッ!!カラドボルグ!!」



 ロンは聖剣から雷を放って周囲の魔獣を蹴散らしていくが、影から次々と生まれてくるシャドー相手には焼け石に水だった。



『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


「しまっ――――」



 背後からウインドドレイクのブレスが襲ってきた。


 絶体絶命、とても避けられる状況じゃなかった。




















「――――――雑魚共を一掃しろ。神龍殺剣(アスカロン)




















 ロン達の前に、大魔王が降臨した。









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