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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
番外編Ⅷ
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第284話 Legend Of Ron 第四章 前編

――ダーナ神暦1435年夏――


 その日のダーナ大陸は、大陸全土が雲1つ無い快晴に覆われていた。


 朝から太陽の光が大陸全土を照らし、地上からは空の果てまで見通せるような気がするほど澄んだ空色を眺める事が出来た。


 そう、その日は不気味なほど(・・・・・・)空が晴れていた。




――――バリッ!




 最初のそれは風の音に掻き消されるほどの小さな音だった。




――――バリリ!




 音は次第に大きくなったが、雲の上で響くその音に気付く者は誰もいなかった。




――――バリッ!!バリリリッ!!




 1時間が過ぎると、小さな雷鳴程度にまで音が大きくなった。


 それでも人口の多い都市部では喧騒に紛れていったが、農村部では朝早くから農作業に勤しんでいた住民達が空の上から聞こえてくる不可解な音に気付き始めていた。


 そしてさらに1時間後、ダーナ大陸の住民の大半が空の異変に気付いた。




――――バキッ!!バリッ!!ビシッ!!




 大陸中の人々が不気味な音の連鎖に対して不安を抱き、その不安が恐怖に変わろうとした時、それは人々の目に映った。




――――ビシィィィィィィィィィィィィィッッッ!!




 空が、割れた。


 まるでヒビの入ったガラスの様に空に無数の亀裂ができた。


 亀裂は大陸上空全域に現れ、その亀裂の先から黒い煙のような“何か”が噴き出し始める。


 そして――――




――――バリィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!




 ――――蒼空は、砕けた。


 窓ガラスが衝撃で砕け散るように砕け、雲1つ無い快晴の空は一瞬にして闇空へと変わり、ダーナ大陸全土が闇に覆われていった。




――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!




 割れた空の向こう側、奥が全く見えない闇空の奥から『それら』は降ってきた。


 その1つは油の様にねっとりとしながら、普段なら山頂が雲の中に隠れて見えない山に空から流れ落ち、瞬く間に山全体を漆黒に染め上げていく。


 また別の1つは黒煙の渦の様に螺旋を描きながら荒野に下りていく。


 他にも雨の様に草原を漆黒に染め上げたり、または霧の様に人里を飲み込んだりと、様々な形で『それら』は地上へと降ってきた。


 その中で、『それら』の中で最も強大な2つの何か(・・)は遠くから目にしただけでも言い知れぬ恐怖を人々に与えた。




――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………………




 『何か』の1つはタコのような触手を何十本も不気味に動かし、大陸中央部に浮かぶ浮遊島に下りた。




――――ウウウウウウウウウウウウウウ……オオオオオオオオオオオ…………




 もう1つの『何か』は、呻き声のようなものを発しながら大陸の北西、クラン帝国に下りていった。


 その日、『それら』はダーナ大陸の各地に下りてきた。


 『それら』全てが大陸に下り終えると、大陸上空を覆っていた闇空は逆再生のように青空に塞がれて消えていった。


 この日を境に、ダーナ大陸全土は未曽有の災厄に襲われ始める。


 これが、後に『大災厄』と呼ばれる事になる大事件の始まりだった。







--------------------------


――ダーナ神暦1435年夏 ファリガ諸島――


 『それら』がダーナ大陸に下りてきたのと同時刻、『その男』は南海の孤島で閉じていた目蓋を開けた。



「…………」



 『その男』は途轍もなく不機嫌そうに空を見上げた。



「……ウロボロス(クソヘビ)の野郎だな。人がチビ共と一緒に海水浴に来てるってのに、邪魔するとはいい度胸だ」



 『その男』は砂浜の方で遊んでいた息子達が突然の出来事に泣き出しているのを目にし、常人が見れば卒倒してしまう様なオーラを放出させ、彼の背後にある密林から獣達が全速力で逃げ出す音が聞こえてくる。


 空からは気絶した鳥が落下し、海では魚がプカプカと浮かび上がる。



「――――――フッ!」



 『その男』は常人の全てが戦慄する笑みを浮かべた。


 彼は、愛息子達を泣かせた者達を、決してタダでは許さないのだ。


 この日、後に一部の人々の間で『裏・大災厄』と呼ばれる、決して語られない事件も幕を開けたのだった。












--------------------------


――――ダーナ神暦1435年夏 ヴァーグ国――


 ロン達はゾンビと戦っていた。



『ウアアアアアアアア……!』


『ニクゥゥゥゥゥゥゥ!』


『エヘヘヘヘヘヘ………!』



 全身を腐らせた3体のゾンビは本能のままにロン達を喰い殺そうと襲ってくる。


 ほんの数日前までは人間だったソレは、もはや理性の欠片も見せず、ただひたすら生者の血肉を求める化け物と化していた。



「えい!」


「とお!」


「やあ!」



 ゾンビは全滅しいた。


 アンデッド系は聖剣のパワーで瞬殺、後は火属性魔法で消ど……火葬して始末した。


 ゾンビが居た場所には小指の先位の大きさの黒い魔石が残った。



「今日だけで、これで5回目だな?一体、何が起こっているんだ?」


「……おそらく、この前の異常現象が原因に違いないわ。それ以外に、アンデッドの大量発生の説明はつかないわ」


「魔獣の凶暴化も、だな」



 魔石を回収しながら、ロン達はここ最近の魔獣の凶暴化やアンデッドの大量発生について話し合った。


 あの大陸全土が闇で覆われた日以降、各地で魔獣が凶暴化し、本来なら人里に下りて来ない種類や草食で人を襲わない種類の魔獣が人を襲う事件が多発していた。


 そして、各地の墓地を中心にゾンビやスケルトンといったアンデッド系魔獣も大量発生し、各地はパニック状態に陥っていた。



「ロン兄、あれってアルバ山脈で見たのに似てたよな?」


「……そうだな。あの時も、宙に亀裂が出来て、そこから黒い靄が出ていた。あの上位竜も黒い靄が原因で凶暴化していたからな。それが今度は広範囲で起きたと考えるのが妥当か」


「だとすれば厄介だわ。あの黒い“何か”は空を飛んでいる魔獣はモロに浴びているわよ。つまり、竜種あたりは……」


「シャルル様!その竜種です!!」



 ロン達が体を休めながら話し合っていると、上空から数体の小型ドラゴンが現れた。


 竜種の中では最下位の『翼竜(ウイングドラゴン)』だった。


 ウイングドラゴンは全身に黒い靄を纏い、その目は真っ赤に染まっていた。



『『『ギャアオ!ギャオ!ギャオ!』』』



 3体のウイングドラゴンは、ロン達に向かって急降下してくる。



――――パン!パン!パン!



 ウイングドラゴンは全滅した。


 地上からの3発の魔力弾、それが全てウイングドラゴンの額を貫通した。



「……3匹。全部だ」


「相変わらず凄いな、サブロー」



 ウイングドラゴンを撃ち落としたのは異世界の元兵士、三郎だった。


 彼は異世界に召喚される際にチート進化した歩兵銃、魔導銃『草薙』(三郎命名)を使い、既に下位クラスのドラゴンなら余裕で倒せるまで強くなっていた。



「ロン兄!晩御飯はお肉!?ドラゴン肉!?」


「ステーキ!ステーキ!」


「レオ様、私はシチューが良いです!」



 その日の晩御飯はドラゴン肉のフルコースだった。


 尚、禍々しい靄を纏っていたので聖剣で浄化(しょうどく)してから調理した。


 そのせいか、ウイングドラゴンの肉はとても美味で、三郎も「白い飯が欲しい」と何度も呟いていた。



「ヴァーグの首都まであと3日か……」



 彼らは襲い来る魔獣達を屠りながらヴァーグ国の首都を目指す。


 だが、この時の彼らはまだ知らない。


 彼らの向かう先、ヴァーグ国の首都『マクリル』にて、彼らは未だ嘗て無い危機に陥るという事に………。


 そして、そこで彼らは決して逃れる事の出来ない運命の大渦に飲み込まれるという事に、彼らはまだ、誰も気付いてはいなかった。









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