第27話 ボーナス屋、温泉を造る
――ファル村――
素材の買い取りと盗賊団の引き渡しを終えた俺達はファル村にすぐ戻った。
ロビンくん達とは村の入口で別れた。
自主練しているヒューゴ達と合流して剣の稽古を付けに行ったんだろうな。
「さてと、俺は俺でやる事をやっておくか!」
てなわけで、俺は村の空き地にやって来たぜ!
何で空地なんかに来たかって言うと、ここに誰でも自由に利用できる“あれ”を造るのにうってつけだ。
「まずは、《地下探索》!」
《地下探索》
【魔力】260,000/260,000
【属性】水
【状態】地下1000m付近に高温の水脈がある。水量はかなり多い。
「おお!思ったより浅い所にあったな!?」
もしかしたらと思ったけどビンゴみたいだな?
よし、早速掘削開始だ!!
俺は能力全開で地面に深~い穴を開けていった!
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十分後、俺の視界は真っ白に染まった。
あ、死んだんじゃないからな?
「お~~!出てる出てる!思ったより湯量豊富だな?」
俺は地下から湧き出た“もの”を見ると、村中に流れて行かないようにすぐに次の行動にでた。
え~と、テレビや雑誌で見たのを参考にしてみるか!
俺は取り敢えず《土術》を駆使して色んなものを造っていった。
「――――――まあ、こんなものか?」
細かい所は追々やるとして、大体はこんな感じでいいだろう。
オッと!仕切りも造っとかないとな♪
「―――――勇者殿!先程からのこの湯気は何事ですか!?」
あ、村長がやって来た!
流石に村中に広がってるから気付いちゃったか?
まあ、もうみんなにも教えてもいいよな?
「いや~~~、温泉掘っちゃった♪」
「!?」
と言う訳で、ファル村に温泉ができました!
あ、湯量豊富とか言ったけど、別に間欠泉が起きる程じゃない。
せいぜい専用のポンプとかが無くても湧き出る程度の量だ。
ちなみに、混浴じゃなくてちゃんと男女別の湯船を造っておいたし、仕切りもちゃんとある。
「とりあえず村長、一番風呂どうだ?」
さてさて、ファル温泉(基本無料)只今より開業だ!
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俺の造った温泉は大好評だ!
夕方近くになると農作業から戻って来た村人がゾロゾロとやってきて1日の疲れを癒していった。
「フハァ~~♪イイ気持ちですぞい♪」
「旅人の話でしか聞いたことなかったが、これはたまらんのう~~~♪」
うんうん、みんな大満足のようだ!
そもそも何で温泉を造る気になったかというと、ぶっちゃけこの村には風呂がないからだ!
日本人の俺としては湯船に全身を浸からせるのが当たり前だったから、何時かは造ろうと思ってたんだよな!
なお、村長一家の協力もあって、脱衣所なども《建築魔法》で造ってもらった。
「凄い賑やかですね?」
「あ、ロビンくんに少年達!稽古は終わったのか?」
外から賑やかな声を聞いていると、横からロビンくんと汗でびっしょりのヒューゴ達がやってきた。
既に温泉の情報はロビンくん達にも伝わっているようだ。
「ええ、シロウ殿が温泉を造ったと聞いたのでやってきたんです。かなり賑わっているようですが、私達も入れますか?」
「それなら大丈夫だぜ?余裕をもって大き目に造っておいたから全員入れるぜ♪」
「・・・・これ、全部お前が作ったのかよ?」
「ありえねえ・・・・・。」
「いや、一部の木造部分は村長一家が造った物だぜ?」
「十分スゲエよ・・・・・・」
まあ、この世界基準だと俺の能力はどれも規格外だろうからヒューゴの反応は普通なんだろうな。
「あ!ちなみに壁を隔てた反対側の女湯にはもうすぐ若い女の子がいっぱい来るから、間違っても覗くなよ?」
「「・・・・・・(ゴク)!」」
おい、そこの約2名!
今絶対覗こうとか考えたろ?
「・・・言っとくが、来るのはステラちゃん率いる王国の女騎士や兵士だから、覗いたら殺されるぞ?」
そう!今になって明かされるが、ステラちゃんの部下には女性もいたのだ!
最初に会った時はみんな甲冑とか身につけていたりしていたから、俺が気付いたのも翌日以降だったんだけどな。
「の、覗くわけないだろ!?」
「そ、そうだ・・・・・・・!!」
怪しいな・・・・・。
まあ、ロビンくんも一緒だし、もしもの時は止めてくれるだろう。
「それじゃあ、6名様ご案内~~~~~♪」
と言う訳でロビンくん達は男湯へと入っていった。
さ~てと、俺は卵の様子を見てくるかな~~~~~と♪
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――ファリアス帝国 帝都タラ――
士郎が温泉卵作りに勤しんでいた頃、帝都中心部にある貴族御用達のレストランの個室では、ダニールが本業の同僚と密会をしていた。
「―――――そっちの第一王女はそろそろ用済みか。」
高級ワインを飲みながら、ダニールは向かい側で食事をとる同僚に話しかけた。
「ああ、先に捨てた第二王女と比較すればあの娘にはもう利用価値はない。あれはお山の大将になりたいだけの小物だからな。プライドは高いが、政治には全然向かない凡人である以上は最早用済みだ。」
「なら、王国側の次の駒は下の王子達か。俺は直接見たことはないが、第一王女よりはかなり有能だそうだな?」
「伸び代はかなり大きいな。特に末王子と末王女はこの大陸の人間では珍しく、魔力が1万を超えているし属性も多い。上手く育てていけば“秘宝”の封印を解くのに使える。」
男は笑みを浮かべながらダニールのグラスにワインを注いでいく。
彼らの目的は帝国と王国の乗っ取りではない。
それはあくまで手段の一つに過ぎず、本命は別にある。
「―――――――帝国側はどうなんだ?」
「第三皇子は使い易いが不適格だな。今度のゴリアスとの交渉の場で切り捨てる予定だ。第二皇子は政治の面に関しては優秀だが、俺達の目的に使えるかは微妙なところだ。」
「なら、帝国側の“鍵”は庶子の方に期待するしかないのか・・・・・・・。」
「・・・・数が多すぎて選別するのも一苦労だがな。一応、万が一もの可能性にも賭けているが、成果が出るかどうかはまだ時間がかかるな。」
「――――――――あれか!温室育ちを大陸中の田舎に放り込んだそうだが、そろそろ死人も出てる頃だろう。運良く生き延びたとしても、上手く芽吹くかはかなりのギャンブルだな。」
「だが、このまま温室の中に入れたままでは出る芽も出ないからな。少しは野生化した方がまだ可能性がある。」
「・・・・確かにな。」
その後、2人はいくつかの情報交換を済ませた後、今後の予定を確認してレストランを後にした。
互いに気配を絶ちながら店をでたので、誰も彼らの存在に気付く事はなかった。
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――ファル村――
あ~あ、予想はしてたけどやっぱりお約束の事件が起きたな。
まあ、やったのはあいつ等じゃなくてチームバカ皇子だったけど。
「全く、堂々と覗こうとするとは・・・・・・。」
被害者のステラちゃんは怒り半分、呆れ半分に茹で上がったバカ皇子を見ていた。
事件の内容は単純、ロビンくん達や他の村人達と入れ替わりに入浴しに来たバカ皇子一行が、同じく女湯にいたステラちゃん一行の入浴を覗いたのだ。
もちろん、すぐにバレてバカ皇子達は突風で(丸出しで)宙を舞いながら温泉に沈み、そのまま茹で上がったのだ。
「いいか、お前らも一歩間違えればああなっていたんだぜ?」
「・・・お、おお!」
「・・・・あれが兄貴・・・・・・。」
近くにいたヒューゴ達も呆然としながら運ばれていくバカ皇子たちを眺めていた。
ロルフ以外の3人は愚兄の姿に複雑そうだな。
「勇者様、夕飯の仕度ができました。」
「お!アンナちゃんもさっぱりしてるな?」
「勇者様のお蔭です。それよりも、ビックラビットのお肉が美味しそうに焼けたので冷めないうちに召し上がりにきてください。」
「そうだな!」
あのウサギもどんな味がするか楽しみだ!
そして俺はみんなと一緒に夕食を食べに行った。
さ~て、明日もジャンジャン稼ぐとするか!
思ったより短くなった。
温泉ネタ、思ったより難しかったです。
しばらくしたら再挑戦してみたいです。