第279話 ボーナス屋、轟く!
――神聖グラディウス皇国 某所――
その日、神聖グラディウス皇国皇帝アレクシオスは国境近くにある都市へ視察に訪れていた。
先日の一件で『転移の指輪』を手に入れて以来、主に某国のせいで近年滞っていた地方視察が物凄いペースで進んでゆき、この日も国境の近くにある都市を訪問し、そこを治めている貴族や役人達と意気投合して遅くまで酒をかわしていた。
だが、彼らの宴は外の警備をしていた騎士達の悲鳴に近い声で中断された。
「へ、陛下あああ!!そ、空がああああああああああああ!!」
「何事だ!?」
「そそ、空を!!」
要領をえない騎士の報告に、アレクシオスは寒風が当たるベランダに出て夜空を見上げ絶句した。
「――――ッ!!」
天から地上に向かって降り注ぐ無数の星々。
天文学が進んでいないこの国の人間からすれば、その光景は世界の終焉を思わせるほどの迫力があった。
そうでなくても、その現実離れした光景は瞬時に異常である事に変わらなかった。
「へへへへ陛下!!ど、どうしたら!!??」
「―――落ち着け!まずは……」
悲鳴と絶叫が響く中、アレクシオスは皇帝として今為すべきことを考えていた。
ここで判断を誤れば、皇国は最悪滅んでしまう。
だが、その不安は次の瞬間には杞憂に終わる。
――――――――ッ!!!!!!
鼓膜が破けるかのような轟音が大陸中に響き渡った。
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――神聖グラディウス皇国 アネモス湖――
あれはヤバいな。
空から降り注ぐ真っ赤な流星群に、俺は冷や汗を流していた。
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
ヴリトラは天に向かって咆哮を続けていた。
ヴリトラって、星とかも操れたのか?
――――ピロロ~ン♪
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『解:操れます』
神話の時代、ヴリトラは地上の水を宇宙の狭間に隠しました。
宇宙空間も、ヴリトラの干渉可能領域です。
小惑星以下の天体なら、余裕で遠隔操作できます。
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出来るらしい。
そしてヤバい。
これを止めないとこの世界の人達は地球の恐竜の二の舞になる。
だけど、どうやって流星群を防ぐかが問題だな。
ブリューナクは同時に5発しか撃てないからクラウ・ソラス……いや、広範囲に同時攻撃するのならコレの方が良いな。
実戦で使うのは初めて……というか、実戦じゃなくても滅多に使えない“能力”なんだよな。これ。
けど、今は悩んでいる時間も勿体無い。
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
「ついでにお前も一緒に丸焼きにしてやるよ!」
俺は空に向かって右手を掲げ、この大陸で手に入れた最強の武器を発動させた。
「――――《雷霆》!!』
全知全能の神(笑)が持つ、全宇宙すらも破壊し尽くす雷が空から一斉に降り注いだ。
尚、野生の勘なのか、離れた場所にいるコッコくんは素早く耳を塞いでいたのを付け加えておく。
――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
音にならない音が世界に響き渡った。
無数の赤を、同じく無数の青が破壊していく光景がしばらく続いた。
正直、何秒…何十秒続いたのか分からないが、頭が痛くなるような時間が続いた。
もしかしたら鼓膜が傷ついたのかもしれないが、《神速再生》で瞬時に元通りになるから解らない。
そして、無数の青はヴリトラにも襲い掛かった。
『GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
ヴリトラの絶叫も世界に響き渡った。
吸収系の能力を持っているようだが、《雷霆》の終わる事の無い攻撃の嵐全てを吸い尽くすことは出来ないみたいだ。
そういえば、神話でヴリトラを倒したのも雷だったっけ?
詳しく調べた訳じゃないから分からないな。
とか考えている内に、流星群はひとつ残らず全滅した。
――――ピロロ~ン♪
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『報告:祈られてます!』
オリンポス大陸の住民達が、流星群を破壊してくれた“誰か”を救世主や神として祈っています。
これにより、主は神への階段をまた1段進められました。
おめでとうございます!
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……気のせいじゃなければ、俺のチートは日に日に人間染みてきている気がする。
性別を付けるなら女性っぽい感じな気もする。
まさか、このまま能力が進化したら擬人化とかするんじゃないよな?
あ、それと、俺は神になる気は無い!
断じてない!
〈――――え? byヘスティア〉
「え?」って何だよ!
しかも今の、オリンポスの神様じゃん!!
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』
「あ!変身!?」
俺が神様に突っ込んでいると、《雷霆》のフルボッコを受けていたヴリトラが変身を始めた。
胴体から手足が生えてきて、巨大蛇からよりドラゴンに……龍に近い姿になった。
ヴリトラ第2形態か。
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!死ネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!インドラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
そして喋り出した。
しかも、誰かと人違いされてしまったようだ。
ここからが本番のようだ。
《雷霆》、超チートです。
瞬殺できないのは、相手がヴリトラだからだけです。
神話の通りのしぶとさですね。
次回は明日更新予定!