第277話 ボーナス屋、再び新大陸へ
――神聖グラディウス皇国――
『――――ヴリトラか……。懐かしい名前だ』
「顔見知り?」
『親しいほどの関係ではないが、顔見知りではあるな。向こうも俺のことをあまり良くは思っていなかった筈だ』
「龍王にも色々いるんだな?」
『そういうことだ』
やあ、俺、士郎!
俺は今、クロウ・クルワッハに乗って新大陸ことオリンポス大陸の上空を移動している最中だ。
あの速報の後、俺は壮龍をアンナちゃんママに預け、急いでオリンポス大陸に転移し、相手が龍王ならこっちは龍神、という感じでクロウ・クルワッハを召喚した。
ちなみにこっちは時差の関係ですっかり夜だ。
『――――ヴリトラは火属性の龍王の中ではかなりの古株だが、戦闘力に関しては“赤”や“白”と比べると若干劣っているな。だが、奴の誇る能力は戦闘力じゃなく、殺されても何度でも復活する“不滅”の一点だろう。ハッキリ言って、バロールなんか比じゃない位のしぶとさだ。インドラの奴も、よく毎回相手をしてたもんだ』
クロウは物凄く面倒そうな顔をしながらぼやいていた。
俺もちょっと齧った程度だが、ヴリトラの事は知っている。
というか、前に日本に帰った時に遭遇して遠くから戦ったりもした。
最後は銀洸にゴミみたいに異次元に捨てられたのを見たが、まさか巡り巡ってこの世界に落っこちるとは思ってもいなかった。
それとも、これはあのバカの……。
まあそれは置いといて、ヴリトラは仙人(または神)が神インドラを殺す為に生み出したドラゴンで、旱魃を起こしたとか……ありがとう、ウィキ○ディア。
「そういえば、ヴリトラって始祖龍なのか?」
親から生まれたドラゴンじゃないなら、壮龍と同じ『始祖龍』になるんじゃないか?
『広義の意味では奴も始祖だが、奴の一族はちょっと事情が特殊なんだ』
「特殊?」
『奴ら……というより、ヴリトラに生殖能力は無い。不滅だから生殖行為そのものが必要が無いんだ。それと、性別も存在しない』
「じゃあ、どうやって“一族”を作ったんだ?」
『“呪”だ。ヴリトラは、他の生物に“呪”を掛けて無理矢理同族に作り変える。そして作り変えられた方は、普通に生殖能力があるが……どうやら、“魔”の氏族は随分と数を減らしているようだな』
なんか吸血鬼みたいだな?
数が少ないってことは、弾圧とかされて絶滅寸前なのか?
と訊いてみたら、クロウは頭を横に振った。
『いや、ヴリトラの氏族はどんなに世代を重ねていても、大元であるヴリトラの狂気をその身に受け続ける“運命”にある。奴の氏族の多くはその狂気に精神を侵され、邪龍に堕ちて討滅されるか、狂気に耐え切れず自滅しているようだ。悲しい事に、今の龍族の中にはやつらを「呪われた氏族」と忌避している者もいるようだ』
「クロウ……」
クロウの目は凄く寂しそうだった。
『――――ヴリトラ自身、復讐の道具として憎悪の炎の中から生まれた存在だ。可能ならば、奴を解放したいのだが……だが、俺は立場上、それはできない……今までなら(ジロ)』
「え!何、その視線!?」
『お前なら、ヴリトラも何とかできるだろ?龍神の俺すら何とかできたんだから、神ですらない龍王なんて余裕だろ?』
「何、その理屈!?」
『神も魔王も殺してるんだから、龍王の相手なんて余裕だろ?良い機会だし、いっそ人間辞めないか?歓迎するぞ?』
「やめないから!」
脱・人間を勧めてくるクロウをどうにか宥めているうちに時間は過ぎていった。
何度も言うが、俺は人間を絶対に辞めないからな!
〈だが、勇者は既に人間の枠を超えている! byスサノオ〉
あのオッサン神、ヘルメスほど頻繁に出てこないがやっぱ五月蝿い!
そしてきっと、オッサン神のバックで他の神達もスタンバイしている。
絶対そんな気がする。
〈え?何でばれた? byスサノオ〉
……ほらな。
『ゴケ?』
ああ、言い忘れた。
今日はコッコくんも一緒だよ!
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――神聖グラディウス皇国 アネモス湖――
豪雨。
超、豪雨だった!
巨大な湖が見えたと思った直後、バケツどころかプールを引っ繰り返したような豪雨が降っていた。
俺らはバリアを張っているから平気だけど、湖岸の方からは住人の騒ぎ声がハッキリと聞こえてきた。
この雨、ヴリトラが降らしているのか?
「――――あれ?ヴリトラって、火属性じゃなかったっけ?」
『そうだ。だが、奴は古の時代、地上の水を奪って異空間に封じ込めたりもしていた。火属性の龍王ではあるが、水属性も多少は扱える、が……まさか、ここまでとは……』
「予想外?」
『奴は日照りを起こすことは出来るが、その逆、豪雨を降らせることは出来なかった筈だ。もしや、弄られて属性が反転しているのか?』
なんてお喋りをしていたら、あっと言う間にヴリトラの居る場所に到着した。
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
デカかった。
マジでデカかった。
バロール(体)よりも圧倒的にデカかった。
「デカい!!」
『ゴケ!?』
『……デカいな?』
俺だけじゃなく、クロウもコッコくんもビックリだ。
目の前にいるヴリトラはクロウよりもデカく、全長は軽く2000mは越えている巨大な黒い蛇だった。
龍王だけど、見た目は巨大な黒蛇だった。
『あ~、あれは現世に漂う負の念を根こそぎ吸収してパワーアップしたみたいだな。昔と違って、今は知的生物の数が半端ないし、たらふく食べたみたいだな?』
「昔はどれくらいだったんだ?」
『う~ん、確か最大でも1000mも無かったな。本当、今は人の数が多いな~』
つまり、昔よりも2倍以上巨大化しているってことか。
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
しかし、怒り狂ってるな~。
全身真っ黒だし、禍々しいオーラも放っていてラスボス感まであるよ。
誰かさんの憎悪から生まれた龍王って話も納得できる迫力だ。
「ん?周りにも何かいる?」
『ゴ、ゴケ!!(お、多い!!)』
『あれは、ヴリトラの眷属だな。こっちでも同族を作りだしていたか……』
巨大なヴリトラの周りには大小無数の黒い大蛇が湖面を泳いでいた。
目が凄く狂気染みていてかなり不気味な団体さんだ。
「ヴリトラは何処に向かっているんだ?」
『おそらく、最近この国に出現した『大迷宮』だろうな。あそこからは『軍神』アレスの気配が僅かに漏れ出している。元々奴は『軍神』インドラを滅ぼす為に生み出された存在、同じ『軍神』のアレスの気配に引かれたとしても不思議ではない。少なくとも、冷静に活動できる状態じゃないのは確かだな』
それって、マズイだろ?
今この大陸では『大迷宮』が大ブームになっていて、どの『大迷宮』にも大勢の人達が集まっているんだぞ。
そんな所にヴリトラ軍団が行ったら、間違いなく大惨事だ。
「早く何とかしないとな!」
『ゴケ!(ハイ!)』
『マズイな。また雨量が増えてきた。このままだと大洪水になるぞ』
雨は更に強さを増していく。
クロウはヴリトラに接近する為に急降下し、俺はコッコくんと一緒にスタンバイする。
敵の数は滅茶苦茶多いけど、こっちには龍神と最強の鶏がいるんだ。
さっさと片付けてやるぜ!
「行くぞ、コッコくん!」
『ゴケェ~!』