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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
12の大迷宮編Ⅰ
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第271話 ボーナス屋、悩む(アテナ大迷宮1)

――ファル村 勇者の家――


「モフモフ~♡」


「もう……お腹一杯……♡」



 俺のベッドの上で、元・王女姉妹が恍惚の表情を浮かべながら眠っていた。


 『アルテミス大迷宮』の光景を視た2人は幸せのあまり悶えていたが、俺の作業が終わると糸が切れた様にそのまま眠りについた。


 俺は何処に寝ればいいんだ?



「……自室に女の子を、それも2人も連れ込むとはいい度胸ね?」


「事情を知ってて言うか?」



 そして不機嫌な唯花をどうしたらいいんだ?


 あのバカ龍王も、何時の間にかいなくなってるし……。



『また来るよ~♪ 銀洸』



 なんて置手紙を発見したが、二度と来るなと心の中で呟いておく。



「そ、壮龍は……?」


「さっき寝たわ。それよりも、その子達はどうするの?家まで運ぶの?」


「家っていうか、宿だな。まだ亡命して日が浅いから家が無いんだよ」


「なら、宿まで転送したら?」


「怪現象呼ばわりされないか?」



 目が覚めたら何時の間にか―――なんて騒がれそうだな。



「勇者の村だから、案外騒がれないんじゃない?」


「俺が犯人にされるの前提かよ!!」


「どの道、みんな気付くわよ?」


「……唯花、最近お前って何か機嫌が悪くないか?昔……てか前はもっと素直でもっと可愛かったのに、最近のお前はちょっと変じゃないか?」


「……き、気のせいよ!それよりも、この子達をどうするの?」


「……送るよ」



 やっぱり、なんだか最近の唯花はちょっと変だな?


 気にはなったが、俺は姉妹を魔法で宿屋に転送した。


 後はどうにでもなれだ!



「それで、例のクエストは何処まで進んでいるの?」


「今のところはゼウスとアルテミスの2つの大迷宮までやってるところだ。あと10だな」


「ふ~ん、次は何処にするの?」


「そうだな……」



 バカ龍王は『アフロディーテ大迷宮』を勧めたが、俺はそうしない。


 俺が次に選ぶのは――――






--------------------------


――『アテナ大迷宮』付近の村――


 ノックス国の中央に広がる巨大湖「メティス湖」に浮かぶ複数の島の1つに『アテナ大迷宮』がある。


 静かな小さな村があるだけの島だったが、大迷宮が出現してからは国内外から大勢の冒険者が訪れる活気ある街になっていた。


 元々小さい建物だった冒険者ギルドも冒険者の急増により増築が進められていた。



「聞いたか?『荒風』のパーティーが10階層まで進んだらしいぞ?」


「あのSランクパーティか。流石だな。じゃあ、9階までの地図は出てるのか?」


「かなり金が要るみたいだけどな?」



 狭いギルドの中では大迷宮での一攫千金を目論む冒険者で溢れ返っていた。


 『アテナ大迷宮』は12の大迷宮の中でも比較的生存率が高く、日々新しい情報がギルドや街の情報屋を通じて冒険者の耳に届けられていた。


 そんな中、ベテランの冒険者で埋め尽くされるギルドの中に場違いな少女の姿があった。


 冒険者には見えない綺麗な顔立ちに汚れの殆ど無い服、ツインテールが可愛らしい少女はオロオロしながら受付の前にやってきた。



「あのう……この依頼を受けたいんですけど……」


「……お嬢ちゃん、本気で大迷宮に入る気かい?」


「は、はい!入場条件は満たしています!この前、Eランクになりました!」


「Eランク……ねえ?見たところ、首都の学生さんのようだけど……本当に行く気かい?」


「は、はい!!本気です!!」



 受付の男は少女を訝しむ目で睨みながらも、渋々大迷宮探索の依頼を受理した。


 こうしてまた1人、大迷宮に挑む冒険者が誕生したのだった。


 少女は男に頭を下げると、そそくさと逃げるようにギルドを出ていった。



「……ニケ=カメリアか」


「先輩、さっきの子が気になるんですか?もしかして、そういう趣味……」


「違えよ!タダな、首都の学生でEランクってのが気になってな」


「え?Eランクってことは、新人を卒業しているってことですよね?それのどこが気になるんですか?」


「お前の目は節穴か?あの小娘が来ていた服、あれは首都の『国立ミネルヴァ第一学院』の物だ。つまり、あの小娘はそこの生徒ってことだな。あそこはカリキュラムの1つとして、生徒全員に冒険者登録をさせて、卒業の条件の1つにCランク以上に昇格するってのがある。あそこは名門中の名門の学校だからな」


「あ……!」



 男の説明を聞き、女性職員は男が言おうとしている事に気付いた。



「気付いたな?Cランクと言えば冒険者としては1人前、学生にとってはエリートの証そのものだ。だがその分、途中で挫折してしまう学生が多いってことだ。Eランクまでは薬草の採取や雑用を毎日やっていればガキでもなれる。けど、それより先は魔獣や盗賊を討伐したりしないと昇格はまず無理だ。高い戦闘能力やチームワーク、そして何より色んな依頼にも対応できるセンスや才能が必要になるわけだ。ましてや10代やそこらでCランクになるのは明らかに才能が必要になる。つまり、あの学院を卒業できるのは才能と実力の両方を兼ね揃えたエリート中のエリートってことだな」


「じゃあ、さっきの子は……」


「年からして高等部の生徒だろうが、あの歳でEランクってことは十中八九落ちこぼれ組だろうよ。このままだと卒業どころか進級も難しいと思って、一か八か大迷宮攻略に賭けたんだろうな」


「先輩、あの子は大丈夫でしょうか?」


「さあな。あの小娘にどこまで覚悟があるかは知らねえが、能力のねえ奴は大迷宮に食われて死ぬ。戦の神でもある女神アテナ様が創った大迷宮は決して甘くはねえ。生き残れるかどうかはあの小娘次第だ。それよりも、仕事だ仕事!後が閊えてるぞ!」



 男は多少気にはなっていたが、こういう事は日々起きている事なのですぐに頭を切り替えて業務に戻った。


 冒険者ギルドは今日も多忙に追われていた。







--------------------------


――アテナ大迷宮 第1階層――


 街の外れにある白亜の神殿、それこそが『アテナ大迷宮』の入口だった。


 神殿の中にあるのは2つの魔方陣、一方は入口でもう一方は出口、入口には誰でも入る事が出来るが、出口から出てくるのは大迷宮の中で特定の条件を満たした者のみ、つまりは実力のある者だけが大迷宮を出入りする事が許されるのだ。



「――――私だって、できるもん!」



 学院から支給された制服と魔法具、実家の祖母から譲り受けた杖を持った少女ニケは入口用の魔方陣に飛び込み、『アルテミス大迷宮』第1階層に入ってきた。


 第1階層は壁も床も白一色の迷路だった。


 スタート地点の広場に転送されたニケは、他の冒険者が先に行くのを待った後、緊張しながらも出発した。



『ピィ!』



 野生のスライムが現れた。


 ニケはすかさず魔法を撃って倒す。



「ふう」



 その後もスライムやネズミを倒しながら進んでいくニケだったが、スタートから1時間が過ぎたあたりから顔色が悪くなっていた。


 それは体調不良によるものではなく、ごく単純な精神的なものからくるものだった。



「……迷っちゃった?」



 落ちこぼれ学生ニケ、大迷宮に入って1時間で迷子になっていた。









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