第266話 ボーナス屋、終始出番が無い(ゼウス大迷宮1)
サブタイトルの通りです。
――旧アウルム王国 『ゼウス大迷宮』――
旧アウルム王国の王都より南に100kmの場所にある、雲の上まで伸びた巨大な塔が『ゼウス大迷宮』である。
一度中に入れば特定の方法を使わない限り脱出不可能、幾度の苦難を乗り越え最上階まで辿り着けた者には多くの富と神の加護が与えられる。
大迷宮出現から間もない頃は多くの冒険者や欲に目の眩んだ王国の兵達が押し寄せ、塔の周りには露店やテント式の宿屋などが建ち、今ではかなりの規模の街にまで発展していた。
しかし現在、王都を中心に発生した「神罰事件」以降は大迷宮に訪れる人の姿は疎らだった。
それもその筈、あの事件で国民の殆どが魔法の力―――というより魔力が使えなくなり、旧アウルム王国出身の冒険者や兵士の戦闘力は極端に下がり、更に心もボッキリと折られたので、彼らの多くは大迷宮攻略での“死のリスク”に恐れをなし、逃げるように去っていき、既に中にいた者達も、その多くは脱落していったのだった。
お蔭で街の店の多くは開店休業中、既に見切りを付けて街を去ろうとしている商人の姿もあった。
「ハァ……。今日も暇だな~」
「おい、バカ息子!ちゃんと店番しろ!」
「ウッセエよ!クソ親父!どうせ神様の罰のせいで今日も客は来ねえよ!」
「バカ野郎!客が来ないのを神様のせいにすんじゃねえ!悪いのは根性のねえこの国の連中だろうが!」
不貞腐れながら店番をする息子を、奥で商品の整理をしていた父親が怒鳴る。
彼らは主に武器や防具を売る旅の商人だった。
一ヶ所に留まらず、常に大陸を旅しながら商売をしている彼ら親子がこの大迷宮に来たのは半月ほど前、大迷宮出現の噂を聞いてやってきた。
最初はかなり繁盛していたのだが、先日の事件以降は客足も減り、今も開店休業中だった。
「ふあぁ~」
「バカ息子!そんなに暇ならハンマーの訓練でもしてろ!」
「ウッセエなあ……」
愚痴をこぼしながらも、少年は店の脇に置いてあった自分の武器を持ち上げる。
仕事柄、魔獣から身を護る手段が必要な為、彼は小さい頃から父親から戦闘技術を叩き込まれていた。
おかげで今ではそこらの新人冒険者には負けない程度の力が付いたが、まだ遊び盛りの少年には、店番も訓練も苦痛だった。
ちなみに、少年は現在12歳である。
(……サボろう!)
そういうわけで、少年はハンマーを持ったまま店から逃げ出した。
「さ~てと、薬屋のユークのとこに行くかなっと!あ、お~い!」
「あ!ミロス!」
大迷宮の入口のすぐ近くで、少年ことミロスはこの街で初めての友人である薬屋の息子ユークと会った。
ミロスより1つ年下のユークもまた、開店休業中の店を抜け出していた。
「――――でさあ、クソ親父がウルセエんだよ!」
「うちも同じだよ。在庫が結構余ったから、それをどうにか売り捌こうとして僕も振り回されているんだ」
「薬屋も大変だな~?」
「武器屋もね」
他愛無い世間話をしながら大迷宮の入口の近くを歩く2人の少年。
大迷宮の前は今日も閑散としており、今も数人の冒険者が立っているだけだった。
「この迷宮、街と一緒に潰れるんじゃないのか?」
「本当に潰れたら大惨事だけどね」
「今日も中から帰って来た人はいねえみたいだな?」
「うちの店に来たお客さんの話だと、一度中に入ったら、特別な出口を見つけないと外には出られないみたいだよ?」
一度入ったらそう簡単には出られない。
ただし、1階層の終点には常時出口があるのだが、予想以上に1階層を攻略でない挑戦者が多かった。
流石にベテランの冒険者は1階層は勿論のこと、現在は10階層まで攻略が進んでいるが、それでも上に昇る度に難易度が上がってきている為、最上階まではまだまだ先が長そうだとユークは語った。
「ま、俺達には関係ないけどな?」
「僕達は商人(見習い)だからね♪」
大迷宮の中は気になるが、冒険者でも軍人でもない自分達は一生中に入ることはないのだと、2人は笑いながら入口の前を横切ろうとした。
だがその時、どこぞの神が仕掛けが作動した。
それは、一ヶ月に一度起きる、『ゼウス大迷宮』のトラップだった。
「えっ……?」
「あ!?」
2人の体が急に浮き上がり、そのまま大迷宮に吸い込まれていった。
「「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」」
彼らは知らない。
この『ゼウス大神殿』を創ったのはゼウスではなく、存在が殆ど悪神なヘルメスであり、彼の悪ふざけとも言える様々なトラップが仕掛けられているという事に。
その1つ、1ヶ月に一度の周期で発生する「探索者ホイホイ!」は、大迷宮の入口付近にいる者を強制的に中に入れる、一般人には迷惑でしかないトラップだった。
少年2人を含め、運悪く入り口付近にいた十数人は強制的に大迷宮の中へと放り込まれていったのだった。
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――ゼウス大迷宮 第1階層――
第1階層の中は石造りの迷宮だった。
天井の高さは約10m、道幅も広く移動しやすい造りになっていた。
「……ここが、大迷宮?」
「どうしよう、一度中に入ったら外には……」
周辺を見渡すが、何処にも出口は無かった。
一般人の彼らは知らないが、大迷宮の入口には《転移魔法》が掛けられており、入った者を第1階層の何処かに転送させる仕組みになっている。
ちなみに、既に第1階層より上の階層を攻略している場合は、最後に利用した出口のあった場所へと転送させるようになっている。
ヘルメスが創ったので、あちこちにゲームっぽい特徴があるようである。
『ピギィ!!』
「うわあ!魔獣だ!」
戸惑う少年達の前に魔獣が現れた。
Fランクの突進豚だった。
ユークは腰を抜かしてしまうが、ミロスは咄嗟に持っていたハンマーを構えた。
この中で武器を持っているのは自分で、自分は年上、自分がユークを護らないといけないと思ったのだ。
『ピギィ!』
「くらえ!!」
ミロスはハンマーを振るう。
単調な動きしかできない突進豚は避ける事も出来ず、ハンマーは突進豚の頭部を破壊した。
――――タララッタッタ~♪
直後、ヘルメスの悪ふざけその2が作動、2人の耳にファンファーレが響いた。
〈突撃豚を倒した!〉
〈レベルアップしました!〉
〈ミロスは商人(Lv2)になりました!〉
〈ミロスは《槌術(Lv1)》を獲得しました!〉
〈ボーナスにより、《槌術(Lv1)》は《槌術(Lv2)》になりました!〉
〈ミロスの職業に『戦士』と『探索者』が追加されました!〉
次回は明日更新予定。