第261話 ボーナス屋、仕事を終える
――王都デウス『冒険者ギルド総本部』――
あれから3日が経った。
あの後の王都は大変だった。
大魔王の奥さんのOSHIOKIは王侯貴族や聖職者だけにとどまらず、庶民まで容赦なく行われた。
何でも、神罰を受けた人は例外なく女神ネメシス様の『有罪、Death!!』という神託が聞こえたとかで……腐っても信心深い事もあって精神的なダメージは相当なものだった。
あの日1日は、王都の機能はほぼ全て停止状態に陥った。
だけど、住民達には混乱するほどの元気も無かったので大した問題にはならなかった。
唯一機能していたのは冒険者ギルドを始めとした各ギルドで、元々職員の多くは他国の人間が多いらしく、(一部を除いて)OSHIOKIの対象外で『無罪、です!!』という女神直々に身の潔白を証明されてむしろ何時もより元気になっていた。
よっぽど嬉しかったらしい。
そして各ギルド間で協力体制が結ばれたことや、隣国からの協力もあって今日までの間にどうにか王都の機能の復旧に目途がたったようだ。
「――――予定より遅れてしまったが、これより会談を始めるのである!」
そして今朝、ようやく冒険者ギルド間での会談が始まった。
予定よりも2日遅れての開催だ。
ちなみに、ここのグランドマスターには神罰は下らなかったようだ。
けど、息子にはしっかりと下ったようだ。
「うわ~ん!!親父~~~!!どうしよう~~~!!」
「女神様を怒らせたお前が悪いのである!」
「斧が持ち上がらねえ~~~!!魔法が使えねえ~~~!!魔獣怖い~~~!!」
「情けないのである!!泣いてないで皆に協力するのである!!」
なんて一幕もあった。
心をバキッと折られた息子は暫くギルドで雑用をする事になった。
「女神様に手を煩わせてしまい申し訳ないのである!お供えをするのである!」
そしてグランドマスターは、自身の信仰の対象にネメシスを加え、自費で神殿モドキを建てて祭るようになった。
実際、今回の件でネメシスは大量の信者を獲得していた。
特にこの国を嫌っている他国からはわんさかと!
ある意味、今回一番得したのは彼女かもしれない。
そして今、予定が大きく変わった会談が進む中、冒険者の親善試合が始まろうとしていた。
「これより、親善試合を始めるのである!」
親善試合は総本部の訓練場の1つで予定より規模を縮小されて行われた。
他の訓練場は臨時の資材置き場になっているのと、王都の冒険者の大半がOSHIOKIを受けて再起不能になって親善試合への参加者が激減してしまったのだ。
まあ、参加者と言っても観戦者だが。
「ほら、壮龍、パパを応援しようね~」
「うぅ~」
本日の壮龍は何故かご機嫌が悪いようだ。
だけど応援に来てくれてパパは嬉しいぞ♪
「フッフッフ!俺の使い魔を見せてくれる!」
そして俺の対戦相手だが、フードで素顔を隠した自称「謎の男」さんだった。
杖を持っていたから魔法使いみたいだけど、その辺の魔法使いよりは幾分腕が立つのがなんとなく分かる。
そして試合開始、最初に動いたのは謎の男さんだ。
「――――現れよ!空を舞いし炎熱の竜よ!」
『ギャオオオオオオオ!!』
謎の男さんはドラゴンを召喚した。
成程、サモナーさんだったのか!
「おお!竜種を使役しているのか!!」
「《召喚魔法》の使い手か!?」
「できるものなのか?竜種だぞ!?」
ダーナ大陸サイドの皆さんは驚きを隠せないようだ。
当然だろう。
向こうじゃ、ドラゴンを使役する冒険者は俺以外にいないんだから。
鑑定してみたところ、フレイムワイバーンという中位クラスのドラゴンだった。
「フッフッフ!行け!俺達の力を見せつけてやれ!」
『ギャオオオオオオオオオオオ!!』
「そっちが使い魔で来るなら……行け!スライム達!」
『『ピィ!』』
俺はスライム達をドラゴンの前に出した。
コッコくんじゃないのかだって?
いや~、コッコくんて正確に言えばまだ俺の使い魔じゃないし、何より今のコッコくんが戦ったら相手のドラゴンはあの世行きだ。
スライムでも同じかもしれないけど、レベルが低い分、まだマシだろう。
「ムム!そのスライム、ただ者ではないな?気をつけろ、ワサビ!」
「何、その名前?」
ネーミングセンスはともかく、謎の男さんはスライム達の強さに気付いたようだ。
俺の方は隠しているからまだバレてないようだ。
「行け!ウルラ&ブレラ!」
『『ピィ!』』
勝負は一瞬で決まった。
スライム達の弾丸体当たり、これだけで終わった。
音速に達する体当たりでドラゴンは呆気なくダウン、生きてたけど心が折れてしまいご主人様の背後に隠れてしまった。
『ギャゥゥゥン……』
「おお、ワサビよ、そんな情けない姿では婿が来ないぞ?」
「「「メスなの!?」」」
「失敬な!ワサビは肉食系乙女だ!」
乙女ドラゴンは戦意喪失でリタイア、謎の男さんの敗北で親善試合は実に呆気なく終わった。
余談だが、この親善試合がキッカケで、冒険者の間ではスライムを使い魔にするのがちょっとしたブームになり、某おばちゃんは大儲けしたらしい。
こうして、2つの大陸の冒険者ギルド同士の交流は意外とあっさりと終わったのだった。
「うぅ~」
「結局、壮龍は何で機嫌が悪いんだ?」
「お気に入りのコッコくんを浮気神に奪われたからみたいよ?」
「ゼウスめ……(怒)」
そう、ゼウスはスライムのまま俺達の下にいる。
なにせ、あの日あの場で強制的に降臨してしまったので奥さんに見つかってしまったのだ。
しかも隣に女神が居たので状況は最悪、また浮気したと勘違いされてしまい俺の下に逃げ込んできたのだ。
俺は駆け込み寺か!
尚、スライムの状態でいる時はヘラには見つからないらしく、ヘラは現在別の世界に捜索の目を向けているそうだ。
そのゼウス、今はコッコくんの上が定位置になっている。
お蔭で壮龍はパパにも笑ってくれない。
後でお仕置きだ!
「モフモフですわ♡」
「お姉様、こっちもモフモフです♡」
『ゴ、ゴケ!?(な、何!?)』
「プリティですわ♡」
「プリティです♡」
『ゴケェ~!(勇者様~!)』
コッコくんの悲鳴が聞こえてきた。
振り向くと、2人の少女にコッコくんが抱きしめられていた。
桜色の髪をした美人姉妹だった。
『こ、これ!乱暴はよさんか!』
「姉様、この可愛くないスライム、気持ち悪いです」
「ホントですわ。可愛くないスライムはメ!ですわ」
『うお~!?』
コッコくんの背中にいたゼウスは宙に投げ出された。
「キャッキャ♪」
それを見た壮龍は笑顔になった。
よかったよかった。
「―――で、君達は誰だ?」
「無職の元王女ですわ!(ドヤ)」
「コッコくん、ください!」
「ダメ!」
「え~?」
「え~?」じゃない!
初対面で俺達のコッコくんは頂戴とはなんだ!
コッコくんが居なくなったら、壮龍が微笑んでくれなくなるだろ!
って、王女?
「―――貴様!姫様達に対して無礼だぞ!」
「姫様は僕が護る!!」
さらに騎士2名追加です。
金髪ショート騎士と小柄な少年騎士だ。
そして今度はグランドマスターもやってきた。
「これはこれは、アグネス王女殿下とカリス王女殿下!ようこそなのである!」
少女達はこの国の元王女だった。
元が付くのは、公式上ではもうアウルム王国は滅亡しているからだ。
今は隣国の2つの大国の管理下にある名も無き国であり、旧アウルム王国の王族や貴族の多くは無職になっていた。
仕事のあるグランドマスターはある意味、勝ち組という訳だ。
「――――で、その元王女が何でここに?」
「貴様!姫様に――――」
「弟子入りに来たのですわ!」
「コッコくん、頂戴♡」
『ゴ…ゴケ……!(く、苦しい……!)』
「弟子入り?あと、何度言ってもダメ!あと手を離せ!」
元・王女(妹)は何が何でもコッコくんが欲しいのか、首を両腕でしっかりとホールドしていた。
って、ちょっと待て!
ドチート化しているコッコくんが苦しいだと!?
この元・王女、どんな力をしているんだ?
「可愛いモフモフの育て方を伝授してほしいのですわ!目指せ、夢のモフモフ王国ですわ!」
「あ!その可愛いスライムも欲しい!」
『『ピッ!?』』
「だからダメ!!兎に角、順序良く説明してくれ!!」
元・王女の毒牙はスライム達にも……させん!
俺はコッコくんやスライム達を護りつつ、ギルドの応接室へと移動した。
ん?
何か、忘れてる気が……気のせいか?
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――応接室――
「つまり、可愛いは正義ですわ!世界には、もっと可愛いものが溢れているべきなのですわ!」
「このモフモフ尻尾のメイド、ください!」
「ダメ!」
「なのに、父も母も全然わかってくれなかったのですわ!素晴らしいモフモフを「臭い」「汚い」と侮辱した挙げ句、私達を軟禁してモフモフを排斥していったのですわ!」
「赤ちゃん、欲しいです!」
「「絶対ダメ!!」」
「私はモフモフの神様に祈り続けました。そして、ついにその祈りは通じて王国は崩壊したのですわ!これで誰にも邪魔をされずに可愛いモフモフに囲まれてすごせますわ!」
「お兄さんも欲しいです!」
「……ちょっと、外に行きましょうね?」
「ヒッ!!」
……じ、次回に続く!
悲鳴を上げたのは誰なんでしょう?
新大陸編ももうすぐ終わりです。
既に新章も書き溜めてますが、新章からは今までより短めにする予定で、可能なら毎日更新にしたいと思っています。
今後も楽しみにしていてください。