第259話 ボーナス屋、続・傍観している
――神聖グラディウス皇国 ダクリュオン河――
その日、国境である大河の東岸で神聖グラディウス皇国軍の『銀槍師団』を始めとする7万人の兵士達は対岸側、つまりアウルム王国の光景に目を丸くした。
「………は?」
『銀槍師団』師団長、キリル=ペトラー(妻子持ち)は普段なら決して見せないような間抜け面で空を見上げていた。
皇帝より国境防衛の任務を与えられた彼は1年前から殆ど休む日も無く母国の防衛に心血を注ぎ続けていた。
部下には身分に関係なく厳しく、だが民衆には優しい彼は部下からも民からも絶大な信頼を集めていた。
今日も彼は河岸からアウルム王国軍の様子を眺めており、毎日のように挑発行為を続ける相手に怒りを通り越して呆れかえっていた。
そして昼過ぎなろうとした時、それは起きた。
「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」
空から人が降ってきた。
世界中に響き渡るかのような悲鳴と共に、何人……何百人もの人間が絶望一色の声を上げながらアウルム王国内の国境一帯に降り注いでいく。
その光景は、あまりにも現実離れし過ぎていた。
「だだだだだだだだだだだだ……ダズゲデエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
無理!!
キリルを始めとした国境にいる神聖グラディウス皇国の人々の全員が心の中でそう答えた。
対岸を見れば、向こうの兵達がパニックを起こしていた。
そして、最初の1人が地上に激突しようとするのと同時に新たな異常現象が起きた。
――――アウルム王国の大地を無数の雷が貫いた。
――――アウルム王国の大地が大爆発した×10000~
――――アウルム王国軍の兵士が吹っ飛んだ×50000
――――ゼウス神殿大神官の丸焼き(ミディアムレア)×6
――――国王の全裸ロースト(排泄物和え)
――――王妃と女騎士の半裸サラダ(すっぴん)
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――――全てのゼウス神殿が全壊した。
――――全ての貴族の屋敷が全壊した。
――――全ての離宮が全壊した。
――――全ての軍及び騎士団関係施設が全壊した。
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――――アウルム王国に巨大竜巻が発生した×1000~
――――アウルム王国の火山が噴火した×36
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以下省略
その光景を、キリルは絶句しながら眺めている事しかできなかった。
しかし、この光景に絶句しているのは彼らだけではなかった。
アウルム王国以外の11ヶ国、その全ての君主達や民衆、この大陸の不特定多数の人々がこの光景をリアルタイムで眺め、絶句していたのだ。
お仕置きはオリンポス大陸全土で生中継されていた。
公開処刑である。
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――アウルム王国 王都デウス――
「……公開処刑?」
『社会的にも抹殺する気だろう。彼奴らの不正の証拠書類が各国の首都に転送されておる』
俺は王都に残って大魔王の奥さんが始めた公開処刑を、突如王都上空に出現したモニターを通して視ていた。
何で生中継?
後になってこの国の連中が見苦しい抵抗をしてきた時の予防策……なのか?
あ、誘拐犯達が戻ってきた!
そしてなんか暴れている?
でも、奥さんには無意味だった。
「見て!彼女、また何かをしようとしているわ!」
「あ、召喚!」
俺達が見ている中で、大魔王の奥さんは誰かの召喚を始めていた。
すると、天から羽を生やした美女が光と共に舞い降りてきた。
女神だった。
――――ピロロ~ン♪
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『報告:神罰の女神ネメシス降臨!』
アウルム王国王都デウスにて、レジーナ=スプロットが契約している女神ネメシスを召喚しました。
女神ネメシスは傲慢な人間に遠慮なしに神罰を与える天罰神です。
バカには微塵も容赦しません。
マジでしません。
追記:昔、ゼウスにストーカーされて子供産みました。
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『……儂、最近ボケがきてのう~?』
「誤魔化さないの!この女の敵!!」
『ヒヒハ~~~~~!?』
「奥様、この秘伝の痺れ薬をどうぞ!」
誤魔化そうとする女の敵に対し、唯花は容赦なかった。
ユニスも容赦しなかった。
しかし神罰の女神か……。
この場にピッタリの女神だな。
あ、何か言っている?
『――――お仕置き、Death!!』
……大丈夫か?
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――王都デウス 大神殿跡地前――
数分程遡る。
外気圏からのフリーホール、そして万を超える雷の餌食となった一同は再びこの場に戻されていた。
彼らは全員死んではいなかったがその姿は見るも無残、衣服は襤褸切れと化し、全身には自身の排泄物や吐瀉物が泥等と混じって染み付いていた。
「――――少しは反省したかしら?」
「「「―――――ッ!!(ガクブル)」」」
国王達は全身を痙攣させた。
未だに冷たいレジーナの声は既に彼らにとってトラウマになっていた。
そして一部の者達は心が完全に折れ、彼女に対して懺悔を始めていた。
(この方は神の使徒ではなく、神本人に違いない!そうでないと説明がつかない!)
(女神様だ!ゼウス様の代行で、女神様が我等を裁きに来たんだ!)
(ヒィィィィ!!ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい……!!脱税しました!!浮気しました!!子供を捨てました!!人を殺しました!!食い逃げしました!!暗殺者を雇いました!!他国の要人を殺させました!!奴隷に酷い事をしました!!余所の神様の悪口を言いました!!)
(ハァハァ……もっと、もっとこの卑しい豚を罰して下さいまし……♡)
変な趣味に目覚めた者もいた。
だが一方で、反省の色を見せない者も多くいた。
(……死刑だ!辱めにして生きている事すら公開させてから公開処刑して、その首を獣の餌にしてくれる……!!)
(か、神の加護を受けし私をよくも……!)
(あの女は油断している。その隙に首を……)
彼らの思考は筒抜けだった。
だが、レジーナはあえて彼らに対する威圧を弱め、後ろを向いて隙を見せた。
「「「死ねえええぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」
石を投げる者、魔法を撃つ者、落ちてた剣で斬りかかる者、多くの殺意が彼女を襲う。
しかし、彼女の前では全て無意味だった。
「な!?」
彼女は剣の刃を指2本で受け止め、折った。
「え!?」
彼女は襲い掛かる魔法を息で吹き消した。
「あ~~~~~~!!」
彼女に向かって投げられた石は、彼女の手前で跳ね返って彼らの急所に直撃した。
「……あれだけで全員が反省する訳がないと思ってました。一応聞きますが、貴方達は自分達が最高神ゼウスの加護を受けた特別な人間で、今も尚ゼウスに護られていると信じてますよね?」
「そ、そうだ!こんな暴挙、ゼウス様が許さないわ!!」
「許してますよ。最初から」
「「「???」」」
レジーナはある場所を一瞥する。
彼女はゼウスの存在を、士郎達の存在に気付いていた。
「おや?おかしいですね?貴方達が信仰するゼウスは、さっきからこの王都に来ていますよ?王や貴族はまだしも、聖女(笑)や神官(笑)の方々は誰も気付いてないのですか?ゼウスは、私の行為を黙認してますけど?」
「う、嘘をつくな!!神――――」
「では、その証明も含めまして、特別ゲストを呼びましょう。――《神話召喚》」
そして、オリンポス大陸の民達は奇跡を目撃する。
その神々しいオーラは王国全土を包み込み、その威圧は殆どの民を問答無用でひざまずかせた。
神罰の女神、ネメシス降臨である。
「彼女は女神ネメシス、貴方達が信仰するゼウスと関係の深い女神です。聖典にも登場する女神ですので皆さんは当然ご存知ですよね?」
国王達は今度こそ反抗する意思を砕かれた。
本能で、目の前の存在が神だと確信したからだ。
同時に一部の者は絶望する。
ネメシスは思い上がった人間に神罰を下す容赦ない女神、彼らの聖典によれば、彼女の手で滅ぼされた国や王家が幾つも根絶やしにされているのだ。
つまり、彼らは終わりである。
『――――お仕置き、Death!!』
誰も笑えなかった。
(((笑ったら死ぬ!!)))
と、悟ったのだ。
実際、ネメシスはそういう女神である。
「ネメシス、この国にゼウスの加護を持つ人は居ますか?」
『1人もいない、Death!!』
「だ、そうだけど?」
アウルムの民は絶望した。
国王も王妃も大神官も、信じていた神に愛されてない事実に絶望した。
「じゃあ、頼みましたよ」
『裁きの時間、Death!!』
そして、OSHIOKIは終盤へと向かう。
まだ続く、Death!!