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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
オリンポス大陸編
267/465

第258話 ボーナス屋、傍観している

 OSHIOKIその1です。

―――王都デウス ゼウス大神殿跡地――


「――――お仕置きね」



 『大魔王』ラートン=B=スプロットの愛妻(・・)、一部では『大魔王妃』、『大女帝』、『人類最強の女』、『クイーン・オブ・チート』と呼ばれているレジーナ=スプロットは怒っていた。


 違う世界の人間を誘拐し、私利私欲のために使い潰そうとしたこのアウルム王国に対して怒っていた。


 というか、間もなく怒りを通り越して精神が絶対零度に達しようとしていた。



「たっぷりと!」



 どうして彼女が此処に?


 それは数分前、彼女が地球の大西洋を飛んで横断している最中の事だった。


 ヨーロッパの実家からアメリカの自宅へ帰る途中、彼女はアメリカ海軍が何処かの軍艦と戦闘している海域を通過しようとしていた。


 その時、アメリカ海軍の軍艦の近くに巨大な魔方陣が出現、それを見た彼女はそれが異世界への強制転送の魔方陣だと見抜いた。


 魔法陣は海面すれすれの位置で浮かび、近くにあった軍艦を強い力で引き寄せていた。


 そして魔法陣の先からは強い“悪意”が感じられた。


 彼女はすぐに状況を理解した。



――――どこぞのバカが、またこの世界の人間を誘拐しようとしている。



 レジーナは怒った。


 自分達の問題を違う世界の人間を誘拐し、その人物に押し付けて解決しようとしている。


 彼女は基本的に「勇者召喚」を嫌っている。


 それは当然だろう。


 彼女の愛する家族、子や孫、曾孫や玄孫がほぼ毎年と言っていいほど頻繁に異世界に召喚されているのだから。


 そのうち1割は死にかけた王女や救いを求める子供が魔法や祈りで起こした至極真っ当な召喚だったが、残る9割は権力者達の勝手な都合――主に世界征服や魔族殲滅――だった。


 彼女の家族は基本的にアレなのが多いが、その一方で心優しく荒事が苦手な子も多かった。


 だからこそ、彼女は何度もキレた。


 旦那――――大魔王と一緒に。


 殆どは旦那が瞬さ…即時解決、または召喚された子供達が自力で解決したが、時には彼女も動いてOSHIOKIをした。


 そして今、彼女の目の前で新たな勇者召喚が行われている。


 しかもやっているのは、先日、彼女の玄孫を誘拐した世界だった。



「あ……!」



 魔方陣の中にミサイルが落ちた。


 軍艦が発射したミサイルの1発が魔方陣に引き寄せられ、そのまま軍艦より一足先に異世界へ行ってしまった。



「いけない!!」



 彼女の行動は速かった。


 一瞬で魔方陣の手前に移動、すぐに魔方陣に干渉、器用に《防御魔法》を異世界側に流し込んでミサイルによる死者が出ないようにした。


 誘拐犯達は許せないが、皆殺しになればいいとは思っていない。


 それ以前に、今のミサイルで関係の無い人まで死んだら理不尽すぎると思ったが故の行動だった。



「………っ!」



 そしてその作業の過程で気付いた。


 この悪意のこもった魔法陣が他にも地球上の各所に出現し、大人も子供も関係なく召喚しようとしていることを。



「…………」



 レジーナの怒りが爆発した。


 彼女の背後には業火を纏ったスタンドが出現し、意図せずしてこの海域にいるその他大勢に恐怖を与えた。


 数秒後、彼女は軍艦と一緒に魔法陣に突入、そして今に至る。



「ラートンではないけど、容赦はしません!」



 アウルム王国、終わった。







--------------------------


――????――


『ヤベエ!!』


『ヤベエ!!』



 黒幕――ヘルメスとロキは超焦っていた。


 想定外の事態、彼らにとっての天敵の1人、『最強の女』レジーナが出現したからだ。



『何でだ!?大魔王ファミリーは召喚陣を通れない設計にしたはず!?』


『しまった!きっと「大魔王の血を引いている奴」だけを通さないようになっていたんだ!それだと嫁には効かない!!』


『ヤバいぞ!!』


『ああ、ヤバすぎだ!!』



 2柱は大量の脂汗を流した。


 そして、迷う事無く決断を出した。



『『逃げる!!』』



 2柱は異世界ルーヴェルトを放棄し、異次元へ逃亡を開始したのだった。






--------------------------


――王都デウス――


「――――大魔王の奥さん?」


「あ、そうか!唯花は会ったことないんだっけ?大魔王が一瞬で黙り込む最強の奥さんだよ。超強い。けど、まともな人(・・・・・)


「え!?」



 唯花は信じられないという顔で驚いた。


 無理もない。


 あの大魔王の家族に、まともな人がいるなんて想像も出来ないだろう。


 普通は魔性の女とか、超ドSな女暴君を思い浮かべるに違いない。


 だけど、これは事実だ。


 あの人は、俺が知る大魔王ファミリーの中1番の常識人だ。


 良心なんだ!


 そしてその良心が今、この国に天罰を落とそうとしている!


 ……気がする!



『ムム!やはりあの者、儂の祖母、大地母神ガイアの契約者ではないか!!』


「マジ!?」



 ガイアって言ったら、有名な大地の神だろ!


 ギリシャ神話の原初神!


 旦那が旦那なら、嫁も嫁だな!



「あ、船が沈んでいく!」


『送還しているのう』


「あ、奥さん飛んだ!」



 地球へ帰っていく軍艦を見届け、俺は再度大魔王の奥さんに視線を戻した。


 この後何が始まるかは不明だが、取りあえずこれだけは言っておく。



「この国、終わた(笑)」






--------------------------


 レジーナの行動は迅速だった。


 この世界に到着して早々に「この世界の記憶」にアクセスし、1秒とかからずに今回の件の全体像を把握した。


 次に王国全土を物理攻撃無効&魔法攻撃無効の結界で囲んで封鎖した。


 そして、さっきから気絶しながら宙を待っている大神官や国王達を風を操作して捕らえ、地上へと下ろした。


 同時に地下に生き埋めになっている人達も土を操作して地上に出した。



「無差別誘拐犯の皆さん、バカじゃない反論なら聞きましょう。挙手してから答えてください」



 今回の犯人達を無理矢理起こし、レジーナは軽く自己紹介をしてから彼らへの形式だけの尋問を始めた。


 尚、この場には先ほど跡形もなく吹っ飛んだ王城の中にいた人や、王国内にある全ての貴族や神殿関係者も集まっている。


 彼女が《召喚魔法》で強制的に集合させたのだ。



「ふ、不敬だぞ!異世界から来た神の使徒なら我らに従え!」


「そうですわ!私は聖女で王妃なのですよ!神の使徒だろうと、これは無礼ですわよ!」


「父上と母上の言うとおりだ無礼者め!だが、今なら地に伏して謝罪すれば許してやるぞ!」


「そうだそうだ!謝れ!僕は王子だぞ!」



 国王夫妻と双子の王子、第一王子カストルと第二王子ヘクトルは微塵も反省する様子は無かった。


 ちなみに、国王の子供は庶子を含め、全部で34人おり、その半数近くは父親似だった。



「ホホホ!使徒殿はご機嫌がよろしくないようですな?」


「おお!神の使徒よ、お怒りを鎮めくだされ!」


「無理矢理召喚した事はお詫びします。ですが、これは世界の危機なのです!」


「使徒殿、貴方様には神から授かった使命があるのです!どうかご理解ください!」


「隣国から攻めてくる邪教徒達から我らをお救いください!」



 一方、神殿側はレジーナをどうにか懐柔しようとしていた。


 だが、心を読むこともできる彼女の前ではその考えも筒抜けだった。


 彼女の中で彼らへの判決が出るのにそう時間はかからなかった。



「陛下に頭を下げろ!」


「折角貴様を召喚した我らを罪人よばわりとは何という傲慢!牢に放り込んでくれる!」


「さあさ、陛下に頭を下げるのです!」


「アウルム王国は世界の覇者だぞ!覇者に罪など存在しない!」


「言うこと聞け!」


「奴隷だ!奴隷にしてしまえ!」


「貴様の世界も我らが征服してくれる!」



 言いたい放題のアウルム王国の権力者達だが、その醜い雑音は次の瞬間、彼女のたった一言で静まった。



「――――有罪(ギルティ)



 アウルム王国の空気が一瞬で凍り付いた。


 彼らはついに、自分達が崇める神よりも怒らせてはいけない相手を大爆発させてしまったのだ。



「悔い、改めなさい」



 レジーナは力を全て解放した。


 神すらビビる力の奔流がアウルム王国全土を一瞬で飲み込んだ。


 国王達は失禁した。


 中にはウ○コを漏らした者もいた。


 双子王子はショック死しそうになるが、そこはレジーナクォリティ、何人も死なせはせず、気絶もさせなかった。



「「「…………!!(ガクガク)」」」


「貴方達のした事はただの犯罪、余所の国の人を無理矢理自分達の下に拐った挙げ句、自分達の身勝手で起こした戦争に出して殺人をさせようとした。誘拐に(異世界への)監禁、殺人教唆、他にも窃盗や脅迫、数えればキリがないほどの罪を貴方達は犯した。その罪に対して反省は微塵もなし。もはや救いようが無いわ」



 大魔王さえ恐れる絶対零度の声を前に、ただのワガママ誘拐犯達が反抗することは天地がひっくり返っても不可能な話だった。


 既に彼らには股間の状態を認識できる余裕もない。



「だから、私は貴方達とこの国にお仕置きはするわ。まず2度とバカな真似をしようとは思わないように、その甘えきった性根を木端微塵に壊させてもらうわね?」


「………え?」



 それは誰が呟いたのだろうか。


 誰かがたった一言だけ声を漏らした直後、彼らの姿は地上から殆ど(・・)消えた。




「「「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」




 竜巻だった。


 大神殿跡地前の大広場に巨大竜巻が発生し、地上にいた人々を生かしたまま雲の上まで運んでいったのだ。



「――――人が我侭(・・)になる原因は様々だけど、貴方達の場合は安全過ぎた(・・・・・)から。西の一部の辺境を除き、他の国よりも魔獣の数が圧倒的に少なく、その脅威からもほぼ無縁だった貴方達はそれを当然のものと、安全と裕福が自分達にはあって当たり前だと思い、それは自分達が神に愛されているのだと慢心した。だからその根源を、慢心の大元を壊すわね?」



 レジーナは感情の欠片も感じられない冷たい声で天に向かって告げた。


 そして、罪人達への最初のお仕置きの内容を告げた。




「取り敢えず大気圏の外層――――高度約1万㎞(・・・・・・)からのフリーフォールを味わいなさい」




 普通は間違いなく人間が死んでしまう行為を、彼女は容赦せず告げるのだった。


 彼女のお仕置きはまだ続く。






 旦那と同様、奥さんも大勢の神を従えています。


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