第256話 ボーナス屋、大神殿に行く
――王都デウス ゼウス大神殿――
時刻が昼近くになり、俺達は王都の中心部に来ていた。
目の前にある大神殿で行われる勇者召喚の場にこっそり潜入するためだ。
そしてその大神殿の前に、無駄に豪華な馬車が到着し、中からこれまた無駄に派手な夫婦が出てきた。
「国王陛下万歳!!」
「王妃様~~~♡」
「アウルム王国に絶対勝利を~!!」
野次馬たちが歓声を上げる。
成程、あの派手なのがこの国の国王なのか。
国民からの指示は強いみたいだけど、俺は一目見ただけで嫌いになったな。
『この国は王も民もダメだのう』
「全員、あんたの信徒だろ?」
『崇めろとは言ってないがな。あやつ等の先祖が勝手に儂を自分達の神だと騒ぎだしたのだ』
「まんまと政治とかに利用されたってわけか」
『それはお主の世界も同じであろう。儂等のような存在を自分達の都合の良いように利用するのはどの世界でも同じであろう?』
「「確かに」」
否定はできない。
俺達の世界でも、宗教と政治は密接に関わっていて、時には“神”を利用してる奴らが結構いるからな。
『……神すら道具にするとは、人間の欲とは末恐ろしいものだ』
「全知全能を浮気に注ぐ誰かさんも、別の意味で末恐ろしいんじゃない?」
『…………』
ゼウスは反論できなかった。
視線もそらしている。
唯花は神が相手でも容赦しないな。
「嫌だわ。この神聖な場所に獣を連れてきている者がいますわ」
周囲から不快な声が聞こえてきた。
「余所者ですわ。だって着ている物が貧相ですもの」
「ゼウス様の御膝元に汚らわしい異教徒がいるなんて不愉快ですわ。神殿騎士達は何をしているのかしら?」
「誰か呼んで来て下さいまし。異教徒と同じ空気を吸うなど、神聖なアウルムの民として屈辱過ぎますわ」
「ゼウス様への冒涜ですわ!}
貴族らしい女性から始まり、周囲の人達が汚い物を見る目を俺達に向けてきた。
コッコくんやスライムを連れている俺達が相当不愉快みたいだな。
というか、ここにアンタらの崇めているゼウス本人がいるとは知らずに言いたい放題だな?
天罰が落ちても知らないぞ?
『……これが、儂の信徒……』
なんか落ち込んでる?
〈ゼウスは心にダメージを負った(笑)〉
こいつ、親の不幸を楽しんでやがる。
なんか、ギリシャ神話への評価が日に日に低下していく気がする。
殆どヘルメスのせいだが。
「貴様か!この神聖な場所を汚す野蛮な異教徒は!!」
あ、偉そうな騎士団がやってきた!
「存在価値すらない異教徒め!ここは世界で最も美しく清浄な神すら見惚れる神聖なる王都デウスであり、その中枢であるゼウス大神殿のであるぞ!この世の全ての神々の頂点に君臨する全知全能で最強無敵の最高神ゼウス様の御前を薄汚い格好で足を踏み込んだ挙句、汚らわしい獣を連れて我らが神の信徒達に苦痛を与えるとは万死に値する!大人しく我らに投降し、神聖なる裁きにて浄化されるがいい!!」
「何だその目は!?さては、偉大なる全知全能の神であらせられるゼウス様の使徒、アリストス国王陛下と聖女であらせられるエレクトラ王妃様の御命を狙った他国の間者だな?邪悪な神を崇める罪人め、貴様らの好きにはさせんぞ!!」
「まずはその獣からだ!神聖な場所を見難い異臭で汚す邪悪な存在よ。我等神殿騎士団の神聖なる魔法により跡形も無く浄化してくれる!」
なんか好き勝手言いまくってる。
周囲の民衆も騎士団に同調して俺達に好き放題言って来ている。
しかもコッコくんやスライム、そしてスライムなゼウスも敵意を向けた挙句、攻撃しようとしている。
「偉大なる神の信徒よ!アウルムの民よ!我らに仇名す邪悪な異教徒を我らが聖なる魔法で裁く雄姿をご覧あれ!!」
「「「うおおおおおおお!!」」」
「「「騎士様~!!」」」
「「「大神殿万歳!!」」」
大神殿の前に集まった数万人の人々が悪い意味で盛り上がり始めた。
死ね死ねコールまで出てきたぞ?
集団心理ってヤツか?
「悪しき獣よ!聖なる雷に裁かれよ!」
「「「《ホーリーサンダー》!!」」」
大歓声の中、コッコくん達に雷魔法が襲い掛かる。
そのコッコくんの背中にはスライムとスライムなゼウスがいる。
はい、天罰確定です!
だけど、その前に……
「――――コッコくん、やっておしまいなさい!」
『ゴケェ~!!』
「「「なっ――――!」」」
毎度お馴染み、コッコくんの超吸引力!
本日は神殿騎士団の聖な魔法(笑)を全部残さず頂きました♪
唖然とする聖なる信徒(笑)の皆さん。
「ええい!皆の者、こうなれば神聖なる剣技で裁くのだ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
神殿騎士達は剣を抜いて突撃してきた。
「ゼウス、こいつらどうする?」
『……あまり人間には干渉したくはないのだがのう』
「浮気道具を壊された腹いせに殺人未遂犯した神が何言ってるのよ?」
『あそこは半分現世じゃなかったから良いのだ』
〈浮気神は言い訳をしている!〉
『兎に角!少なくとも彼奴等は儂ではなくお主らに敵意を向けている。多少は力を貸すが――――』
「奥さんに突き出すわよ?息子の名前を使って」
〈やれ!親父!!〉
『《天罰》!!』
唯花の脅迫で、ついにゼウスが動いた!
爺さんの形をしたスライムの体が神々しく輝き出し、神殿騎士団を飲み込んだ。
・
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「「「え?」」」
神殿騎士団に耳と尻尾が生えていた。
……何したんだ?
『種族を人間から獣人に変更したのだ。人間至上主義の人間には地獄だろう。ついでに運命も弄って、自殺は不可能にしておいた。彼奴等は天命尽きるまであのままだ』
成程、確かにこれは効きそうだ。
実際、神殿騎士達は仲間の姿を見て慌てて自分の頭やお尻に手をやって顔を真っ青にした。
何人かはショックで気絶した。
「キャアアア!!獣人よ!!汚らわしい獣人がいるわよ!!」
「偽者だ!!あの神殿騎士団は悪しき忌族が化けた偽者だったんだ!きっとラウルスの刺客達だ!陛下の命を奪いに来たんだ!」
「いや、大神官や聖女である王妃様が狙いかもしれない!!」
「私達が信頼する神殿騎士団に化けるなんて……卑怯よ!!」
その他大勢は勝手にご都合解釈して神殿騎士達に憎しみの籠った視線を向けた。
何でそういう考えになる?
「ち、違う!!これは奴らが我らに呪いを……」
「近づくな忌族が!!」
「うちの子に近付くな!!」
「消えろ化物!!」
その他大勢は親善騎士団達に石を投げ始めた。
中には魔法を唱え始めている人もいる。
〈モブ達は腐っていた!〉
〈人間の醜悪博覧会だな。 byロキ〉
見ていて楽しい物じゃないのは確かだな。
「見るに堪えないわね。士郎、やっちゃって!」
「眠れ!」
俺は数万人の人々を魔法で眠らせた。
数が数なので倒れて下敷きになって死なないように立ったままに眠らせた。
「この国の人達、こんなのしかいないの?」
〈こんなのばかりである!〉
この国、酷過ぎるだろ。
こんな所に異世界人が召喚されたら、間違いなく不幸になる。
同じ異世界人としてこれは何としてでも阻止したい。
「コイツラはほっといて、大神殿に行こう!」
「国王を殺るんですね!ご主人様!」
「いや、だから殺しは無しだから!」
「いっそ滅べばいいのよ。この国」
「唯花も物騒なことを言うな!大魔王とかが召喚されたら本当に滅ぶぞ!俺達ごと!」
「………………ゴメンなさい」
大魔王が召喚されるのを想像したのか、唯花は顔を真っ青にした。
ちなみに冗談じゃなく、本気の話だ。
『ム!地下の方で強い力が渦巻き始めておる。儀式が始まったようだ!』
「何!?急ごう!」
俺達は急いで大神殿に突入した。
余談だが、遅れて大神殿に到着した信徒達が立ったまま眠っている人々を見て悲鳴を上げることになる。
そしてトラウマになる人も続出するのだが……まあ、本編には関係の無い話だ。
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――ゼウス大神殿『聖なる儀式の間』――
「では皆様、最後に召喚陣に聖なる血をお捧げください」
光輝く魔法陣を、国王一家を始めとする自称「聖なる信徒」達約100人がこれまた派手な服装姿で囲んでいる。
そしてその外側には大神殿が選んだ「選ばれし信徒」達が200人以上が儀式を見守っていた。
「「「神よ!聖なる血を供物に、我らの下に聖なる使徒を授けたまえ!」」」
国王達の指からこぼれた血が魔法陣に吸い込まれた直後、魔法陣から閃光が放たれた。
召喚が、始まったのだ。
「おお!なんと美しい光だ!」
「まあ!なんて心地よい輝きなんでしょう!」
国王達は魔方陣から放たれる閃光に見惚れていく。
そして次の瞬間、魔法陣の中心部が歪みだし、より強い閃光が部屋全体を飲み込んだ。
「その召喚、待ったあ~~~!!」
そこに勇者登場!
魔方陣に向かって神器ブリューナクを投擲した。
〈だが、少し遅かった(笑)〉
黒幕は100%面白がっていた。
そして、異世界ルーヴェルトに新たな異世界人がやってきた。
「――――あれ?シロ兄?」
「え?渉?」
そこには、勇者を兄のように慕っている小学生の少年の姿が混じっていた。
よく見ると、日本人の少年少女が何人も魔方陣の上に立っていた。
「What!?」
「何処だココは!?」
「イヤン!恥ずかしい♡」
「婆さんや、醤油を取っておくれ」
「ヒャッハ~!俺の時代来たぜ~!」
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他にも老若男女、国籍問わず、合わせて100人近い地球人が召喚されていた。
だが、召喚されたのは人間だけではなかった。
『クゥ~ン?』
「何でチワワ!?」
その中に、何故かチワワが混ざっていた。
ちなみに色は白である。
そして『勇者』である。
ロキ「ププッ♪」
ヘルメス「Ψ( ̄∀ ̄)Ψ」