第252話 ボーナス屋、観光する
――王都デウス 高級ホテル『黄金の薔薇』――
「――――今日、勇者召喚があるらしいぞ?」
「また?」
『ゴケ?(また?)』
「またらしいな?」
1夜が明け、熟睡して気分スッキリな俺は昨日の夜に届いた速報の話をしていた。
速報によれば、今日の正午に大神殿で異世界から勇者を召喚する儀式が行われるらしい。
ダーナ大陸もだが、この世界は異世界の人間を誘拐するのが大好きみたいだな。
あ、アンナちゃんは除いてだぞ?
「(ダーナ大陸の)ギルドのグランドマスターの爺さんに捨駒勇者達、あとは……ああ、ミストラル王国が召喚した大魔王ファミリーか。次は誰が召喚されるんだろうな?」
「さあ?でも、大ハズレ引いたらこの国は瞬殺ね。物理的に」
「あ、それフラグ……逃げるか?」
「無駄じゃないの?本当に大ハズレだったら逃げ場なんてこの世界どころか、三次元世界のどこにも存在しないわよ。時空を超えた流れ弾で私達も終わりかもね♪」
「その割に余裕だな?」
「別に余裕じゃないわよ?ねえ、壮龍~♡」
「あ~」
不吉なフラグを立てた唯花だが、その顔は余裕に満ちていた。
ちなみにこの場合の“大ハズレ”とは勿論、大魔王ファミリーの誰かだ。
うっかり大魔王の曾孫や玄孫が召喚されでもしたら、アウルム王国はミストラル王国の二の舞間違いなしだ。
最低でも、召喚を実行した連中は生き地獄確定だ。
先に心の中で御愁傷様とだけ言っておこう。
「それで、士郎は止めに行くの?」
「ん~、どうするかな~?同郷の人が誘拐されるかもしれないけど……」
「旦那様、私が大神殿に行って犯人達の首を―――」
「しなくていいから!」
「かしこまりました」
『ゴケゴケ~!(僕がやります!)』
「コッコくんもいいから!」
ユニス、元暗殺者だけあって血生臭いアイディアがすぐに思い浮かぶな。
怖ろしい子!
コッコくんも頑張らなくていいから!
「とりあえず、正午になる前に大神殿に(観光も兼ねて)行ってみるか?もし成功したら強制送還させればいいしな。少なくとも「隷属の首輪」なんて外道アイテムは使わせる気は無いな。こっそり壊してやる!」
「それは当然ね。誘拐された途端に奴隷なんて、私だったら死んでも嫌よ。逆に王様達に付ければいいのよ」
「主はどうするんだよ?俺は悪党の奴隷なんていらないぞ?」
「……その辺の野良犬とかでいいんじゃない?いっそのこと、お歳暮にして大魔王にあげたら?」
「……容赦ないな。お前」
「誘拐犯に容赦する必要はないのよ!被害者は召喚される人だけじゃないんだから!」
確かにその通りだ。
無理矢理異世界に召喚されたら本人は勿論、大切な人を奪われた家族や友人・恋人も被害者になる訳だ。
やっぱ、召喚されたらすぐに送還した方が良いな。
「―――だから、自分から勝手に召喚されるバカも加害者なのよ?」
「う……まだ怒ってたの?」
「何でもう怒ってないと思ったの?」
「…………」
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――王都デウス 南大通り――
王都は円形状をしていて、外壁から王城や大神殿のある中心部に向かって8本の大通りがある。
俺達が今いるのはそのうちの1つ南大通りだ。
ここは市場にも近いからか、沢山のお店が軒を連ねていて朝から賑やかだった。
「選ばれし民には是非、このゼウス像を!」
「聖なる冒険者には絶対必須!当店のゴッドソードを!」
「神の信徒は美しくなければなりません!それには当店のセイントクリームを!」
客寄せ文句がウザイ!
ここの住民はドンダケ自尊心高いんだ?
なんか、「あらあら?神に愛されている私達は最初から美しいじゃない?」とか、「良い像だ。我が家は代々敬虔な信徒だから買おう」とか言ってる。
何だココは?
商品じゃなくて自尊心を売ってるのか?
「うわ~、これはちょっと悪趣味~」
『ゴケ~(うわ~)』
唯花はとある服屋の店頭に飾ってあるドレスを見てドン引きしていた。
小林〇子も絶対着ないと確信できるほど派手なデザインのその服は、一度着たら人間としての大事な何かを失ってしまいそうな印象しか持てなかった。
他の服を見ても兎に角派手!派手!派手!派手!派手!悪趣味!派手!派手!変態!派手!だった。
「……なんだかガッカリ。折角の観光なのに、碌な者が無いわよ」
「だよな~。他に楽しめる場所とかないかな~?」
――――ピロロ~ン♪
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『観光案内:裏・王都がお薦め☆』
西大通りと北西大通りに挟まれた旧貴族街地区、通称「裏・王都」は王都デウスの隠れ観光スポット!
老朽化で王侯貴族からは無視されている地区だが、一部には建国時代から残る歴史的建造物があり、また、表の大通りでは売っていない素敵なアイテムを売っている店が数多くあります。
運が良ければ古のレアアイテムが手に入るかも?
また、地下迷宮への秘密の入口がある……かも?
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俺のチート、ガイドブックよりも便利だな♪
最後の一文の意味が微妙に分からないけど、今いる大通りよりは楽しめそうな場所らしいな。
古のレアアイテムとかって、結構そそられるし♪
早速行ってみるか!
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――王都デウス 旧貴族街『裏・王都』――
ギリシャっぽかった!
王都自体そうだが、ここは更にギリシャっぽかった!
テレビで見た旅番組とかに出てきた古代ギリシャの遺跡に似た建物が老朽化して並んでいる光景は歴史ロマン(?)を感じさせるギリシャっぽい光景だった。
「……凄いわね」
唯花も俺と同じ心境のようだ。
この地区は昔は貴族達が暮らす場所だったが、建物の老朽化などが原因でそのまま放棄されていたようだ。
今ではゴロツキ等が屯する場所になっているが、貧民街という訳じゃないらしい。
どちらかというと、闇商人とか表では商売できない人達が空き家を利用して商売をする場所のようだ。
よく見ると、怪しいエッチなお店も幾つかあった。
あ、言っとくけど入らないよ?死にたくないから。
「(――――旦那様、お気を付け下さい。建物の影に隠れて此方を見る輩が複数おります)」
「(OK!変な動きがあったら軽くお仕置きしちゃっていいぞ~♪)」
「(承りました)」
裏社会の皆さんが俺達を見張っているようだ。
まあ、見慣れない人間が歩いていたら警戒もされるだろう。
もっとも、妙な事をしても自力で何とでもできるし、何より俺の後ろには戦うチートメイドのユニスがいる。
うん、大した問題じゃない!
「あ!ねえ、あのお店ちょっと行ってみない?」
「ん?服屋か?」
俺達は唯花が興味を持った店に行ってみることにした。
門の前に『ファンションのモフモフ♡』と書かれた看板が立てられていたその店は昔は貴族の家だったらしく、小さいながらも庭や馬小屋があり、馬小屋には少々年老いた馬がいた。
庭もそこそこ手入れがされていて、下段には薬草やハーブが植えられていた。
特に危険な気配もなく、俺は入口の扉を開けて中に入った。
「ごめんくだ……」
「ニャニャニャ~~~♡」
「「「!?」」」
扉を開けると、中からネコ耳ウーマンが飛び出してきた。
ネコ耳!尻尾!
俺は信じられない存在の登場に思考がフリーズしかけた。
だって猫耳だぜ?
そんなのコスプレの世界にしか存在しないと思っていたのに目の前に居るんだぜ?
チートの頭だってフリーズしかけるに決まってるだろ♪
「久しぶりにお客にゃ~♪ゆっくりしてくにゃ~♪」
「え、あ、ちょっ……!」
「旦那様!不審者です!下がってください!」
『ゴケゴケ!(危険です!)』
「にゃ~!!刃物怖いにゃ~!!大きい鶏もこわいにゃ~!」
「おいユニス!コッコくん!落ち着け!あとユニス、耳と尻尾出てる!」
ネコ耳ウーマンを危険人物と認定したユニスがメイド服に仕込ませた短剣を取り出して斬りかかろうとするのを止める。
トサカビームを放とうとするコッコくんも止める。
突然の事に興奮したのか、ユニスの頭に犬耳が生えてメイド服から尻尾がはみ出した。
ク!相変わらずモフモフしたくなる毛並だ!
「にゃ~怖かったにゃ~!」
「何でいきなり飛び出してきたんだよ?」
「ごめんにゃ~。10日ぶりの客だから嬉しくて飛び出したにゃ~。今度からは気を付けるにゃ~」
「10日ぶりって……」
「にゃ~。獣人がこの国で商売をするのは大変なんだにゃ~」
ネコ耳ウーマン曰く、新大陸には獣人やエルフを始めとした多くの『亜人』が住んでいるが、アウルム王国は人類至上主義で亜人は差別されているそうだ。
外を歩けば白い目で見られ、時には奴隷狩りに遭うそうだ。
そんな国でどうして商売しているのかと訊くと……
「この街だと珍しい素材が手に入り易いのにゃ~。あと、夢で神様からお告げがあったんだにゃ~」
「お告げ?それって、人をバカにしたような神じゃないか?」
「にゃにゃ!?何で知ってるにゃ!」
「「「………」」」
俺と唯花、ユニスは目を合わせて溜息を吐いた。
またお前か、ヘルメス。
奴は商売の神様だし、夢の神様でもあるから夢でお告げをするのは簡単だろう。
だろ?
〈――――大正解☆〉
「にゃにゃ!?」
「「「………」」」
あっさり自白したな。
一体、何を企んでいるんだ?
〈特に意味は無かった!(気まぐれ)〉
――――ピロロ~ン♪
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マジで気紛れです。
ヘルメスは某運命の女神とお茶をしている時に現世を傍観し、気紛れで選んだ数名に対して「そうすれば彼女の運命が面白くなる!」という気紛れな理由でお告げをしました。
超気紛れ行為です。
ちなみにその後、アルテミスに矢を飛ばされました。
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アルテミス様、グッジョブ♪
それにしても、ヘルメスの共犯がロキ以外にもいたとは驚きだ。
まさか俺の人生も、奴らに弄られてないよな?
〈…………(^_^;))〉
その無言は何だ!?
「にゃにゃにゃ!神様の声が聞こえるにゃ!?何が起きてるにゃ!?」
あ~、ネコ耳ウーマンにも事情を説明した方が良いかな?
それとユニス、凶器はさっさと仕舞おうな?
「……この世界、本当に大丈夫なの?」
〈色々大丈夫じゃなかった!〉
「お前が言うな!!」