第250話 ボーナス屋、新大陸へ行く
ようやく主人公のターン!
――ファル村――
日本だと11月下旬に入った日、今日も朝が来た。
〈新しい朝が来た!〉
「五月蠅い!!」
今朝も嫌な目覚ましで起きてしまった。
ヘルメスの奴、地味に嫌がらせしてきやがる。
恐怖の女神を呼んだのを根に持っているようだ。
「さてと、今日はいよいよ出発の日だな!」
『キャメ~?』
あ、カメ!
昨日は俺の部屋で寝てたのか?
「今日はお前も行くか?」
『キャメ♪』
『ゴケ!ゴケゴケゴケッコ!(コラ!勇者様のお供は僕の役目だ!)』
「ちょ!何処から入ってきてるんだ!?」
部屋の窓からコッコくん登場!
って、今のコッコくんのサイズじゃ窓は通れ……って、壊れる!家が壊れる!!
俺の家はコッコくんの嫉妬心で全壊しそうだ~!!
〈おや?コッコくんの体が何故か膨らみだした?〉
コラ!
余計な事をするな!!
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――ファル村 冒険者ギルド――
やれやれ、神の嫌がらせで散々な朝だった。
ともあれ、今日は冒険者ギルドからの依頼でダーナ大陸の東にある新大陸に出発する日だ。
俺はダーナ大陸の冒険者代表として、ギルドの代表達と一緒に新大陸の冒険者ギルドに向かうことになっている。
家族同伴でだ。
「よしよし!今日はお出かけだぞ壮龍~?」
「あ~」
「ねえ、紙オムツも持ったの?あと粉ミルクと哺乳瓶は?」
「全部四次元倉庫に入れといたよ。てか、お前の荷物の方が圧倒的に多いんだけど?」
「……気のせいよ♡」
唯花は誤魔化しているが、今の俺の四次元倉庫の中には彼女の着替えや化粧品、その他諸々が俺や壮龍の荷物の倍以上も入っている。
ドラマとかで女性が大量の荷物を詰め込むシーンをよく見るけど、まさかリアルで見る事になるとは思わなかったな。
「シロウ殿、お待たせしました。此方の準備は整いました」
暫く待っていると、ギルドの中から十数名の男女が出てきた。
その服装は貴族ほど立派じゃないけど、安物じゃないのは一目でわかる程綺麗な服装だった。
さらに言えば、着ている人達の一部からは強者のオーラっぽいものが感じられた。
ギルドの重役らしいけど、元は冒険者の人もいるんだろう。
何人かは俺を見た途端に実力を察したのか、冷や汗を流したり顔を真っ青にしたりする人の姿もあった。
そんな中、ファル村支部長のヘルベルトさんは顔色一つ変えずに俺に近付いて挨拶をする。
「シロウ殿、本日はよろしくお願いします。ところで、そこにいるのはシロウ殿の侍女ですかな?」
「ああ、最近雇ったメイドのユニスだ」
「ユニスです。短い間ですが、よろしくお願いいたします」
俺に紹介され、メイド服を着たユニスは自然な口調で挨拶をする。
え?何でユニスがメイドになっているのかだって?
俺に訊かれても困る。
暗殺者ユニスと出会った翌日の午後、気付いたらユニスはメイド服を着て「お帰りなさいませ。旦那様」と言ってきたんだ。
詳しい内容は省くけど、村長の家に職を紹介してもらいに行ったらそのままメイド研修に放り込まれ、即席メイドに変身したみたいなんだ。
ステータスも、【職業】が『暗殺者』から『メイド』に変わっていた。
そしてそのまま勇者専属のメイドとして雇う形になり、俺は時々だがユニスをモフモフさせてもらっている。
あくまで健全の範囲でだ。
「……そうですか。やはり、勇者殿の下で働くとなると、メイドでもそれなりに腕が立たないと勤まらないのですね?色々と特技がありそうです」
「「…………」」
今、ヘルベルトさんの目が光った!
恐るべし、ヘルベルト支部長!
一目でユニスの正体を勘付きやがった!
他の代表達も、ヘルベルトさんの言葉で気付いたみたいだ。
――――大丈夫、詮索はしませんよ♡
と、ヘルベルトさんはそんな顔をした。
この人、結構腹黒い!?
「さて、そろそろ時間ですし、出発しましょう。シロウ殿、よろしくお願いします」
「あ、ああ!じゃあ、出発!」
俺はクラウ・ソラスを抜き、新大陸に向かって転移した。
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――アウルム王国 王都デウス――
移動は一瞬だった。
代表団の人達は転移装置で転移に慣れているのか驚かなかったが、俺の後ろで控えていたユニスは初めての転移に驚いて姿勢を崩しかけた。
ちょっと可愛いな♪
「……ここが新大陸…いや、オリンポス大陸ですか……」
「やはり、我々の大陸とは色々と様相が異なりますな?」
俺達は周囲の形式を見渡す。
俺は事前に情報収集をしていたから知っていたけど、新大陸の街はギリシャっぽい建物が多いな?
なんか遠くにパルテノン神殿っぽいのも見えるし、情報通り、新大陸の住民の先祖は地球のギリシャ辺り――正確にはギリシャを中心とした東ヨーロッパの一部――に住んでいた人達みたいだな。
住民の服装はトーガっぽいのではなく、基本的にはダーナ大陸の服装に近かった。
ただ、建物も服装も、共通して気になる部分があった。
「ねえ、この国って……派手過ぎじゃない?」
「だよな?」
唯花の感想に俺も同意する。
建物も人々も、一言で言うと派手だった。
建物はどんな石を使っているのか、金ピカに光るものが殆どで、壁や屋根にはドラゴンとかペガサスとかの彫刻が沢山あった。
中には宝石を埋め込んでいる建物もあった。
住民はやたらと服装が派手で、高品質の生地に派手な刺繍があるものや、これまた真珠やルビーを付けた服も多かった。
貴婦人っぽい女性は無駄に厚化粧で離れていても香水の匂いが伝わってきており、その10本の指全てにアクセサリーが嵌められていた。
ハッキリ言って、悪趣味な街だ。
そして、俺達の目の前にある建物も同様に悪趣味だった。
「……ここ、ギルドだよな?」
「転移した本人が何言ってるのよ。気持ちは分かるけど」
「う~あ~」
それは、黄金に輝く『冒険者ギルド総本部』だった。
壁には剣や槍、弓といった様々な武器の彫刻が施され、入口の前には冒険者らしき彫像が立っていた。
正直言って、痛すぎるデザインだ。
「……この国の建築様式は……ざ、斬新ですね?」
ヘルベルトさんも引き攣った顔をしている。
この中に自分達の同業者がいると思うと、複雑な心境になるんだろう。
他の代表団の人達も同じ顔をしている。
この中に入るのは相当勇気が要りそうだ。
『キャメ~』
「あ、カメ!勝手に行くなよ!」
俺達が入るのを躊躇っていると、実はさっきから俺の足元にいたカメが勝手にギルドの方へ歩き始めた。
あの中に水場でもあるのか?
『ゴケェ~!(待て~!)』
「コッコくんまで!?」
何の対抗心を燃やしたのか、これまたさっきから俺の横にスタンバイしていたコッコくんがカメの後を追ってギルドに突入していった。
仕方がない。
ここは覚悟を決めて行くとしますか!
『フハハハハハハ!!よくぞ来たな冒険者共!!』
入ろうとした瞬間、彫像が野太い声で喋った。
何、この無駄な機能?
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――冒険者ギルド総本部――
「高級ホテルかよ?」
俺の素直な感想通り、ギルドの中はどこぞのセレブが泊まるような高級ホテルのロビーみたいだった。
噴水あり、大理石の床あり、セクシーなお姉さんありの豪華な場所だった。
中に入る冒険者達も高そうな装備品を身に着け、見た目だけなら強そうな人ばかりだった。
「おい!ここは貧乏人のガキが来るところじゃねえぞ!」
そしてテンプレに絡んでくるオッサンもいた。
俺は丁重にに追い返し、代表団と共に受付の所へ行ってここの責任者に取り次いでもらった。
「ホホホ!これはこれは、遠い所から遥々ようこそお出で下さいました。私は総本部の秘書長をしております、ニコレッタといいます。随分とお早いご到着でございますね?」
「ええ、私どもの極秘の移動手段を使いましたので。詳細は秘密ですが」
「……そうですか。私どものところにも極秘の凄い秘法がありますが、そちらにも似たようなものがあるのですね。ホホホ、それではグランドマスターのお部屋にご案内させていただきます。ギルド内は複雑な構造になっていますので、私から離れないでくださいね?」
「はい、分かりました」
俺達はオバサンっぽいお姉さん秘書の案内の下、ギルドの中を移動する。
秘書さんは平静を装っているつもりみたいだけど、さっきの言葉からも俺達を見下しているのが伝わってくる。
「私達のギルドの方が格上よ!」、「どうせ、大したことないんでしょ?」という胸の内の声が簡単に読み取れた。
ヘルベルトさん達も俺と同様に読み取れたようで、顔は笑ってはいるが目は笑っていなかった。
あ~あ、あれは完膚なきまでに(プライドを)叩き潰そうとしている目だ。
余談だが、ヘルベルトさんは裏では『捕食者』という二つ名で恐れられているそうだ。
〈――――フラグが立った(笑)〉
「何か言いました?」
「「「いいえ」」」
神については全員自然に流しつつ、俺達はいよいよ新大陸のギルドのトップと対面した。
貴族の私室を思わせる豪華な部屋のソファーにその男は座っていた。
「ウオッホン!この私がこの大陸の冒険者ギルドを仕切っているグランドマスターのゲオルギオス=マルマロスである!アウルム王国に名高き五大公爵家第三位、コニアテス家の血脈に連なりしマルマロス子爵家の当主でもあるが、ここは自由を重んじる冒険者ギルドである!礼儀作法などはあまり気にせず、隣人に接するのと同じような態度で構わないのである!私は寛大であるからな!」
「「「…………」」」
「さあさ、このマルマロス家御用達の家具職人が製作した特注のソファーに腰を下ろすといい!」
なんだか面倒臭そうなオッサンがいた。
どうやらこの国の貴族らしいが、あからさまに自分を主張してきている。
この国、色んな意味で大丈夫か?
――――ピロロ~ン♪
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大丈夫じゃありません。
カウントダウンが始まってます。
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破滅のカウントダウンか?
どうやら俺が来るより前にこの国は詰んでいたようだ。
俺が半ば呆れていると、突然、後ろの扉が勢いよく開いた。
「おい!余所の大陸の冒険者が居るのはここかあ!?」