第249話 プロローグ3
――ミネラ王国――
その報せが入ったのは、国王ペトロスが愛妻と午後のティータイムを楽しんでいる時だった。
「ペトロス様!廃坑になった北の鉱山に迷宮が出現しました!神託の通りです!」
「まことか!?」
「しかも、迷宮の中にはミスリルやオリハルコンの大鉱脈があったそうです!冒険者だけでなく、地元の坑夫達は奇声を上げながら迷宮に飛び込んでいるそうです!ドワーフ達は特に凄い状態らしいです!!」
「そうか!すぐにギルドと神殿に連絡せよ!迷宮の扱いについての協議を行う!」
「ハハ!!」
報せに入った騎士が消えると、国王は何かを思いついたのか、妻にある提案をした。
「子供達を迷宮に放り込もう!」
「は?」
旦那の突然の提案に、王妃ヘルミオネは目を丸くした。
ちなみに王妃、38歳にも拘らずただいま妊娠中である。
「お前も前から心配しておっただろ?私達の子供達は何故か気弱な者ばかりだと。特にヴァイロンとゼノは次期国王候補にも拘らず臆病が目立ちすぎる。このままでは将来、いや、儂が急死でもしたら傀儡王に仕立て上げられかねない。それを防ぐ為にも、ここは迷宮に放り込んで根性を身に着けてこさせようと思うのだ。ガッハッハ!」
「……確かに、今のあの子達を見るとそうせざるを得ませんね。分かりました。親衛隊の者を何人が付け―――」
「いや、護衛は付けん!仲間は現地調達させる!」
「――――!それは幾らなんでも……」
「やり過ぎか?儂からすれば、お前の考えは甘すぎる。ここは王である以前に親として厳しくしないといかんだろ?」
「……分かりました。ここは心を鬼のようにして子供達を送りましょう」
「うむ!それでこそ儂が見込んだ妻だ!」
そしてこの会話の翌日、ミネラ王国の第一王子と第二王子、そして第一王女は強制的に迷宮送りとなった。
これを見た一部の貴族達は、王子達を上手く利用しようと企み、自分達の子供も迷宮に送り込むことになる。
だが、これは迷宮の真の恐ろしさを知らないからこそできた選択であり、貴族達の策略が上手くいく保証などどこにもなかった。
彼らが笑うのか泣くのか、それはまだ誰にも分からないのだった。
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――ラピス公国――
オリンポス大陸の東端の島国であるラピス公国。
火山の多く、火の女神を信仰するこの国にもまた、神託と同時に迷宮が出現していた。
「ヘスティア様のお告げ通り、北の火山に『迷宮』が出現したそうですね。あなた?」
「うむ。先程、魔導通信で現地の騎士団から報告が入った。便利な世の中になったものだな」
大公夫妻は今日の大神殿訪問の際に受けた神託の話をしていた。
公務で大神殿に訪問した際、案内役を務めた女性神官に女神ヘスティアが憑依し、大公夫妻に神託を告げたのだ。
内容はラウルス公国と似た内容だったが、中にはラピス公国にだけ伝えられた情報もあった。
「12ヶ国に1つずつ『迷宮』が出現し、最大12組の踏破者が選ばれるか……。このような事は前代未聞だな」
「そして十二神の内、何柱かが現在不在と言う情報……これは不用意に広めない方がよろしいですね。特にアウルム王国には」
「そうだな。自尊心の強いあの国のことだ。話したら激怒して戦争を仕掛けてくる可能性が高い。黙って放置するのが妥当だな」
夫妻は内心、厄介な情報を抱えてしまったと溜息を吐く。
「さて、世界に危機が迫っていると告げられた以上、我等も黙って椅子に座っている訳にもいかんな。打てる手を全て打つとしよう」
「分かりました。子供達にも動いてもらいましょう」
こうしてラピス公国もまた、神託を受けて動き始める。
ちなみに、アウルム王国には信託は来ていない。
何故なら、神が留守だからである。
だが、何故か『迷宮』だけは出現していた。
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――ネムス王国――
『おいでませ!デメテル大迷宮!』
収穫を終えた大農地のド真ん中にこんな看板が立っていた。
しかもオリハルコン製である。
『挑戦者募集中!
最下層を目指せ! by神』
一緒にこんな看板も立っていた。
神々しい光を放ちながら。
「神官様、これは何だべ?」
「……さあ?」
農地に立っていたので第一発見者は当然農民だった。
そして農民から神殿に伝わり、神殿から現地の領主へと伝言ゲームのように伝わってゆき、国王の耳に届いたのは翌日の正午、しかもその内容はかなり捻じ曲がっていた。
「何だと!?魔界より邪悪な大魔王が迷宮と共に現れて、女神様を人質(?)にして迷宮の最下層で勇者を待ち構えているだと!?」
ネムス王国国王メネラオスは宰相の口から出たその報告を真に受けた。
その後、国王は軍や騎士団を編成、冒険者からも傭兵を募り、国王自ら指揮を執って大迷宮へと出発するのだった。
そして国王が大迷宮の前に到着した時、看板に書かれていた文章は変わっていた。
『愚かで脆弱な人間どもよ。
お前達が崇める女神デメテルは我が預かった。
女神を解放したくば我に隷属を宣言するがいい。
それが嫌なら、この闇のの大迷宮に入り、最下層にいる我の下まで来るがよい。』
『――古き掟に縛られし闇深き大地の大迷宮――』
「おのれ魔王め!!皆の者、我に続け!!」
「「「おおおおおおおおおお!!」」」
かくして、国王主導による迷宮攻略が開始された。
だがこの10日後、誰1人として迷宮から帰ってくることは無かった。
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――ルートス王国――
大陸の北東部に位置するルートス王国はどの国よりも早く冬を迎え、王都は雪景色に覆われていた。
この国の国民の多くは、この時期になると一部を除いて労働を休むことが多くなり、年内に稼いだ収入を使って娯楽に興じる風習があった。
ルートス王国は表向きには医学や錬金術が発展した国だが、一方で娯楽が発展した国でもある。
国内各所には闘技場や賭博場があり、国内外から一攫千金を狙う者達が集まってきていた。
「フッフッフ!ロイヤルストレートフラッシュだ~!」
「うおおおお!!絶対イカサマだあああああ!!」
そしてこの賭博場でもまた、今夜もカモが全財産を搾り取られていた。
謎の美青年はカモからチップを全て巻き上げていた。
そして美青年の隣の席に初老に近い男が座った。
「おいおい、神が人から財産を巻き上げていいのか。ヘルメス様?」
「人聞きが悪いな?俺はイカサマをしている男を懲らしめただけだぜ~?お前こそ、城に居なくていいのか?国王様?」
「今日は有給休暇だ!」
美青年は神だった。
それもこの国で信仰されている神、ヘルメスだった。
そして隣に座った男はルートス王国の王、ドロンだった。
「ところで、今日は一体何の用で降臨したんだ?また賭博場を潰しに来たのか?」
「まっさか~!楽しい場所を潰すなんて馬鹿な真似、俺がするとでも思ってるのか?」
「じゃあ、何の用だ?」
「ん~、神託?」
「何で疑問形なんだ?それに神託なら神殿にいる坊主どもにすればいいだろ?」
「それは却下!今のあそこの大神官、自分の出世にしか興味がない俗物で、俺の声なんか微塵も聞こえてないんだぜ?そんな奴に神託なんてやっても無駄無駄!」
「あ~、確かに否定はできないな」
「だろ?そういう訳だから、今回は国王のお前に神託をするから?あ、そこのお姉ちゃん、酒おかわり~♪」
ヘルメスはルートス王国では自由だった。
気紛れで実体化して現れればギャンブルを楽しみ、歓楽街で豪遊する。
その一方で、稀に気に入った人物に細やかな知恵を授けたりもし、陰ながら信徒達を見守る善き神、ということになっている。
「――――という訳で、迷宮を創ったから挑戦者募集!攻略者には今ならもれなく俺の加護と神器をプレゼントだ☆」
「あっそ!じゃあ、明日にでも発表するか。あ、俺も酒おかわり!代金は農林大臣にツケといてくれ?」
「大臣、泣くぞ?今も泣いてるけど」(リアルタイム監視中♪)
「いいのいいの♪」
ヘルメスも自由だが、国王も自由だった。
そして夜が更け、ヘルメスと国王は賭博場を梯子していき、頃合いを見て別れた。
「じゃ、あとは適当に頼むな♪」
「……ヒック!ああ、適当に高額賞金をかけて冒険者を呼び寄せておく」
「そうそう、俺達のノリで魔王も用意したからその辺もヨロ~☆」
「え!おい!!」
〈そして神はいなくなった………〉
「………。ま、いっか!あとは大臣達に押し付けよう~っと♪」
国王よ、それで良いのか?
ちなみに、ルートス王国の迷宮は王都のど真ん中にあったという。
その後、冬で暇を持て余していた冒険者達は迷宮の話題に飛び付き、我先にと飛び込んでいった。
だが、彼らは知らない。
ルートス王国王都に現れた迷宮、『ヘルメス大迷宮』の難易度は他国のどの迷宮よりも遥かに高く、しかも創造者であるヘルメスの悪ふざけが結集しまくったせいで一度入った者の多くは何日経っても外に出てくることは無かった。
あまりの高難易度に挑戦者が減るかと思われたが、数少ない生還者が持ち帰った戦利品はどれも高額で売れまくり、それが更なる挑戦者を呼び寄せる結果となっていた。
「うわ~。流石は神。人間の心理をよく理解してるな?」
「陛下!今日は逃がしませんぞ!!」
「陛下!また私の名義で飲食しましたな!?許しませんぞ!!」
「退避!」
国王は年中自由だった。
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――???――
「ふう、これで迷宮の設置は完了だな!」
「おうよ!他の連中にはもっともらしい理由で誑かしたから、今のところは問題無しだ。アポロンなんか特にチョロかったぜ♪」
「こっちもデメテルのフリをして盛り上げておいたぜ!別世界から本物の魔王を拉致って迷宮に設置したから、難易度はかなり高いぜ?」
「あとは「勇者召喚」だな?」
「アウルム王国で良いだろ?2年前にもやってるし、あいつらバカだし☆「神からのプレゼント」ってことで言えば微塵も疑わないだろ?」
「決定~!で、与える召喚陣は大丈夫なんだよな?間違ってでも、『神殺し』やあの一族を召喚しないように安全策はうってあるんだよな?」
「それは勿論!対策はバッチリだぜ!ついでに、召喚される奴にはそれなりのチートが1つか2つは付くようにしてあるから、召喚された勇者はハイテンションで乗ってくれるぜ!」
「完璧だな!」
「ああ!しかも幸か不幸か、グラディウスのとこには丁度いいボスキャラが落ちてきてるから、かなり盛り上がるぜ?」
「さ~て、俺達は酒神からパクッた酒でも飲みながら高みの見物をするとしますか♡」
「お!いいね~♡」
「フッフッフ。人間達よ、世界を救う為に頑張るのだぞ?」
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「そうだ!他の国にも配ってみよう!」
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