第248話 プロローグ2
――ノックス国――
オリンポス大陸最北の国家、ノックス国は大陸で最も文明の発達した国家と言われている。
そう言われる理由はこの国に一歩でも足を踏み入れれば理解できる。
『ミネルヴァ~!ミネルヴァ中央駅に到着しました~!』
駅の構内に到着した機関車に設置されていたスピーカーから車掌の声が校内にい響き渡る。
そして機関車の中からゾロゾロと乗客が降りてくる。
ここはノックス国の首都中心部にある「ミネルヴァ中央駅」、ノックス国内を走る『魔導機関車』が集結する場所である。
ノックス国では近年産業革命が起き、魔石を利用した『魔導機関車』を始めとする多くの大発明が生まれている。
街には馬車に混じって自動車が走り、海や運河には帆船を遙かに越える速さの魔導船が水を切るように動いており、他国よりも交通インフラが発達していた。
「大統領!長旅、ご苦労様です!」
「ああ、今戻った」
機関車から降りてくる女性に集まった多くの役人や軍人が敬礼をする。
全国民の中から選ばれたノックス国の大統領、ディオナである。
ノックス国はオリンポス大陸で唯一の民主主義国家であり、その政治システムは現代の地球によく似た部分が多い。
知恵の神を信仰するこの国はあらゆる分野の学問で他国を圧倒しつつあり、政治の世界でも他国には無い法律を生み出すなど近年は変化が激しい。
元々は他国と同様に貴族制のある国家――旧国名『ノックス公国』――だったが、当時の君主や有力貴族達が柔軟な人柄であったこともあり、100年ほど前に貴族制を廃止し、大統領制に変わったのだ。
そして彼女は史上初の女性大統領だった。
「ミネラ国王との会談はいかがでしたか?」
「予定通り無事に終える事が出来た。ペトロス陛下は相変わらず豪快だったが、同時に優秀な御仁だった。ノックス―ミネラ間を結ぶ鉄道網の建設を了承してくれた」
「おお!!流石です!」
大統領の隣を歩く男は歓声に近い声を上げる。
周りにいる護衛達も笑みを浮かべながら会話を聞いていた。
「――――それで、私が留守の間に何か変わったことはあったか?」
「はい!国立ミネルヴァ大学がついに『(魔導)飛行船』を完成させました。試験飛行で首都から西岸地域を1日もかけずに往復しました」
「それは凄い!これで陸と海に続き、空の交通網にも着手できるな!」
ノックス国の文明はこの世界では(やや)チートだった。
剣や魔法のファンタジーな世界にも関わらず、機関車、自動車に続き、ついには飛行船も完成させたのである。
大統領は飛行船の完成を喜び、頭の中で今後の方針を思考しはじめる。
だがそれに水を差すかのような報告が入ってくる。
「―――大統領!アウルム王国の大使からまた我が国に技術提供を要求しています!!」
「首根っこ掴んで捨てろ!!」
「御意!!」
この国でもアウルム王国の扱いは他国と大して変わらなかった。
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――メトゥス帝国――
オリンポス大陸の中央にある大陸最大の湖、『タイタン湖』の北に位置するメトゥス帝国は女尊男卑の国家である。
政治経済も女性が筆頭となって動き、軍事に於いても女性騎士や女性将校が男の下級兵を扱きながら国家の安全を守っている。
この国の男性の地位は女性よりも圧倒的に低く、多くは家で家事をして働く女性の帰りを待ち、そうでない者も職に就いたとしても出世が絶望的な職場で延々と雑用をさせられる日々を送っていた。
だが、この国の歴史上、男性達が反乱を起こしたという記録は1つもない。
何故なら、この国の男性の多くは――――
「この愚図!!私が持ってきてと言ったのはこれじゃないわ!!ちゃんと人の話を聞いてたのかしら!?」
「す、すみませぇぇぇん!!あああ、そこを蹴らないでください~!!」
「この役立たず!!何度やっても学習しない子にはお仕置きよ!!」
「ああああ!!そ、そこは~~~!!」
――――この国の男性の過半数は、女性に虐められるのが好きだった。
そして女性は、そんな男性を痛め付けるのが好きだった。
他国からはドン引きされる国民性だった。
そしてこんな国を治めているのも当然、代々女性の帝だった。
「…………」
「女帝様、如何なされましたか?」
執務室にて、女帝メランティオス三世は不愉快な顔をしながら羊皮紙の手紙を読んでいた。
執事(Mな美男子)が淹れたお茶を一口飲むと、女帝は無言のままその手紙を破いてゴミ箱に叩き付けるように捨てた。
「アウルムの国王が私を妾にしたいといってきたわ。本当にどうしようもない国だ。いっそこの手で滅ぼすか?」
女帝はアウルム王国が大嫌いだった。
というより、メトゥス帝国は建国時からアウルム王国を敵視していた。
その原因はこの国が信仰する女神が関係するのだが、それはまた別の機会に説明する。
「まったく!本当に男というものは碌な生き物ではないな!お前もそう思うだろ?」
「……はい、自分は卑しい獣でございます。お望みとあらば、どのような仕置きも受ける所存です」
「フン!貴様に仕置きするのはもう厭きたわ!」
「そ、そんな……!!」
「今日はもう良い。下がれ」
「あぁ……そんな目で見ないで……」
「良いから下がれ!」
残念なイケメン執事を退室させ、女帝は自分以外誰もいない執務室で溜息を吐く。
メトゥス帝国女帝、メランティオス=T=R=メトゥス三世。
歴代女帝の中でも数少ない《女神ヘラの加護》を持って生まれた真の女帝であり、その美貌と爆乳で国民の心を鷲掴みにするカリスマ的存在である。
だが、彼女には人には言えない悩みがある。
「はぁ……。何処かにイイ男はいないのかしら?」
メランティオス=T=R=メトゥス三世、25歳。
ただいま結婚相手募集中の乙女である。
ちなみに、年下の男が好みである。
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――ウェヌス帝国――
メトゥス帝国の北にある国、ウェヌス帝国。
メトゥス帝国とは友好関係にあるこの国もまた、女性が主導となって国を治める国家だった。
君主は当然、女性である。
「――――息子よ、旅に出なさい」
「何故!?」
女皇アタナシアの突然の言葉に、息子である第一皇子レノスは意味が解らず説明を求めた。
ちなみに女皇の夫は、部屋の隅で末の子供の世話をしながらマフラーを編んでいる。
「今朝方、大神殿に神託が降りました。それによると、間もなくこの世界に『災厄』が訪れ、世界は破滅の危機に陥るそうです」
「それは真ですか母上!?」
「信じられぬが、真だ。そして神託では、間もなくこの大陸に外の大陸から勇者が訪れるとも告げられたそうです。ですが勇者だけでは『災厄』には勝てないかもしれない。女神様は勇者に協力するようにと、神託を受けた神官に伝えたそうです」
「それで、何故自分が……?」
「貴方が皇子だからです。昔、まだ私が儚い少女だった頃に聞いた昔話によれば勇者の仲間には皇子や皇女がお約束なのです。そういう訳で、貴方は世界を救う為に旅に出るのです」
「納得できるか!!」
「もう決定しましたので拒否は受け付けません。さあ、まずは街に出て冒険者ギルドに行きなさい!そして世界を旅をして勇者に出会うのです!」
皇子は猛反発するが、女皇の半ば職権乱用に近い強引な手段により城から追い出される。
そして公には第一皇子は重い病を患って療養中という事になり、皇子は愚痴を零しながら偽名を使って冒険者登録を行い旅に出るのだった。
だか皇子は気付いていない。
生まれて初めて帝都をウロウロと1人で歩く姿を陰から見守る者がいるということを。
「(ガンバレ、息子!!)」
「(ファイトです!皇子様!)」
「(我々が見守ってますぞ!)」
「兄上ガンバレ~!」
「(殿下!お静かに!)」
皇子の父&弟(7歳)+αは、皇子に気付かれないようにしながら同じ日に旅に出たのだった。
「ママ~、あの人達なにしてるの~?」
「シッ!見ちゃいけません!」
かなり目立っていたが。
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――ラウルス公国――
ソル帝国の北にある、国中が緑に包まれたラウルス公国は獣人が治める国である。
いや、正確に言えば人間以外の種族が多く暮らし、その中でも「獣人」と呼ばれる種族が君主の座にいる国である。
オリンポス大陸では人間以外の種族を「異種族」とは呼ばず、主に「亜人」や蔑称である「忌族」と呼んでいる。
特にアウルム王国は人間至上主義である為、彼らを人間としては扱わない風習があり、家畜や奴隷として扱われたりしている。
それに比べ、ラウルス公国はあらゆる種族が共存しており、奴隷制度も存在しない。
だが、それでも種族間のトラブルは存在する為、国の君主達はより良い国作りに日々奮闘していた。
「ふう、竜人族との交渉もこれで上手くいきそうだな?」
「そうですな。次は東のエルフとの交渉についてですが――――」
狼の獣人であるイオハンネス大公は今日も重臣達と公務に勤しんでいた。
そこへ、力任せに扉を開けて会議室に飛び込んでくる者がいた。
「父上!!」
「クリセス!!会議中は入ってくるなと言って―――」
「それどころじゃないです!!妹に、エウタリアに女神様が降りてきました!!」
「「「――――!!」」」
「何だと!?」
大公の息子の爆弾発言に場が騒然となる。
大公は迷う事無く会議室を飛び出し、愛娘の自室へと向かった。
そして、彼は女神との対面する事になる。
『――――まずは汝の娘の体を勝手に借りた事を詫びよう』
「おお……!!貴方様は……『月の女神』、アルテミス様でございますか……?」
『如何にも。私は『オリンポス十二神』が1柱、大地母神にして月と純潔、獣を司る女神、アルテミスである』
その部屋は神々しい光で満たされていた。
大公の8歳の長女に憑依した女神アルテミスは、慈愛に満ちた顔でその場にいる全員に視線を送り、信心深い者達は例外なく床に平伏し涙を流した。
『此度は火急の件があり、このような形でそなた達の前に現れた。私も現世には長く留まる事が出来ぬゆえ、早速ではあるが神託を与える』
「は、ははっ!!」
『――――この大陸に『災い』が訪れる。邪悪な神々がこの世界を滅ぼしにくる』
「なっ―――!!」
『その神々は、先日、ここより西にある大陸を闇で覆い滅ぼそうとした。だが、勇敢なる者達によって破滅は阻止された。その者達がもうすぐこの大陸に訪れる。ラウルスの王よ、私はこの世界とそなた達を愛しておる。故に、邪悪な神々の手で滅びることを善しとは思わない。だが、制約があるため私が直接動くことはできぬ。だが、力を貸すことはできる。ラウルスの王よ!』
「はは!!」
『私は今より、『試練』を与える。ここより西の森に『試練の迷宮』を創り、最初に最奥に至った者達に私の加護と『神器』を与える。汝はこれを民に伝え、試練を受ける者を集うのだ』
「お、仰せのままに!」
『既に他の神達も神託を与えている。他の国の……と心と力を…せ、世界を救う……。既に敵……いて…る。急いで………』
「アルテミス様!?」
神託はそこで終わり、公女の中からアルテミスは消えた。
直後、宮殿を小さな地震が襲うが大公達は誰も気に留めなかった。
「しょ、召集だ!貴族だけでなく、各ギルドや神殿の代表達を集めろ!」
「「ハハ!!」」
この日、ラウルス公国は女神アルテミスの神託の内容を国民達に公表し、試練を受ける者を大々的に募集する。
同日、公都の西にある森に迷宮の入り口が出現し、大公はこれを『アルテミス大迷宮』と名付けた。
腕に自信のある者達や女神の加護を欲する者達は我先にと迷宮に挑んでゆき、公都はかつてないほどの賑わいに包まれることになる。
だが、迷宮が出現したのはここだけではなかった。
明日も更新します。