第247話 プロローグ1
お待たせしました!
いよいよ「新大陸編」の始まりです!
――アウルム王国――
ダーナ大陸より遥か東方にある大陸、オリンポス大陸。
歴史こそ若干ダーナ大陸より短いが、人口は此方の方がやや上回っている。
ダーナ大陸よりも(《回復魔法》も含めた)医療が進んでいるため、乳児の死亡率が低いのが要因なの1つであり、他にも出生率自体が高いというのもある。
大陸内には島国も含めて12の国家があり、国によって異なる神を信仰している。
そして信仰の影響もあり、国によって文化や国民性も大きく異なっている。
ここ、アウルム王国の場合、『主神ゼウス』という全知全能の神々の王を信仰しており、国民全体を見ても自尊心がやや強過ぎる傾向にある。
12ヵ国中最古の国家というのもあるせいか、他国を「アウルム王国を裏切った者の国」、「愚か者どもの国」などと見下す者も決して少なくはない。
特に王侯貴族の場合、8割以上が「我らは偉い!!」と言った感じの者ばかりで占められている。
そのせいもあり、表では煌びやかな国だが、裏では脱税や収賄などといった犯罪が年中豊作状態になっている。
更に近年は貧富の格差が大きくなり、各都市部には幾つものスラム街があり、辺境の農村では高い税で苦しめられる農民が沢山いた。
だが、先に説明した通り、「アウルム王国の民は選ばれた民!」という思想が蔓延している為、他国に逃げたり反乱を起こしたりする者は殆どいなかった。
というより、この国の宗教組織である「ゼウス神殿」がそうなるように仕組んでいるのだが。
・
・
・
「陛下、隣国グラディウスは此方の予想よりも早い速度で戦力を整えているとことです。数にして約6万、このままいきますと10万に達すると思われます。国境のダクリュオン河の対岸には既に1万を超える兵が集結しているとの情報も入っております」
「フン!戦う事しか能の無いグラディウスの野蛮人共め。大人しく我らの威光に屈していればいいものを。余計な仕事ばかり増やしおって!」
「全くですな!」
「忌まわしい神を崇める異教徒には、我らの崇高な志が理解できないようですな。嘆かわしいことです」
国王アリストス二世に貴族達も同調する。
国王が国王なら貴族も貴族、皆例外なく「我らSUGEEE!!」、「アウルム王国超最強!超最高!」と考えている輩ばかりだった。
ある意味、既に詰んでいた。
「――――最大の敵国である神聖グラディウス皇国を我が王国の属国にし、我らこそがオリンポスの真の宗主であることをしらしめようぞ!」
「はは!!」
「彼の国の愚帝に正義の鉄槌を!」
「偉大なるゼウス様の使徒である陛下こそ人の世の王!異教徒の王などけちらしましょう!」
「アリストス二世陛下万歳!!」
「アウルム王国に永久の栄光あれ!」
こんな感じでアウルム王国は戦争の準備を進めていく。
敵は東の隣国、神聖グラディウス皇国。
オリンポス大陸最大の軍事大国であり、アウルム王国の最大の敵対国でもある。
「ところで陛下、西のダーナ大陸から親書が届いておりますが、如何様に?」
「あ~、どうせ田舎者の駄文だ。その辺に置いておけ。今は田舎の大陸よりもグラディウスだ」
「御意」
「異大陸のサル共など、ギルドに任せればよい。所詮は我等の足元にも及ばぬ異民族。放っておいても、すぐに泣き面をかいて降伏するに決まっておる」
「全くだ!」
ダーナ大陸は舐められていた。
ちなみに、アウルム王国が持つダーナ大陸の情報は勇者シロウが現れる以前の“古い情報”であり、現在のダーナ大陸に関する情報は微塵も存在しない。
彼らにとってダーナ大陸は社会も文化も自分達のそれよりも劣った劣等種が暮らす大陸であり、放っておいても簡単に全てを手に入ると思っていた。
それは王侯貴族だけでなく、神殿側も同様だった。
「ホホホ!あの田舎大陸は陛下が御手を煩わせる必要などありませんぞ!」
「おお!大神官殿!」
「ホホホ!異端の神を崇める哀れな仔羊を救うのは我等ゼウス神殿の役目でございますぞ。偉大なるゼウス様の教えにより、ダーナ大陸の民は真の神への信仰に目覚め、陛下の下に喜んで降りますぞ!」
「さすがは大神官殿であるな。しかし、布教には色々と物入りであろう。後でまた寄付金を神殿に送っておこう」
「ホホホ!流石は陛下!陛下には必ずやゼウス様の祝福がありますぞ!」
「なあに、加護を与えて下さるゼウス様のお役に立つのは王家として当然のことだ。我が王国は、全能の神の加護があってこそ発展しているのだからな!」
国王と大神官の笑い声が木霊する。
ちなみに、国王のステータスは以下の通りである。
【名前】アリストス=A=アウルム二世
【年齢】45 【種族】人間
【職業】アウルム王国国王 【クラス】ザ・自信過剰
【属性】メイン:雷 火 サブ・水 土 木
【魔力】13,000/13,000
【状態】肥満(小) 便秘(微) 高血圧(微)
【能力】攻撃魔法(Lv3) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv1) 特殊魔法(Lv1) 剣術(Lv2) 体術(Lv1) 盾術(Lv1) 弓術(Lv1) 投擲(Lv3)
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv1) 精神耐性(Lv1) 雷属性耐性(Lv1) 火属性耐性(Lv1) 毒耐性(Lv1) 麻痺耐性(Lv1) 調子者 幸運(期間限定) 絶倫 (栄枯盛衰)
お分かりだろうか?
この国王、ゼウスどころか加護そのものが無いのだ。
だが、《幸運(期間限定)》があるせいで何かと好都合が続いていたため、本人だけでなく神殿側も加護があると勘違いしているのだ。
ちなみに大神官も加護は無い。
正確にいえば2人とも幼少期は加護があったが、今はこんななので神に愛想を尽かされて加護を失ったのだ。
神も見放すアホである。
「全知全能の神に選ばれし者達よ!我が旗の下、世界をあるべき姿へと変えるのだ!まずは悪しき破壊の神の信徒の国、神聖グラディウス皇国だ!!」
「「「おおお~~~!!」」」
アウルム王国、暴走一直線である。
そしてカウントダウン開始である。
余談であるが、彼らが祀る全能の神は現在この世界にはいない。
200年程、別の世界に逃亡中である。
--------------------------
――神聖グラディウス皇国――
一方、アウルム王国の東の隣国である神聖グラディウス皇国はというと、アウルム王国の動きに頭を悩ませていた。
「皇帝陛下、アウルム王国は国内から優秀な魔法使いに召集をかけているそうです。陛下の予想通り、アリストス王は我が国を侵略する気のようです」
「……ハア。元からバカだとは思ってはいたが、まさかここまで馬鹿だとは思わなんだ。あそこの先王は自尊心こそ歴代の王と変わらず強かったが、それでも自重は出来る有能な王だった。だが、今の王は……駄目過ぎるな。アウルム王家の短所を結集させたような愚王だ」
皇帝アレクシオスは会議室の中で頭を抱えながら臣下の報告を聞いていた。
アウルム王国には散々酷評されている神聖グラディウス皇国だが、その実態はアウルム王国よりも遥かにまともな国家だった。
そもそも、この国に関する悪評の大元は現皇帝の祖父である4代前の皇帝だった。
当時の皇国は貴族同士の戦の絶えない戦国時代真っただ中だった。
このままでは国が亡びると考えた当時の若き皇帝は自ら前線に立って貴族達を粛清して行き、混乱の隙をついて攻めてきた隣国の軍勢も退ける等、国民からは「英雄帝」と讃えられたが、返り討ちに遭った他国には「戦闘狂」、「流血帝」等と呼ばれた。
ちなみに返り討ちにあった国の1つはアウルム王国である。
「全く。先の豪雨による被害の復興の為に兵を派遣したのを侵略行為と勘違いするとはな……。あの国は上から下までアホなのか?」
「「「…………」」」
皇帝の言葉に、彼を除くこの場にいる全ての人間が一斉に視線をそらす。
ここにいる全員、アウルム王国に対してほぼ同じ感情を抱いていた。
――――アウルム王国、超ウゼエ!!
彼らにとってアウルム王国は百害あって一利無しだった。
向こうが勝手に勘違いして現在は国交を断絶、そして勝手に開戦ムードになっているせいで皇国はこの1年で無駄な出費が重なっている。
軍事大国と言っても、近年は戦争する気など毛頭ない皇国にとっては怒りを通り越して呆れるしかなかった。
「向こうの目的はこの国が持つ高い軍事技術と竜騎兵だろうが……いい加減、勝手に自滅してほしいものだ」
(((まったくです!!)))
心の中で皇帝に同意する臣下一同。
その後もアウルム王国対策の話が進み、会議は次の議題に進む。
「――――とのことです。次に、先日のアネモス湖東岸地方で発生した地震の追加報告です。調査に当たった東方軍の報告によると、地震発生時、空から異常な魔力を放つ物体が東アネモス市近郊に墜落。その後、東アネモス市は原因不明の黒い霧に包まれ、外部と遮断されているそうです」
--------------------------
――ソル帝国――
アウルム王国の西にあるソル帝国では若き皇帝アナトリオスが隣国の暴走に呆れかえっていた。
「――――バカじゃねえの?」
「皇帝陛下!そのような言葉を使ってはなりませぬ!」
「良いじゃないか。ここには俺と爺しかいないんだからさ?」
「いけませぬ!由緒あるエリュトロン皇家に相応しい言葉をお使い下され!ただでさえ、6歳になられたばかりのソロン殿下が日に日に陛下の真似をするようになって……」
「元気で良いじゃねえか?やっぱ男児は元気が一番だな♪」
「陛下!!」
アナトリオスは自由な皇帝だった。
一見すれば何所にでもいそうな若者だが、その才覚は誰から見ても本物で、3年前に25歳の若さで皇位を継承した、帝国の新しい時代の象徴だった。
尚、既婚者で3人の子持ちでもある。
「バカ王国はどうでもいいが……ん?冒険者ギルドが新大陸のギルドと?」
皇帝は宰相から渡された書類の1枚に目を止める。
それは冒険者ギルドの動向についての報告書だった。
そこには、2つの大陸のギルドがアウルム王国で会談を行うと書かれていた。
「面白い!爺、俺もこの会談に参加するぞ!勿論、家族同伴で!!」
「い、いけません!!今のアウルム王国に行くのは危険すぎます!!見つかったら(バカ共に)暗殺されますぞ!!」
「分かってる!御忍びで行くし、第一、俺が奴らにやられると思ってるのか?」
「……いいえ」
宰相は説得を諦めた。
この皇帝は強い!
公にはされてはいないが、皇帝は現役の冒険者である。
それもSSランクの一流の冒険者である。
つい数年前までは悪友達とともに大陸中を冒険し、時には腐敗貴族を潰したり、暗殺されそうになっていた令嬢を助けたりもした。
その時の経験は政務でも大いに役立ち、その見識の深さは宰相を初めとする帝国の重鎮達も認めている。
そして皇帝になってからも、暇を見つけては息子や娘と一緒に下町に出たりしている。
どこぞの時代劇の主人公みたいな人なのだ。
「ついでにバカ王達を潰してくるか?」
「それは是非……ダメでございます!」
「今、賛同しかけたろ?」
「…………」
宰相は視線を逸らした。
その頭の中では、己の主君によって成敗される隣国のバカ王&バカ貴族の姿を想像していた。
だが、それは表立って口に出してはいけないので黙っているのだった。
「つ、次の報告に移りましょう!」
「誤魔化すなよ?」
「ゴホン!次はアポロン神殿からの報告です。今朝方、神託が降りたそうです」
--------------------------
――マーレ王国――
「――――ダーナ大陸の国家との条約は結べそうですの?」
「いや、アウルム王国が「独占反対!」とかしつこく抗議してくるせいでなかなか進まん。独占しているのは自分達だというのに、何を言っているのやら……」
「バカですね」
「……メラニーそれを公の場で言うのではないぞ?」
「ええ、それは分かっておりますわ。ですが、当代のアウルム王にはほとほと失望させられてばかりですわ。まあ、元より失望するほど期待はしてませんけど」
自国産の茶葉から淹れたお茶を飲みながら、マーレ王国の国王ペトロクレスは妻の容赦ない切りっぷりに冷や汗を流していた。
「バカ国の話は置いといて、実際のところ、ダーナ大陸とは友好関係を結べそうですの?」
「もう数年はかかるかもしれん。なにせ、2つの大陸は離れすぎている。しかも航路となる海域には『船喰いの魔海』がある。向こう側の船も既に何隻も行方不明になっているそうだ。こうなると、互いに親書を送る事さえ難しくなる。通商条約を結ぶのはまだ大分先になるだろうな」
「そうですか……」
国王夫妻はダーナ大陸の国家との友好関係を望んでいた。
ただ単純に仲良くなりたいという感情的な理由だけではなく、ちゃんと自国の利益を踏まえた上での希望だった。
マーレ王国は海運業が盛んな国で、その航海技術は12カ国の中で間違いなくトップである。
造船技術こそ近年は他国に追い抜かれつつあるが、航海術はまだまだ圧倒的にマーレ王国が優っており、現に他国がダーナ大陸に使者を送る際はマーレ王国に協力を要請しており、それはアウルム王国も例外ではない。
ハイリスクな航海で死にたくないので確実な手段を選ぶのは当然である。
まあ、そのお蔭でここ数年のマーレ王国の財政は黒字続きなのだが、これで友好条約が結べれば更にマーレ王国は海運で多大な利益を得る事が出来る。
国王夫妻が早期の条約締結を望むのは当然の事だった。
「しかも先日帰還した使者からの報告では、向こうの大国では戦争だけでなくクーデターも発生して混乱しているそうだ。この分だと、次に向こうから使者が来るのは暫く先になるだろう」
「そう都合よく事は運べないようですわね」
「そうだな。だが、こういう時の為の保険はある」
「冒険者ですわね?」
「ああ、まだ数は少ないが、民間にもダーナ大陸へ向かう船舶は存在する。冒険者ギルドは民間の船を利用して独自にダーナ大陸との人脈を築いているそうだ。情報によれば、近い内に向こうのギルドと会談を執り行うそうだ。それを上手く利用すれば……」
「正規のとは別ルートの連絡網を築けるというわけですわね?」
「そういうことだ」
その後、国王夫妻は信頼できる人材の選別を始める。
そして数日後、国王は旧知の冒険者を通じて自国の使者をアウルム王国にある冒険者ギルド総本部へと送るのだった。
次回は明日更新!