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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
番外編Ⅵ
252/465

第245話 Legend Of Ron 第三章 前編

・過去編の第三章です。

――ダーナ神暦1435年春 ゴリアス国――


 アルバ山脈での出来事から3ヶ月以上が経った。


 冬の間は大陸北部のほぼ全域が雪で覆われるので移動は困難であり、雪の少ない土地で育ったロン達は冬の間をゴリアス国で過ごしていた。


 幸い帝国からの追手は無く、ロン達はゴリアスの首都を拠点にし地道にギルドで依頼を受けてランクを上げて行き、装備もより良い物に買い替えて春を待った。


 そして春が来た。



「出立に相応しい晴天だな!」


「よし!出発だ!」


「うん!」



 雲一つない晴天の中、ロン達はゴリアス王から(王子と王女救出の褒美として)貰った馬車に乗って首都ドーウィンを出発した。


 中々の名馬が引く馬車は徒歩よりも遥かに早く街道を進んでいき、ロン達はゴリアス国の隣国、聖国を目指した。



――――ゴソゴソ



 荷台に余計な荷物が乗っていた事に気付かずに。






--------------------------


――同日 首都ドーウィン『グローリア城』――


「陛下!やはり城内にはおりません!」


「陛下!厨房から食べ物が盗まれたと報告が!!」


「陛下!庭園に怪しい抜け道が見つかりました!子供が通れる大きさだそうです!」



 場内は大騒ぎだった。


 それもその筈、場内に居る筈の王太子と王女が姿を消したからだ。


 最初、誰もが他国の暗部により誘拐を思い浮かべたが、報告される情報は予想を裏切る者ばかりだった。



「あ、あのう……姫様の自室にコレが……」


「見せなさい」


「は、はい!!」



 そして、王女付きの侍女が発見した手紙が彼らに確信を与える。



()の旅に出ます。捜さないでください。 フィオーレより』



 国王は開いた口が塞がらなかった。



「「「家出かよ!!」」」



 全員が大声で叫んだ。






--------------------------


――ダーナ神暦1435年 聖国――


 聖国は中立国である。


 ダーナ大陸全土の信仰されるジーア教の総本山であり、如何なる国も侵略を禁じられた場所、ロンとレオにとっては数少ない安全地帯でもあった。


 だが、新たに問題を抱えた彼らにはそれは気休めにしかならなかった。



「何でいるんだよ。バカ!」


「五月蠅い!」


「レオ様、ケンカしないでください!」


「……どうしてこうなった?」



 ロンは頭を抱え込んだ。


 馬車の中に何時の間にか忍び込んでいたゴリアス国の王太子アランと王女フィオーレ、ほぼ強制的に2人を旅の同行者にする事になったのだ。


 気付いたのはゴリアス国と聖国を結ぶ運河を渡る船の中、それも国境を超えた直後だった。



「王族(皇族)は家出が趣味なのか!?」


「私は家出じゃないわ」


「家出です。シャルル」



 ドーウィンへ逆戻りする訳にもいかず、仕方なく2人も連れて行く事になった。


 だが、ゴリアス国も無能ではない。


 ロン達が聖都に着き、主にレオ達年少組が聖都観光にはしゃいで居た頃、ゴリアス王家が飼っている伝書鳩(魔獣)がアランの下にゴリアス王からの文を届けに来た。



『迎えを出すから、そこで大人しく待っていなさい』


「「嫌!!」」


「嫌じゃないだろ!!」


『ポポッ!?』



 アランとフィオーレは居場所を知られないように伝書鳩を拘束した。


 ロン達はアランとフィオーレの駄々に溜息を吐きながら聖都を出発した。



「王子と姫は何処に!?」


「何処にも見当たりません!!」



 その後、王命によりアラン達を迎えに来た親衛隊の騎士達は、何時終わるともしれない長い鬼ごっこの鬼役をする事になったのだった。






--------------------------


――ダーナ神暦1435年初夏 クノク公国 職人都市『カーリグ』――


 2ヶ月が経ち、ロン達はクノク公国のとる都市に来ていた。


 レオと同様にアランとフィオーレも随分と逞しくなり、端から見れば冒険者の少年少女にしか見えず、誰もその正体に気付く事は無かった。



「ロン兄、何処に行くの?」


「鍛冶屋だ。この剣(・・・)について、この町の職人達なら何か分かると思ってな」



 ロンは既製品の鞘に納められた『雷光の聖剣(カラドボルグ)』を見つめながら答えた。


 アルバ山脈で手に入れた2振りの謎の聖剣。


 ドーウィンに滞在している間は一部の者がしつこく狙ってきたが、持ち主以外、特に悪意ある者は触れる事すらできず、ゴリアス王家も記録に存在しない聖剣については知らぬ存ぜぬで通し、事実上、ロン達が所有者となる事を黙認した。


 ちなみに、ロンとレオの持つ聖剣についてはドーウィンの職人や魔術師達がとにかく燃えた。


 未知なる聖剣の正体を何が何でも解明しようと冬の間はしつこくロン達に接触して研究したが、結局殆ど何もわからず仕舞いとなった。



「クノク公国は魔法研究が盛んだからな。ここの職人達なら、少しは何か解明してくれるかもしれない」



 そしてロンは町一番と名高い魔法剣職人の工房を訪れた。



「うおおおお!!何じゃこりゃああああああああ!?」


「うわっ!この人、暑っ苦しいよ。ロン兄!」


「ああ、予想外の暑苦しさだな」


「おやっさん!!こいつぁ、間違いなく伝説級の一品ですぜ!!」


「おうよ!!コイツの秘密を暴いてやるぞオメエラ!!」


「「「うっす!!」」」



 その工房の職人たちの反応は、ドーウィンの鍛冶師や魔術師達と同じだった。


 お伽噺に出てくるような聖剣を前にし、職人としての魂が噴火した火山の如く燃え上がり、半ば強制的にロン達を町に縛り付けて聖剣の解析を始めた。


 そしてその職人魂は、ついに神秘の一端を解明した。



「――――ハァハァ、この2つの聖剣は兄弟剣のようだな。見た目も能力も異なるが、素材は同じ。創り手も同一人物だろう。しかも刀身の中に組み込まれている術式は現代のものじゃなく、黎明期以前に存在したとされる神の文字、『神代文字(しんだいもじ)』を使ったものだ」


「まさか、神が創った…?」


「かもしれねえ。ただ、この両方の剣には意志があるみたいだな。大昔の遺跡で発見された武器の中には精霊を宿した物があるが、この2つはそれよりも遥かに上位にあるものだ。教会の連中が知ったら間違いなく聖遺物に認定して回収しようとするだろうな」


「………」



 ロンは只々驚く事しかできなかった。


 この町に来るまでの間、ロンもレオも聖剣の力には何度も助けられた。


 巨大魔獣を倒したり、土砂崩れから村を救ったりと、まるでお伽噺の英雄みたいな真似を何度もしてきた。


 その度に、自分達の持つ剣が自分達の予想を大きく超える物だと考えていたが、まさか神の創造物の可能性があるとまでは思っていなかったのだ。



「スゲエ!俺、絶対コイツを手放さない!!」



 レオは逆に燃えていた。



「大事にするといいぞ。コイツラは、お前らを主人と認めているようだ。これは俺の勘だが、コイツラの中にある意思はお前等以外の手に渡る事を物凄く拒絶しているみてえだな。まるで誰かに怯えている……なわけねえよな。忘れてくれ」


(それって……)



 ロンの脳裏に、聖剣を手にした時の記憶が蘇り、その時に出会った喋るドラゴンや謎の恐ろし過ぎる男の顔が思い浮かんだ。


 ロンは直感的に、聖剣達はあの時の「恐ろし過ぎる男」に怯えているのではと考えた。



「久しぶりに良い物を見せてくれた礼だ。コイツを持っていきな!」


「うわ!カッコいい!!」


「これは!」



 工房の主は、聖剣を調べさせてくれた礼にと、工房特製の(魔法の)鞘を2つくれた。


 工房の職人達の持てる全ての技術が込められた聖剣専用の鞘だった。



「こんなに良い物を……。いいんですか?」


「良い剣には良い鞘が必要だ!そこらの安物の鞘に聖剣を治めさせるなんて、俺達のプライドが許さねえ!第一、普通の鞘に入れたままだと、コイツラの力がダダ漏れになってしまう。下手をしたら、魔力を喰らう上位魔獣を引き寄せかねねえ。それはお前らも困るだろ?」


「しかし……」


「オッチャン、ありがとう!!」


「おうよ!そいつらに恥じねえ、立派な剣士になれよ!」


「うん!!」


「……ありがとうございます」



 ロンは職人達に深々と頭を下げて礼を言い、テンションが上がりまくったレオを連れて工房を後にした。



「レオばっかりズルいぞ!!」


「五月蠅い、バカ!!」


「何だと~!!」



 その夜、宿屋でレオとアランの低次元があったのは余談である。


 そして翌朝、ロン達は西に向かって町を出発した。






--------------------------


――ダーナ神暦1435年初夏 ロホ王国某街道――


 ロン達はその後も冒険者活動をしながら旅を続けていた。


 ファリアスからの追手も無く、彼らは普通の冒険者として過ごしていた。



「あの幽霊城、凄かったわね。あれはもう、城じゃなくて迷宮だったわ」


「そうですね。しかも中にいたのが全てアンデッド系で肝が冷えました。ロンとレオの聖剣がなければ、主のリッチにやられるところでした」


「いや、シャルルとエルがいなかったらあの数は倒せなかったよ」



 彼らは「幽霊城」と恐れられていた迷宮(ダンジョン)を攻略した帰りだった。


 迷宮とは、古代遺跡や無人の古城や洞窟などが特殊な条件下で変質して生まれる場所だ。


 詳細な仕組みは未だに不明だが、迷宮内の(ボス)を討伐すれば迷宮は迷宮でなくなると言われている。


 だが、古代遺跡の中には極稀にその枠に当てはまらないものも存在するらしいが、少なくともこの当時はそんな迷宮は発見されていない。



「へっへ~ん!僕とロン兄の活躍のお陰だ!アランは立ってただけ~!」


「レオ様素敵♪」


「クッソ~!何時か俺も大活躍してやるからな!」



 純粋な年少組は今日も元気だった。



「さて、まずはギルドに報告だ」



 その日の内に最寄りの町に到着したロン達は、幽霊城の攻略を報告をしにギルドに入った。


 受付で報告と報酬を受け取り、別部屋で採取した素材を売却したロン達はギルドを後にしようとした。


 その時、他の冒険者達の雑談が耳に入ってきた。



「ファリアスはかなり荒れてきてるらしいな?」


「ああ、行方不明の皇子に懸賞金が懸かったって話だ。しかも大金貨3枚(約3億円)だってよ」


「そりゃあスゲエ!」


「「――――!!」」



 レオはロンの手を握った。


 この半年以上の間に、遠い故郷の状況は大きく変化していた。


 敵はレオに高額の懸賞金をかけていたが、幸いにもレオの顔を知る者は国外には殆どいないのであまり効果は無かった。


 だが、それでもロンとレオを動揺させるには十分だった。



「クラン帝国も荒れだしてるみてえだな?」


「ああ、あそこの皇帝が急死したらしい。それで皇位を巡って血が流れてるって聞いたな」


「(何!?テオドリヒ帝が死んだだと!?)」


「(マズイですね。クランは代々皇位争いが絶えない国です。それに貴族派も何かと問題を起こす者が多いですし、周辺諸国に問題を飛び火させないといいのですが……)」



 シャルルとエルヴィスも別の雑談を聞いて動揺していた。


 家出はしたがやはり王族、世界情勢には関心が強かった。



「ムム!この依頼は俺が受けるしかないな!レオ、今度はこの仕事で勝負だ!次は俺が勝つ!」


「レオ様、向かいに美味しいお菓子屋さんがあります!」



 ゴリアス兄妹は幸せだった。


 そんな中、ロン達はギルドの職員に呼び止められた。



「すみません。「幽霊城」を攻略されたBランクパーティの『烈風の戦剣(シュトゥルム・シュヴェーアト)』の方ですよね?お話があるのですがよろしいでしょうか?」


「何ですか?」


「実は、ここから西に馬で2日ほど進んだ先にある地域で――――」



 ロン達はギルドから指名依頼を受けた。


 今いる町から西にある地域、クラン帝国との国境が近い場所で最近、人間や魔獣の変死体が大量に発見されるとの情報が入り、その調査を行ってほしいという内容だった。



「既に別の何組かのパーティが同じ依頼を受けて活動していますので、皆さんには彼らと共同で調査を行ってほしいのです。そして原因が魔獣だった場合、可能ならば討伐も行ってほしいのですが、よろしいでしょうか?」



 ロン達は相談の末、その依頼を受けることにする。


 あくまで調査がメインなので、仮に上位魔獣が出たとしても情報を持って帰れるなら逃げても問題は無いという事なので、レオ達のような子供が一緒でもまず大丈夫だろうと考えたのだ。


 そして彼らは明日から目的地へ向かう為、今夜は宿でゆっくり休もうとギルドを後にしようとした。



「あ!あとこの怪現象の発端はクラン帝国だそうですが、クラン側は断固として否定しているそうです。それに、発見されている人間の死体は何故かクランの兵士ばかりだという未確認情報もあります」


「――――!どういう事だ?」


「クラン帝国が何かを隠しているのか?」



 最後に伝えられた情報にロン達はキナ臭さを感じた。


 謎の人間と魔獣の変死体、その原因をクラン帝国は知っていて隠しているのか?


 まだ確証の無い情報に不安を抱きながらも、彼らは翌朝町を出発するのだった。




――――数日後、彼らは“ある人物”と出会う事になる。



――――世界を救う英雄の最後の1人に……






――余談――


騎士隊長「王子と姫は何処だ~!!そして愛しのポッポく~ん!!」

騎士A「ポッポくん?」

騎士B「隊長、伝書鳩の世話係も兼任してたから……」

騎士隊長「カムバ~ック!!」


アラン「鳩、豆食う?」

ポッポ「ポポッ♡」

レオ「ロン兄、僕も鳩欲しい!」

ロン「我慢しろ」



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