表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
番外編Ⅵ
250/465

第243話 とある時代の大魔王一家

転載その2


――アメリカ合衆国 某所(深夜)――


 その日の大魔王こと、ラートン=B=スプロットは上機嫌であるにも拘らず、相変わらず不機嫌そうな顔で深夜の街を歩き回っていた。


 そして何時も通りに、命知らずが彼に可愛い敵意と殺意を向けて襲い掛かってきた。



「――――――死ね!」


「―――――」



 1人の男が大魔王に向かって銃弾を打った。


 サイレンサー付きで銃声がほとんどしない銃で撃った何発もの銃弾は、全弾命中コースで大魔王の背中

に向かっていった。



「――――――雑魚が」


「グギャアッ!!??」



 だが、大魔王は後ろを振り返ることなく素手で銃弾全てを相手に向かって弾き返した。


 しかも御丁寧に、全弾急所を外させて。



「あああああああああああ!!!???」


「痛いのが嫌なら撃つんじゃねえよ、雑魚が。はあ、今日はもう寝るか?」



 今日は特に予定の無い大魔王はバーに寄る気にもなれず、溜息を吐きながら数百㎞離れた(・・・・・・)自宅へと帰ろうかと思い始めていた。



「クタバレ!!」


「調子に乗ってんじゃねえ!!」


「バローネファミリーを嘗めてんじゃねえぞ!!」



 そこにゾロゾロと銃を持ったチンピラが集まり、大魔王に向かって一斉に銃を撃ち始めた。


 だが、避ける気など微塵も無い大魔王は百発以上の銃弾全てを発砲者に返し、その場を素通りしていったのだった。


 彼らは運が良かった。


 今夜の大魔王はほんの半日前に三男の家に(大魔王の)曾孫が生まれたことからかなり上機嫌(・・・・・・)であったため、次の朝までは誰の命も奪う気など微塵も無かった。


 そうでなければ、彼らバローネファミリーはボスもろとも地獄送りにされていたのは間違いなかったのだ。



「―――――ああ、そういや明後日はジルの誕生日だったな。あのチビも17になるのか。童顔の癖に」



 今日生まれたのとは別の曾孫の誕生日を思い出し、大魔王はちょっとだけ機嫌が良くなった。


 その後、空をスキップ(・・・・・・)しながら飛んでいき、そのままニューヨークの自宅に帰って就寝したのだった。




――――後日、バローネファミリーの超自殺行為どころか、他のファミリーも道連れにしかねない行為に激怒しまくった他のマフィア達は臨時で手を組んでバローネファミリーをフルボッコにして壊滅させ、町は少しだけ平和になった。







--------------------------


――ニューヨーク 某所――


 それは某年の初夏の昼下がりに起きた。


 その日の大魔王は、公園の木陰で(世界中から集めた)150冊ほどの長編小説を読んでいた。



「オジ~ジ~!ムシ~!」


「おう。それは食える(・・・)からカゴに入れとけ。」


「ハ~イ!」



 聞いている人がいればギョッとする内容を平気で口にする大魔王。


 それを何の疑問も持たずに実行するのは、彼の曾孫の1人だった。


 今日は息子夫婦はデート、孫夫婦は仕事で留守の為、大魔王が曾孫達の面倒を見る事になった。


 普段なら通りすがりの人に押し付けている大魔王だが、200年以上の独身(ボッチ)生活の末にできた子や孫、曾孫、家族だけは溺愛していた。


 表面には出さないが、内面では既に曾孫達が玄孫を連れてくる未来を妄想していたりもする。


 故に、家族に汚い手を出す者が現れた場合、彼は世界だろうと神であろうと容赦なく潰すのだ。


 最も、最近はそんな命知らずは減少傾向にあるが。



「曾爺さ~ん!」


「曾お爺ちゃ~ん!」


「あ!ニイニイとネエネエだ~!」



 しばらくすると、大魔王の双子の曾孫達がやってきた。


 学校帰りらしく、友人達と一緒に弟と曾祖父の元へと向かってきた。


 その時だった。




―――――カァァァ……!




 突如、双子の足元に光輝く魔法陣が出現した。


 地球外の言語で書かれ、双子だけでなく彼らの友人達も光の中に閉じ込めていた。



「オジ~ジ!あれ、ピカピカ~!」


「そうだな。光ってるな」



 異常事態に対し、大魔王と小さい曾孫はマイペースだった。


 最も、魔法陣に飲まれている(ように見える)双子の兄妹はおろか、友人達も同様に平然としていた。



「わあ、またコレ(・・・・)かよ?ディック、お前んとこってホントに狙われ易いよな?」


「そうなんだよな。行って戻るのも面倒だし、壊してやるか!」


「それよりドッキリさせない?」


「それ良いな!じゃあ、反転いきま~す!」



 体が半分消えかかったところで、双子兄ことディック=スプロットは自分達を異世界へ強制転移させようとする魔法陣に無理矢理干渉、効果を反転させた挙げ句に数段階強化したのだった。


 大魔王の曾孫は、大魔王の血を正しく受け継いでいるのだ。


 そして、地球人を召喚する魔法陣は、逆に召喚しようとした異世界人を地球に召喚させたのだった。



「ピカピカ~!!」



 約1名は大興奮していた。


――――10秒後



「これは一体――――!?」




―――――その日、地球の中のアメリカの中のニューヨークに、異世界の一部が召喚された。




「ここは何所だ?勇者の召喚を行っていたのではないのか!?」


「そんな…神殿に伝わる『召喚陣』が書き換えられたというのですか!?」


「ええい!一体何が起きているのだ!?誰か説明せよ!!」


「お父様、私の勇者(ペット)は何所にいるのですか?」


「ええい!!約立たず共め!!悪しき亜人どもを滅ぼす勇者はどうした!?そしてここは何所だ!?」


「そんな……神に愛されし我ら使徒が…神の代理人である我らが失敗した…!?」


「陛下、司祭長様、やはり私達がしたことは神の怒りに触れたのではないでしょうか?そもそも、関係の無い異世界の方を利用するなど……」


「そこの巫女、平民の分際で不敬であるぞ!!身を弁えよ!!」


「そうですわ!小汚い平民は黙って王族の命に従っていればいいのです!あなた達も立ってないでここが何所か調べなさい!!}


「「は、はい、姫様!!」」


「お前達もだ!!」


「「「は!!」」」



 召喚された者達は、近くで大魔王が片目で見ているのにも気付かず、好き放題に喋りまくっていた。


 周囲の目など気にしない者ばかりなので、すぐに事情も人柄もダダ漏れ状態である。


 バカ集団だった。



「………ウゼエ。」



 大魔王は一気に不機嫌になった。


 邪魔な連中、勝手に人の曾孫を拉致しようとした犯罪者共、その癖、拉致しようとした本人によって逆召喚させられた無能共、というか静かな読書の邪魔をしやがるクズ共、ついでに曾孫との有意義な時間を汚した動いて喋るゴミ、大魔王には彼らがそのように見えていた。


 そして一瞬で喋らない()に変えようと右手を動かした時だった。



「オジ~ジ、絵本と同じ“キシ”だよ!」


「……ああ、そうだな。あからさまに騎士だな。(人格以外はな)」



 大興奮の曾孫の声で大魔王の機嫌は回復した。


 小さい曾孫は、どうやら本物の騎士に夢中のようだった。



「……欲しいか?」


「欲しい!おウチでジ~ジとバ~バを護って貰うの!」


「プッ!」



 無邪気な曾孫の発言に、大魔王は本日初めての笑顔を見せた。


 ちなみに、「ジ~ジ」とは大魔王の次男のことである。


 大魔王(父親)と同格の猛者(バケモノ)なので、天地が引っくり返っても当然ながら騎士など不要な存在である。


 ちなみに、長男は見た目も人格も普通の人で、一族のツッコみ役である。


 と、そこへ――――



「―――そこの者、この地は何処か答えよ!」


「我らは……」


「あ゛?」


「「ヒィ!!!」」




―――――その日、ニューヨーク市警は公園のド真ん中でボロ雑巾された挙句、金目の物を持たない中世風のコスプレ集団を捕まえた。



―――――同日、ハリウッドの某監督は匿名希望者から無名の役者を高額で買い取った。



 数日後、地元ゴシップ紙に「自称:王様」、「自称:王女」、「自称:異世界人」、「自称:神の代理人」といった単語が入った記事が掲載され、一部のマニアが盛り上がっていた。


 そんな中、大魔王城には新しい住人(げぼく)が増えていた。



「どうぞ、紅茶です」


「あ、どうも♪」



 メイドからティーカップを受け取ったディックは、優雅にそれを口にしていた。



「どう?この世界に慣れた?」


「す、少しは……」



 彼女は異世界人だった。


 先日、ディックに逆召喚された彼女達(・・・)は彼にお持ち帰りされ、流されるままに大魔王城のメイドとして雇われたのだった。


 ちなみに、大魔王城の入口の前では大魔王にお持ち帰りされた騎士数名が甲冑を着たまま門番をしている。


 近所の人達は何時もの事なので誰も気にはしていない。



「ニ~ニ、ご本読んで~!」



 そこへ、ディックの末弟がメイドに転職させられた元巫女を連れてやってきた、



「おいおい、これってフランス語の絵本だろ?」


「ジ~ジとバ~バのお土産!」


「フランスに行ってたのかよ。まあいいや、こっちに来い」



 ディックは膝の上に弟を乗せ、新品の絵本を開いて翻訳しながら読んでいった。


 それを横から見ていたメイド達は微笑ましく思いつつも、自分達の今後の人生について思い悩むのだった。


 しかし彼女達はまだ知らない。


 大魔王城でのメイドの労働環境は彼女達が今まで働いてきた何所よりも待遇が良く、希望すれば休日には元の世界へ帰省する事も可能なのだということを。


 尚、彼女達の世界でのメイドの給与が王族付きでも月300~500ドル(約3~5万円)に対し、大魔王城のメイドの給与は初任給で1800~2000ドル(約18~20万円)と高い上に、年2回のボーナス、3食事付きで住み込み可、有給休暇、退職金、各種保険と福利厚生、地球での戸籍発行等、至れり尽くせりだった。


 最も、その分の労働が待ってるわけであり、さらに言えば時々大魔王の本業(・・)を手伝わされる事もあるので、大魔王をよく知る者からしてみれば「ブラックじゃね?」と言いたくなるのだが、彼女達には知る由も無い事だった。



「―――――茶」


「あ、オジ~ジ!」



 と、そこへ大魔王がやってきた。


 メイド達は一斉に「お帰りなさいませ」と頭を下げる。


 そしてすぐに紅茶を淹れに向かった。



「何所行ってたんだ?」


神殺し(・・・)


「へえ」


「オジ~ジ、それな~に?」



 大魔王の手にはほのかに光を放つ人形っぽい“何か”が握られていた。



異世界の神(・・・・・)だ。後でホルマリン漬けにしておく」


また(・・)売れるのか?」


「売れるかじゃねえ、売るんだよ。俺は要らねえし、ここに置く気なんかねえからな。酒代の足しするんだよ」


『・・・う・・・!』


「黙れ、ウザエ!」


『―――――――(ピクピク)!!!!』



 意識を取り戻した“神”を握力で黙らせる。


 その光景を後ろで見ていた元巫女のメイドは真っ青になって見ていた。


 無理もない、大魔王がたった今握り締めたのは彼女達が崇拝していた神そのものだったからだ。


 気紛れに現れては神託を与える異世界の最高神、それが見るも無残な姿で握りしめられている光景は彼女にとって超ショッキングだった。



「―――ったく、神の分際で俺の所有物を拉致るのに加担するとは生意気なんだよ。精々、雀の涙ほどの銭にでもなって俺の喉を潤してろ!」


『―――――――(ガクッ!)』





―――――この日、とある異世界の1柱の神が大魔王の酒代の為に消えた。




―――――数日後、某異世界の某国は大魔王に乗っ取られた。




―――――さらに数日後、某異世界の聖職者達は崇拝する神の消滅により、全員無職になった。




―――――さらに数ヶ月後、ショッピングを楽しんでいた某メイド達は、前の雇用主達がホームレスになっているのを発見した。




―――――さらに1年後、勇者召喚の儀式を行おうとした某異世界の別の国々は、逆に北極に城ごと召喚され、米国政府によって秘密裏に処理された。




―――――某異世界は大魔王一家によって征服された。




―――――数年後、某異世界の元巫女メイドは大魔王の玄孫を出産し、故郷で幸せに暮らしていった。



――余談――


 異世界逆召喚があった数日後の話。


「…………」


「あなた、また何やってるの?今日も異世界の神様達からクレームとヘルプが私のところに届いていたわよ?」


「…………」


「……ちょっと、表に出ましょうか?」



 キングギ〇ラも真っ青になって逃げだしそうな覇気(殺気)を纏った大魔王夫人、彼女は数百年経っても根がそのまんまな夫を無理矢理外に連れ出した。 




――――その日、バミューダ海域で大魔王夫婦の世にも恐ろしい夫婦喧嘩が行われ、その際に時空が歪んで海賊や密輸船、軍用機などが巻き込まれる事件が起きた。




――――同日、夫婦喧嘩の流れ弾は時空を超え、どっかの異世界の邪神の1柱瞬殺した。




――――後日、大魔王は渋々妻に埋め合わせをした。






ラスト、少し追加しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ