第242話 『大魔王に関する暗黙ルール(ニューヨーク版)』
執筆が間に合わなかったので、急遽、同時連載の作品にあったものを転載しました。
――アメリカ合衆国 ニューヨーク――
世界有数の大都市ニューヨーク、その中のマンハッタン島の一角にある年季の入ったボロビル、否、ボロアパートは近所の人間は新参者でない限り誰もが知る場所だった。
そのアパートの名は『BMビル』。
―――――通称『大魔王城』
記録を辿れば19世紀末に建てられた普通のアパートだが、20世紀に入るとある人物によって買い取られ、以後、アパートではなく個人邸宅となっていた。
古くからその町に住む者は、大魔王城に暮らす一族のことを幼い頃から良く知っていた。
よく知っていたからこそ、そこの住人を軽い気持ちで刺激しようなどという超自殺行為は子供でも滅多にしなかった。
偶に悪ガキが度胸試しのつもりで侵入した時には、時間に関係なくビルの中からは子供の絶叫が聞こえてきたのだが、慣れ過ぎている近所の住民達は敢えてスルーしていた。
そして、この街では幾つもの暗黙のルールが存在します。
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【大魔王に関する暗黙ルール(ニューヨーク版)】
―――――ルールその1、違法薬物の売買禁止
これは言うまでも無く一般常識ですが、別の意味でも超禁止です。
これが破られた場合、その日の夜は「13日の金曜日」や「エルム街の悪夢」以上の恐怖が街全体を襲うことになるのです。
その為、住民達は子供達に対して徹底的に教育を施しています。
それでも若気の至り等が理由で手を伸ばす者もいるが、その場合は別の意味で家族は諦めます。
―――――ルールその2、マフィアの皆さんは抗争禁止
これは一般人には直接関係ないルールだが、この街を根城に…ではなく、この街周辺に関わるマフィア達にとっては鉄の掟どころか、オリハルコン並の掟となっています。
過去に何も知らずにこの街へ進出した他所のマフィアは、他のファミリーや地元住民からの再三の警告を鼻で笑って無視して営業を開始しました。
チンピラを集めたり、薬の売買を始めたり、賄賂をバラ撒いたりと自分達の勢力を伸ばす為の活動をしていきました。
数日後、身包みを剥がされた挙句、全身の毛根を死滅させられた上にボロ雑巾状態のマフィア関係者数百名がハドソン川をイカダで流されていきました。
大西洋に出る直前で保護された彼らはトラウマが刻み込まれており、二度と裏社会に戻ることはありませんでした。
尚、そのマフィアが貯えていた資産の全ては一夜にして消えたのだが、それを追及する者は警察の中にもほとんどいませんでした。
―――――ルールその3、大魔王一家へのケンカは自粛
物理的にだけでなく、運が悪い人は精神的にも地獄を見ます。
―――――ルールその4、大魔王一家を面倒事に巻き込む事の禁止
下手に巻き込んだら最後、どうなっても知りません。
誰も責任を取りません。
―――――ルールその5、子供の命は大事にしよう!
常識ですが、最近は平気で破る者も少なくはない。
半年前、とある変態が女子高生に性的暴行を行おうとした直後、街全体を最大震度5の揺れが襲い掛かり、変態は地面に減り込んで半死半生状態だった。
1年前、再婚を機に他所から引っ越してきたある夫婦は、妻の連れ子を日増しに虐待をしていったが、ある日を境に街から姿を消し、子供は無事に保護されたという事件が起きました。
後日、アフリカの奥地の原住民の村でその夫婦は発見されました。
―――――ルールその6、一般的に非常識な現象が起きても世間にはバラさない
この街では不思議な現象が毎日のように起きます。
空を見上げればドラゴンが飛んでおり、偶にドラゴン好きの子供を背中に乗せて月まで飛んで行ってくれます。
この街にはいろんな人達が訪れます。
大魔王を暗殺しようとする秘密結社の暗殺者や、『最強の名』を欲する武術家、過去の因縁でリベンジを願う荒くれ共など、地球だけでなく異世界からも多くの人々がこの街を訪れます。
時には人間だけでなく、天使や堕天使、神や悪魔が訪れて聖職者達にカルチャーショックを与えます。
休日には大魔王の結界の中限定で、ハリウッド顔負けの大バトルが繰り広げられ、地元住民達はそれを肴に酒を飲んでいます。
尚、偶に小さな子供が神や天使を拾ってきますが広い心で受け入れてあげましょう。
―――――ルールその7、異世界からの漂流者を見つけたら、警察ではなく大魔王一家に通報しましょう
この街は大魔王が住み着く以前から特異点になっています。
その為、毎年街の何処かでは必ずトラブルに巻き込まれてこの世界に流れ着いた異世界人が発見されます。
彼らはこの世界の常識には疎いので、私達にとって常識外れな行動を多く取りますが、温かい心で受け止めてあげましょう。
発見者はすぐに大魔王城へ通報し、彼らの保護を申請しましょう。
尚、発見者には謝礼が支払われる事もあります。
―――――ルールその8、大魔王以外の権力には屈しない
大魔王はその気になれば1人で地球を征服できます。
大魔王の持つ富を狙う権力者には屈せずに戦いましょう。
一晩経てば、彼らは勝手に自滅してくれます。
損害を受けた場合、翌日には加害者が何も言わずにたっぷり賠償してくれます。
夢のマイホームが手に入るかも…♪
―――――ルールその9、大魔王一家とギャンブルをしない
大魔王の一族は、先祖代々神さえ恐れるほどの運の持ち主達です。
一見草食系で幸薄そうな人でも、最後はとんでもない結果を導いてしまいます。
カモにしようとした人は破産するでしょう。
逆に普通に仲良くなった人は億万長者になるかもしれません。
仲良しになれたらの話ですが。
―――――ルールその10、ゴミはゴミ箱に
一般常識です。
大魔王城には秘密の菜園があり、そこでは植物学者が狂喜乱舞するほどの稀少な植物が育てられています。
植物は環境に敏感なので、ゴミ1つでも生育に影響を与えかねません。
自然と人としてのモラルを守る為にも、ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てましょう。
尚、過去に堂々と大魔王城の前で火のついたタバコの吸い殻を捨てた若者達はその後、サハラ砂漠で植林活動、アマゾン全域の清掃活動、ヒマラヤ山脈の清掃活動の刑が強制執行されました。
中には宇宙デブリの回収刑になった人もいます。
―――――ルールその11、大魔王はツンデレですが調子に乗らないようにしましょう
大魔王は基本的に子供には甘いです。
暇潰しの散歩中に孤児を拾ってきて自営している店で強制労働させつつも、子供に国籍を与えたり学校に通わせたりもしています。
時には生き別れた家族を見つけてもくれます。
ですが調子に乗ってはいけません。
あくまで大人と比べると子供には甘いだけで、調子に乗ると子供でも容赦しません。
過去、窃盗の常習犯である少年が大魔王に捕まった際、調子に乗った命乞いをし、その結果、文字通り本物の地獄に落とされてしまいました。
その後、窃盗少年は廃人同然の姿で(ついでに一文無しで)発見されました。
―――――ルールその12、国籍問わず、軍関係者の立ち入りは御遠慮ください
大魔王は基本的に軍人嫌いです。
第二次世界大戦中、当時はまだ幼い大魔王の愛娘が軍人に怪我をさせられて以来、大魔王は軍関係者には本当に容赦しなくなりました。
尚、大魔王の娘を傷付けた兵士は基地ごとこの世から消えました。
―――――ルールその13、大魔王城で勉強会をする場合、色々覚悟していてください
学生の中には大魔王一家の子供と友人になる者も少なくないでしょう。
時には試験勉強の為に泊りがけの勉強会を開くのかもしれませんが、その時は命がけになる事を覚悟してください。
気紛れに、大魔王が直接指導をしに来ることがありますが、それが世界史だった場合は直接現地で指導される事があります。
また、それ以外の科目の場合は超スパルタになるので精神力を全快にするなど、事前の準備を入念に行っておいてください。
そうしないと死にます。
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以上が大魔王に関する100の暗黙ルールです。
この街を訪れる際は、このルールを何度も読み返しておくことをお勧めします。
では、みなさんが無事に生身で生きて帰れることを願っています。
木曜日には最新話を更新します。