第235話 ボーナス屋、呼び出される
――ファル村 勇者の家――
〈おや?コッコのお腹が動いている?〉
「「「………」」」
俺達の視線がコッコくんのお腹に集中する。
いや、まさか……
『ゴ…ゴケ…?』
〈コッコは真実を隠蔽しようとした!〉
〈だが、勇者からは逃げられない!〉
「……コッコくん、この流れからすると、まさか?」
『………』
〈コッコは黙秘権を行使した!〉
〈勇者は却下した!〉
「……吐き出そうか?」
『……ゴケ』
〈コッコは折れた!〉
神、ウルセエ!
毎度の事ながら、全部知った上で遊んでいるから凄く腹が立つ。
後で恐怖の女神に通報する!
〈――――サラバ!〉
邪魔者は消えた。
さあ、吐くんだコッコくん!
『ゴケッ!』
『ク~ン』
「「「え!?」」」
コッコくんの口から出てきたのは可愛い子犬だった。
見た目は某中尉が飼っているブラックハ〇テ号っぽい種類の子犬だ。
こ、これはまさか……
「兄者…なのか?」
『ワン!ワンワン!』
「いや、何言っているのか分からない。だが、兄者なのだな?」
『ワン!』
「…コッコくん?」
『ゴ、ゴケゴケェ……(いえ、僕も何が起きたのか……)』
いや、やっちまった張本人が解らない訳ないだろ?
なんて思ったけど、本当にコッコくんにも何が起きたのか分からないらしい。
「龍の卵」の時もだけど、コッコくんのお腹は不思議で一杯だな。
――――ピロロ~ン♪
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『解説:子犬の刑』
半神半鶏のコッコくんに丸呑みされた罪人はコッコくんの胃袋の中で罪の浄化と裁きを受ける。
今回、暗殺者ブライアンはその過去から情状酌量の余地があった為に減刑が認められ、子犬の刑となった。
勇者の下で罪を償い続け、その罪が償われると勇者の固有能力《真・応報之絶対真理 》により元の姿へと戻る事が出来る。
尚、逃亡するとコッコくんのお腹に逆戻りする。
BP0からスタートで、500ポイントで元に戻れる。
ファイト!
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コッコくんのお腹の中は裁判所にもなっているようだ。
というか、今のコッコくんって半神半鶏なんだな。
「―――と、いう訳らしいぞ?」
「もうツッコむ気も無いわ」
「狼じゃなくて犬なんですね?」
「気にするとこそこ?」
「兄者!私も一緒に罪を償うぞ!」
『ワンワン!』
そして今日からまた家族が増えた……って、何コレ!?
知らないうちに俺に全部押しつけられる流れになってないか?
バカあたりが「勇者の家(犬+暗殺者付き)」って看板を立てそうな予感がするのは気のせいか?
「それで、他の暗殺者は?」
「理不尽の刑じゃないか?」
「兄者~!!」
『ク~ン』
その他の暗殺者については救いようが無いから忘れることにした。
ユニスとワンコも気にしてなかったし、いいよな?
〈イイんじゃね? byロキ〉
別の神がキタ!
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――翌日――
「犬待て~!猫待て~!」
『ワンワン!』
『ニャニャ!危ないものを振り回すニャ~!!』
数日後、ファル村にはチビッ子と楽しく遊ぶワンコとニャンコの姿があった。
ワンコは言うまでも無くコッコくんに食われてしまった元・暗殺者のブライアン、ニャンコの方は俺もすっかり存在を忘れていた捨駒勇者兼元・人間の滝嶋豪樹(皆覚えてる?)だ。
なんか俺が忘れている間に色々あったらしく、ニャンコの方は日に日に猫化しているようだ。
そういえば大魔王に呪われていた訳だけど、聖都の件が終わった後も未だに呪われたままだ。
大魔王の呪い、強過ぎだろ。
ちなみにワンコとニャンコのステータスをなんとなく紹介する。
【名前】ブライアン
【年齢】21 【種族】犬(人狼族)
【職業】ワンコ(Lv3) 【クラス】ファル村のワンコ(笑)
【属性】メイン:風 サブ:土 水 氷
【魔力】4,900/4,900
【状態】多分正常
【能力】犬戦法
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv2) 全状態異常耐性(Lv3) 仔犬の刑
【BP】2
【名前】滝嶋 豪樹
【年齢】17 【種族】猫(人間)
【職業】ニャンコ 【クラス】初級ケモナー
【属性】メイン:雷 サブ:風 土 木 水
【魔力】86,000/86,000
【状態】色々正常じゃないかも?
【能力】猫戦法
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv1) 風属性耐性(Lv2) 雷属性耐性(Lv2) 麻痺無効化 毒無効化 異世界言語翻訳 大魔王の呪い(極) 自尊心崩壊 虚栄心崩壊 猫化 野生本能 暴力無効
【BP】3
何からツッコむか?
ワンコはともかく、ニャンコは知らない内に変な方向に行っちゃっていた。
精神は多分大魔王によりほぼ全壊、なんか新しい世界に目覚めつつあるようだ。
いっそのこと、このままニャンコとして生きた方が幸せじゃないか?
「猫怪人待て~!」
「犬怪獣待て~!」
『ニャ~~!!』
『ワンワン!!』
「待~て~!」
放置しても大丈夫そうだな(笑)
俺は微笑ましい光景を見届けながら村の散歩に戻った。
最近は壮龍の育児もあるから冒険者業務も勇者業務も休業中、時間が開いた時はこうして村の中を散歩したりしながらトラブルが起きていないかを見回っている。
数日前のサウラ商会以降、今のところは俺に近付こうとする悪人はいないが、代わりに大陸各国の使者達がお土産片手にやってきては今後も我が国をヨロシクと言ってきた。
俺も最近は自重しているけど、全体的に見ても勇者依存が各国に広がりつつあるようだ。
このままだと凄く嫌なフラグが立ちそうな気がするから、どうにかして防がないといけないな。
ハイリスクだが、ここは最近この世界に浸透しつつある問答無用な切り札を使うしかない。
と、そこに早速今日のお客がやってきた。
「これはこれは勇者殿、私はヴァーグ国の大使でパパンと申します。今日は御日柄もよく―――」
「異世界人に甘え過ぎるとミストラル王国のように大魔王が……」
「し、失礼しました!!」
ヴァーグ国の使者は顔を真っ青にして逃げていった。
勇者召喚を行ったミストラル王国の末路についての詳細情報は各国上層部に伝わっている。
それはもう、俺のチートを駆使して事細かに伝えて、《千里眼》を持っている人がトラウマを作りかけながら見た光景をチート魔法で映像化させて各国上層部の前で公開したら皆真っ青になった。
さっきの使者も、その時に居た気がする。
お蔭で効果は抜群だ。
――――ピロロ~ン♪
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『警告:大魔王、軽く睨んでます!』
大魔王がミストラル王国からこっちを睨んでいます。
無関係な魔獣が862体と人間が188人失神しました。
大魔王の威を借りるのは程ほどにしましょう。
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同じ手は何度も使えそうにないな。
次の犠牲者は半端無さそうだからな。
無関係な皆さん、ゴメンね。
〈こうして、ダーナ大陸はマジで勇者に依存しない方向に向かって行くのだった! byロキ〉
………。
俺は気にしないで散歩を続けて冒険者ギルドの前を通ろうとしていた。
すると、ギルドの中から職員の女性が飛び出してきた。
「あ、シロウさん待ってくださ~!」
「ん?君は確か、ヴァールのギルドにいた?」
名前は知らないが、その職員はヴァールの町のギルドに居た、俺が冒険者登録を行った時に応対してくれたお姉さんだった。
金髪のポニーテールで、顔にちょっとソバカスがあるのが特徴の普通に綺麗なお姉さんだった。
「覚えてくれたんですね?昨日付けでヴァール支部からファル村支部に異動になりました。そう言えばちゃんとした自己紹介はまだでしたよね?私はトルーデ=ボームといいます。その節は説明に不備があったみたいで申し訳ありませんでした」
「ああ、あの事(*26話参照)なら気にしてないから。それより、俺に何か用があるんじゃ?」
「あ、はい!実は、支部長がシロウさんを連れて来るようにと言われたので、これから呼びに行くところだったんです!」
「支部長が?」
何やらまた何かが起こりそうな予感がする。
〈そして物語は新たな波乱を迎えようとしていた……!〉
ヘルメスよりはややマシだけど、こっちのトリックスターもやっぱウザい。
そう思う俺だった。