第234話 ボーナス屋、フラグを立てる?Ⅱ
――ファル村 勇者の家――
俺は忍者っぽい尻尾の生えた女の子を家に運んだ。
すると、家の中には先に唯花とアンナちゃん(+コッコ団)がいて、女の子を拾ってきた俺を見て何故か溜息された。
「はあ、またフラグを……」
「勇者様、優しいですから……」
「おい!人を破綻しているみたいな目で見るな!それとコッコくん、なんかお腹が膨れてないか?」
『ゴケ?(そうですか?)』→コッコ
『………』→テリヤキ
「…テリヤキちゃんは何処を見てるんだ?まあいいや。とにかく、気絶しているみたいだからベッドに寝かせるぞ!」
俺は自分のベッド…じゃなく、空いているベッドに女の子を寝かせた。
なんか、俺のベッドに寝かせようとしたら背中から恐ろしい何かが突き刺さった気がしたのは気のせいじゃないよな?
「それで、どこでバトルして拾ってきたの?」
「何でそういう話になる?」
唯花は勝手に変な推測を確信していた。
「今までの事を考えれば、どうせ勇者を狙った暗殺者か密偵を返り討ちにしたら女の子だったって流れでしょ?全く、壮龍の情操教育に悪いじゃない!」
「いやいや、全然違うから!」
「けど、職業は暗殺者みたいよ?」
「え、マジ?」
俺は慌てて忍者っぽい女の子のステータスを確認する。
すると、唯花の言うとおりだった。
【名前】『凪夜の凶刃』ユニス
【年齢】15 【種族】人狼族
【職業】暗殺者 【クラス】暗殺奴隷
【属性】メイン:闇 風 サブ:土 水 氷
【魔力】0/9,000
【状態】気絶 魔力欠乏 拘束(中)
【能力】攻撃魔法(Lv1) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv2) 隠形術(Lv2) 剣術(Lv2) 体術(Lv3) 投擲(Lv3) 百獣戦法 暗視 獣化
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv1) 精神耐性(Lv2) 闇属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv2) 土属性耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv1) 毒耐性(Lv1) 麻痺耐性(Lv1) 火傷耐性(Lv2) 凍傷耐性(Lv3) 超五感 殺戮者 契約の刻印・改
【BP】43
職業、暗殺者。
だけど、暗殺奴隷ともあるから普通の暗殺者じゃないようだ。
普通の暗殺者がどんなかは知らないけど。
「意識が無いのは魔力がゼロになったせいみたいだな?後は「拘束(中)」?」
「この、《契約の刻印・改》の効果みたいよ?」
【契約の刻印・改】
・《特殊魔法》に分類される《刻印魔法》により施された、対象の心身を設定した契約を刻み込まれた魔法。その改悪版。
・対象者に圧倒的に不利な契約を刻み込み、僅かに違反した場合でも全身に激痛が走るようになっている。
・契約者から無許可で一定以上離れた場合、強制的に拘束状態になる。
・契約内容:
1、奴隷ユニスはサウラ商会への借金5000万Dを利子を含め全額返済するまでサウラ商会の下でどんな労働でも行う。
2、奴隷ユニスはサウラ商会及び商会関係者へ危害を加える事を一切禁じる。
3、奴隷ユニスはサウラ商会及び商会関係者の命令に従い、その優勢順位は商会内の序列と同じものとする。
4、奴隷ユニスは借金返済までの間、商会からの逃亡を禁ずる。
5、奴隷ユニスは借金返済までの間、この刻印の解除を行う事を禁ずる。
・
・
・
契約内容は50項目まであったが、どれもこれも彼女に振り過ぎる酷いものだ。
中にはかなりゲスいのもあって、もう死ぬまで扱き使うぞって意志しか見えなかった。
「なんかムカつく内容だし、無理矢理消しちゃおっか?」
「でも、暗殺者よ?」
「でも、BPがマイナスじゃないから、根っから悪人ってことは無さそうだぞ?あとは俺の勘!」
「ハア……。そこまで言うならいいんじゃない?」
「勇者様は本当に優しいんですね。(特に女性には)」
2人の笑顔が少し怖いのは絶対気のせいじゃない。
ハ!
これが女の嫉妬!?
〈勇者は意外と心が余裕だった!〉
〈勇者はモテることを実感している!〉
「やるならさっさとしなさい!!」
「痛い!?」
背中蹴られた。
聞こえないけど、ヘルメスが遠くで爆笑しているような気がする。
アイツ、何時か現世に引き摺り下ろして潰す!!
だが今はこっちが先だ。
俺は《真・応報之絶対真理を起動し、新機能の〈強制シングルリセット機能〉――〈強制オールリセット機能〉とは違い、能力や補正を1単位でリセットする機能――を使って《契約の刻印・改》をリセットした。
すると「拘束(中)」がステータスから消えて、BPが20ポイント増えた。
あと、ついでに魔力もちょっとだけ分けておいた。
「ん…」
「あ、気が付いたか?」
「―――――ッ!」
「うおっと!」
目を覚ました彼女は一瞬の驚愕の後、どこに仕込んでいたのか不明なナイフを出し、俺の喉を切り裂こうとした。
俺は反射的に右手を軽く振って彼女が持っていたナイフをはらった。
いやあ、懐かしい。
この手の不意うちは大魔王にもよくやられてたんだよな。
「なっ!?」
「知らない場所で目覚めて混乱しているんだろうけど落ち着いてくれないか?あと、今赤ん坊が寝ているから大きな音も立てないでくれる?」
〈ユニスは勇者に警戒している!〉
「!?」
〈ユニスは神の声に驚愕した!〉
「あ、この声は無視していいから!」
「無視していいわよ。というか、無視した方が身の為よ」
「無視していいですよ?」
〈ユニスはちょっと混乱した!〉
「ああそれと、君にかけられていた《刻印魔法》というか契約は解除したから。あと、サウラ商会は潰れたから。理不尽によって」
「有り得ない!!」
「けど、体に何の異常もないだろ?」
「あ……!嘘、そんな!?」
〈ユニスは自由という名の無職になった!〉
「そこの神、空気読め!」
「無視よ!無視!」
「(けど、本当のことですよね?)」
「「(シ~~!!)」」
「ああああああああああああああああああああああ!!」
〈ユニスの心の糸が全部切れた!〉
〈ユニスは大混乱になった!〉
現実を理解したからか、ユニスは精神の均衡を崩してパニックを起こした。
「オギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「あ!壮龍が起きちゃったじゃない!私行ってくるわ!」
『ゴケ!』
「え?どうした、コッコくん?」
『ゴケゴケェ~!(ここは僕に任せてください!)』
唯花が泣き出した壮龍の下へ行こうとした時、コッコくんが手…じゃなく羽を上げて何かを始めた。
すると、コッコくんの羽から不思議な光が放射された。
〈コッコは《心を温める光翼》を使った!〉
〈ユニスの大混乱は治った!〉
〈壮龍は泣きやんだ!〉
コッコくん、グッジョブ♪
コッコパワーで心の傷を癒したみたいだ。
さてと、お茶でも淹れてくるか。
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村長の奥さんから分けて貰ったハーブで淹れたお茶は心を落ち着かせる味と香りだった。
お茶を飲んだユニスは、コッコパワーの効果も合わさって大分落ち着いてきた。
そして少しずつ事情を話してくれた。
「…私はクノク公国の小さな町の生まれで、家族は町で小さな宿屋を経営していた。父は少し賭け事が好きなのが玉に瑕だが真面目に働く立派な父だった。そんな父を私は母と共に支えながら、家族3人で慎ましく暮らしていた」
「それが何で奴隷に?しかも暗殺者?」
「……7年前、母が流行り病に倒れ、母の治療の為に父はサウラ商会に借金をし、私はその借金返済の為に商会へ奉公に出た」
「だけどそれが罠だったんだな?」
俺の質問に、ユニスは体を震わせながら肯いた。
「商会は人狼族の奴隷が欲しかったんだ。並の人間より強靭な肉体を持ち、闇夜での活動に長けた人狼の暗殺者に仕立てようと企んだのだ。私は奉公に出たその日に暗殺者の巣窟に放り込まれ、そこで血反吐を吐くような訓練の日々を過ごす事になった」
「逃げようとしても《刻印魔法》のせいで逃げられなかって訳だな?」
「そうだ。借金分を稼げば解放するとは言っていたが、商会は高い利子で借金を膨れ上がらせて、今では一生かかっても返済できない額にまでなっていた。最初は500万だったのが、今では5億に……」
「いやいや、刻印の中にあった借金の最初の額は5000万だったぞ?」
「なっ………!」
ユニスは絶句した。
サウラ商会、本当に悪質だな。
「そもそも、返済させる気なんて微塵も無かったみたいね?」
「酷過ぎます!ユニスさんが可哀想過ぎます!」
「大丈夫だよアンナちゃん。もうサウラ商会はこの世から消えたから」
「勇者様が懲らしめたんですね!」
「…いや、俺じゃなくて……」
「流石勇者様です!」
「そ、そうなのか?いや、勇者なら、これだけ強大な力を持っているなら可能、か?」
「いや、だから……」
〈勇者は困った!〉
やかましい!
お前は黙っていろ!
「というか、お前らはよく無事だったよな?サウラ商会の連中、お前らを攫おうとしてたみたいだぞ?」
「え!そうなんですか!?」
「全然気付かなかったわ。あ、でもそういえば一緒に散歩してたカメちゃんがちょっと騒いでいたっけ?」
「………カメ?」
『キャメ~』
俺の背後を亀が通過する。
あ~あ、知りたくは無いけど、少なくとも唯花を狙っていた暗殺者は悲惨な最期を遂げたみたいだな。
アンナちゃんの方は最初から暗殺者が行かなかったか、襲う前にあの商人みたいに消されたんだろう。
「つまり、暗殺者は全滅したって事か?ユニスを除いて?」
「そうじゃないの?」
「――――待て!兄者!兄者はどうなったんだ!?」
「兄者?」
暗殺者ほぼ全滅の話を聞いた途端、ユニスは興奮しながら俺の胸倉を掴んで問い詰めてきた。
「私と同じ人狼族の暗殺者だ!私と同じように借金の形に連れ去られて暗殺を仕込まれた!私を妹のように面倒を見てくれた人だ!兄者は、兄者は生きてるのか!?」
困ったな。
多分、あの商人同様に暗殺者の何人かは確実に理不尽の権化に捕まったはずだ。
ハッキリ言って、生死どころか原形を留めているかさえ不明だ。
けど、知らないって言ったらここから飛び出していきそうだ。
「先ずは落ち着けって……あ!」
「あ!」
「まあ!」
詰め寄ってくるユニスを離そうとしたら、不可抗力でユニスの装束の一部が崩れた。
崩れたと言っても胴体の方じゃなく頭の方だ。
顔以外を隠していた帯状の装束が床に落ち、隠してあったユニスの髪が露になった。
ユニスの髪は、雪のように真っ白な髪だった。
「へえ、綺麗な髪だな?」
「―――――ッ!!」
「あ、フラグ立ったわね」
〈ユニスの心が僅かに揺らいだ!〉
「やっぱり」
唯花は1人だけ納得したような顔をした。
それに気付いているのかいないのか、ユニスは再び俺の胸倉を掴んでさっきの問いを繰り返してきた。
「無事なのか!?私以外の者は…兄者は!?」
「落ち着けって!そのお前の兄者って、誰を狙っていたんだ?」
「……そこにいる、この国の皇女だ」
「え!?」
「アンナちゃんを?」
『『…………』』
言うまでもないがアンナちゃんは無事だ。
という事は、動く前に消されたか……。
微妙に同情しちゃうな。
ところで、何でコッコくんとテリヤキちゃんは忍び足で去ろうとしているんだ?
「コッコくん?」
『ゴケ!?(ギクッ!?)』
〈コッコは挙動不審だった!〉
『………(ダッシュ)』
『ゴケェ!?(テリヤキちゃん!?)』
〈テリヤキは逃げ出した!〉
〈コッコはちょっと絶望した!〉
「コッコくん、何か隠してないか?」
『ゴ、ゴケェ……(そ、それは……)』
〈コッコは勇者から逃げられない!〉
外野が五月蠅いが、コッコくんが何かを隠しているのはほぼ確実だ。
この状況から考えると、おそらく……
『ゴッ…!?』
「え?」
俺が確信しようとした時、コッコくんのお腹が動いた。