第233話 ボーナス屋、悪に狙われる?
――ファル村――
「それ、売ってください!」
「ダメ!」
「だ!」
「そこをなんとか……」
「ダメ!」
「た!」
やあ!
無事に壮龍が誕生して約半月が経った。
壮龍が生まれた後は俺も本業よりこっちを最優先していたが、世界は俺の都合など無視して常に大きく動き続けている。
世界と言うのは俺が今いる異世界だけじゃなく、地球の方も含めてだ。
地球でも何だかんだで大事件が連発していて、俺は日本にいる仲間からのSOSを聞いて救援に向かい大活躍。
陰ながら(勝手に)仲間にボーナスをジャンジャンあげたりしてサポートし、ついでに地球の近所迷惑な神や悪魔を何柱か討滅したりもした。
その結果、《真・応報之絶対真理》に次のメッセージが表示されるようになった。
《規定条件を満たした為、1000ptを消費して『半神半人』へ進化が可能になりました》
《人間、辞めますか? ⇒Yes No》
とりあえず、毎回ノーと答えている。
俺、色々と強化され過ぎてついに人間の枠を超えようとしているみたいだ。
俺はまだ人間を辞める気はさらさら無いので何度でもノーと答えるけどな。
それはさておき、俺は今、壮龍と村を散歩中だ。
「言い値で買いますので、売ってください!」
「だからダメ!」
「だぁ~」
今どんな状況かと言うと、村に訪れた商人の1人が俺が使っている育児用品を見て売ってほしいと懇願して来ているんだ。
日本ではありふれた商品も、異世界ではまだまだオーバーテクノロジーの塊だから欲しがる人がいるのは当然だが、この商人はその中でも特にしつこかった。
両目が金貨になっているように見えるのは俺の気のせいか?
――――ピロロ~ン♪
あ、警報だ。
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『クノク公国の悪徳商会に要注意』
クノク公国の大手商会『サウラ商会』が勇者関係者に目を付けている。
勇者の持つ異世界の知識と産物、その両方を手に入れて巨万の富を獲得、今よりも地位と権力を向上させようと狙っている。
サウラ商会は公国の名門貴族とキャール侯爵家と繋がっており、裏では互いに手を組んで密輸や脱税、違法な魔法研究などを行っており、現在は不老不死の研究を行っており、悪魔召喚にまで手を伸ばしている。
だが、先日の聖都での一件により大陸中に存在する全ての悪魔が消滅した事により商会関係者の多くが悪魔契約の反動を受け、商会自体も裏で大打撃を受けている。その為、勇者を利用して損失を超える利益をあげようと企んでいる。
現在勇者の目の前にいる人物もサウラ商会の人間であり、裏で違法奴隷の売買や暗殺者の斡旋など行っており、ファル村に子飼いの暗殺者を仕向け、勇者関係者を暗殺、または人質を取って脅迫しようとしている。
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うわあ~、悪人!
暗殺や人質使って俺を脅迫とかってモロ悪人だな。
させないけど。
「では、我が商会の商品を格安で提供するというのは?」
「………」
商人は笑顔だが、今はその笑顔が気持ち悪い。
もうゲスな顔にしか見えなくなってきたな。
さてと、好き勝手される前にお仕置きするか?
「あ~」
あ、その前に壮龍を寝かせないと!
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――ファル村 教会――
その男は人生の9割以上を闇の中で生きていた。
幼少時の親の借金の担保としてサウラ商会に連れ去られ、その後は暗殺者として育てられクノク公国の裏で多くの血を流してきた。
気付けば毎年公国で処刑される死刑囚よりも多くの人間の命を奪う、公国の裏社会で畏れられる名も無き一流暗殺者になっていた。
そして今回、男が主人から指示されたのは、勇者関係者の拉致及びに見せしめの為の暗殺だった。
(――――あの娘が標的の1人、この国の皇女か)
男の標的の1人はファリアス帝国の皇族でありながら何故かこの村の教会で働いている1人の少女、帝国皇女アンナ=F=ファリアスだった。
周囲には警護の者の姿は無く、一見すればあまりにも無防備だった。
だが、男は気付いていた。
皇女アンナには並々ならぬ魔力があると。
クノク公国は魔法の技術が発展した国、この国では身分に関係なく魔法の習得が推奨され、多くの優秀な魔術師を誕生させてきた。
魔術師ギルドの本部もこの国に存在し、大陸中の最新の魔法研究の成果が今も集まっている。
そして国内には数多くの魔法具工房が乱立し、ダーナ大陸に存在する魔法具の大半はこの国で製造されたものである。
暗殺者の男もまた、そんな魔法に溢れた環境の中で育った為、他の国の人間よりも魔力にたいして鋭敏な感性を持ち、同時に暗殺向けの多くの魔法を習得していた。
故に、皇女アンナが並外れた魔力を持っている事にもすぐに気付いた。
(体内を流れる魔力の流れ方からも解る。あの皇女、相当な使い手だ)
男の額に珍しく冷や汗が流れる。
ファリアス帝国での仕事はこれが初めてだが、皇族がこれほどの魔法の才を秘めているとは全くの想定外だった。
前情報には無かった事態に、男は主人に対してイラついたがすぐに平静を取り戻し、愛用の短剣を取り出して彼女の首筋に狙いを付ける。
(―――――殺れる!)
殺意も気配も完全に消し、無詠唱魔法で自身の心音も呼吸音も完全に消して男は動く。
その動きはまさしくプロ、必要最小限の動きで皇女アンナの背後に接近し、禁術が込められた短剣を彼女の首に向かって突き刺さる、かのように見えた。
(――――誰だ!?)
短剣が皇女アンナの首に触れようとした瞬間、何の前触れもなく男の背後に何者かの気配がした。
男は一瞬振り返ろうとしたが、目的を優先して止まっていた短剣を持った手を動かした。
だが、それは誤った選択だった。
(なっ―――――)
次の瞬間、男の意識は闇に飲み込まれた。
『『ゴケ!』』
「あれ?コッコくんとテリヤキちゃん、どうかしたんですか?」
『ゴケ?(さあ?)』
『ゴケゴケェ~?(別に何も?)』
アンナが振り返ると、そこには今や勇者の眷属兼ファル村のマスコットとして有名になったコッコくんとテリヤキちゃんの姿があった。
そしてそこにはもう男の姿は無かった。
『ゴケ!(げぷ!)』
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――ファル村 村長宅――
その暗殺者の任務は標的の暗殺ではなく拉致だった。
標的は村長夫人、今は庭のハーブ園に水を撒いている初老の女性だった。
(簡単な仕事だな)
暗殺者は普段よりも数段楽な仕事に笑みを零しそうになるのを耐えながら懐から魔法薬を染み込ませた布を取り出す。
クノク公国の魔術師によって医療用に作られたものを犯罪様に改良したそれは、常温で気化しやすくそれを吸い込んだ者は一瞬で意識を失い、専用の回復役か万能薬を使わない限り死ぬまで眠り続けるものだった。
(一瞬で任務完了だ!)
暗殺者は動いた。
その直後、村長宅の庭に空からの訪問者が到着した。
――――プチ♡
『よう!久しぶりだな、ゲルト?』
「あらあら、貴方が私達の家に来るなんて珍しいですね?あの人は留守ですけど、折角ですしお茶でもどうですか?」
『おう!久しぶりにお前のハーブティを飲ませてもらうぜ!』
焔龍イグニスは人化して村長夫人ことゲルトルーデと一緒に家の中へと入っていった。
庭に残されたイグニスの足跡、その中心部分には何かが焼け焦げた跡が残っていた。
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――ファル村 小川――
「う~ん!やっぱり空気が綺麗だと気持ちいい~♪」
唯花は村の外れにある小川で寛いでいた。
今日は日本は休日なので1日中こっちにいるつもりだ。
今は壮龍の世話を士郎と交代して休憩中、異世界の空気を堪能しながら身も心も休めていた。
そんな彼女を、気配を完全に消しながら見張る者が3人いた。
(あの女が、そうか?)
(間違いない。情報通り、正式な婚姻はまだだが、勇者とは恋仲にある女だ。女と思って油断するな。あの女も異世界人、我等よりも遥かに強い魔力と規格外な才を保有する化物だ。どんな魔法を習得しているかまでは把握しきれていない)
(だからこその暗殺……標的が無防備な時を狙い……拘束)
彼ら(女1人含む)3人は相手が無防備なのを確認して同時に動いた。
姿を周囲の景色と同化させる効果を持つ魔法具のお蔭で誰も彼らが唯花に襲い掛かることに気付かない。
――――かに見えた。
『キャメ?』
(((…亀?)))
3人の視界に、川辺で日光浴をしていた亀が映った。
それはとある神が飼っていたペット。
神の手違いで現世を彷徨い、現在は勇者の使い魔をしている、可愛い姿をしているが高ランクの魔獣だった。
普段は四六時中酔っぱらっている亀だったが、今日は珍しく朝から酔いが醒めていて、目の前で自分に迫ってくる(ようにみえる)脅威に数百年ぶりに生命の危機を感じ取った。
『キャメェ~~~!!』
そして亀の攻撃!
芳しい不思議なブレスが一瞬で暗殺者3人を飲み込んだ。
彼らは知らなかった。
自分達が愛用している隠形用の魔法具、それを素で見破る使い魔を勇者が飼っている事を。
しかもそれは基本的には本人にしか解除はできず、それ以外には自分達に気付いた相手に魔法具を破壊されない限り破られる事は無い。
「さてと、そろそろ家に帰ろっか、カメちゃん?」
『キャメ~』
唯花は最後まで暗殺者達に気付く事は無く、亀と共に勇者の家にへと戻っていった。
そして残された暗殺者達は……壊れた(笑)
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――ファル村 西の空き地――
そこには5人の暗殺者が隠れていた。
彼らはサウラ商会の番犬でもある暗殺者一族の出身で、商会の中でも最高戦力に数えられている者達だった。
彼らは冷酷無慈悲、一度商会から仕事が入れば無情の暗殺人形へと変貌、標的を容赦なく暗殺するのである。
その彼らの標的、それは……
「勇者キック~!」
「皇子スラッシュ!」
「ぎゃあ~~~!」
子供だった。
勇者や怪獣に仮装している子供達だった。
子供達はもうすぐ行われる村祭りの舞台で演じる芝居の練習をしており、その光景はほほえましいものだった。
(標的を確認。情報にあった人間に擬態した“龍”も確認した)
(標的より異常な密度の魔力を確認。『SS級禁術武装』を使用する)
(敵影は無し。罠も皆無)
(行動―――開始)
暗殺者達は自分達にしか分からない合図で連絡を取り合い、各々の武器を構えて一斉に子供達に襲い掛かった。
「ぎゃお~!魔獣復活~!」
「銀耀、ノリノリだね」
「ルチオくん、お菓子あげる♡」
「ダメ!私のアメをあげるの♡」
子供達は自分達に襲い掛かる魔の手に気付かない。
そして――――
・
・
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――――暗殺者達は、この世から消えた。
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――ファル村――
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『サウラ商会、永遠に……』
サウラ商会は消えた。
圧倒的理不尽の怒りによって……
そこに残されたのは硬く踏み固められた更地と、紅く染まる数本の木々のみ。
それを見た民衆が浮かべたのは困惑、そして恐怖。
狂騒。
混沌。
都に紅と黄が舞い散る中、人々は混沌の沼に嵌っていった。
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俺はたった今届いた速報の内容を呼んで思わず溜息を吐いた。
この世界の悪人って、最近例外なく幸運値がストップ安続きだよな。
まあ兎も角、俺は目の前で目を怪しく光らせている商人に一言言ってやった。
「……サウラ商会、倒産したぞ?」
「え――――」
「あ、消えた」
そして商人は俺の目の前から消滅した。
この時俺は思った。
悪党はこの世で最も運が良くないと生きていけない、大変な職業なんだな。と。
それこそ、大魔神級に。
「さてと、帰るか?」
「だぁ~」
「うん、何言ってるのかわからん!」
――――ドサッ!
「ん?」
その時、何もないはずの俺の横に何かが落ちてきた。
微かに魔法の気配が残っていたから転移系で移動したんだろう。
「……忍者?」
そこに倒れていたのは、俺と同じくらいの背丈をした黒装束の、尻尾の生えた人だった。
そして女の子だった。
――――ピロロ~ン♪
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熟練度が規定値に達した為、《摩訶不思議な情報屋》は進化します。
詳細は《ステータス》にて御確認下さい。
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ファル村、最早悪が一切栄える事が出来ない場所になりました。
さらば悪徳商人達……(笑)
そしてニューヒロイン登場?