第231話 ボーナス屋、パパになる
ついにこの日が来ました。
――ファル村 勇者の家――
それはこの日の朝食を終えて1時間ほど経った時に起きた。
――――バリッ!
俺の魔法で厳重に守られていた『龍の卵』が動きだし、ヒビが入った。
これはまさか!
「生まれる!!」
待ちに待った卵が孵化する瞬間だ!
早く唯花を呼ばないと!
「唯花!子供が生まれるぞ!」
「キターーー!!」
「ちょっ!落ち着け!!」
家の裏で洗濯物を干していた唯花は、奇声に近い声を上げて家の中に飛び込んできた。
これが家の表側だったら間違いなく周りから変人だと思われていただろう。
そして約10分後、卵の中から元気な赤ん坊が生まれた。
「おぎゃあああああ!!」
〈おめでとう!卵から元気な男の子が生まれた!〉
卵から生まれたのは男の子だった。
見た目は俺と同じ黒髪の人間だが、体を覆っている魔力は銀洸やクロウ・クルワッハと同じ龍族のものだ。
俺はステータスを確認してみた。
【名前】――
【年齢】0 【種族】龍族(?の氏族)
【職業】―― 【クラス】新しい生命
【属性】無(全属性)
【魔力】1,000,000/1,000,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv5) 防御魔法(Lv5) 補助魔法(Lv5) 特殊魔法(Lv5) 属性術(Lv5) 隠形術(Lv5) 闘気術(Lv5) 精霊術(Lv5) 神聖術(Lv5) 武術(Lv5) 龍眼 人化 奇跡の雫 無限回廊
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv4) 精神耐性(Lv5) 全属性耐性(Lv4) 全状態異常無効化 全能力異常耐性(Lv5) 始祖龍 無限の可能性
【BP】0
ウチの子、チート♡
何コレ、龍族とはいえ、赤ん坊なのにこのスペック!
魔力なんて100万もあるし、無属性だし、能力は全部レベル5だし、耐性も軒並み高いし!
そして『始祖龍』……って、何?
【始祖龍】
・始まりの龍、新たな氏族の始まりの1体であり、どの“色”にも属さない純粋な龍。
・その可能性は無限大、成長の仕方によりどんな龍にもなる。
・あらゆる遺伝子に適応できる為、龍族以外の種とも交わる事ができる。
・最終的に龍神に至る。
ウチの子、将来は龍神だってさ!
「おぎゃああああ!!」
「士郎!いいからタオル!じゃなくて、先に産湯!?」
「落ち着けよ唯花!!」
「いいからお湯!お湯!」
「おぎゃああああ!!」
正直に言おう。
俺達はパニックになっていた。
当たり前だが父親経験ゼロ!
ついでに言えば、俺は医者でもないし看護師でもない!
今更だが、ちょっと準備不足だった。
そしてそこへ、空気を全く読まない訪問者がやってきた。
「やほ~!暇だから遊びに来た~」→バカ龍王
「僕も~」→その弟
「おはようございます!」→ルチオ
「お前ら、絶対スタンバってたろ!?」
タイミングのいい来訪に、俺は思わずツッコんだ。
こいつら、特にバカ龍王なら次元の隙間とかに隠れてスタンバイしていそうだからな。
その証拠に、バカ龍王の手には「おめでとう♡」のメッセージカードの入ったフルーツギフトがあった。
絶対スタンバイしてたな!
「思いっきりスタンバイしてたろ!」
「「え~?何のこと~?」」→バカ兄弟
「絶対してたろ!!」
「悪いか?」→大魔王
「………え?」
大魔王が同伴していた。
あ、俺死んだ………………
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俺、どうにか生き残ったぜ……!
まさか大魔王がスタンバイしているとは予想してなかったけど、どうにか五体満足で生き延びる事が出
来た。
代償として財産の一部を失ったけどな。
金とか、神器とか……。
「あ~」
「ちょっと!次は私の番よ!」
「ダメだ!寝かせるまで俺が抱いてる!」
「ズルいわよ!私はママよ!」
「俺だってパパだ!」
大魔王が――パクッた金で酒場に行った――いなくなった後、俺と唯花は生まれたばかりの赤ん坊に夢中になっていた。
災い転じて福をなすと言うのか、赤ん坊の対処に手間取っていた俺達を見た大魔王は信じられない事に助けてくれた。
流石は長生きしていると言うべきか、かなり手慣れたものだった。
産湯でサッパリした赤ん坊はオムツもしっかりと付けて貰い、今は服を着て俺の腕の中にいる。
ハッキリ言って超カワイイ!
俺の遺伝子をしっかりと受け継いでいるからかもしれないが、兎に角愛おしくてたまらなかった。
それは唯花も同じらしく、今は赤ん坊を巡って喧嘩中だ。
「あっあ♪」
「ほら、俺の方が良いってさ♪」
「何言ってるの!私が傍にいるから笑ってるのよこの子……そういえば、まだ名前を付けていなかったわね。私は考えてきたけど、士郎はどうなの?」
「フッフッフ!勿論!俺達の名前から一文字ずつ取って、花郎……」
「絶対却下!!」
「あ~?」
「ネーミングセンスが無い士郎に期待した私がバカだったわ。考えてみれば、鶏にコッコとかテリヤキとか付けてる時点で気付くべきだったわ」
「酷っ!!」
「酷いのはアンタのセンスよ!!未来の龍神の名前が“花郎”って何!?後世の神話に“花郎”なんて名
前が残ったら悲劇じゃない!!」
「うっ……!確かにそうでした……」
唯花に言われて俺も気付いてしまった。
この世界…というよりこの大陸内だったら問題ないかもしれないが、何かの手違いで日本人の耳に入ったりしたら盛大にツッコまれる気がしてきた。
『龍神・花郎』―――確かに無いな、コレは。
「じゃあ、唯花はどんな名前を考えたんだ?」
「幾つか考えてあるわ。この子は龍族だから、同じ龍族に名付けについて訊いてみて、龍族は基本的に“龍”や“色”に関する字や単語を入れる場合が多いそうなの。さっき出ていった銀洸や銀
(・)耀みたいにね」
「そう言えばそうだな」
村長と契約しているイグニスも、名前の由来は火を意味するラテン語らしいしな。
東洋龍とかも“龍”の字が入る龍は多いし、“色”が入るのも結構いる。
「この子は髪も目も黒色だけど、「黒龍」は色々と被るからパス」
「ああ、確か黒龍って名前の龍は東洋の伝説に実在してるからな。被らない方がいいな」
「ええ。そこで考えたんだけど、父親にあやかって“壮”の字に“龍”を加えて「壮龍」は
どうかと思うの。“壮”には「勇ましい」という意味もあるし、字の中に父親の名前の“士”も入ってい
るから良いと思うんだけど、どう?」
「お!それ良いな?「壮大な龍」、略して「壮龍」か。カッコいいし、ピッタリじゃないか!」
〈勇者は嫁1号にかなわなかった!〉
「やかましい!!」
「ねえ、ずっと気になってたんだけど、このナレーションは何?グ○グル?」
「ゴ…神だよ」
「私達の周りって、ろくな神がいないわね」
全くその通りだな。
まともなのはアヌ様ぐらいしかいない気がする。
他はみんな軽いんだよな。
〈勇者は爆乳女神のファンだった!〉
「へえ………」
「ヒイ!!」
クソ!
バカ神の反撃を嘗めてたぜ!
後で覚えていろ!
〈神ヘルメスは早々に退散した!〉
逃げた!!
けど、俺の方は逃げられない。
「おぎゃああああああああ!!」
「(しめた!)お~よしよし、怖いママでちゅね~」
「―――!こ、怖くないわよ~。ベロベロバ~!」
息子改め壮龍のお陰で修羅場は回避できた。
その後、どっかのバカが勝手な事をしたせいで村中に壮龍の誕生が知れ渡り、村は「勇者の息子誕生」と、事実だけどちょっと勘違いしながらお祭り状態になる。
そこに騒ぎを聞きつけたバカ皇帝一行も加わってファル村は一時混沌と化すのだが、それはまた別の話。
ただ、1つだけ語るとすれば―――
「え、まさか師匠?」→村長
「おい!そこの弟子モドキ、俺の酒に付き合え!(超強制)」
「………(絶望&トラウマ全開)」→村長
なんか知らないけど、ロン村長は大魔王の弟子モドキだったらしい。
俺以外にも被害者、それも被害者先輩がいたとは初耳だった。
その日、ファリアス帝国には大魔王の酒池肉林による大災害が起きたのは言うまでもない。
あ、メール!
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From:ケルトの神々
Sub:おめでとう!
神々より愛を込めてお祝い申し上げるヨン♡
某愛の女神の予言によれば、貴方はビッグダディになるそうだから頑張ってネン♪
P.S. 失踪中のうちの太陽神、見てませんか?
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あまりうれしくない祝電だった。
いらん予言するなよ愛の女神!
それと、太陽神なんて知らん!!
勇者に第一子誕生!
数年後にはチートの権化になっているでしょう。
しかし、果たして唯花の名づけは正しい選択だったのか…?