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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
ダーナ大陸漫遊編
237/465

第230話 ボーナス屋、ウーイル国を救う

――ウーイル国 とある荒野(士郎サイド)――


 やあ!


 あっと言う間に配達を終えて今は自由時間の士郎だ!


 いや~、分身って本当に便利だな♪


 それはさて置き、今の俺は変装中だ。


 何故って、素のままだと俺の勇者ストーリーがあっちこっちで出来上がってしまうからだ。


 世界が勇者に依存してしまうのは破滅系フラグだから絶対回避しないといけないからな。


 そんな訳で、俺は世界の勇者依存を悪化させないために、勇者ストーリーを目立たなくする新たなストーリーを誕生させた。


 その名も謎のヒーロー「とおりすがりのボーナス屋さん」だ。


 安直なアイディアだが、無いよりマシだよな?


 そして現在、魔獣に襲われていた少年を助けたところだ。



――――グゥ



 そして少年のお腹が悲鳴を上げた。


 少年トムから事情を聴くと、彼の村は長年の食糧不足で壊滅寸前らしい。


 そしてトムはお腹を空かせている家族の為に野兎を狩りに来たが、逆に魔獣に襲われて今に至るそうだ。



「…兎!野兎を狩らないと…!」



 目的を思い出したトムは慌てて辺りを見渡すが、当然何処にも野兎の姿は無く、トムは落胆するのだった。


 だが、そこに俺は希望の光を当てる。



「安心しろ少年!君の家族は、そして村はこの俺が助けよう!」


「…本当?」


「本当だとも!この俺と、俺の相棒(パートナー)結晶の騎士姫(クリスタルナイト・プリンセス)が約束しよう!」


「(シロウ!何勝手に私に変な名前を…!?)」


「(え、やっぱり変だった?でもどうせ偽名だし、誰もステラちゃんだなんて想像もしないから平気だって!ここはフィンジアスの外の田舎なんだし!)」


「(た、確かにそうだが……)」


「―――少年!君の村まで案内してくれ!」


「うん!こっち!」



 俺と同じく変装中のステラちゃんは俺が勝手に考えた偽名に文句がありそうだったけど、ステラちゃんも素のままだと暴れん坊王女ストーリーが過熱するから渋々納得してくれた。


 そして俺はトムの案内のもと、サババ村へと向かった。







--------------------------


――サババ村――


「―――この薬を!」


「……あぁ、体が軽くなっていくわ」


「「母ちゃん!!」」



 トムの家に訪れた俺とステラちゃんは、何も敷かれていない粗末な木のベッドの上で寝ているトムの母親にファル村製の魔法薬を飲ませ、あっという間に回復させた。


 (普通は)レアな素材で精製されたこの魔法薬なら大抵の病気は即完治、体力と気力も一瞬で全快になるからこれでもう大丈夫だ!



「何処の誰かは存じあげませんが、ありがとうございます…!!」


「怪しい兄ちゃんありがとう!!」


「ありがとう!……お腹空いた」



――――グゥ(ルファ)


――――グゥ(トム)


――――グゥゥ~(母親)



 うん、次はゴハンだな!


 俺は外に出ると、四次元倉庫からこの前入手したばかりの神器を取り出した。



「ミラクル大釜~!」



 俺は不思議な大釜を村のど真ん中に置いた。


 分かっていると思うが『ダグザの魔釜(覚醒済)』だ。


 事件後、ロルフから血を数滴貰って完全覚醒した魔釜だが、他の『至宝』と違って何故かまだ魂の武装(スピリット・ウェポン)化はまだしていない。


 それはさておき、俺は取りだした魔釜の蓋を開け、そこから大量の食糧を出現させた。



「出でよ!食べ物!」


「わあ!お兄ちゃん、食べ物が出て来たよ!!」


「スッゲェ~!!」


「何だアレは!?」


「おい!食い物だ!食い物が降って来たぞ!!」


「豆だ!!麦もある!!」



 噴水のように飛び出す食糧に、トム達だけじゃなくサババ村の人達全員が歓声を上げた。


 ちなみにこの魔釜、食糧を出すと言っても出てくるのは穀物と野菜が中心で魚介類は出て来ない。


 それは魔釜の本来の持ち主が大地と豊穣の神格を持つのと関係しているようだ。


 そしてその能力は次の通りだ。



【ダグザの魔釜】

【分類】釜(神器)

【属性】土 木 光 闇

【魔力】∞

【ランク】――

【品質】最高品質

【用途】ダーナ神族の最高神ダグザが持っていた魔釜。

 ダーナ神族に伝わる『四至宝』の1つである。

 底知れぬ魔力を秘めており、その力はダグザの権能の一部そのものでもある。

 釜の中は高次元空間になっており、神も含めあらゆる存在を半永久的に封印する事が出来る。

 望めば無尽蔵に大地が齎す食料を生み出す。

 死者の躯をこの中に入れると蘇生される。(ただし、100%成功するのは死因が寿命以外で死後24時間以内の躯に限り、それ以外の躯を入れると何が起きるか分からない)

 この中に入れたものは生者も死者も関係なく浄化される。

 この魔釜から半径1000km圏内の大地は魔釜の庇護下に置かれ、高位存在による外部から干渉を無効化し、所有者に敵意を向ける全ての存在の力を半減させる。

 《最高神ダグザの加護》を所有している場合、『魂の武装(スピリットウェポン)』になる。

 神格を持つ存在との対話が可能になる。

 神格を持つ存在を殺傷が可能になる。



 魂の武装にならないのは加護が無いからだった。


 毎度お馴染みの神様メールによれば、「アイツ、ちょっと頑固だから中々人間に加護を与えないんだよ」とのことだそうだ。


 まあ、別にこれ以上の加護は無くても困らないからいいけどな。



「母ちゃん!お腹一杯食えるよ!」


「ほ、本当にこれを頂いていいんですか……!?」


「いいよ♪」


「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」



 村人達は揃って号泣した。


 よっぽど空腹が辛かったのだろう。


 出てきた食料を調理している時も無き続け、出来た料理を食べている間も泣いていた。


 尚、食べ物の山の中に俺はコッソリと四次元倉庫から出した魔獣の肉を混ぜておいた。


 栄養はバランスよく摂らないとな♪



「うめえ、うめえよ~」


「えっぐ!飯って、こんなにうめえんだな!」


「おら、生きてて良かったべ!」


「肉汁、肉汁が旨い!」



 粗末な料理ばかりだったが、村人達は久しぶりに飢えから解放されたみたいだ。


 さてと、次は今後の為の村の開拓を始めよう!



「少年!」


「モグ……何、怪しい兄ちゃん?」


「……。少年、これから君に、君が望む力を与えよう!」


「え?」



 今回は魔釜を使ったけど、今後の事を考えたら村の農業開拓は急務だ。


 村人達が号泣しながら食事をしている間にこの辺りの土地を調査してみたけど、この辺一帯は栄養も乏しく強い酸性の土壌で普通の作物は殆ど育たない環境だった。


 俺は周りの目を盗んでコッソリと土壌を改良しておいたけど、ここから先は出来る限り村人自身の手で解決できるようにした方が良い。


 そうしないと、今度はボーナス屋依存とかになりそうだからな。


 そんな訳で、まずは毎度お馴染みのボーナス交換タイムだ。


 言ってなかったが、この村の住民全員の頭上にはあの“矢印”が刺さっている。


 相当苦労している事が一目でわかる目印だ。


 ポイントも相当ありそうだし、これはちょっとした大仕事になりそうだ。



「Let'sボーナス!」



 サババ村の住民全員のボーナス交換の開始だ。


 まずはトム、彼には以下のボーナスを与えた。



〈鑑定〉 5pt

〈ステータス〉 5pt

〈職業補正〉 10pt

〈職業レベル補正〉 15pt

〈魔法適正〉 10pt

〈魔法知識(土)〉 10pt

〈ランダムガチャ(フリー)〉 0pt

 →鷹王(ようおう)疾弓(しっきゅう)



 1回無料のガチャは大当たりのようだ。


 鑑定してみたところ、装備者に《弓術》と《鷹の眼》を与え、射った矢は音速で飛んで獲物を貫くというランクSの強力武器だった。


 狩猟をする際に重宝できるアイテムだな。


 そして、トムのステータスは以下の通りだ。



【名前】トム

【年齢】9  【種族】人間

【職業】農民(Lv1) 狩人(Lv1) 魔法使い(Lv1)  【クラス】貧村の少年

【属性】メイン:土 サブ:水 風

【魔力】740/740

【状態】正常

【能力】攻撃魔法(Lv4) 防御魔法(Lv1) 補助魔法(Lv1) 特殊魔法(Lv1) 弓術(Lv1) 鑑定

【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv1) 精神耐性(Lv1) 土属性耐性(Lv2) 低燃費 職業補正 職業レベル補正

【BP】4



 こんな調子で村人全員のボーナス交換をしていく。


 突然の出来事に困惑する村人だが、俺は敢えて詳しい説明はしないで適当に誤魔化した。


 そして村の外で開拓ついでにトムに魔法の練習をさせてみた。



「スゲェ!スゲェ!地面が畑みたいになってくよ怪しい兄ちゃん!」


「怪しくない!」



 さっきまで荒れ地だった土地を魔法で耕し、次に俺が用意したある作物の種を村人全員で蒔いていく。


 蒔き終えたら魔法で水を撒き、今回はサービスで俺の加護の力で種を急成長させる。


 すると何という事でしょう!


 荒野の一角が一瞬で緑で覆われました♪



「おお!緑じゃ!荒野に緑が生まれたのじゃ!」


「コイツは豆だ!沢山生っとるぞ!」



 育ったのは大豆っぽい作物だ。


 以前、テレビで日本の団体が痩せた土地に大豆を植えて大農作地帯に変えたという特集を視た事がある。


 他にもネット小説とかの知識によれば、マメ科の植物は大気中の窒素を植物が育つのに必要な栄養に変える細菌と共生しているとかで、痩せた土地に植えればその土壌を改善させる効果があるそうだ。


 開拓にはお勧めの作物って訳だな。



「この豆は若い内は茹でて食べると美味い!熟した後も搾れば油ができる!他にも様々な利用法もある夢のような作物だ!」


「おお……!ありがとうごぜえます!この御恩は一生忘れませんだ!」


「もう飢えずに済む!」


「ワシらでこの地を緑溢れる大地に変えるのじゃ!」


「「「おおおおお!!」」」



 サババ村はこうして元気を取り戻した。


 数年後、サババ村は廃村寸前だったのが嘘のような発展を遂げ、ウーイル国有数の大農業地帯に生まれ変わることになる。


 最初は大豆(っぽい作物)中心の農業も作物の種類を増やし、家畜もその数を増やして村人達は食糧不足や貧困から脱する事になる。


 俺の事は「通りすがりの救世主」として村の伝説に残り、その救世主が勇者と同一人物であるとは気付かれる事も無かった。



「怪しい兄ちゃん、ありがとう!」


「怪しくない!」


「(シロウ、そろそろ出発しよう)」



 結局トムは俺のことを「怪しい兄ちゃん」と呼び続けた。


 俺は少しだけ納得がいかない中村を後にし、更に別の辺境の村へと向かった。


 余談だが、後にトムは家族と力を合わせて畑を耕していくと同時に狩の腕を磨いていき、6年後には母親の再婚相手の勧めで首都の学校に妹と共に通う事になる。


 そして卒業後は故郷以外の土地の開拓に力を入れ、最終的にはその成果が認められて国王から爵位と領地を与えられ、後世では「豊穣の魔弓士」の二つ名を残す事になる。


 まあ、俺には直接かかわりの無い話だけどな。







--------------------------


――後日 ウーイル国 王城――


「勇者殿、貴公から授かった異世界の知識と、各国から集めてきた作物の種のお蔭で我が国にも希望が見えてきた。本当に感謝する」


「いえいえ~♪」


「勇者殿には娘ナタリアの事も含め恩が尽きないな。ところで、辺境地域で謎の仮面男が出没するという奇妙な噂が立っているようだが、勇者殿は何が存じておらぬか?」


「………イイエ、何モ存ジ上ゲマセン」



 この世界でも噂が広まるのは予想以上に早いようだ。








 ステラちゃんに黒歴史が追加されました。



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