第223話 ボーナス屋、モーブ王国を回る3
――モーブ王国 夏の町『ウォーマ』――
モーブ王国各地を巡り、俺は可能な限り知恵を貸していった。
その間に気付いたのだが、この国はどうやら日本並の温泉大国のようだ。
火山の数こそ大国には劣るものの、井戸水が流れる水脈よりも更に下には大量の温水が眠っていた。
普通に掘削したくらいじゃ温泉は湧き上がらないが、地下を魔獣が荒らしたり、俺みたいなチートで穴を掘れば一瞬で温泉地ができあがる。
モーブ王国はどこを掘っても温泉が湧き出る場所だったんだ。
「おお!!水だ!!水が湧き出たぞ!!」
「わあ~い!わあ~い!」
「これで作物が枯れずに済む!」
とはいっても、中には温水より水の方が嬉しい人達もいたけどな。
例えばココ、モーブ王国内でも一年中温暖な気候のウォーマの町は他の地域よりも水不足に悩まされていた。
そこで俺は地面のずっと下を流れている地下水脈まで穴を掘り、エルナさん製作のポンプ魔法具を設置して問題を解決させた。
「勇者様ありがとうございます!お礼に私の娘を勇者様の妻に―――」
「ウホ!不束者ですが…」
「結構です!!」
「よく言ったシロウ!」
俺は領主の長女(オランウータン系23歳独身、趣味筋トレ)を断固拒否した。
ステラちゃんは凄く上機嫌になった。
「それにしても変ね?」
「どうしたんだ?王女その2?」
「誰がその2よ!?リスティって呼びなさい!あ、別にあなたと仲良くなりたいわけじゃないのよ!勘違いしないでよね!」
「ハイハイ、それで何が変なんだ?」
「(何笑ってるのよ!?)私の専属侍女はこの領地の出身なんだけど、彼女の話だとこの町の近くには綺麗な水源があって、そこから流れる水で町は潤っているって聞いているわ」
水がある筈なのに水不足、確かに変だ。
事件の臭いがする…きがする。
「領主、そうなのか?」
「ええ、確かに殿下の仰る通り、この町の北部、北ウォーマの森の中にある『ウォーマの泉』という水源があり、本来ならその泉からの水を利用していたのですが、数ヶ月前から泉に大型の上位魔獣が住み着いてしまい、水路を塞いでいるのです。そのせいで十分な水を得る事が出来なかったのです」
「それでしたら、先にその事をお話し下さればよろしかったのに…。勇者様なら、指一本でサクッと魔獣を倒してくれますわ」
「「そうそう…だから真似しないでよね!」」
「いやいや、流石に指一本って……」
「いや、シロウなら出来るだろう。指先から神の雷を放って魔獣を消し炭に……」
ステラちゃん、ステラちゃんの中の俺ってどういう扱いなんだ?
ちゃんと人間扱いしてるよな?
「た、確かにそうなのですが……あそこに住み着いた魔獣は、勇者様や殿下のようなお若い方には酷な相手なのです。既に名のある冒険者パーティが何組も討伐に向かったのですが、皆不幸な結果に終わってしまいました」
「それほどまでに手強い魔獣なのか?」
「はい、その魔獣は――――」
--------------------------
――ウォーマの泉――
ウォーマの泉、そこは天然の地下水が湧き上がってできた美しい泉だった。
泉の周りには様々な果実の木や、黄色い沢山の粒が集まった実の成る植物など、様々な草木が自生していた。
そして泉のすぐ横に、それはいた。
『ガ~~メ~~~』
全長約140m、巨大な甲羅の上に芳しい実の成る木を何本も背負った巨大な陸亀……
「どこの御三家最終進化形態だよ!!」
パクリじゃん!
外見が思いっきり某御三家のパクリじゃん!
背中の木の種類と、酔っぱらったような顔以外、9割以上パクリじゃん!
「どうしたシロウ!?奴の酒精に当てられたか!?」
「い、いや…ちょっと取り乱しちゃっただけで大丈夫だよステラちゃん」
ついウッカリ取り乱したけど、あそこにいるのが問題の亀の魔獣だ。
酔っているのか顔が真っ赤に染め上っていて、意識が朦朧としているようだ。
そして亀の周囲では、大勢の人間や動物、魔獣達が酒池肉林を繰り広げていた。
「アハハハハハハ!しゃけだあもっとしゃけえ~!」
「天国だあ~!ここは楽園だあ~!」
「でへへへ♪姉ちゃんよお、俺と一発やらねえか~?」
「ええよええよ~♪」
「お~お~!イイ股してんじゃねえか~?」
『ガウガウ~♡』
とんでもない光景だった。
泥酔している連中が全裸パーティ、しかも人間だけじゃなく動物や人間も入り乱れて子供は絶対見てはいけない光景を作っていやがった。
おええええ!
ショッキングすぎる処を見てしまった。
アレはヤバい!
間違ってあの中に入ったら、俺も例外なく襲われてしまう。
チーム王女を町に置いて来て大正解だった。
「……私は見てない。何も見てない」
「分かってる。分かってるよステラちゃん……」
濃すぎる光景にステラちゃんは現実逃避を開始する。
さっさと問題を解決しよう。
『ガ~~~メ~~~』
酒臭っ!!
火を付けたら引火しそうな息だ。
どういう魔獣なんだ?
【神酒樹を背負いし巨亀】
【分類】爬虫類型魔獣
【属性】水 土 木
【魔力】2,180,000/2,180,000
【ランク】SS
【状態】泥酔
【用途】未知数
【詳細】とある酒神が趣味で飼っていたペットの一体だが、手違いでこの世界にいる。
背中の甲羅に生えているのは『神酒樹』と呼ばれる伝説の植物で、その木に成る実は水をこの世のものとは思えない美酒へと変える。ただし、その酒はあくまで神の飲み物、神とこの魔獣以外が飲むと一瞬で泥酔してしまい、快感と高揚感に飲まれ続けながら酒に溺れていく。
常に泥酔状態で、気に入った水場を探す為に陸地を彷徨っているが、一度気に入った水場を見つけると数年から数十年単位でその場に住み着き、水が枯れると次の水場を求めて移動する。
水場に住み着いている間は全身から魔力と酒精の入った香りを撒き散らし、周囲の生物から理性と闘争心を奪って酒の虜に変え、虜になった者は本能の赴くままに酒を飲み続け、周りにいる者と交わり続けてしまい、結果、周囲の生態系を破壊してしまう。
魔獣と『神酒樹』は共生関係にあり、片方が傷つくともう片方が回復させ。
両方とも海水に浸かると極端に衰弱する。
ただし、死ぬと体内の酒精が広範囲に広がってしまうので要注意。
この亀、神の不祥事みたいだ。
俺やステラちゃんは《全状態異常無効化》があるから平気だけど、普通の人間や魔獣は近付いただけで正気を失ってしまうようだ。
領主が「不幸な結果」と言っていたのはこういう事だったんだな。
チラッと見てみると、泥酔している魔獣の周りには沢山の卵が散乱している。
アレ、孵ったら何が生まれてくるのか謎だな。
それは別として、今はこの亀をどうにかしないと。
「よし!海のど真ん中に転送しよう!それで解決だ!」
「だが、鑑定結果には衰弱するとはあるが、死ぬとまでは書いていない。また陸地に上がったら、また別の場所が被害に遭うのではないか?」
「ん~、確かにそうだな」
「かといって、ここで殺せば奴の体内にある酒精が広範囲に広がってしまう。せめて、もう少し小さければ私の魔法でも何とかできそうなのだが……」
「それだ!」
「え?」
大きいからもんだいなら小さくすればいい。
名案が閃いた俺は、気配を絶ちながら亀に接近し、対象物のサイズを小さくする魔法《縮小》を使った。
スモー〇ライトっぽい光が亀の巨体を飲み込む。
するとあら不思議!
巨大な亀さんはミドリガメのサイズになりました。
『……キャメ?』
「終わった!」
「……シロウは相変わらず出鱈目だな。しかし、この大きさだと可愛いな?」
「(しかも鳴き声変わってるし)だよな。このサイズなら対して害は無さそうだし、戦利品として持って帰ろうっと♪《捕獲》!」
一歩間違えれば生物兵器になったかもしれない魔獣を俺はノリでゲットした。
ドラコに続き、今日だけで2体目の使い魔をゲットだ!
さてと、残る問題は……
「グハハハハ!踊れ踊れ~!」
『ギャオ♪ギャオ♪』
「へへへへ~♡」
あっちの被害者達をどうするかだ。
魔法で回復させるとして、正気に戻ったら色々と大変そうだな。
というか、普通にドラゴンとかも混じって踊ってないか?
「ステラちゃん、あの人達どうする?」
「………」
「あ、見るのも辛いよな。ゴメン」
年頃の女の子が見て楽しい光景じゃないよな。アレ。
その後、俺は被害者達を放置しておく訳にもいかず、魔獣達も含めて回復させて町へと戻った。
あ、念の為に泉を浄化して行こう!
--------------------------
――モーブ王国 モルブラード城――
すっかり日が暮れてからモー様の下に向かうと、モー様は凄く上機嫌で俺達を出迎えてくれた。
ウォーマの後も様々な町や村を回って行ったけど、特にアレ以上のトラブルに巻き込まれる事無く魔法具の配達をどうにか1日で終わらせる事が出来た
お蔭で(気分的に)クタクタだけど、そんな事など知らないモー様は満面の笑みを浮かべている。
「勇者殿!各地から感謝の言葉が届いておるぞ!」
「え!?」
「閉山した鉱山が復活し!更には温泉が王国内各地で湧き上がり!水不足に悩む土地を救い!ベテランの冒険者でも討伐できなかった魔獣を討伐!しかも各地に新たな特産物の生み出してくれたそうではないか!これでこの国は活気を取り戻せる!勇者殿、王国の代表として、また1人のモーブの民として大変感謝する!」
「は、はあ……」
どうやら、早速各地に設置した魔法具からモー様に色々と情報が届いているようだ。
余談だが、ウォーマの町には新たな特産物が誕生の兆しが出た。。
トウモロコシと酒だ。
トウモロコシは泉の周りに自生していて、それを俺が回収、加護の力を使って町の外にトウモロコシ畑を作ってみた。
食べ方については今のところは焼いたり茹でたりを教えたけど、今度機会があったらコーンフレークの作り方も教えてみよっかな?
そして酒の方は、あの亀の背中に生えていた木の実を試しに弄ってみたところ「酒の実」というものが出来上がり、この果汁を一滴だけ他の果物の果汁の中や、水の中に浸けた麦芽や果物に垂らすと凄い勢いで発酵を始めて何でも酒に変えてしまう代物になった。
凄すぎたので更に改良したのをあの町の住民に渡し、ウォーマの町は酒造に燃え上がった。
もしかしたら、あの町で地球産に負けない酒が誕生するかもしれない。
「各地の領主が勇者殿に大変感謝しておるぞ。なんでも、是非自分の娘を、とか…」
「全部却下で!!」
「ウォーマの領主など、長女と次女をどうぞと……」
「だから却下!」
オランウータンに妹がいたのか!?
オランウータン姉妹は絶対に却下!!
「では、私の娘の中から好きな者を勇者殿に……」
「却下!!」
「ちょっと!私のどこが嫌なのよ!!そこはハイでしょ!!」
「え?」
「ほほう、リスティは勇者殿をもう慕っておるのか♪」
「ち、違うわよ!勇者殿にフラれたなんて噂が立ったら恥ずかしいだけなんだからね!!勘違いするんじゃないわよ!!絶対違うんだからね!!」
「「「………」」」
第二王女の言葉は誰にも信じて貰えませんでした。
そしてステラちゃんのバックには炎が……怖!!
「まあ、リスティったら♪」
「「姉様、可愛いですわ♪…だから真似しないでって言ってるでしょ!!」」
「ハッハッハ!では勇者殿とリスティの婚約パーティを始めようではないか♪」
「コラ!何勝手に話進めてるんだ!?」
「冗談だ♪」
だが、パーティの準備はしてあった。
その日の晩は俺と不機嫌なステラちゃんも強制参加のパーティが開催された。
王都の貴族達は挙って「是非、我が娘を!」としつこく迫って来たが、ステラちゃんの一睨みで散っていった。
そしてパーティが終わった後、殆どモー様の強引な押しにより一泊する事になった。
そして入浴、就寝の際、絶対モー様が裏で仕組んだとしか思えないトラブルも発生した。
「ちょっと!何で入ってるのよ!?」
「べ、別に何も見てないわよ!」
「何で私のベッドが移動してるのよ!?」
「何よ!私と一緒がそんなに嫌なの!?べ、別に私は一緒に寝たくなんかないんだからね!」
といった感じだ。
そして俺は今、ベッドの中にいる。
ステラちゃんと一緒に。
「………」
「ステラちゃん、まだ怒ってる?」
「私は別に怒ってはいない。シロウは勇者だ。勇者が大勢の異性に囲まれるのは普通のことだ」
「やっぱ気にしてるじゃん!」
「………」
こっちを向いてくれないステラちゃんだが、俺はそれを可愛いと内心で呟いた。
風呂上がりだからか、ステラちゃんからは良い匂いが漂ってくる。
「どうしたら機嫌を直してくれるんだ?」
「……してみろ」
「え?」
「すまないと、本気で思っているなら行動で証明してみろ」
「――――っ!」
突然、ステラちゃんは俺にキスをしてきた。
その顔は紅く染まっていて、可愛かったけどどこか悲しそうにも見えた。
少し頭がボ~としてきたけど、なんとなくステラちゃんが言っている今が解った。
「シロウ…」
「仕方ないな。明日、起きれなくなっても知らないぞ?」
「あ……」
俺はステラちゃんを押し倒した。
そして、ステラちゃんが今一番欲しいものをたっぷりとあげまなくった。
「明日まで寝かせないぜ?」
何故かは知らないが、この時の俺は妙に燃えていた気がする。
まあ、後悔はないけど。
こうしてモーブ王国の夜は更けていった。
『キャメ~~Zzz』