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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
ダーナ大陸漫遊編
234/465

第227話 ボーナス屋、モーブ王国を回る2

――モーブ王国 鉱山の町『ゴールドランス』――


 『毒々しき重金属竜(デッドリー・ヘヴィーメタルドラゴン)』を瞬殺して周辺一帯も浄化した直後、山と町を大きな揺れが襲い掛かった。

 そしてその直後、山中町中から間欠泉が発生した。



「温泉湧いた!?」



 どうやらドラゴンが山中を荒しまくり、更にそこへ俺が戦闘で止めを入れた事で地下の大量の温水(浄化済み)が地上に噴き出したみたいだ。


 廃坑の町は一転、温泉郷へ生まれ変わったのだ。



「―――って!湯量多過ぎだろ!?」


「シロウ!お湯の川が何本も出来上がってる!このままでは町が湯に沈むぞ!!」



 温泉が湧いたのはいいが、湧きすぎて町がお湯浸しになっていた。


 住民の騒ぎ声がここからも聞こえてくる。


 何も知らない人達からすれば、これは天変地異でしかないから騒ぐのは当然だろう。



「おお!これは!」


「ワイルダー伯爵、どうしたのですか?」


「メルル殿下、この湧き出るお湯には微粒状の天然魔石が溶け込んでいます!どうやらこの山の地下には僕の仮説通り、かなり巨大な魔石の鉱脈が眠っているようです!」


「まあ!それは素晴らしいです!」


「魔石の鉱脈なんてあるのか?」


「…数はかなり少ない。大陸内でも現在も採掘されているのは3つだけの筈だ。伯爵の言うとおり、この地下に魔石の大鉱脈があるとすれば、大陸西部における魔石経済が大きく変動する事になる。モーブ王国は四大国と肩を並べる魔石大国になるな」


「なんか凄い事になったな?」



 魔石は魔獣からも採取できるが、大きさや保有する魔力量も疎らな上に大きい物は滅多に出ないのが難点だった。


 それとは違い、地下に稀に鉱脈として存在する天然魔石は有限だけど安定して魔石を採掘でき、採掘される魔石は上位魔獣の魔石ほど魔力は多くはないが、魔力保有量が均一という長所がある。


 現在、大陸各国に流通している魔石の大半はこの天然魔石だそうだ。


 そしてこの天然魔石の主な産出国はフィンジアス王国で鉱脈を2つある。


 もう1つはゴリアス国にあり、今回発見(?)された鉱脈は4つ目の鉱脈、それも大鉱脈だ。


 経済学に疎い俺には実感がないが、ステラちゃんの話だと大陸の半分の経済を大きく揺るがす大発見だという事らしい。



「やった!これで町が救われる!」



 伯爵は大喜びで跳ね上がっている。


 ちょっと、住民が悲鳴を上げているのに1人だけ喜んでどうすんの?



「シロウ、兎に角今は街の救出に向かおう!」


「ああ、そうだな!」



 こうして午前中は町の()没した街の救出と、湧き出た温泉の整備工事に追われた。


 チートであっという間にできたとはいえ、ずっと湯気やお湯の中だったから心身ともにふやけてしまった。


 その後の調査で、鉱山の地下には天然魔石以外にもダイヤモンドやサファイアの鉱脈も――あのドラゴンは金属しか食べないから魔石も宝石も無事だった――セットで発見され、1年後にはこの町の名称も「黄金の大槍(ゴールドランス)」から「宝石の大槍(ジュエリーランス)」に変更したとかしなかったとか。(魔石も宝石に入るらしい)


 鉱山は再び復活、失業していた“働く男”達も復活し、町は鉱山と温泉の町として完全復活、国内外から観光や湯治の客が押し寄せて発展していくのだった。



「ヒ~ル~!」


「うっ!何だか元気になったぞい!」


「父さん!!勇者様、この御恩は一生忘れません!!」



 病床の先代領主(伯爵パパ)も俺の魔法で病気が完治して復活、その後の余生は伯爵の婚活やら仕事やらを支えつつ、温泉で身を清めながら初孫誕生を待つ日々を過ごすのだった。


 ちなみに伯爵はノーマルだ。







--------------------------


――モーブ王国 泥沼の町『マドロン』――


 次の町はあっちこっちに泥沼が点在しているマドロンというところだ。


 特に寄り道をすることなく領主と対面し、何時も通りに魔法具を設置して帰ろうとすると、屋敷の中に1人の兵士が飛び込んできた。



「領主様!!南の沼地より巨大な魔獣が出現しました!!」


「何だと!?」


「大きさからして、この一帯の魔獣の主です!!」


「勇者殿!!力を貸してください!!」


「行くぞシロウ!魔獣狩りだ!」


「…ステラちゃん、スッゴク楽しそうだな?」


「ほら!ボサッとしてないで行くわよ勇者!」



 突然の魔獣騒動に、ステラちゃんだけでなく何故か第二王女(リスティアーナ)もテンションが上がっていた。


 なんか知らないけど、ゴールドランスでの俺のドラゴン退治を見て大興奮したらしい。


 これは後でメルル姫に聞いた話だけど、リスティアーナ(通称リスティ)は、巷では「お転婆姫」、または「取扱要注意王女(デンジャラス・プリンセス)」と呼ばれるほどの王女4姉妹の中でも最も活発的な王女らしい。


 ステラちゃん達を悪く言うつもりはないけど、この世界のお姫様って変わり者が多過ぎないか?


 それはさておき、沼地に行くと巨大なサンショウウオがいた。



『ビュオ~~~~!!』


「うわあ、でっかいサンショウウオ~!」



【ジャイアント・メディスン・サラマンダー ♀】

【分類】竜型魔獣

【属性】水 土

【魔力】800,000/800,000

【ランク】A++

【状態】軽傷

【用途】肉は食用、それ以外は薬の素材

【詳細】沼地に生息するマッド・サラマンダーの亜種、メディスンサラマンダーの上位種。

 数十年から百年に一度現れるとされる温厚なドラゴンで、人間や地上の動物は食べず水中の魚や虫、植物などを食べ、基本的に縄張りの中でのみ行動する。

 体内で共生している微生物や自身の消化機能を使うことで、体内で薬を精製して自身や仲間だけでなく、縄張りで傷ついたものなら人間の傷さえも癒す心優しいドラゴンである。

 その肉は長寿や滋養強壮の効果があり、唾液は殺菌や解毒の効果や皮膚の炎症を治す効果、涙は全ての眼病を癒す効果があるなど全身が特効薬の塊であり、その為古来より乱獲されてその数を極端に減らしている。

 尚、人語を話す事は出来ないが人間以上の高い知性をあるのであらゆる言語を理解する事ができ、中には文字を書く事が出来る個体も存在する。

 仲良くなれば嬉しい事が起きるかも?



「――――だってさ」


「まあ!これが伝説のお薬ドラゴンさんですか!」


「お薬ドラゴンって……」



 このドラゴン、そんな別称があるのか。


 情報のとおりだと、人を襲うようなドラゴンじゃないし、退治する必要は無いと思うんだけど、どうするかな?


 俺はとりあえず領主に説明すると、どうやらこの種類のドラゴンは国や冒険者ギルドでは狩ることが厳しく制限されているとかで討伐しなくてもいいと言ってくれた。


 どうやら、沼の主の存在は知られていたが、どんな魔獣かまでは知られていなかったようだ。



「まさか、主がありがたいドラゴンだったとは……」


「しかし領主様、この主を手に入れれば莫大な富が…」


「そうですとも!中央やギルドの連中が制限をしてますが、禁止はしておりません!ここは勇者殿に竜退治をして町の……」


「おい、聞こえてるぞ!」



 この町の領主ややハゲは良い人のようだが、その周りは欲深そうな連中が多かった。


 ここには王女達もいるのに、あんなに声を出して……。


 そんな連中を見ていると、さっきから無視されていたドラゴンが姿勢を少し低くしながら地面に何かを書き始めた。


 よく見ると、指先から魔力を使ってこの大陸の公用語の文章を書いていた。



“初めまして。私はこの地の獣を束ねる長をしている者、ドラコといいます。あなたを龍神様の契約者と見込んでお願いがあります。”



 名前は兎も角、予想以上に知性も理性もあるドラゴンのようだ。


 それに、どうして俺が龍神――クロウ・クルワッハと契約してるって分かるんだ?


 銀洸達が言い触らしてるのか?


 試しに訊いてみると、すぐに答えが返ってきた。



“私は生まれつき、他社が持つ加護や契約を見抜く力を持っています。あなたの事は、あの町に到着した時から気付いていました。”



「ま、魔獣が人の言葉を……信じられん!!」


「これは、夢か!?」



 魔獣が言葉を操る事に俺の周りの集まった人達は凄く動揺していた。


 食糧や素材にしていた魔獣が人間みたいな知性を持っているとは想像もしていなかったんだろう。



「それで、お願いって何なんだ?」



“昨日、何者かが私の留守中に巣に侵入し、10日ほど前に私が産んだ卵を盗んでいったのです。おそらくは、私の種の卵には不老長寿の効果があるという迷信を信じた者が盗んだのでしょう。卵はこの沼地でしか孵る事が出来ず、長時間私の下から離れると死んでしまいます。お願いします。私の卵を取り戻してください。”



「バカな!誰がそんな事を!?」


「そもそも、この南の沼地は危険地帯として許可なく立ち入る事は禁止されていた筈……!」


「密猟者か!?」


「だが、所詮は魔獣の卵、盗んだところで問題など無いのでは?」



“私の種の卵は未熟の状態で割れると、魔獣を魅了する芳香が山2つ先まで広がります。そして、匂いを嗅いだあらゆる魔獣を無差別にその場所へと呼び寄せてしまうのです。過去、私の種より高位の魔獣が100体以上を含めた3万以上の魔獣が集まる『大侵攻』と呼ばれる災害を起こしています。”



「さ、3万……!!」



 その場にいたほぼ全員が息を飲んだ。


 特にステラちゃんとチーム王女はこの前の魔獣大量襲撃事件を思い出したのか、戦慄した表情をしていた。


 だが、ドラコの衝撃発表はまだ続きがあった。



“さらに卵が地上で腐敗した場合、不死系の魔獣が集まってきます。”



 それって、ゾンビやスケルトン?


 それも大変だな。



“それ以前に私の種の卵には不老長寿の効果はありません。ただ、過去に食べた人間は卵の保有する魔力に体を侵食されて魔獣に変貌し、外から集まってきた魔獣と共に人間を襲ったと聞いてます。おせらく、人間より長命な魔獣に変貌する事を不老長寿と解釈したのでしょう。”



「さ、探せ!!最悪の事態になる前に沼の主の卵を!!」


「は、はい!!」



 かくして、町総出での大捜索が始まった。


 自分達の生命の危機にも関わる事だからみんな必死になって探し回った。


 ほどなくして、こっそり町を抜け出そうとする怪しい一段が住民達により捕まった。


 犯人はこことは隣合わせの貴族領を治める貴族に雇われた元冒険者だった。


 不老長寿の迷信を信じた貴族の依頼で密漁に来たそうだが、あえなく御用となり、卵は無事にドラコの手に戻った。



“ありがとうございます。お陰で我が子を失わずに住みました。これはせめてもの感謝の証です。”



 そう言うと、ドラコは空に向かって水鉄砲を放ち、その水は町中に降り注いで奇跡を起こした。



「か、髪が!フサフサな髪が!」



 領主を始めとするハゲた人達の頭には若々しい髪が生えた。



「おお!腰が!足が!」


「杖無しで立てるわい!」



 シルバーの皆さんは背筋がピンと真っ直ぐになった。


 しかも走り回れるようにもなった。



「お肌がスベスベよ!?」


「小皺とシミが消えたわ!」


「古傷もよ!」



 お肌も綺麗になった。



「おお!アソコが元気になったようじゃ!」


「爺さんや、今夜は久しぶりに……」



 いろんな場所が元気になったようだ。


 ドラコが町中に撒いたのはどうやらドラコ特製の秘薬だったようだ。



“私は巣に戻ります。叶うのなら、今後も皆さんとは善き隣人とありたいと思っています。”



「いえいえ、こちらこそ主殿とは今後も友人として付き合いたく……」



身も心も若返った領主はドラコと友好関係を築くことを決定した。


住民達も殆どノリで賛同した。


元々、この沼地の魔獣は上位種が多いが人を襲うことは滅多に無いので住民達の危機意識は以外と低い。


さらに(いつの間にか)勇者のお墨付きということもあって皆安心しているのだ。



“勇者様、最後に1つお願いがあります。よろしければ、私を勇者様の庇護下に置かせていただけないでしょうか?”



え!?


それって、どういうこと!?



“私は所詮は魔獣に属する身、この地の者とは善き隣人になれても、外の者とはそうはいきません。此度のように欲深き者達に狙われることでしょう。せめて、我が子が自立できるまでの間、勇者様の庇護下にありたいのです。”



 つまり、俺の使い魔になりたいってことだな?


 よっし!


 レア系ドラゴンゲットだぜ!(まだゲットしてないけど)



「勿論!大歓迎だ!(ついでにチート化してやるぜ♪)」



“ありがとうございます。”



 ドラコは深々と頭を下げて感謝した。


 俺は《魔獣使いの秘技》を使い、ドラコをゲットした。


 こうして、俺に新たな仲間が加わったのだった。


 後日、話を聞いたコッコくんがライバル心を燃やすのだが、それはまた別の話。








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