第225話 ボーナス屋、モーブ王国へ行く
――ファル村――
「コ○とペ○シ、どっちがイイ~?」
「……○カで」
「はいどうぞ~♪」
やあ、毎度お馴染み士郎だ。
今日は朝からコーラを飲んでいるところだ。
何故かは不明だが、某龍王はただ今コーラの布教活動中だ。
近日、コーラが湧き出る泉だか湖を創るとか言ってるけど、それってこの世界的に大丈夫なのか?
〈神は清涼飲料水が大好きだった!〉
大丈夫らしい。
いずれファ○タやサイダーの泉とかも創りそうだけど、まあいいや。
俺的にはC○レモンも欲しい。
「イイよ~♪」
「心読むな!」
〈勇者の心は盗聴され放題だった!〉
黙れ!
世界の怖い女神全員に通報するぞ!
〈………………(大汗)〉
よし!
これで静かになった!
さあ、今日も一日頑張ろう!
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――モーブ王国 王都モルブラード――
フィンジアス王国の北西部に接している小国、それがモーブ王国、ダーナ大陸西部の小国群の中では比較的新しくできた新興国だそうだ。
「――――元々、200年ほど前まではこの地域は貴族が統治する複数の都市国家が乱立していた場所だったのだ。だが、当時の戦争などの影響もあり、複数の都市国家は1つにまとまって新しい国家を造り、それらの国が何度かの併合を経て生まれた国家の1つがこのモーブ王国というわけだ」
「へ~」
「10年ほど前までは、国境近くにある鉱山から良質な鉱石が採れていたのだが、それも採り尽くされてこの国の経済は衰退の一途を辿っている。そのせいで、国内の治安も悪化していて、その影響は隣国であるフィンジアス王国にまで及んでいる」
「ふ~ん……って、何でいるのステラちゃん!?」
モーブ王国に転移した直後、俺の隣にはステラちゃんが立っていた。
これ、何のサプライズ!?
「昨夜、夢に女神様が現れて、今日シロウがココに現れるのを教えてくださったのだ」
〈ステラは加護が進化していた!〉
また神の仕業らしい。
というか、謹慎解けたんだ?
「(フフフ…。アンナは新しい皇女の生誕で暫くは帝都から離れられない。今の内に私はシロウと……)」
「ステラちゃん、キャラ変わってないか?」
〈ステラは『灼熱の暴れん坊王女』に進化した!〉
「ヘルメス、うるさい!」
最近鬱陶しい神に怒鳴りつつ、俺とステラちゃんは王城へと向かった。
〈ステラがパーティに加わった!〉
コイツ、あくまで俺達を傍観しながら弄る気だ…!
ステラちゃんは「神の声」として簡単に受け入れているけど、現代日本人の俺には不愉快な雑音のようにしか聞こえない。
これがテレビの中の他人の出来事だったら笑ってたかもしれないけどな。
やっぱ通報しよう!
〈神ヘルメスは勇者に慈悲を求めた!〉
知るか!
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――モルブラード城――
王城は王都の中心部を流れる2本の運河に挟まれた小高い丘の上に立っていた。
デザインはフランス風(?)の、4~5階建てってところか?
材料にしている石が赤っぽいせいか、遠くから見たら煉瓦造りのようにも見える。
ステラちゃんの話によれば、何十年か前に発生した『大災厄』で一度全壊したのを立て直したとかで、ダーナ大陸各国の王城・宮殿の中では一番新しい城だそうだ。
確かに近くで見るとファリアス宮殿よりも老朽化してないのがよく分かる。
後で写真撮っておこっと!
「勇者殿!よくぞ来られた!」
テンプレな第一声をする王様が現れた!
モーブ王国の王様、略して通称モー様だ。
その名のとおり、牛みたいな体型に、これまた牛の角みたいな王冠が特徴の王様だ。
「ステラ殿下もよくぞ来られた!」
「お久しぶりです。モーブ国王陛下」
ロイヤル同士の挨拶もさらっと終わり、早速本題に移った。
「話は皇帝陛下から聞き及んでおる。新しい魔法具の普及はモーブ王国の発展にも必要不可欠。私も是非協力しようではないか」
「モー様サンキュー♪」
「貴様!陛下に不敬だぞ!!」
「よい、私が許可したのだ」
「し、しかし……」
この場に同席している貴族の1人はモー様と気軽に会話する俺が気に入らないようだが、そこはモー様が押さえ込んだ。
まあ、王様にタメ口使ったら怒鳴られるよな。
多分直さないけど。
「臣下の者が失礼した。それでだが勇者殿、協力とは別に相談があるのだがよいだろうか?」
「相談?」
「―――既に知っての通り、我が国は南の国境近くにある金山から採れる金を同盟国を中心に輸出する事で経済を支えてきたのだが、その金山が金が採れなくなった事により、今この国は衰退の一途を辿っておる。今は同盟国であるリル国の援助もあってどうにか耐えてはおるが、それも一時だけこと。どうにか起死回生の策を講じたいのだ。勇者殿、どうか知恵をお借りできないだろうか?」
「ん~」
どうやら俺が色んな国で色々やってる事を知って助け船を出して欲しいようだ。
俺個人としては――モー様は良いオッサンだし――別に構わないけど、何時もすぐに妙案が浮かび上がる訳でもないしな。
それに、俺はまだこの国について何も知らないし、何ができるかは国の様子を見て回ってから考えた方が良いな。
「――――という訳で、魔法具配達しながらこの国を見て回った後でいいか?」
「うむ。確かにこの国を知って貰う方が妙案が出易いだろうな。今日1日とは言わず、何日でも我が王国を見て回ってくれ」
「フン!精々恥をかかない策を考えてくるんだな!」
「デレック!いい加減にせんか!!」
「…申し訳ありません」
あの貴族、とことん俺が嫌いらしい。
俺に何か恨みでもあるのか?
さっきから敵意を向けているが、俺は初対面の相手に恨まれるような事はしてないぞ?
あ、もしかして仕えている国王に対して無礼だとかで恨んでいるのか?
それなら有り得そうだ。
あ、なんか小声で何か呟いて出ていった。
――――……者など、目……だ……は…ん!
ハッキリ聞こえなかったけど、何だったんだ?
「―――勇者殿、聞いておるか?」
「あ、ああ!」
「王国を見て回るのなら案内がいるであろう。案内役として私の信頼する者を付けようと思うが、よろしいか?」
「え?」
「若いが王国の歴史や地理に詳しく、多少は武芸の心得もあるので勇者殿の足を引っ張る事はないだろう。一時だけではあるが、勇者殿の補佐役としてどうだろうか?」
「……モー様、なんか顔が笑ってないか?」
「…私は何時も笑っておるが?」
モー様はあからさまにニヤついた顔で俺だけを見ている。
これはあれだ。
何か悪巧みか、それに近い事を企んでいる奴の顔だ。
モー様は善い王様だが、最初に会った時からどこか悪戯好きな印象があったし、連合設立後の食事会でもバカ皇帝をからかったりして爆笑していた。
俺が少しだけモー様を訝しんでいると、早速俺の能力がその事を報せてくれた。
――――ピロロ~ン♪
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『チーム王女、スタンバイ♡』
モーグ王国の王女4名が扉の向こうで待機している。
全員勇者に興味津々、中でも第二王女は勇者の恋人になろうと企んでいる。
モーグ国王は自分の娘を勇者の妃にできないかと、冗談半分に企んでいる。
尚、勇者が今日来ることは某神のお告げで昨晩の内に知っていた模様である。
余談だが、連合所属の各国の王――一部除く――は自分の娘を勇者の妃にしようと燃えている。
さらに余談だが、モーグ国王は心の中で爆笑している。
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っておい!!
案内役って王女かよ!
しかも俺の嫁の座を狙ってる!?
モー様も、爆笑してんじゃねえ!!
俺にはもうアンナちゃん達がいるんだ!
これ以上増やされたら、バカ皇帝みたいな破綻した男になってしまうだろ!
「ム!シロウ、扉の向こうに敵がいる気配がする!気をつけろ!」
「いやいや、それ違う意味の敵だって!」
俺の横にいるステラちゃんも、別の意味でスタンバイしていた!
なんか、今日は災難ばかり起きそうな予感しかしないな…………。