第21話 ボーナス屋、村に戻る
――ファル村――
ヴァールからファル村まではあっという間に移動できた。
ロビンくんはボーナス取得後のこの数日間、時間を見つけては村長の元を訪れて一緒に空属性の魔法の修業を行っていた。
空属性の魔法の大半は《ワープ》を始めとする移動系や、四次元倉庫のような異空間を作る創造系などの特殊魔法が占めている。
ロビンくんは特殊魔法に関して言えば“レベル4”というチート級の適正があったので半日だけでいくつもの新魔法を習得していった。
なお、修業の際はボーナスでゲットした〈衆智の収集書〉に村長がゲットした〈魔法知識(空)〉の情報をダウンロードしてあるので、村長が忙しい時も1人で勉強して順調に習得魔法を増やしていった。
今回移動に使った《ワープ》だけど、達人級だと行った事の無い場所にも瞬間移動できるらしいが、ロビンくんはまだ“知っている場所(行ったことのある場所)”にしか移動できないので行きの時は爺さんAの馬車に乗せてもらった。
まあそれはそうと、ファル村に到着だ!
「―――――フウ、流石にこの人数だと魔力の消費が多いですね。」
「魔力の底上げ修行しておいて正解だったな?」
「では、儂はここで失礼しますぞい。今日は本当に助かりましたぞい。」
「ああ、またな爺さん!」
「こちらこそ、お世話になりました!。」
「「「・・・・・・・・・・(ポカン)。」」」
爺さんAは俺達に礼を言うと馬車に乗って村の奥へと行った。
そして俺の横には口を開けたままポカンと立ち尽くすヒューゴ達と1人だけキョロキョロしているケビン、どうやら何が起きたのか分からないようだな?
「お~~い、お前ら大丈夫か~~~~?」
「―――――ハッ!な、何だったんだ今のは!?」
「景色が変わったぞ!?」
「ていうか、ここは何所だ!?」
「・・・兄ちゃん達、とりあえず落ち着いたら?」
いや、ケビンは落ち着き過ぎだから!
この場合、3人の反応の方が普通だよな、多分?
「ロビンくんの魔法で移動したんだよ!ここはヴァールの北の方にあるファル村だぜ?とりあえずようこそ、かな?」
「はあ!?」
「そんな魔法、聞いた事ないぞ!?」
「・・・というか、魔法自体見る機会少ないんだけどな?」
やっぱ、空属性魔法の存在は本当に知られていないんだな。
俺は4人にどんな魔法なのか簡単に説明しておいたが、ケビン以外はすぐには理解できないようだ。
「お兄ちゃん、凄い魔法使いなんだね!」
「ハハハ、私はまだ修業中の身ですけどね?」
あ、ロビンくん弟に尊敬の眼差しで見られて照れてる照れてる。
「――――――とにかく、少しでも時間を有効的に使いたいので、早速ですが修業を開始します。4人ともいいですね?」
「ハイ!」
いち早く返事を返したのはケビンだった。
他の3人も僅かに遅れて「おう!」「何でもやってやる!」と気合を口にした。
「では、まずは準備運動として村の周りを10周してきてください♪」
その瞬間、ロビンくんの何かのスイッチがONになった。
ちなみにファル村1周の距離は大体1㎞、10周ってことは10kmということになる。
ロビンくん、準備運動の距離じゃないんじゃね?
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1時間後、最終的に4人は10km走り切った。
太陽が徐々に下がり始めているとはいえ、夏真っ只中で10km走るのはかなりつらいよな。全員服が汗でびしょ濡れになってる。
「ハアハア・・・・・・」
「喉がカラカラだ・・・・・・!」
「ほい、水!」
「・・・・ああ、助かる。」
俺は4人が走っている間に汲んでおいた井戸水を木のコップに入れて4人に渡していった。
「さて、少し休憩したら今度は武器と体術の修業です♪」
ロビンくん、何だか楽しそうな顔をしてるけどみんな青褪めてるぞ?
もしかして、ロビンくんは隠れSなのか?
その後、最初は青褪めていたヒューゴ達だったが、目的に対する覚悟に偽りがないのかスグに元気を取り戻してロビンくんに剣術や体術を教わり始めた。
「遅い!もっと早く反応しないと死にますよ!」」
「もう一度だ!!」
「良い目です!」
うん、横から観てると熱血兄弟に見えなくもないな。
あ、ヒューゴの奴また投げ飛ばされた。
しばらくはこれが続くだろうし、俺も何かできる事を考えるかな?
「――――――とはいえ、俺にできる事といえばコレだけだよな。起動、っと!」
俺は《エフォートエクスチェンジャー》を起動させて色々調べていった。
調べると言っても4人の取得できるボーナスの種類だけだけどな。
今後の予定だが、体力もそうだが魔力も上げていく必要がある。
すでにロビンくんやステラちゃん達は俺が日本でやっていたのと同じ修行法で魔力の総量を順調に上げている。
ヒューゴ達にも同じ方法をやらせるつもりだが、それだけでは短期間でのパワーアップは難しいだろうな。
だが、それでも奴隷にされた家族を買い戻すのには多額の資金が必要になる。可能性があるとすれば、ドラゴンみたいな大型魔獣の討伐による報酬ぐらいだ。
さて、何か良さそうなボーナスはないかな?
あ、ボーナスで手に入れた魔法具や薬を売るって手もあるか・・・・・・・?
「―――――――――シロウ、戻ってたのか!」
「あ、ステラちゃん!」
地面に座り込んで悩んでいると、軽装姿のステラちゃんがやって来た。
今日会うのはこれが最初だな。
「先程、町の方から帰ってきたと聞いて捜していたのだが、あれは何をしているんだ?」
「ああ、あれな。実はさ―――――――――――」
ステラちゃんがロビンくんとヒューゴ達を指しながら訊いてきたので俺は簡潔に説明した。
結果、ステラちゃんはドン引きした。
「・・・・・・まだいたのか?」
「ああ、まだいるみたいだぜ?」
皇帝の多すぎる子供の数にはステラちゃんも頭がおかしくなりそうだな。
まさかと思うが、皇帝は国外にも種を撒き散らせてたりとかしないよな?
「しかし、話からするとかなり難しい話だな。奴隷は1人買うだけでも多額の金が要るというのに、10人以上も買うとなると上級貴族以上の資金が必要だろう。」
「やっぱりそうか。ちなみに、奴隷の相場ってどれくらいなんだ?」
「基本的には個人ごとに値段が違うが、小さい庶民の子供だけでも小金貨が必要だろうな。私たち位の年代となると、金貨が数枚必要になる場合もある。」
「ゲッ!そんなにするのかよ!?」
小金貨1枚ってことは100万D!?
確か妹だけでも8人いるらしいから、軽く見積もっても800万D!?
さらに元娼婦のお母さん達の分を含めるとなると・・・・・・・・!
「・・・・マジでドラゴン狩るしかないな。」
「ロビン殿もその辺りは十分に理解しているだろう。確実に全員を救うとなれば大金貨が数枚分の金を集める必要があるからな。竜種なら、種類にもよるが鱗や骨なども高額で取引されるから運が良ければ1匹で金貨3枚以上は稼ぐことができるだろうな。」
「そう言えば、この前俺が狩ったイノシシはどれ位の値段で売れるんだ?」
「鋼牙大猪か、肉を除けば大体300万D以上・・・小金貨3枚以上の値段は付いただろうな。肉も高級食材だから、合わせると小金貨6枚になっただろうな。正直、あの日は城でも中々食べられないあんな良い肉を食べられるとは思っていなかったぞ?」
ゲゲ!?
ということは、あのイノシシだけで奴隷6人は買えたかもしれないってことか!?
そう言えば、狩ったあの晩は村人総出でお祭り騒ぎになったっけ?
全部で300万以上もする、ステラちゃんもめったに食べられない高級肉が食べられたんだから当然だよな。
俺、価値も分からず全部村にあげちゃったよ!?
「―――――とにかく、何かあれば私も可能な限り協力しよう。」
「あ、ああ・・・・その時になったら頼みに行くぜ!」
「では、私は部下達の所へ戻るとする。」
そしてステラちゃんは自分達の拠点のある方へと去って行った。
ヤベエ、俺もそろそろこの世界の常識を本格的に勉強した方がいいな。特に物の相場とか・・・・。
「・・・・さてと、とりあえずボーナスの方を調べてみるか。そういや、検索に頼りっぱなしで全部確認した事はなかったっけ?」
俺は再びヒューゴ達の取得可能ボーナスをチェックしていく。
ボーナス一覧は1人分だけでもかなりの数があるから今までは検索に頼りっぱなしだったんだよな。
今更だが、掘り出し物みたいなボーナスがあるかもしれない。
「・・・・フムフム、〈ストレス発散〉なんてのもあるんだな。〈オンチ改善〉って・・・・?」
何だかどうでもいいボーナスも混じってるな。
まあ、人によっては本気で欲しいものかもしれないが。
「ん?何か下の方に・・・・・・“隠しボーナス”!?」
ボーナス一覧のずっと下の方を見てみると、薄い字で〈隠しボーナス〉という項目があった。
何だこれ!?とにかく説明を読んでみるか!
「・・・・何々、検索では決して見つからない手動で細かく探さないと見つからない、か。そんなのもあるのか!?」
こんなボーナスまであるとは今まで気付かなかったぞ!?
正直いらないボーナスが山ほどあったから、今の今まで検索システムに頼りきりだった。
手動で細かく探さないと見つからないって、もしかして、俺って今までポイントを無駄遣いしてたのか!?
クソ~~~~~~!!
無性に悔しくなったが、ともかく隠しボーナスを表示させてみた。
「って、何だこれ!?」
〈職業補正〉 10pt
・就いている職業によって能力に補正がかかる。
・複数の職業に就いている場合、全ての職業の補正が加わる。
・《ステータス》で【職業】をタッチする事で“確認”や“変更”ができるようになる。
〈クラス補正〉 10pt
・《ステータス》で表示される【クラス】の内容によって能力が補正される。
・職業と違い、常に変動するので効果は不安定。
・《ステータス》で【クラス】をタッチする事で詳細情報を見ることができるようになる。
〈職業レベル補正〉 15pt
・職業にレベルが付くようになる。
・職業ごとの経験や戦闘での経験値によってレベルが上昇し、上昇するごとに自身の能力が成長していく。
・〈職業補正〉を取得している場合、補正の内容がレベルによって変更される。
〈ランダム補正〉 10pt、20pt、30pt、・・・・・
・ランダムで新しい補正が加わる。
・消費するポイントが多いほど得られる補正は高いものになる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・!!
こ、これは何て夢のようなボーナスなんだ!!
特に2番目の〈職業レベル補正〉って、思いっきりRPGとかのレベル制が現実に導入されるってことか!?
つまり、このボーナスを取得した状態ならより早く強くなれるってことなのか!?
これは凄い!しかも内容の割に消費するポイントが低い気がする!!これはお買い得だ!!
てか、今までこれに気付かなかった俺のバカ!!
「・・・まあ、とりあえず俺にもあるか確認してみるか。」
これはあくまであの4人のボーナス一覧、俺にも同じのがあるとは限らないしな。
けど、その心配は杞憂に終わった。
俺のボーナス一覧にもしっかりと〈隠しボーナス〉の項目が隠れていたし、同じボーナスも入っていた。
「よし!とりあえず〈職業補正〉と〈職業レベル補正〉の両方を取得してみるか!」
俺は迷わずこの2つを取得し、俺のステータスは以下のようになった。
【名前】『ボーナス屋』大羽 士郎
【年齢】16 【種族】人間
【職業】冒険者(Lv1) 高校生(Lv1) 【クラス】勇者(仮)
【属性】メイン:土 木 サブ:火 風 水
【魔力】1,100,000/1,100,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv3) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv2) 特殊魔法(Lv2) 属性術(Lv3) 剣術(Lv2) 体術(Lv2) 投擲(Lv2) 善行への特別褒賞 鑑定
【加護・補正】魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv2) 土属性耐性(Lv3) 木属性耐性(Lv3) 火属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv2) 土神ハニヤスの加護 豊穣神アヌの加護 異世界言語翻訳 職業補正 職業レベル補正
【BP】14pt
おお!ちゃんと職業にレベルが付いてるぜ!!
それにしても、クラスはまだ『勇者(仮)』なんだな。
それにこの数日間でポイントが少し貯まってるな。
きっと村を守ったり復興を手伝ったりした効果だろうな。
「それじゃあ、まずは補正の効果を確認するか!」
【冒険者(Lv1)】
体力微上昇 視力微上昇
【高校生(Lv1)】
知力微上昇 経験値微上昇
レベル1だとこんなものか。
しかし、経験値上昇ってのはレベルが上がりやすいってことか?何気にいい効果だ。
俺のゲーム好きが反映した能力とは言え、ここまでできるとは驚きだ!
「今更だが、俺の能力って素敵だな♡」
「どう素敵なの?」
「って、何時の間に!!」
独り言を呟いていたら、隣にケビンが座っていた。
「さっきお兄ちゃんが、シロウさんの所で魔法を教えてもらいなさいって言われたからきた。」
「そ、そうか・・・・・!」
「僕は魔法使いの才能もあるからバランスよく修業した方が良いんだって!」
「・・・なるほど。」
確かにケビンは4人の中で一番魔法の才能が高い。
加護も明らかに魔法系の神様のだったしな。
何より、属性が無属性なのはかなりスゴイ!
「そうか、ならまずは基本の魔法から練習するか?」
「はい!」
ついでにボーナスもいくつか取得させてみるか。
フフフ、何だか面白くなってきたぜ!
異世界にレベルシステムが導入されました。
ネタバレですが、レベルが上がると上位職に転職できるようになります。
なお、隠しボーナスの種類の数も個人によって異なります。
次回の更新は28日の予定です。