第222話 ボーナス屋、エルフの里へ行く
「……やり過ぎた」
俺はちょっと調子に乗り過ぎたと後悔した。
結果から言えば、決闘は俺の勝ちだった。
だけど、対戦相手の女エルフのホリーを含め、その場にいたエルフのほぼ全員が失禁してしまった。
失禁せず、気絶もしてないのはエルフのリーダー1人だけだった。
そのリーダーも、顔は真っ青で全身から汗を洪水のように流している。
『アハハハハ!ちょっとやり過ぎちゃった♪』
『では、私達はこれで失礼するとしようかの』
『そうですね。ではシロウ、また何かあれば呼んでくださいね』
「う、うん!みんな、ありがとな!」
『フハハハハ!では皆の者、さらばだ!!』
精霊王達は去っていった。
そして残された者達はと言うと、エルフ達は先に説明した通りで、人間…領主達はただただ呆然としていた。
凄すぎて言葉も出ない心境らしい。
「……これが、勇者……」
「聖国からの避難民が言ってたのは本当だったのか……」
暫くは放っておこう。
それより、今はエルフ達だ。
「なあ、決闘は俺が勝ったんだ。お前ら、さっきの通告を取り消して帰ってくれないか?」
「―――!な、何故そうなる…!?」
「決闘だろ?なら、勝者に利があるのは普通だろ?まさか、勝手に決闘を始めておいて、自分達が負けたら何もなしって事はないよな?誇り高いエルフさん?」
「うっ……」
エルフのリーダーは言葉が出ないようだ。
エルフ側は決闘前に勝利の際の要求は言ってなかったけど、この世界じゃ決闘の勝者は敗者にそれ相応の要求ができると言うのは一般常識だと聞いている。
試しに言ってみただけど、どうやらそのルールはエルフにも有効だったようだ。
だけど、俺の要求は受け入れ難いようだ。
なら仕方ない。
「じゃあ、エルフの長と領主さんを会わせてくれないか?それ位ならいいだろ?」
「な、何!?」
「俺は別に政治家じゃないし、「この地を出て行け!」とかっていう話は人間とエルフの代表者同士が話し合うべき事じゃないのか?ちゃんとした話し合いも無しに一方的に追い出すとかって、それこそお前達の嫌いな野蛮な行為じゃないのか?」
「…………ッ」
エルフのリーダーは更に顔を真っ青にした。
「領主さんも、それでいいよな?」
「え?あ…ああ、エルフ族の長とは是非一度会って話したい!」
「だそうだ。良いよな?」
「…………」
そして、エルフのリーダーは俺の要求を呑んでくれた。
かなり汗だくになってたけど、あれって俺にビビってるだけじゃなさそうだったな?
もしかして、俺達がエルフの里に行くことが何かマズイのか?
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――聖なる森 エルフの里――
ヴェルレストから東にある大樹海、その一部が「聖なる森」と呼ばれるエルフが暮らす場所だそうだ。
その中心にあるのは山のように巨大な大樹、エルフからは『聖樹』や『世界樹』と呼ばれているらしい。
そしてその大樹の下にエルフの里はあった。
「リーヴ!!何で人間が一緒にいる……臭っ!?」
「な!蛮ぞ…臭い!何だこの臭いは!?」
「「「………」」」
エルフの里に到着すると、若いエルフ達が一斉に俺達を囲んだが、一緒にいる同胞達から異臭がすることに気付いて顔を顰めた。
その異臭を放つエルフ達はと言うと、顔を真っ赤にしながら仲間に視線を向けられずにいた。
あれだけプライドが高そうなエルフが、まさか失禁したとは言えないだろうな。
すると、俺に負けてからずっと黙っていたホリーが急に口を開き始めた。
「……うぅ…ううぅぅ………」
「ホリー!一体何があったんだ!!」
「蛮族共に何かされたのか!?」
「うえええええぇぇぇぇぇぇぇぇんん!!」
「「「!?」」」
ホリーは泣きだした。
それはもう、小さな子供みたいに。
「もう駄目ええぇぇぇ!!家にがえれないよぉぉぉぉ!!」
「ホ、ホリー!?」
「父様にも母様にも顔向けできないよぉぉぉ!!うえぇぇぇぇぇん!!」
「人間ども!!俺達のホリーに何をした!?」
「「「………」」」
「答えろ!!」
俺達はそろって視線を逸らした。
言える訳がないよな。
彼女が決闘で負けた挙げ句、怖くて失禁しただなんてさ。
領主さん達も、泣いている女の子(超年上)を前に本当の事を言えないようだ。
と、そこえ騒ぎを聞きつけた他のエルフ達が集まってきた。
「これは一体何の騒ぎだ!?」
「ちょ、長老!!」
「父上!!」
「リーヴか?もう帰って……何だこの臭いは?それに人間?」
現れたのはエルフの長らしい。
というかエルフのリーダーことリーヴ、「若」って呼ばれてた辺りから予想してたけど、長の息子だったか。
それはさておき、リーヴに案内してもらう手間が省けたな。
「どういうことだリーヴ?お前達は人間の町に行って先日の異変について調査してくるように言ったはず。なのに、どうして人間が、それも大勢ここに来ているのだ?それに、先ほどから森中の精霊達の様子がおかしいが、それとも関係があるのか?」
「そ、それは……」
ん?
なんだか様子が変だな?
調査…?
「エルフの長殿、突然の来訪の非礼をお侘びします。私はゴリアス国の貴族、ジェロームといいます。先程、御子息殿からヴェルレストの地から人間は去れという通告を受けました。それについて、長殿に問いただしたいことが…」
「待て、何の話だ?」
「…は?」
「人間をあの地より追放するだと?どういう事だ、お前達?」
「そ、それは………」
そして事のあらましがエルフの長達に伝わった。
「「「バカ者共があああああああああああああああああああああああああ!!」」」
エルフの長達の怒声が里中に響き渡った。
やはり、リーヴ達の「人間出て行け宣言」は彼らの独断で、里の意志ではないそうだ。
長はこの前の聖都で起きた一件をリーヴ達に調査させたが、エルフの中でもまだ若い世代のリーヴ達は異変の原因は人間のせいだと邪推し、ああいう行動に出てしまったそうだ。
なんでも、若いエルフは無駄にプライドが高い傾向があるらしく、その多くは人間のいる世界を下賤な世界と見下して里の中に200年以上引き籠り、その結果、ああいう性格になってしまうそうだ。
「ジェローム殿、愚息どもが大変ご迷惑をかけてしまい、申し訳ない!!通告については無効なので無視して構いません!!」
「いえ、間違いでしたらいいのです。それにしても、この里は素晴らしいところですね?そしてお茶も美味しい」
「里の名物でアヌ茶と言うものだ。後で葉をお分けしよう」
エルフの長と領主さんは仲良くなっていた。
一方、リーヴと失禁エルフ達は異臭を放ちながら外で重鎮エルフ達から言葉のフルボッコを受けていた。
だが、それに納得しないエルフ達もいた。
「――――長!何故、リーヴ達が罰を受けなければならないのですか!?此度の件は全てそこの人間達の陰謀!人間が我らを滅ぼす為、彼の地の封印を解いたのです!これは精霊達から聞いた確かな情報です!!」
「そうだ!悪いのは蛮族共だ!!」
「蛮族め!長を騙して里を乗っ取る気だな!!俺達は騙されないぞ!!」
「お前達、客人に無礼だぞ!!」
長達は若エルフ達を鎮めようとするが、血の気の多い若エルフ達の人間に対する罵詈雑言は止まる様子が無かった。
精霊達から聞いた?
俺達がエルフを滅ぼす為にバロール(体)の封印を解いたって、それ思いっきりデマだろ。
一体、何処の精霊がそんなデマを流したんだ?
「おいおい、その情報、思いっきり嘘だぞ?その精霊、お前らに嘘を教えたんじゃないのか?」
「貴様!我等エルフの隣人である精霊を侮辱するか!!精霊王がお怒りになるぞ!」
「……は?」
俺、その精霊王達と友達なんだけど?
あ、失禁エルフ達の顔がまた真っ青になってる。
「精霊だって嘘くらい吐くだろ?経験は無いのか?」
「そんな事……………」
「あ……」
「あるんだな」
「黙れ!!偉大なる豊穣の神に代わり、貴様ら蛮族を……」
「じゃあ、神に証明してもらおうか?」
「!?」
どうやら、人間の言葉じゃ説得は難しそうだ。
なら、エルフが崇めている大地と豊穣の神に説得してもらうしかないな。
まあ、精霊王を呼んでもいいけど、こっちの方がインパクトが大きいだろう。
「貴様!神をも愚弄するか!!」
「お前達!!いい加減にしないか!!」
若エルフ達は俺の言葉をちゃんと理解してないのか、ギャーギャー騒ぎ続け、それを重鎮エルフ達が鎮めようと怒鳴り声を上げる。
一方、リーヴと失禁エルフ達には俺の言葉の真意が伝わったらしく、もう死体みたいに血の気が引いて
いて今にも気絶しそうだ。
また漏らすなよ?
「そういう訳で、カモン!クロウ・クルワッハ!!」
俺は契約した神1号をこの場に呼んだ。
直後、エルフの里に途轍もないプレッシャーが降りかかった。
「「「!!!!!!」」」
失禁エルフの一部がまた失禁して、泡を吹きながら気絶した。
あ~あ。
『――――呼んだか。我が契約者よ?』
そして、エルフの里に金色の龍神が、全身から神オーラを放ちながら降臨した。
しかも女連れで。
『私は豊穣神アヌ、世界樹よりルーヴェルトの大地を見守る者――――』
神が降臨しました。