第220話 ボーナス屋、ゴリアスを回る
――ゴリアス国 首都ドーウィン――
「「シロウ様(殿)!!」」
「死ね!!」
「サヨウナラ!」
魔法具配達3日目、今日はゴリアスの配達なので最初にグローリア城に挨拶に来たんだけど、危険なので後にする事にした。
ミリアムちゃんと何故かイルダーナの領主さんの娘が一緒に俺に迫って来たし、団長は俺を殺そうと襲い掛かってきたんだから仕方ないよな?
〈リア充は死ねばいい(笑)〉
喧しい!!
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――ゴリアス国 バーブン村――
午前中はゴリアスの辺境の村を回っていった。
途中、何時ものように勇者よりも本業になっているボーナス交換業務もこなしていった。
貴族の1人娘と恋仲だけど引き裂かれそうになっている青年を助けたり、森で魔獣に育てられた少年少女を助けたり、数百年の眠りから目覚めたドラゴンに攫われた乙女を助けに行って逆に捕まった英雄志願者を助けたり、村ぐるみで詐欺に遭った人達を助けたりした。
そして今いるのは周囲を森や竹藪に囲まれた小さな村、バーブン村だ。
「この村は昔から炭作りが盛んなんす。うちにも炭焼き小屋があるんすよ」
そう言って村を案内してくれているのは第一村人のセミンちゃん14歳、この村の炭焼き職人の娘さんだった。
喋り方がちょっと変な子だけど、胸が年の割に大きくて可愛い女の子だ。
ゴホン!それはさておき、ゴリアス国は国中が木々に溢れていて、木炭の生産と輸出が盛んな国だ。
バーブン村も含め、国内には木炭の生産が盛んな村が各地に点在している。
「村中煙だらけだな?」
「そうなんす。炭焼きを始めると、何日かは村中が煙塗れになってしまうんす。うちは慣れてるんすけど、やっぱり…ゴホッ…キツイんす!」
「……その喋り方って、ここの訛りなのか?」
「いや、違うんす!母ちゃんのがうつったんす!」
「そうなんだ」
「あ!あそこが村長の家っすよ!」
ちょっと残念な気がするセミンちゃんに案内され、俺はこの村の村長に会いにいった。
他のゴリアスの村同様、まだ勇者の存在を知らない村長さんは最初警戒したが、紹介状を見せたり、電話を設置して1つ前の町で会ったこの村を含めた地域の領主さんに通話したら手の平を返したような態度が変わって俺を食事に招待してきた。
丁度昼が近かったので、俺は言葉に甘えることにした。
「この村の名物、バーブンパンですじゃ!」
「硬!!めっちゃ硬!!」
「この硬さがいいんのじゃ!ホレ、バーブンパンのお蔭で儂の歯なんぞ今も現役じゃ!」
村長は未だに全部の歯が揃っていることを自慢してたが、このバーブンパンは硬すぎる。
パンというより分厚い煎餅みたいだ。
いや、煎餅の方がまだ軟らかいな。
ファル村のパンも前はちょっと硬かったけど、ここまで酷くは無かった。
酷過ぎる酷過ぎる硬さだ。
「……この村って、どんな風にパンを焼いてるんだ?ちゃんと発酵させてから焼いてるのか?」
「ハッコウってなんすか?」
「え?」
この村ではパンを発酵させるという発想は無いらしい。
というか、ゴリアスのパンの大半はバーブンパンみたいに硬く、白くて柔らかいのは豪商や貴族以上の身分の人間しかまず食べないそうだ。
平民は軟らかいパンの焼き方自体知らないのかもしれない。
そういえば、地球でもパン酵母って発見されたのはルネサンス期だったとか、それまではワインやビールを混ぜていたとかって聞いた事があるな。
この村の場合、それすら無しだけど。
「これはパンじゃない!!本当のパンを教えてやる!!」
あまりに酷いパンに俺の怒りが爆発した!
俺は四次元倉庫の中から(ファル村で趣味で作っていた)天然酵母を出し、村人の前でパン作りの実演を始めた。
ついでに竈型の魔法具の実演もした。
その途中、俺はある物を見つけた。
「これって、竹炭か?」
「そうっす!うちの父ちゃんが、村の竹やぶで採った竹で作った炭なんす!売り物になれないから自分達で使ってるんす!」
「これも使えるな!」
竹炭は食用として売っているのを見たことがある。
健康維持やダイエットにも役立つ素敵食品だと、昔パン職人系アニメでもやってたのを覚えている。
念の為に鑑定してみたら高温で造られているので雑菌など有害なものが無かったので、少しだけ貰って一部のパン生地に混ぜてみた。
真っ黒なパンに村人達は一部嫌な顔をしたが、焼き上がった時の美味しい匂いでそのイメージを覆してやった。
「美味い!!」
「うめえだ!真っ黒なのにうめえだ!」
「それに軟らか~い!」
「おら達が今まで食ってたのはなんだったんだべか!?」
「美味いっす!!これ、めっちゃ美味いっす!!」
「フハハハハハ!!どうだ、これこそがパンだ!!」
俺のお手製パンは大好評だった。
これを食べた村人達は村長も含め、今まで食べていたバーブンパンをパンとは思わなくなった。
そして一斉に、俺に詰め寄って天然酵母や軟らかいパンの作り方を訊きに来たので俺は惜しみなく知恵を授けた。
ついでに魔法具の宣伝もしていった。
俺は村人全員に見送られながらバーブン村を去った。
余談だが、翌日、竹炭パンを耐えた人達はお腹に溜まっていた物を一斉に排出して満面の笑みになったという。
「2日ぶりのサッパリしただ~♡」
そして1ヶ月後、噂を聞きつけた国中の美の追求者達が竹炭を求めて殺到したらしいが、俺には関係の無い話だ。
「パンの勇者さん、また会えるんすかね~♡」
勝手にフラグが立ってた事については、俺は全然気付いてなかった。
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――ゴリアス国 製塩の町『ブルーソルト』――
この町はゴリアスの経済の要の1つ、ダーナ大陸最大の製塩地帯にある町だ。
ここで作られた上質な塩は海路や陸路を通して大陸中に運ばれ、ゴリアスに多大な利益をもたらしていた。
「町が!塩田が!もう駄目だあああああああ!!」
「落ち着け、領主!」
「領主なんて無理だよおおおおおおおおおおおおおお!!」
「トゥ!」
「グホッ!?」
ここに来て早々、町を治めている領主がパニックを起こしたので力ずくで大人しくさせた。
ここの領主はまだ10代の青年で、先代の領主の甥にあたるらしい。
その伯父である先代の領主は、今は牢獄の中の元宰相&元摂政の一派だったので同じく牢獄行き、他の親族も捕まっていった中、先代の弟である彼の父親は先代国王の忠臣で元宰相&元摂政に反発しながらミリアムちゃんの力になっていた。
そのことで領主の家は、彼を領主にする事で存続することになったそうだ。
もっとも、その新領主の彼は領地の現状に絶望していた。
「うぅ……領主なんて僕には無理だよ……」
「旦那様、我ら一同も微力ながら支えますので立ってください」
「そうですとも!ブルーソルトはまだ死んでません!」
家臣団や使用人達は主を励ましているが駄目そうだな。
さて、どうしてこうなったのか?
「島が墜ちたのです」
「島?」
「大陸の東の海には、空に浮かぶ不思議な島々が点在しております。その島々の一部が先日謎の爆発により消滅し、その時の衝撃でこの町の沖に浮かぶ島が海に墜落したのでございます」
「…………え?」
おい、それってもしかして…
「それにより大波が発生し、このブルーソルトの町の海岸部に押し寄せてきたのでございます。幸い奇跡的に亡くなった方はおりませんが、多くの船舶や塩田が被害を受け、特に塩田は壊滅状態にあるのです」
ああ…この前のバロール(体)との戦いのせいだな。(*201話参照)
ナレーション神があの時、そういう事を言ってたからな。
「塩はブルーソルトの、ゴリアス国の生命線でございます。それが壊滅してしまい、ただでさえ先代領主の事で動揺していた民衆が…」
すっかり説明係な執事さんは窓の外を向く。
外からはさっきから屋敷の前に集まっている民衆の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
中には罵詈雑言も混じっている。
「もう駄目だあ~~~!!」
「しっかりしてください!!」
「僕はただの地味な辺境騎士なんだよ~~~!!」
コイツ、駄目だな。
プレッシャーとかに弱過ぎて、正直領主とかには向いてそうにない。
それは別としても、この町の状況は相当深刻のようだ。
ゲームみたいにボスキャラ倒しただけで世界が平和になるとは思ってはいなかったけど、このままだとマジでブルーソルトの町が壊滅しちゃいそうだ。
「神様~助けて~!!」
新領主は天に祈りを捧げた。
すると、都合よく返答が帰ってきた。
『―――呼んだ?』
「誰!?」
『海の神だが?』
突然、俺達の前に神様が登場した!
見た目は青い髪のオッサンだが、全身から微かに神オーラが漏れ出ている。
『我が名は海神リル、数百年ぶりに呼び声を聞いたので来てみれば…そうか、それは災難だったな。どれ、久方ぶりに人間を助けるか』
「いやいや、その前に神が現世に来ていいのかよ!?」
『…30秒だけなら問題ない。それ!』
「「―――!!」」
直後、ブルーソルトの町が揺れた。
そして全壊した塩田の砂浜の下から巨大な何かの結晶の山が突き出してきた。
更に海からも、大量の海色の石が砂浜に押し寄せて砂浜を海色一色で埋め尽くした。
『これで暫くは問題ないだろう。ああ、我がやったという事は秘密にしておけ。人間の中には、神が居ると知れば依存して怠ける輩も多いからな。では、さらばだ』
神は帰っていった。
この後塩田に行って大量の石や結晶の山を調べてみると、どちらも高品質な塩の結晶だった。
『海神の塩』という名のその塩は、ミネラルたっぷりで普段この町で製造している塩よりも味も質もいい塩だった。
「塩だ!塩の山だ!」
「これで町が救われる!!」
「奇跡だ!奇跡が起きたんだ!」
これにより民衆は絶望から救われた。
表向きは浮遊島の墜落の影響で海底にあった塩の塊が流れ着いたり隆起したということにし、塩田が復興するまではこの塩で町やゴリアスの経済を支える事になった。
これでブルーソルトは大丈夫、かと思ったが……
「領主なんて無理ぃぃぃぃぃぃ!!」
「旦那様!何処へ!?」
「若様、心が繊細過ぎます!!」
肝心の領主が駄目すぎた。
この新領主、自分はどうせ爵位は親の跡を継ぐのは上の兄弟の誰かだと思い込み、自分は出世など考えず辺境でのんびりと騎士をして生きようと考えていたらしい。
それがまさかこうなるとは思っておらず、只でさえ人の前に立つのが苦手な彼は完全にヘタレていた。
「うううぅ……辺境に帰りたいよう~」
「………」
その後、俺は電話で首都の方に連絡する。
なんか団長の怒声が聞こえてきたが、取り敢えずミリアムちゃん一家にブルーソルトの現状を報告し、領主がヘタレていることを伝えた。
すると、電話を切って数分でミリアムちゃんのお祖父さんが西の空から飛んできた。
「「「!!!」」」
「貴公の性根、私が直々に叩き直してやろう!!」
元国王(現大公)のブートキャンプ発生!
その後、彼がどうなったかは誰も知らない…(笑)
余談だが、ヘタレ領主のステータスは、
【名前】アルブレヒト=F=ブラオメーア
【年齢】18 【種族】人間
【職業】領主 【クラス】ヘタレ辺境伯
【属性】メイン:水 氷 サブ:風 土 雷
【魔力】7,900/7,900
【状態】ヘタレ
【能力】攻撃魔法(Lv2) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv1) 特殊魔法(Lv1) 剣術(Lv2) 槍術(Lv2) 弓術(Lv2) 体術(Lv2) 調合術(Lv2) 祈祷術(Lv5)
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv1) 精神耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv3) 氷属性耐性(Lv3) ガラスのハート 草食男 器用男 神を呼んだ男 海神ディランの加護
【BP】56
叫んだだけで神を呼べたのは《祈祷術(Lv5)》のお蔭みたいだ。
加護を与えたのとは別の神を呼べた辺り、チートな感じがするが、俺は深く考えることなくブルーソルトの町を後にした。
タマゴが孵るまであと3日……