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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
ダーナ大陸漫遊編
223/465

第216話 ボーナス屋、帝国を回る

――ファリアス帝国 貿易都市『トレーネ』――


 魔法具の配達は順調に進んだ。


 主に転移装置で帝都とまだ繋がっていない都市を中心に回ったのだが、既にどの領主の貴族も俺の事は知っていたので話もスムーズに進んでいき、魔法具も喜んで受け取ってくれた。


 電話やパソコンもだけど、自動錬成機もかなり喜ばれた。


 なにせ、普段使っているような高価な羊皮紙やインクがすぐ滲んでしまう様な低品質な紙とは比較にならないほどの高品質な紙を大量に生産でき、それ以外にも各種金属のインゴット、油や塩なども錬成して生産できるのだから当然だろう。


 だけど一度に大量生産し過ぎると経済に悪影響を与える場合もあるからと、その後の大量注文は家臣達や商人達と検討してから行うとも言っていた。


 そして現在、俺は帝国の東海岸にある貿易都市(トレーネ)に来ていた。



「うわ!スッゲェ~!」



 思わず声を上げてしまったが、それ位トレーネの街は広大で迫力に満ち溢れていた。


 なんといっても船!船!船!


 貿易都市と呼ばれている事もあって、港には大型の帆船が何隻も停泊している。


 その数は20や30を優に超えていて、ヴァールとは規模の桁が違っていた。


 それもその筈、トレーネはゴリアス国や北の小国との交易の重要拠点であり、近年は新大陸と帝国の間を結ぶ役目も担っているので今では帝国東部最大の港町として発展しているのだ。


 もっとも、北の小国との交易は昨今の事情により一部難しくなっているようだが。


閑話休題


 観光はまた今度という事で、俺はトレーネの領主をしているデーゲンハルト侯爵に会いにいった。


 街がデカければ領主の家もまたデカかった。


 ロルフの実家程じゃないが、広大な庭園に地上三階建ての大豪邸に住んでいるその人は一言で言うならナイスミドルだった。



「ようこそ勇者シロウ殿、私がトレーネの領主、ヘンゼル=A=デーゲンハルトです。御武勇はこのトレーネの街にも届いております」



 侯爵は凄く紳士的な人だった。


 余談だが、デーゲンハルト侯爵家はロン村長一家とも親交があるらしく、というかトレーネは村長の生まれ故郷だそうだ。



「―――これは凄い!シロウ殿、このデンワという魔法具をもう2,3台ほど頂けないでしょうか?」


「ああ、沢山預かっているからそれ位なら大丈夫だ」


「助かります。何分、領地が広大なので外れにある町や村とは連絡を取るのが困難なので、このような魔法具があれば非常に助かります」



 ちなみに、デーゲンハルト侯爵領はトレーネの街以外にも3つの町と20を超える村が点在する帝国でもベスト5に入る位の広さを誇っている。


 3つの町はそれぞれ侯爵家門下の貴族が治めており、村も侯爵が信頼する村長達によって治められているらしい。


 だけどトレーネから離れている村ほど緊急時に連絡を取るのが難しく、侯爵も長年頭を悩まされていたそうだ。


 そこに登場した最新魔法具、これに飛びつかない訳が無かった。



「だったら、俺がついでに配ってこようか?」


「おお!それは助かります!」



 《転移》を使えば移動時間は殆ど無いに等しいしという事もあって、俺は各町や村への配達も請け負った。


 侯爵から紹介状、というか委任状を受け取り、俺は侯爵領の外れにある町や村にすぐさま移動して電話などを配っていった。


 各地の貴族や村長などは突然目の前に現れた俺に腰を抜かしたり警戒したりもしたが、バカ皇帝や侯爵のサイン入りの書類を見せるとすぐに警戒を解いてくれた。


 ついでにアンテナも設置していき、あっという間に侯爵領全域に通信網を張り終えて侯爵の所へ戻った。



「シロウ殿!先程、領内の村長や貴族達から早速デンワで連絡が届きました!」



 侯爵さんからは物凄く感謝され、お礼にとトレーネの名産品を沢山貰った。



「このデンワという魔法具、船にも設置できればかなり便利ですね?」


「確かにそうだな。後でエルナさんにも伝えておくよ。」


「そうして下さると助かります。最近、新大陸行きの大型船舶が行方不明になるなど、海では事故が多いので連絡を取れる手段が欲しいと長年思っていた処なので」


「行方不明…?」



 例年と比べて今年は船の事故が多いか……。


 新たな事件のフラグの予感がした俺は、何時ものように《摩訶不思議な情報屋(エクセレント・リポーター)》で検索してみた。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

『検索:帝国東海沖 海難事故 行方不明』


 ダーナ大陸と新大陸(オリンポス大陸)の間にある海域では、昨年の2.3倍の数の船舶が行方不明になる問題が発生している。

 その内約3割は嵐による沈没で2割が大型魔獣による襲撃による沈没である。

 そして残る約5割の船舶は『海神の聖域』、又は『船喰いの魔海』と呼ばれている海域を通過する際、海底遺跡にある古代の転移魔法陣の暴走に巻き込まれた事による強制転移によるものである。


 この海域は嘗ては多くの有人の島が浮かんでいたが地殻変動により海底に沈んだ場所であり、海底遺跡だけは奇跡的に原形を留めているが、遺跡内の魔法関係の装置が中途半端に損壊した状態のまま年月が経ち、近くにある海底火山の影響で遺跡内の各装置が誤作動を起こし始めていた。

 転移魔法陣も誤作動を起こした装置の1つだったが、約1年前に近海に生息する魔獣の魔石が魔方陣に流れ着き、その魔力を吸収した為に魔方陣は暴走を開始、真上を航行する船舶を全て別の場所へと強制転移させている。


 強制転移された船舶は全てこの惑星の南半球に転移しており、その大半は幸運にも別の大陸に辿り着いており、乗組員もその多くは今も生存している。


▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 どうやら、この世界にはまだまだ未知の大陸が存在するらしい。


 この情報を侯爵さんに伝えると当然驚かれたが同時に喜んで感謝された。


 何でも、行方不明になった船の中には侯爵の息子が乗っている船もあったようで、更に検索してみたら侯爵の息子は今も生きている事が分かった。


 俺は更に沢山のお土産を貰い、侯爵家一同に見送られながら次の街へと向かった。






--------------------------


――ファリアス帝国 鉱山都市『シュタール』――


 日が大分傾いてきたな。


 ここの領主にも魔法具を届けたし、これで帝国内の配達は終了だな。


 それにしても、前の町でチームバカ皇子が領主やってるのを見た時はビックリしたな。


 バカ丸だしがすっかりハーレム築いて領主やってるのを見た時は開いた口が塞がらなかったよ。


 さてと、ちょっと街を見物してから帰るかな?



「ちょいとそこのお兄さん!串焼き1本買っていかないかい?今なら出来立てが1本80Dだよ!」


「安!1本くれ!」


「毎度アリ!」



 俺は屋台で買った何かの肉の串焼きを食いながら街を散策する。


 やっぱ、買い食いはいいよな♪



「そこのお兄さん、ポルボ肉の辛焼きはいかが?」


「よっ!うちのンババ鳥はどうだい?」


「そこのボウヤ~、私のエルボー焼きはいかがかしらん?」


「どんな料理だよ!?」



 偶に怪しい食べ物もあったが、当然それは無視した。


 それにしても、この街は肉料理ばかり売ってるな?


 あとはビールっぽい酒だな。



「ちょいと失礼!」


「あ、し……うお!!」


「「「ホイサ~ホイサ~♪」」」



 俺の横をドワーフの集団が通過した。


 出たよリアルドワーフ!!


 漫画やゲームに出てるのと同じチッコイオッサンだ!


 そうか、ここは鉱山都市だから鍛冶も盛ん、鍛冶が盛んだからドワーフがいて、ドワーフがいるから肉料理や酒も多い!


 そういう事だな!!



「ん?鍛冶………あ!」



 ドワーフ=鍛冶で俺はある事を思い出した。


 というか、そもそも俺は魔法具を各地に配るついでに探そうとしていたんじゃないか!


 そう、今はファル村で鍛冶をやっているアール=スミスの家族のことだ!


 前調査でこのシュタールの近くにアールの一族が暮らしている村があるって知ってたのに、すっかり忘れてた。


 トーイとノエルの故郷に関してはまだ調べていないが、アールに関しては村の鍛冶屋の爺さんが親戚だった事もあって前に雑談混じりに場所を聞いていた。


 それなのに、忘れて串焼き食いながら帰るところだった。


 あ、危ねえ~!



「―――でねえ、あそこの息子さん、まだ見つかってないそうよ?きっと奴隷狩りにあったのよう」


「怖いわねえ。まだ子供なのにねえ」



 何やら奥様方の立ち話が聞こえてくる。


 何やらこの近所で人攫いが起きたとか、鍛冶屋の息子が何ヶ月も行方不明だとか話している。


 おいおい、それってまさか……



『この子を捜しています。

 名前は アール といいます。

 

       武器屋スミス工房 』



 ビンゴだ。


 そこはシュタールでも指折りの武器屋で、普段はシュタールから歩いて半日ほどの所にある村で武器を作り、ある程度の数ができたらシュタールにあるこの店で販売しているそうだ。


 だけどここ数ヶ月は殆ど閉店が続いているらしい。


 マズイ、きっとアールが居なくなったショックで働く気力を失っているんだ。


 サスペンスドラマとかでもよくあるあれだ。


 可愛い子供が突然いなくなり、必死に捜す親は最後に…



「―――て、《転移》!!」



 俺はすぐさまその村へと向かった。






--------------------------


――ファリアス帝国 火の村――


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」



 めっちゃ暗かった。


 シュタールの街から転移して着いた村は、村人全員が生気を失ったようにどんよりとした空気に包まれたネガティブ感全開な村だった。


 俺、ここがゾンビの村だって言われたら信じてしまいそうだ。



「あ、あのう………」


「………」



 無視された!


 というか、俺の存在に全然気付いていないんじゃないか!?


 アールがいなくなったせいで村人全員が生ける屍になってしまったのか!?



「…母ちゃん、アール兄ちゃん…帰ってくるかな……?」


「……さあね……」


「……アブゥ……」



 幼児も赤ん坊も暗過ぎる!!


 何コレ!?


 アールって、この村のアイドルかなんかなのか!?


 『火の民の神童』だから有り得るか?


 試してみるか。



「あのう~、アール=スミスの家族は居ますか~?」



 俺は村中に聞こえるように大声で、特にアールの名前が良く聞こえるように叫んだ。


 そしてそれが生ける屍村への起爆剤になった。



「――――アール!!??」



 まず、1人の女性が家の壁を破壊して飛び出してきた。


 素手でだ。



「―――トォ!!アールじゃとぉぉぉぉぉ!!」



 爺さんが窓ガラスを突き破って飛び出してきた。


 ちなみに2階の窓からだ。



「アアァァァァァァァルゥゥゥゥゥゥ!!!」



 小屋が爆発した。


 大爆発して吹っ飛んで、爆炎の中から凶器(ハンマー)を持った男がオーガのような形相で現れた。


 なんか全身から炎が噴き出している。


 炎の魔人(イフリート)かよ!



「アールだって!?」



 地面の下から婆さんがシュワッチと飛び出してきた。


 地下は倉庫になっているようだ。



「アールが帰ってきたかあああ!!??」



 村の外れの森から熊を持ったオッサンが飛び出してきた。


 ……熊の胸に腕が突き刺さっている。



「孫おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 両手にデカ包丁を持ったオバハンが猛ダッシュしてきた。


 全身が何かの血で真っ赤になっている。



「アール!!」


「アールがどうしたあああ!?」


「アールだと!!」


「アール!!」


「アール兄ちゃん!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「あ~る~!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アールたん♡」


「アールが!?」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「アール!!」


「あだあ!」


「アールゥゥゥゥ!!」


「アール!!」



 村人全員が家を破壊して飛び出してきた。


 村人達の攻撃!


 村人達は俺に突進してきた!


 俺は逃げ出した!!



〈だが、勇者は逃げられない!〉



 目の前に見えない壁が出現した。


 おい!



〈勇者は目の前が真っ暗になった!〉



 お前は誰だ!?


 あ………



〈勇者は本当に目の前が真っ暗になった!〉





--------------------------


――ファリアス帝国 ファル村――


「アールくん、ご飯の時間だよ!」


「うん!今行くよノエルちゃん!」



 アールとノエルは手を繋ぎながら歩いていた。


 その姿は小さな恋人同士に見えた。



「夕ご飯は何かな?」


「今日は海の魚だって!」


「やったあ!」



 傍から見れば微笑ましい光景、だけど今日だけは微笑ましく見れない人達がこの村にいた。


 それも沢山。



「「「…………」」」



 罪無き一般人に手を出せない勇者を拘束し、殆ど力ずくでアールの事を聴きだした火の民の一族は、勇者の魔法で全員(・・)ファル村へとやって来た。


 そしてそこで見たのは、一族全員が死ぬほど心配しているなど微塵も知らずに同年代の女の子と仲良く手を繋ぎながら笑顔を浮かべているアールの姿だった。 その時の火の民達の心情は言葉ではとても言い表せないものだった。



「……じゃあ、後はご自由に!」



 勇者は何を言ったらいいのか分からず、静かに彼らから離れていった。


 その晩、ファル村は何時にも増して…むしろいつも通りの賑やかな夜となったのだった。













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