第213話 ボーナス屋、奴隷商を倒す2
――帝都タラ シュナイダー準男爵邸――
今頃、神の世界では惚気話で賑わっているだろう。
なんて考えつつ、俺は地下から屋敷の食堂に移動してお茶とお菓子を御馳走になっている。
その時知ったんだけど、この屋敷の使用人の多くはエルナさんの学生時代のツテで雇った人しかいないらしい。
実家経由だと色々トラブルになるからだそうだ。
貴族は大変だな。
「あ、このお茶美味しい♪」
「これは貴族の友人から頂いた帝国では有名な銘茶です。砂糖を入れても美味しいですけど、私はそのままで飲むのが好きです」
「確かにそのままでも美味しいな」
美味しいお茶を堪能しつつ、俺はエルナさんから最近の話を聞いていった。
どうやら帝国初の女性貴族になって以降、あちこちから縁談が殺到したり、弟子入り希望が殺到したり、商人が殺到したり、泥棒が殺到したり、実家の人達が殺到したりと大変だったそうだ。
もっとも、エルナさん特製の防犯用罠で手当たり次第に始末したそうだが。
「―――それで、完成した発明品を量産化したいんですけど、それには人手がまだ足りないんです。幸い、資金や材料の方は国の協力があるので問題無いのですが、大々的に量産するには私達だけでは難しいんです。ですが、魔法具なので最低限の魔力や《錬金術》等の能力も必要なので各ギルド経由では希望の人材は集まらないんです。折角、大勢の人に喜んでもらえる物を発明したのに量産できないと一部の富裕層にしか普及させられないんです」
「《複製》とかを使うのはどうなの?」
「沢山使う部品を作る時はそれでいいんですけど、パソコンや電話は1台ごとに識別する為の部品を付けないといけないので人手が必要なんです。それに、私達以外にも作れる人が居れば帝国以外での製造もできますし、仕事が増えて貧困を減らすことができると思うんです!」
「成程~」
エルナさんの現在の目標、「魔法具工房を各地に造って貧富の格差解消!」を手伝う事になった。
幾らエルナさんがチート化していても1人で作れる魔法具の数には限度もあるし、何よりエルナさんは「次の発明したい!」という顔をしていたので使える人材の確保は急務だ。
今は各国から例の転移装置の増設の依頼も殺到しているしな。
「じゃあ、取り敢えず街の方で探してみるよ」
「そうですか!ではお願いします!」
エルナさんは満面の笑みで感謝しながら研究室に戻っていった。
研究も良いけど、何時か過労で倒れたりしないか心配だな。
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――帝都タラ 平民区(商業エリア)――
俺は貴族街を後にして平民区に来ていた。
最初は貴族から探そうかと思ったがすぐに止めた。
直感的に何かしらのトラブルが待っていそうだからだ。
そういう訳で、俺は平民区で人材探しを始めた。
「―――とはいえ、何処から探せばいいかな?」
クーデター事件から大分日が経ったこともあって帝都の街は随分と平和な光景を取り戻していた。
街には商売をしている人や戦地から帰って来たばかりらしい兵士、これから仕事に向かう人々などの姿が多く見られた。
この中からエルナさんが求める人材を見つける訳だけど、実際どうしたものかな?
既に職も就いている人をスカウトすればその店や職場に迷惑がかかる場合もあるし、興味が無いと断れる場合もある。
理想は無職で仕事を探しているか、物作りに興味がある転職希望者といったところかな?
取り敢えず、適当にステータスを視て回るか。
最初はあそこの八百屋っぽい店で下働きをしている少年とかにしよう。
【名前】コール
【年齢】14 【種族】人間
【職業】商人見習い 【クラス】働き者
【属性】メイン:風 サブ:水 土
【魔力】290/290
【状態】正常
【能力】剣術(Lv1) 盾術(Lv1)
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv1) 精神耐性(Lv1) 風属性耐性(Lv1) 火傷耐性(Lv1) 元気百倍
【BP】59
普通の人だな。
元気があって働き者なのは分かるが、物作りとかには向いてなさそうだ。
その後も何十人かのステータスを視て回ったけど、中々良さそうな人が見つからない。
特に【クラス】に「腹黒」とか「貴族のスパイ」とかがある人もいて、物作り以前に人として信用できない人も少なくなかった。
帝都も広いし、別の地区に移動するかな?
――――ピロロ~ン♪
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『速報:バカ皇子外出!』
バカ皇子が帝都視察と称し、宮殿を出て平民区に向かっています。
真っ直ぐココに向かっています。
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急いで移動しよう!
俺は急いで別の地区に移動した。
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――帝都タラ 平民区(工房エリア)――
俺は工房や鍛冶屋が多く並ぶ地区に来た。
この辺りに来るのは初めてだな。
「うわ~、煙突が一杯だな?」
鍛冶屋が多い事もあって、この辺りは周囲を見渡せばどこにでも大きな煙突が何本も見えた。
こういう光景って、社会の教科書に載ってる写真とかでしか見た事ないな。
ここならいい人材が見つかりそうだな。
俺は期待を抱きながら工房の街を歩いていた。
すると、本日2度目の速報が届いた。
――――ピロロ~ン♪
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『違法奴隷、奴隷商一味から逃亡中』
こちらに違法奴隷の子供が向かっています。
その後を武装した奴隷商の一味が追っています。
数は5人、元冒険者で殺人犯。
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直後、道角から1人の子供が飛び出してきた。
ボロ布の服に裸足のその子供は傷だらけなりながら必死に俺の方に向かって走ってくる。
そのすぐ後を、5人の悪党が追いかけてきた。
「待ちやがれ!!」
「このクソガキ!止まらねえと打っ殺すぞ!!」
「ていうか死ね!百回死んで家畜のエサになれ!!」
(《グラビティ》!!)
「「「グアアアアアアアアアア!!??」」」
あからさまに悪人だったから瞬殺した。
そして渋々バカ皇子に《念話》で連絡して悪人達をバカ皇子の下へ転送した。
今頃、街中で「ハハハハハ!成敗!」とか叫んでいる事だろう。
何が起きたのか分からずポカンとしている子供の怪我を魔法で治しながら話しかけた。
「もう大丈夫だ。悪い奴らは俺が倒したから……さ?」
そこで俺は気付いた。
子供の頭上に“矢印”があった。
俺の能力の機能にある「ボーナスを必要としている人」に表示される俺にしか見えない“矢印”だ。
違法奴隷らしいし、かなり大変な人生を歩んでいたんだろう。
ん?
そういえばこの子供、よく見たら耳の形が少し変だな?
……尖ってる?
「あ、あのう……」
「……!あ、怪我は治したから大丈夫だよ?」
「ち、違…う!」
子供は上手く口から声が出せないようだった。
俺は喉の辺りに《回復魔法》を思いっきり使った。
「あ、あのう!みんなを助けてください!!」
「え?」
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――工房エリアの地下倉庫――
「まだあのガキを捕まえられないのか!!」
「す、すみません!最後の1人がまだ……こいつらが自分を盾にして逃がしちまって……」
「言い訳はいい!!お前らも分かってるだろ!俺らの客が揃いも揃って捕まったせいで商売はあがったりだ!!折角集めた奴隷も帝都じゃもう売れねえから余所に移るしかねえ!!なのに逃げられただと!?ガキが騎士団の連中にでも見つかったら俺らは一巻の終わりだ!!分かってんだろうな!!」
「「「へ、へい!!」」
「もう遅いけどな?」
「「「――――!?」」」
(《麻痺雷撃》!)
「「「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
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――帝都タラ 平民区(工房エリア)――
「よ~し!罪人どもを連行しろ!」
「了解です!殿下!」
「ハハハハハ!この俺がいる限り、悪は決して栄えさせない!!」
バカ皇子は今日もバカ全開だった。
言っとくが、奴隷商達を倒したのは俺だからな?
お前は殆ど何もしてないからな?
とは言え、帝都の闇で悪事を働いていた奴隷商を潰せて良かった良かった。
「あ…あのう…ありがとう…ございます!」
「「「ありがとう!お兄ちゃん!」」」
奴隷にされていた、“矢印”の刺さった子供達は声を揃えて俺にお礼を言ってきた。
なんか微妙な気分だ。
嬉しいけど、目の前の景色が矢印だらけだと、な……。
この子供達、腐った貴族の愛玩用奴隷にするために集められたらしい。
騎士団の人達が簡単に話を聞くと大半が孤児で、残りも親に売られたり死んだ奴隷の子供ばかりで帰る場所が無いようだ。
暫くは騎士団で保護する事になるようだけど、その後の事は分からないらしい。
その話が聞こえたのか、子供達は一斉に俺の後ろに集合した。
「お兄ちゃんと一緒がイイ!」
「「「一緒がイイ!!」」」
「おいおい……」
俺にくっついた矢印の刺さった子供達…。
騎士団の人達も困り果てている。
う~ん、何時ものようにファル村に連れて帰るか?
他には思い付かないし……って、そんな子犬のような目で見つめないでくれ。
あ、そうだ!念の為、ステータスを確認しておこう。
何時ものパターンからいって、どっかの王様や貴族の隠し子とかが混じっていそうだからな。
まずは最初に会った耳の尖った子供からだ。
【名前】メル=グリーンロード
【年齢】16 【種族】ハーフ(人間+エルフ)
【職業】―― 【クラス】元奴隷
【属性】無(全属性)
【魔力】190,000/190,000
【状態】空腹(小)
【能力】精霊術(Lv3) 錬金術(Lv4) 精霊眼
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv2) 全属性耐性(Lv3) 毒耐性(Lv2) 麻痺耐性(Lv2) 先祖返り 長寿 秀才 超記憶力 豊穣神エリウの加護
【BP】93
ハーフエルフ!!
ついにファンタジーの定番、エルフがキター!!
というか同い年!?
「もう…怖いの…嫌…」
メルは涙を流しながら俺にしがみついていた。
〈勇者はまた女を増やした!(byロキ)〉