第211話 その後のチームバカ皇子 その3
その後のチームバカ皇子シリーズ、ラストです!
――貴族騎士(準男爵家四男)の場合――
第一皇子の部下は平民だけではない。
彼の周りにはファリアス帝国の各地を収める領主の子弟や、帝都で国政に携わる名門貴族の子弟も多くいた。
だが、第一皇子は幼少時から落ち着きのない性格で、良い意味で言えば活発で個性的、悪い意味…というか大多数の貴族からはバカと裏で陰口を叩かれていた。
多くの貴族は第一皇子は次期皇帝にはならないだろうと決めつけ、第二皇子や第三皇子を始めとする優秀な皇子皇女の船に乗り込んでいった。
自分の跡取り息子を有望株の皇子の下に就かせて手柄を立てさせたり、皇女を誘惑して婚姻を結ばせようとし、親の欲目でなくても美人で器量の良い娘を皇子の正妻にしようと画策していき、逆に第一皇子の下には特に興味がなかったり出来損ないだと斬り捨てる予定の末の息子を適当に放り込んでいた。
だが、現実は貴族達の予想を大きく裏切るものだった。
帝国内に潜入していた『創世の蛇』のダニールの暗躍による「第一皇子暗殺未遂事件」、「禁忌違反事件」、「クーデター事件」等を経て最有望株だった第二皇子と第三皇子は部下を道連れに失脚、逆に第一皇子は帝国を救った英雄皇子として株を急上昇させていた。
そして先日、第一皇子の部下の中でも貴族子弟組は全員勲章と爵位を貰い独立貴族となった。
しかも、その中の一部は親よりも上位の爵位を手に入れた者も少なくなかった。
彼もまたその1人である。
「――――という訳で、陛下から領地を頂いたのでこの家を出て行きます!父上も母上も、お体にお気を付けてください!」
「う、うむ、しっかりと領主として励むのだぞ。」
「体に気を付けるのですよ。うぅ……本当に立派になって……」
彼はあからさまに複雑な感情を浮かべた父親と、裏表なく末息子の一人立ちを祝福する母親、そして使用人一同に見送られて帝都を後にした。
彼は《転移》を使えるので移動はほんの一瞬だった。
「ううぅ……あの手の掛かる子が……」
「奥様、お体に障りますのでお屋敷にお戻りください。旦那様も、今日は御客様が間もなく訪れる予定ですので。」
「う、うむ!では戻るとしよう。」
彼の母親はメイドに支えられながら屋敷の中へと戻っていき、父親も執事を連れて屋敷へと戻っていく。
その途中、彼らはあまり広いとは言えない庭の方に視線を向ける。
そこには、全身がルビーの鱗で覆われた二本角のドラゴンの亡骸が鎮座していた。
ファリアス帝国の鉱山地帯の奥地に棲息するとされている上位竜、『真紅の双角竜』だった。
討伐数はファイヤー・ドレイクよりも更に少なく、これ1体だけでも(魔石を抜いても)4億Dは下らない。
(これ、どうしろと言うのだ……)
彼の父親は困っていた。
第一皇子と一緒に戦死したと思っていた末息子が持ってきたお土産、それは下級貴族には少々困った代物だった。
このドラゴン、金銭的価値も高いが美術的価値も相当高く、既に複数の商会や好事家から「幾らでも出すから売ってくれ!」という書状が何通も届いている。
さらには御近所からは少なからずの嫉妬の視線があり、余計なトラブルの火種になりかけていた。
だが、すぐに売りたくても夫人が猛反対するので未だに庭に置きっぱなしであった。
尚、お肉は使用人と一緒に美味しく戴きました。
「父上!」
そこに現れたのは元跡取り息子だった。
この家の長男である彼は、上司の第二皇子の失脚により道連れで宮殿からリストラされ、実家からもリストラ寸前になっていた。
「本気で俺を追い出す気か!」
「そうするしか我が一族が生き残る術は無いのだ。幸い、私には跡取りに出来る息子が他にもいるからな。お前も弟に感謝する事だ。奴が陛下にお前の減刑を申し出たお蔭でお前も私も今生きていられるのだからな。」
「ぐ……!」
この男、実は優秀な長男で親の爵位を継承できるというだけで調子付き、更には親のコネで第二皇子の部下になれたことでかなり調子に乗っていた。
性質が悪過ぎるとまではいかないものの、裏では大なり小なりトラブルを起こしていてクーデターを起こした貴族達に、間接的にだが見返りと引き換えに情報を少しだけ流した事もあった。
本来なら捕まった貴族達と一緒に裁かれていてもおかしくはないが、そこは弟達の功績とバカ皇帝とのコネにより減刑に処され命だけは助かっていた。
その代わり、近日中に実家を追放、貴族籍も失ってただの平民になるのが決定していた。
(弟共め!俺を見捨てやがって!!)
彼は弟達に逆恨みしたのだった。
その後、彼は他の家から絶縁された元同僚と手を組み、出世した兄弟に身勝手な復讐を仕掛けに行くのだった。
すぐに自滅するが。
一方、出世したその弟こと彼はというと……
「「「ご主人様、よろしくお願いします!」」」
「うむ!今日からよろしく頼むぞ!」
彼は使用人全員が女性の屋敷で新生活を始めていた。
彼が手に入れた領地は帝国では数少ない穀倉地帯の一部、一歩外に出れば広大な麦畑が広がっている美しい土地だった。
ただ、周囲に魔獣が多く生息しているのが難点である。
もっとも、彼にしてみれば大した問題ではない。
彼は自分の能力、《複製》を利用して領民(*女性限定)を強化しまくり、最強の私設兵団を設立して領地を守っていくのだった。
「御主人様!村の外れに大型の魔獣が出てきました!」
「よし!行くぞ!」
「「「はい!ご主人様!」」」
後に、彼は女性の地位向上に尽力した偉大な貴族として大陸中に名を残すことになる。
彼の領地は大陸中の女性の聖地となり、毎年男子禁制(*例外アリ)のお祭りが開かれるのだった。
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――貴族騎士(伯爵家十二男)の場合――
彼は大家族の末っ子として生を受けた。
地方都市の領主だった彼の父には4人の妻がおり、子供は息子が12人、娘が10人の大所帯だった。
上の2人の兄は父親の仕事を手伝い、それ以外の兄は家を出て冒険者になったり各地で騎士になるなどし、姉達は他の貴族の家に嫁入りをしていた。
その中で彼は騎士の道を選んで帝都の学院に進学するも成績は芳しくなく、親のコネでどうにか騎士になったが幸か不幸か第一皇子の騎士団に配属された。
そして突如勃発した隣国との戦争、前線に出ていた5番目の兄は戦死、8番目の兄と冒険者をしていた9番目の兄は行方不明となり、年の近い11番目の兄は第八皇子の騎士団にいて運良く助かっていた。
クーデターと同時に終戦した後、彼は男爵位と未開拓の土地を領地として授かった。
ちなみに、11番目の兄は上司を変えてチーム第六皇子部下になって成果を上げ、準男爵位を授かった。
そして現在、彼は実家に戻って家族にある報告をしに来ていた。
「―――息子よ、報告とは何だ?」
「父上、自分はある女性と婚約しました!」
「ほう?」
「まあ!」
「「「あらあら」」」
父親は「相手は誰だ?」という顔をし、母親は素直に喜び、その他の夫人は面白い話が聞けそうな予感に目を輝かせていた。
「それで、相手は誰だ?宮殿勤めの女性か?」
「いえ、貴族の御令嬢です!」
「まあ!どの名家のお嬢さんですの?我が家と同じ伯爵家?それとも侯爵…まさか公爵家?」
彼の両親は決して悪人ではないが、やや息子達に地位や名声を求める傾向にあった。
彼の場合、戦争やクーデター事件で手柄を立てて勲章と爵位を皇帝から授けられているので余計に期待されているのだ。
ましてや相手は貴族、もしかしたら名門貴族の令嬢かもしれない、と。
「ムリアス大公の御息女です!」
公爵家どころか大公家だった。
「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??」」」
その場にいた彼以外の全員が大声を上げた。
父親は本当に顎が外れ、母親は厚化粧が大崩壊した。
「いや~、アレクシス殿下を公国に連行した時に互いに一目惚れしてしまいまして、その直後に色々あって婚約しました!大公からも許しを得ましたので大丈夫です!」
「あががががががががが!?」
「まままままままままあ、そひぇはしゅごい………!!」
「旦那様!奥様!気を確かに!!」
その後、彼の家は過去最大級の大パニックに陥った。
伯爵家とはいえ、帝国全体で見ればまだ歴史の浅い彼の家にとって、一国の、それもダーナ大陸四大国の一角であるムリアス公国の君主の娘が嫁ぎに来るのは衝撃が強過ぎた。
流石の彼の家族も暫く正気を失い、正気に戻った後は大慌てで対処に動こうとするが既に遅く、彼が(無断で)設置していた転移装置を通ってムリアス大公父娘が伯爵家に御忍びで来訪し、彼の両親は発狂寸前に追い込まれたのだった。
「ハッハッハ!!伯爵よ、顔を見に来てやったぞ!!」
「へへへへへへへへへ、陛下あああああああああああああああああああああああ!!!!」
更には空気を読まないバカ皇帝も急遽来訪し、彼の家族は寿命が縮まったのだった。
「街を案内してくれますか?」
「勿論!!」
親の苦労を微塵も知らない彼は、婚約者と甘すぎる時間を過ごすのだった。
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――貴族騎士(男爵家五男&騎士爵家六男)の場合――
彼らの家は代々武闘派一族の分家筋で従兄弟だった。
当主は代々騎士団長か軍の将軍、戦争で手柄を上げたり凶暴な魔獣の討伐で地位と名声を上げ、跡取り以外の息子達も歴代皇帝から爵位を授かって独立していった。
彼らの先祖は言った。
――――筋肉は正義!
――――武器は魂!
――――仲間は家族!
――――女は舐めたら地獄!
彼らはそんな家で育ったが、元気はいいが訓練には不真面目で親からは悩みの種だった。
彼らの家族はどうにか彼らを騎士にしたものの、類は友を呼ぶのか、彼らは第一皇子と仲良くなった。
そしてそのまま陰謀で死亡…の筈だったが運良く生き延び、某村長により第一皇子もろとも性根を叩き直された。
ファル村近郊での戦いでは敵兵を圧倒し、『創世の蛇』に人質として捕えられていた皇子や親戚の叔父の救出に貢献、クーデター事件では反乱を起こした貴族達を捕縛し、ダニールが帝都に放った魔獣から帝都の住民達を守った功績が評価されて勲章と爵位を授かった。
そして現在、彼らはそれぞれの実家に戻り、暫しの休日を過ごしていた。
「うお~い!今戻ったぜ~!!」
「今日も大量だ~!!」
彼らは狩りから帰ってきた。
某村長に鍛えられて以降、彼らは以前とは別人のように変わっていた。
暇があれば狩りに出かけて魔獣の肉を家に持ち帰っていた。
「坊ちゃん、今日の収穫はどうでしたかい?」
料理人は今日の食材に期待し、2人は料理人に今日の成果を見せた。
「おお!コイツは「ダーコック鳥」じゃないかい!Bランク超えの上物の!」
2人が出したのは大の男よりも大きな鳥型の魔獣だった。
普通は1羽を狩るのにはベテランの冒険者でも3人以上で組まないと難しい獰猛な魔獣、それを彼らは1羽どころか10羽も狩っていた。
この鳥、高級食材として有名で、肝は滋養強壮の効果もあることから高値で取引されており、帝国の相場では成鳥1羽あたり、魔石込みで1000万Dを余裕で超える。
貴族でも、伯爵以上の上級貴族でなければ口にする機会など年に1度あるかないかの贅沢品である。
「他にもあるぞ!」
「おお!!まさか、え…Aランクの「碧原の王闘牛」じゃないか!?こんなのもまで狩ったのか!?」
次で出したのは草原地帯に生息するC+ランク魔獣「碧原の闘牛」の上位種だった。
その大きさは中位級のドラゴンと大差なく、ランクはファイヤー・ドレイクと同じAランク、肉は超高級肉の塊で毛皮は防具や高級服にも使われ角や骨も様々な目的で重宝され、売れば1億Dは確実に超えることで有名な魔獣だった。
もっとも、ドラゴンすら殺す戦闘力のせいで市場に出回る事は滅多にないことでも有名だが。
「それと、川でこんなのも狩って来たぜ?」
「ななな!こいつは「雷電大王ウナギ」に「大鮭大将」!!坊ちゃんら、ホントにスゴイな!?」
2人は次々と高ランク魔獣を出していく。
他にも珍しい山菜や果物も出していく。
そのどれもがCランクを超える大物ばかり、料理人は眼を輝かせながらどう調理するか頭を回転させていった。
「おうよ!夕食は期待してるぜ!!」
「デザートも頼むぞ?」
「ガッハッハ!!期待して待っててください!!」
料理人は燃えた!
一生に何度出会えるか分からない高級食材を調理できる好機に魂が燃えた!
料理人はすぐさま厨房から見習いを呼び集め、それでも足りなければ近所から応援を呼んで魔獣を裁いて捌いて捌きまくった。
余った肉は親戚にお裾分けをし、骨や魔石などはお抱えの職人達によって武器等に加工されていった。
そして彼らの家は分家でありながら本家と肩を並べるようになるのだが、それはまた別の話である。
「親父~!!上位竜を狩りに行くぞ~!!」
「兄貴!!どっちが沢山大物を狩れるか勝負だ!!」
ただ問題なのは、彼ら2人が家族や親戚を無理矢理狩りに連れて行くようになり、しかも行く場所の多くは帝国でも危険地帯と言われる上位魔獣の巣窟となっている場所ばかりだった。
襲ってくるのは弱くてもCランク、時にはSランク超えの魔獣にも遭遇し、2人以外は戦争の時以上に生死の境を彷徨う事になるのだった。
「ロン!感謝はするが、やり過ぎじゃ!!」
「……すまない。」
後日、某村長が彼ら一族の長老に怒られたのは余談である。