第210話 その後のチームバカ皇子 その2
――部下Cの場合――
第一皇子直属の兵士達が次々に新たな職場に移る中、彼は勲章と爵位を授与された後も転属は希望せず第一皇子の部下のままでいた。
ただし、役職はかなり出世しているが。
「おおおおおおお!!残ってくれて嬉しいぞおおおおおおおおおおおお!!」
「だ~か~ら~、鼻水垂らしながら近寄らないでください!!(いい加減にしろよ!バカ皇子!)」
彼は毎日、部下が減って心を痛めている主人を慰めるのを日課にしていた。
普段は主人の手綱を握ってしっかりと仕事をさせ、暴走した時は実力行使で黙らせたりしつつ、第一皇子の警護や各部署との事務的なやり取りも行っていた。
見た目は武官向きに見える彼だが、実は地方都市の平民学校で教養を身に付けた頭脳派の男だった。
帝国の東海岸にある彼の故郷には領主が設立した学校が幾つもあり、領内の子供は幼少期からここで読み書き計算を含めた基礎教養を受ける事が出来た。
その学校の中でも成績が優秀だった彼は領主の推薦状を貰い、一時は帝都の学院にも通って文官を目指していたのだが、故郷に残した親が病に倒れた事でその道を諦め、兵士になって親の医療費を稼いでいた。
「……グス!ところで、故郷の御家族は大丈夫なのか?」
「ええ、勇者殿のボーナスで手に入れた《調合術(Lv5)》と《回復魔法》、医学系の知識のお蔭で完治しました。近々、帝都の新居で一緒に暮らす予定です。(こればかりはバカ皇子の部下だったお蔭だな)」
「そうか!引越しの時は、私も直々に祝いに行こうじゃないか!」
「イエ、結構デス!(トラブル持ち込むんじゃねえ!)」
彼の家族は、彼のチートのお蔭で病を完治させていた。
彼はファル村にいた間に稼いだ金を元手に帝都の土地を買い、近々家族と一緒にそこで暮らす事にしていた。
更に彼は近日中に結婚も予定していた。
相手は皇妃の侍女をしている2つ年下の女性だった。
ちなみに彼女、現在は結婚の事を知った皇妃に祝福されながら、「皇妃流旦那の管理術」を密かに伝授させて貰っていたりするのだが、それは本人達だけが知ることだった。
「ムム!妹達が私を呼んでいる気がする!!」
「その変な勘は永久封印してください!(絶対呼んでねえよ!!)」
心の中でツッコみつつ、彼は今日も職務を遂行していく。
後に彼は平民出でありながら大臣にまで出世し、ファリアス帝国の繁栄に大いに貢献するのだが、それはまた別の話である。
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――部下Dの場合――
貴族になって故郷の領主になる者、そのまま第一皇子の部下のままでいる者がいる中、彼は軍を辞めて冒険者として独立していた。
一兵士だった時よりも実入りが良く、兵士だった頃よりも気楽に生活できるのは彼の性にも合っていた。
『ガオオオオオオオオオオオオ!!』
「おっと!これでどうだ!」
『ガッ……!』
彼は今日も冒険者として魔獣を討伐していた。
士郎のお蔭でチート化した彼は、短期間の間にランクを上げていった。
気さくな性格の彼は何処のギルドでもすぐに馴染み、色んな冒険者とも交流しながら各地を旅していった。
と言っても、独立してからまだ10日も経ってないが。
「兄貴!俺らを子分にしてくれ!」
「一生、兄貴についていきます!」
彼は子供にも人気があった。
立ち寄った貧民街で悪さをしていた子供を懲らしめたりするとすぐに懐かれ、中にはしつこく弟子入りを希望して何所までもついて来た。
子犬のような目で見つめる子供達を見捨てる事の出来ない彼は仕方なく面倒をみる事にし、今は読み書きを教えながら冒険者になれるように日々鍛えている。
(しかし………)
それなりに充実した暮らしをしている彼だったが、最近、ある悩みごとを抱えていた。
「おう兄ちゃん!一緒に飲まねえかい?」
「兄貴!お背中流します!」
「チッ!今日のところはこの辺で勘弁してやるが、次亜会った時は覚えていろよ!」
「ウフ♪素敵なお兄さん発見♡」
彼は多くの人と仲良くなった。
だが、その9割が「男」だった。
(何故…何故…何故、俺の周りは男しかいないんだ!?)
彼は知らない。
彼がファル村に滞在した時、某騎士達が悪ふざけで調合してしまった「男色フェロモン液」の人体実験を彼でやっていたという事に……。
しかもその効果は状態異常には分類されない為、幾らステータスを視ても自力で気付く事はできなかった。
そして日が経つに連れ、周囲の人との好感度は(男限定で)上昇していった。
さらに言えば、遭遇する魔獣は基本的にオスばかりだった。
「兄貴!宿は同じ部屋ですね?」
「あ、ああ…」
困惑しつつも彼の日々は続いていく。
彼が真相に気付かないままアッチに目覚めるのか?
その答えは神のみぞ知る。
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――部下Eの場合――
クーデター事件終結後、彼は勲章授与の後に兵士から騎士に昇格した。
中古だが、帝都の住宅街の家も買った。
魔獣を狩りまくって稼いだ大金のお蔭で、弟妹を学校に通わせる事もできた。
彼の家族は豊かな暮らしを得たのだった。
「よう!また久しぶりに遊びにいかないか?」
「え?」
そんなある日、彼は同じチームバカ皇子の騎士仲間に誘われた。
ファル村の一件以来、チームバカ皇子の中では身分の差別はほぼなくなり、平民も貴族も関係なく付き合うようになっていた。
「みんなお前のことを待っているぜ?お前、かなり上手らしいって評判だぞ!」
「いえ、僕は……」
「とにかく行くぞ!」
「う、うん……」
ちょっと流されやすい男、それが部下Eだった。
その夜、彼は同僚と共に帝都の歓楽街へと遊びにいった。
金のある大人専用の遊び場へ―――
「う…!」
「あぁん♡」
彼は数日に1度、ここで(同僚に誘われて)ハッスルしていた。
(二重の意味で)初めてで何人もの女性を落とし、この店の中では大人気となった。
彼は天才だった。
「次は私ですわ!」
「お姉様!抜け駆けは許しませんわ!!」
「ハァハァ、童顔の殿方って素敵…♡」
彼は流されるままに次々と現れる女性の相手をしていった。
チート化のせいで体力も気力も並外れていた彼はリタイアする事も出来ず次々に相手をしていった。
「ハッハッハ!そっちは今夜も熱いじゃないか?」
「た…助けてくださいよ!」
「断る!!」
別の現場では同僚が楽しみながら彼の様子を観賞していた。
同僚もまた、チート化の恩恵で色々と強くなっていた。
「助かりますわ~。陛下が来なくなったせいで、ちょっと危険だったのよ。けど、これならなんとか今月は乗り切れそうね。ほら、貴方も行ってきなさい!」
「*$%〇&!?」
上機嫌な店主は、最近店に売られたばかりの新人の黒髪の娘を彼の下へ送った。
異国の娘らしく、言葉は全然通じないが自分の現状は理解しているようだった。
「――――!」
「ハァハァ、次は君だね?」
「~~~~!!」
その娘は顔を真っ赤にしながら抵抗しようとしたが、彼の顔を見た瞬間に別の意味で顔を真っ赤にして抵抗を止めた。
どうやら彼の顔が好みだったらしい。
そして、その新人の娘も彼に落とされた。
「~~~♡」
そしてその娘は目覚めてしまった。
言葉が通じない謎の新人娘、彼女の存在が彼の人生を大きく動かすとは、この時の彼はまだ知らない。
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その後、彼は帝都の裏世界では誰もが知る大物になり、多くの女性を虜にするのだった。
そしてビッグダディにもなった。




