第208話 ボーナス屋、“男”になる! 後編
――ファル村 集会所――
そして今に至る。
ボーナス交換で手に入れたチートを磨き上げたアンナちゃんママに捕まった俺達は軽く説教、夜も遅いので続きは今から、という訳だ。
「――――もう!アンナもステラ殿下も民の規範となる身だという自覚を持ちなさい!!」
「はい…。」
「返す言葉もありません。」
アンナちゃんママの気迫に娘のアンナちゃんは勿論、俺達も頭が上がらなかった。
ちなみに、コッコくんはここではなく鶏舎の方で謹慎処分を受けている。
詳細は俺の与り知らぬところだが。
「勇者様も御友人の方も、時間と場所を考えてください!」
「「はい」」
結局、説教は昼近くまで続いた。
尚、アンナちゃんママは普段のこの時間帯は家事や各仕事で忙しいが、そこはボーナスで手に入れた
《分身》で抜け目なくこなしている。
「やだ、もうこんな時間!では、説教はここまで!今後は二度と同じことを繰り返さないようにしなさい!」
「「「はい」」」
俺達はなんとか解放された。
「ステラ様、お迎えに参りました。」
アンナちゃんママとアンナちゃんが集会所を出ていくと、入れ替わりにフィリスが入ってきた。
その顔はどこから見ても疲れていて、目にうっすらと隈ができていた。
「陛下が、すぐにお戻りになられるようにと……」
「う……!」
話を聞くと聖都での職務を放棄して暴走したことが両親に即バレしたそうだ。
まあ、当然だよな。
「…いっちゃったな。」
「この世界、残念なのしかいないの?」
「唯花!」
とりあえず怒っておく。
それはそうと、俺達には重大な問題がある。
俺は集会所の机に置いてある『龍の卵』に視線を向ける。
「………卵、昨日より光ってないか?」
「そ、そう!?」
「唯花、昨日から気になってたんだけど…」
「……な、何!?」
「お前、俺のことが本気で好きなのか?」
「鉄拳!」
会心の一撃をもらいました。
仕方がないじゃないか。
日本に居た時はそんな素振りやフラグは……いや、確かにバレンタインチョコは貰ったし、誕生日やクリスマスでも色々……はい、俺が鈍感でした。
考えてみれば俺って結構人に好かれやすいし、こっちに来てからも小さい子からお年寄まで沢山の人に好かれたし……。
チートで検索してみたら、俺にこっそり好意を抱いている女性が思いの外多かった。
領主の娘さんとか、町娘さんとか皇女さんとか……あ、横で検索結果見ていた唯花が殺気を放っている。
「ま、まあ取り敢えず、卵が孵ったら一緒に育てないとな?」
「そ、そうね!あ!だったら、色々用意しないといけないわ!私、向こうに帰って準備しないと!」
唯花は顔を向きながら俺に背を向けたが、よく見るとガッツポーズをとっているのが見える。
なんか俺、一生女性の尻に敷かれそうな予感がするんだけど?
しかし子供か。
俺、まだ高校生だしまだ童貞なのに子持ちになっちゃうのか。
しかもドラゴンの。
人生って、何が起きるか本当に分からないよな。
「ところで、何時孵るんだろうな?」
「私に訊かないでよ。それより、私を日本に送ってよ!」
「俺が?」
「他に誰がいるのよ?あの龍王、七海とさっさと帰っちゃったし!」
そう、あのバカ龍王、俺達を見捨てて七海と一緒に日本に帰りやがった。
唯花達をこっちに連れてきた事も含め、後で覚えていろ!
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――ファル村 勇者の家――
夜になった。
あの後すぐ唯花を日本へ送り、その後は一度聖都やミストラル王国とかに顔を出しにいった。
聖都の方は既にクロウ・クルワッハの姿が無かった。
目撃者の話では、俺が緊急避難してから程なくして空の彼方に消えていったらしい。
まあ、あのまま残っていたら土下座が延々と続いている光景になってただろうしな。
俺とは契約が成立しているし、必要な時は何時でも呼べるから問題は無い。
問題は戦闘でほぼ全壊した聖都だが、何故か住民の半数近くは「聖戦の跡地だ!」とか「おお!聖なる力が満ちてくる!」と、意外にもポジティブだった。
実際、聖都どころか聖国全土には俺達の放った魔力が染み渡っていて、更には聖なる力の副産物により住民達は全員健康になり元気100%になっていた。
これについての副産物は他にもあるんだけど、それについては省略しておく。
聖都の復興は連合主導で行われるそうで、今日のところはまだ大きな問題は無いそうでなによりだ。
ミストラル王国の方は、首都は相変わらず大魔王一家に占拠されているようだ。
ジェダイト公爵家の方は、なんか死んだ筈のロルフの母さんが生きてた。
よく分からない……訳ではないけど、どうやらバカ龍王の祖父さんに助けてもらったらしく、昨日までバカ龍王の実家でメイドをしていたとかなんとか……。
あと、昨日は特別措置でロルフに連行されたブラスだが、今日からは身柄を連合に引き渡されて取り調べなどが行われ始めたらしい。
ブラスは抵抗する様子も無く素直に従っていて、同じく捕まっているブラスの部下達も今のところは大人しくしているらしい。
その辺は専門職の方々の仕事なので俺は詳しい事はまだ知らない。
何かあれば《摩訶不思議な情報屋》が教えてくれるように設定しておいたから大丈夫だろう。
ロルフの方も、しばらくは家族と一緒にいるそうだから問題ない。
問題があるのは、文字どおり尻に敷かれているロルフの父さんの方だ。
ま、俺には関係ないな!
最後に『ダグザの魔釜』だけど、あれは一応俺が持っているけど、まだ完全覚醒はさせていない。
バロール(体)は倒したし、急ぐ事でもないから覚醒は後日行うことにしている。
ただ、教皇庁の連中が『魔釜』を始めとした『四至宝』を目にして凄い顔をしていたのが少し気にかかる。
変なトラブルが起きなきゃいいけど。
そんな訳で、今日も色々あった俺は我が家のベッドでこれから就寝だ。
『龍の卵』も俺が何重にも結界を張っておいたから、悪党に盗まれる心配はないだろう。
見た感じ、孵るにはまだ時間がかかりそうだしな。
今夜はもう明日に備えて寝るだけだ!
「さてと、寝るか!」
「お待ちしていました。勇者様。」
「…………」
ベッドに入ると、中には下着姿のアンナちゃんがいた。
なして?
「ああああ、アンナちゃん!?ど、どうして…そんな恰好でここに!?」
「お、お父様が、好きな人と幸せになるにはこうすればいいと………」
あのバカ皇帝が………!!
明日は逃げ場のない地獄に放り込んでやる!!
しかしこの状況、どうするの俺!?
「アンナちゃん、そういうのは大人になってから…」
「私、成人してます!」
この世界の基準では、アンナちゃんは立派な成人扱いだ。
仕事にも就けるし、結婚も問題ない。
だから、こういう事も合法なのだという。
「あ、あの……駄目ですか?」
「~~~!!」
俺は悩む!
半日前に一緒に子供を育てよう宣言をしたばかりだというのに、ここでアンナちゃんの誘いに乗ってしまうのは男としてどうなのかと。
この世界には基本的に一夫一妻の法律は無いそうだけど、それでも普通は一夫多妻はあくまで貴族や豪商といった富裕層の文化で、庶民は……あ、アンナちゃんは皇女だった!
「私…勇者様の妾でもいいです!私、勇者様が好きです!初めて会った時から!!」
「アンナちゃん……」
ここで断るのも………
どうする!どうするんだ、俺!?
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――フィンジアス王国 クリーオウ城――
その瞬間、ステラは持っていたペンをへし折った。
「…ステラ様?」
「これは……出し抜かれた気がする!!」
「は?」
疑問符を浮かべるメイドを他所に、ステラは女の勘を働かせてライバルに出し抜かれた事をリアルタイムで悟った。
それを証明するかのように、人によっては余計な声がステラの自室にだけ響いた。
〈――――アンナは2回戦に勝利した!〉
「クッ!こうしてはおられん!!」
「ステラ様!何処へ!?」
メイドの制止を振り切って自室を飛び出すステラだったが、偶々通りがかった父親である現国王に見つかってしまい、本日2度目の説教を受ける羽目になるのだった。
だがステラは諦めなかった。
国王の説教を終えた直後に気配を消しながら城を抜け出し、魔法使用制限がない場所まで――城内は結界魔法で魔法の使用に制限が掛かっている――移動し、急いでファル村に転移したのだった。
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――日本 『紡ぐ者達の家』――
同時刻、唯花もまた女の勘を働かせていた。
「――――!あの女、士郎を誑かせている気がする!!」
唯花は今すぐにでも士郎の下に行こうとしたが、自力では行けないので、先に「行ける人」の下へと急いで向かうのだった。
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――ファル村 士郎の家――
あれから1時間が経った。
士郎はこの1時間で男になった。
「ふう………」
「勇者様…♡」
同じベッドの上で、アンナは幸せそうな顔で眠っていた。
アンナは実父が地獄に堕ちる事を引き換えに幸せを手に入れたのだ。
だが、女の戦いはそう簡単に決着が着く訳が無かった。
「士郎!!」
「シロウ、起きてるか!!」
「え?」
ちゃっかり軽くおめかしをしてきた唯花とステラが特攻を仕掛けてきた。
逃げ場の無い状況、士郎は全裸で寝ている姿を一瞬鬼の形相で睨まれ、その意味を理解しながら白旗を上げるしかなかった。
その後に続く2人の乙女の愛の告白に顔を真っ赤にし、元よりどちらにも好意は抱いていたので拒否することもなく、恐怖とは無関係に彼女達を受け入れた。
「うおおおおおおおおおお!!」
その夜、士郎はとにかく燃えた!
燃える男になった!
バロールから奪った《神速回復》により疲れ知らずになった士郎は、2人がダウンするまで燃えたのだった。
〈(…勇者は『ハーレム勇者』になった!)〉
〈(勇者は《精力増強》を獲得した!)〉
〈(勇者は……あ、ヘラ!?ヤバ………)〉
士郎達の様子を高みの見物をしていた某トリックスターな神は、アンナ達に加護を与えている女神達の告発により動いた恐怖の女神により、その後しばらくの間地獄を見たのだった。
もっとも、それでも神話通りのスキルを発揮して、本来の刑期よりも遥かに短い期間で地獄を終わらせたが。
士郎はDTを卒業しました。
次回からは別視点の番外編です。